第1章 知的障害教育における中等教育の黎明期
第4節 教科の細分化と生活に即した指導
(1) 教科を細分化した教育課程編成
大崎中学校分教場の教育が作業学習の時間を増加させ職業教育を 重視する中、昭和25(1950)年度には、都に移管され都立青鳥中学 校として独立し、学校としての組織や教育内容が整えられ、指導目 標及び指導方法の原則が示された(表6)。この中で、「知的生活の面
(言語、文字生活、数量生活)も伸びられるだけ伸ばしてやる」と 示され、国語、算数、理科、家庭、体育、音楽、図工の教科が設定
された。
それまでは、各教科の一斉指導が多かったが、指導方法の原則に 示された「個人個人の能力に応じ」た指導を徹底するために、「各科 能力要素表」を作成して、生徒個々の能力を調査した。
そして、国語、算数をそれぞれ5分野に分節化し、これらを指導
する際には、それぞれ生徒個々の能力によって低・中・高の3段階 にグループ編成した。従って、国語、算数、それぞれ15のグループ 編成を行って、「子供が絶対に落ちこぼれない態勢」をとり、各教科 の能力要素表の細案を作成し、それらを組織体系化した時間割を作 成した。この時間割は一日を8つに区分し、午前に教科的な学習を、
午後に作業的な学習を設定している(表7)。
(2)生活を重視した教育内容の選択・整理
このような教科の細分化は、「あくまで子どもの社会生活に合致す るように」(青鳥養護学校,1967)との趣旨で行われた。普通教育に おける教科内容にこだわらず、国語は、「読む」「会話」「記録」「書 く」「通信」、算数は、「計算」「測定」r時間」r金銭」r珠算」という ように、極めて実際的な項目を挙げて指導を行ったものである。
これについて、山本は算数を例に挙げながら以下のように述べて
いる。
「まず彼等が生産人になるために社会は最低限度どのようなことを要求し ているかをさぐり出してそれらが全てふくまれるような「全生活カリキュ ラム」の編成が望まれる。しかし、もしその学級が農村とか漁村とかの よう特色ある、しかも子供達が卒業すれば大体この仕事につくということくママラ
が一定しておるような地域社会ならば、比較的可能であるが、都市的なと ころではあまりにも場面が広すぎて、容易なことではない。
そこで我々は、過渡的な一つの手段として算数の場合、次のような要素 を選んで、これを時間割にくみこんだ。」
①算 一一大体ドリル的なものを主として行う。
②買物一一買物だけでなく、実際にお金を扱うこと全部を含む。
③珠算一一これは比較的程度の低いものにもできるし、又就職す る場合に非常に有利になる。
④測定一一度・量・衡等について。
⑤時間一一時計の見方を主として、時刻・時間に関すること。
(山本,1951)
①〜⑤にあるように、社会に出るうえでこれだけは必要であると いういわゆる「ミニマム・エッセンシャルズ」を整理して、三年間 で指導できるよう考えられた。
名古屋(1996)は、「各科能力要素表」による教育内容の選択・組 織が、教科を基準にしてではなく、生徒の生活を重視し、生活に最 小限必要な内容をということを強く意図している点で、先駆的なも のであるとして評価している。
指導場面を授業だけでなく、学校生活のあらゆる場面を使って指 導を行うことが考えられており、教科を生活化する教科学習におい ても、目標は職業自立や社会適応であり、内容は、生活に直接的に 役立っ内容に限定されていたことが特徴である。
しかし、この教科の細分化は、一年問のみの実践に留まった。第2 章で述べるように、校舎の移転に伴う「バザー単元学習」が始まっ たことがその理由である。
表6 昭和25年度 指導目標及び指導方法の原則 、指導目標
(イ) 精神遅滞の原因をあらゆる面からできるだけのぞく。
(ロ) 精神遅滞の故に出来あがった非社会的、又は、反社会的性格を なおす。
(ハ) 知的生活の面(言語、文字生活、数量生活)も伸びられるだけ 伸ばしてやる。
(二) 職業教育の徹底 二、指導方法の原則
(イ) 徹底的個別指導と適当な集団編成を交錯運営して個人的社会的 生活能力をのばしてやる。
(ロ) 作業及び勤労を重点として全学習生活を組織する。
(ハ) 生徒の学習作業その他すべての行動は個人個人の能力に応じ、
しかも社会的適応能力をつける動機づけとなる方向に評価される。
表7 昭和25年度時間割表
東京都立青鳥中学校 7 8
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3 1 4
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1951−No.1
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(山口)
炊事(擶掌) 女1
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(家庭作業)
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火 じ(1陵員4日記提出
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図書館 店テスト 大整理i
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(家 庭 作 業)
注慧 O忘れものをしないこと(いろいろな帳面一算数2・国語2・日記1。おそわり帳1・理科帳 1●家旛科帳1.運絡帳1¢作業帳1.zト遣帳1.辱刻…麦1・その他ブリントとじこみ1〜
2。計13^ 4種。鉛筆・けしごむ・小刀・くれよん・てぬぐい・はな紙・上ぱき等)
0すべての所持品に名前をっけること Q:おくれな㌧、こと
表8昭和25年度 指導の実態
O国語
【ねらい】… 読むカ・文字を書く力、文章を綴るカ、話すカ、理解 力。
【指導場面】… r一目の準備」r読む」r書く」r通信」r会話」r図書 館」その他の場面。
O数学
【ねらい】… 計算力、考えるカ、はかるカ、応用力。
【指導場面】・・r筆算」r珠算」r時間j r測定」r努力帳作業帳・小遣 帳の整理・青鳥銀行支払い」など。
O理科
【ねらい】… 考える力、観察するカ、作るカ。
【指導場面】… r理科」r畑花壇作り」r山羊のせわ」など。
O家庭
【ねらい】… 家庭生活を営むための知識・技能。
【指導場面】… 「裁縫」「炊事」など。
第5節 まとめ
青鳥養護学校の前身として、昭和22(1947)年に開設された大崎 中学校分教場は、「生活と生産に直結」した教育を目指した。それで も当初は、教育環境の不備、教材・教具の不足等から、いわゆる「水 増し教育」にならざるを得なかった。r水増し教育」は、学習内容が
目常生活に般化されない断片的な知識になりやすいこと等の理由か ら、批判的に捉えられた。つまり生活を離れた教科学習では、生徒 たちは、教科学習で得た知識を有効に活用できなかったものである。
そのため、分教場の教育は職業教育の重視や、青鳥銀行の取り組 み等、生活に密着した形で教育を展開していった。その一方で、教 科の内容は細分化され、生活や職業に最低限必要な内容、いわゆる
rミニマム・エッセンシャルズ」が強調された。
教科の学習内容は、日常生活に般化されないとされた。そのため、
知識をいかに使うかに焦点が当てられ、系統的な指導よりは、生活 に密着させた教科指導が重視された。
また、国語や算数といった教科に対する生徒の学習欲求は非常に 高いものがあったが、学習内容が日常生活に般化されないことを理 由として生徒の意欲を無視し、社会的要求に従属させている点は、
現代の職業教育においても常に課題となる点であり、反省されなけ ればならないだろう。