前章までに述べてきたように、児童・生徒の障害の重度・重複化、多 様化に伴い、肢体不自由養護学校においては「医療的ケア」に関する知 識や技術はもとより、児童・生徒の障害や疾患に対する知識やそれに対 する配慮事項など専門的な医療情報が必要となってきている。そのため
にはこれまで以上の医療スタッフとの緻密な連携態勢が必要である。ま た、学校へ医療スタッフが配置された場合の教員の果たすべき役割につ いても検討が必要であろう。
第1節 教員の果たすべき役割
これまで教員は、教育的側面からのアプローチを中心に児童・生徒に かかわり、その役割を担ってきた。しかし、障害の重度・重複化、多様 化により、肢体不自由養護学校における「医療的ケア」の必要性がます ます高まってきている今日、医療的な側面からのアプローチも必要であ り、学校における教員と医療スタッフとの棲み分けがにわかにクローズ アップされてきた。今、改めて教員の役割を問い直す必要があろう。さ らに、異職種スタッフとの役割分担についても検討が必要である。
そこでここでは、これからの養護学校教員として担うべき役割と異職 種スタッフとの協働化について考えてみたい。
(1)教員の役割
前述のように、児童・生徒の障害の重度・重複化、多様化によって、
肢体不自由養護学校では「医療的ケア」の必要性が高まってきている。
そのような状況の中、教員として児童・生徒の多様な障害のニーズに対 応していくためには、従来の教科、領域の指導者としての教員と「医療 的ケア」を視野に入れた医療スタッフ的な教員といった二つの役割が考
えられる。
養護学校教員の役割とは、個々の児童・生徒の障害の状態や発達段階、
特性などを的確に把握した上で、彼らが今持っている力を最大限に引き 出し、伸ばしていくことであると考える。このことはこれから先も不変 であり、日々の教育活動の中心となるものである。しかし、児童・生徒 の障害が重度・重複化、多様化し、「医療的ケア」を必要とする児童・
生徒が増加しつつある近年にあっては、教員として「医療的ケア」を視 野に入れた医療的な側面からのアプローチによる児童・生徒とのかかわ
りも必要となってきている。
そのような状況の中で、教員は児童・生徒の多様な障害のニーズに対 応していくために、「医療的ケア」の手技を身につけ、適切な時に適切 な対応ができることが要求される。また、「医療的ケア」の手技だけで はなく、その根本になる考え方や「医療的ケア」を行っていくための医 学的知識も身につけておかなければならない。
これらのことから、今後、教員の医療スタッフ的な役割が重要性を帯 びてくるであろう。
しかし、ここで大切なのは教員はあくまでも教員であり、医療従事者 ではない。全てを「医療的ケア」に頼ってはいけない。知識、技術を身 につけながらも教材・教具の工夫をするなど教員としての職責の中で、
「医療的ケア」の必要性を考えていくことが大切である。「医療的ケア」
の一つである吸引を例にとってみる。障害の重い児童・生徒の中には疾 をうまく飲み込んだり出したりすることができず呼吸が苦しくなる子が
多くいる。そのような時に、医療スタッフであれば疾が絡まったので即、
吸引ということになるが、その状況を的確に判断し、下顎のコントロー ルや姿勢の調整などで症状を和らげたり、それらの症状を起こりにくく するために水分補給を充分に行うことや、よい姿勢を保てるように椅子 や机を工夫するといった教育的な配慮を施すことが教員としての役割と なろう。また、そういったことが実際の教育活動の中で臨機応変に行え るように、研修を積み専門性を高めることが教員の使命であると考える。
(2)異職種スタッフとの協働
養護学校、とりわけ肢体不自由養護学校にはさまざまな医療関係者が かかわっている。しかし、かかわりはあっても定期健診などの形式的な かかわりであることが多く、児童・生徒の様子について話し合う時間や システムがなかったり必要なときだけのかかわりであるなど教育と医療 とがうまくかみ合っていない部分が多い。今後ますます「医療的ケア」
の必要性が高まる中で、学校はこれまでの単専門集団から多専門集団に なろうとしている。そこで学校内での教員と医療スタッフの協働化を視 野に入れた連携が必要となってくる。
教員や医療スタッフが児童・生徒とかかわる場合に、それぞれの職務 内容という点からいえば、教育に関することは教員が、医療に関するこ とは医師や看護婦などの医療スタッフが責任を持って受け持つというよ うに分担は可能である。しかし、我々がかかわろうとする対象は重い障 害のある児童・生徒であり、そのような機械的な分担ではそれぞれが見 ているものは児童・生徒の一側面にすぎず、その全体像を見ることは到 底できない。児童・生徒の実態ををさまざまな方向から捉え、全体像を つかもうとするならば、互いに一歩踏み込んだかかわりが必要である。
それは、教育の側では「医療的ケア」を行うことにより、児童・生徒を より深く理解しより堅い信頼関係を作り上げることであり、医療の側は 学校現場を見て、児童・生徒のいつもと違う側面を知ることである。も ちろん互いの専門性は尊重すべきであが、専門性を尊重する余り、遠慮 や未知の分野への引け目を感じる必要はないであろう。
また、教育と医療とはそれぞれの立場の違いから、ものの考え方や捉 え方が異なることが多く、時には対立もある。それは当然起こり得るこ とである。しかし、それぞれが目指すものは何であるかを突き詰めてみ ると、それは人々の健やかな成長であり充実した生活である。ともに目 指すところが同じである者が力を合わせ目標に向かって取り組むことは 当然のことである。いくら立場の違いがあろうとも同じ視点、同じ目標 を持って議論すれば、解決の糸口はつかめるはずである。逆に、ものの 考え方や捉え方の違いを統合し、互いに違った角度から児童・生徒を見 ることにより、全体像がより見えやすくなるのではないだろうか。
教育と医療との連携の必要性については、これまでにあらゆるところ で言われ続けており、誰もが認めているところであるが、互いに相手の あることであるから、困難な面もある。しかし、そんな時でこそ、「誰 のための連携」であるのかを問い直す必要がある。連携は自分たちのた めにあるのではなく児童・生徒のためにあることを忘れてはならない。
物理的な連携も確かに大切であり、必要でもある。しかし、教育と医療 との心の連携が今、必要であろう。また、連携は互いの信頼関係の上に 成り立っているものである。ここから協働化を視野に入れたが始まるの
である。
第2節 学校と異職種スタッフとの連携
(1) 学校内の医療スタッフとの連携
学校内での医療との連携について、医療専門スタッフとのかかわりを 尋ねたところ、表1−1の通りであった。
表1−1医療専門スタッフとのかかわり(複数回答)
医療福祉併設・隣設 肢体単独・知肢併置
小児科医 41 759% 51 62.2%
小児神経科医 15 27.8% 25 30.5%
精神科医 8 14.8% 34 41.5%
整形外科医 48 88.9% 75 9L5%
理学療法士 47 87.0% 29 17.1%
作業療法士 41 75.9% 14 17.1%
言語療法士 40 74.1% 17 20.7%
学校看護婦 1 1.9% 17 20.7%
派遣看護婦 3 5.6% 7 8.5%
(N=54) (N=82)
小児科医と整形外科医については医療、福祉施設併設・隣設校、肢体 不自由単独・準準併置校とも多くの学校がかかわりがあると回答してい る。また、医療、福祉施設併設・隣設校においては、理学療法士、作業 療法士、言語療法士など各訓練士とも多くのかかわりを持っている。
さらに、普段から医療とのかかわりが少ないと思われる肢体不自由 単独校、知肢併置校については、かかわりの頻度を尋ねた。その結果は 表1−2の通りである。
どの医療スタッフについても「常駐している」と回答した学校は少 なく、定期的、あるいは不定期の関わりとなっている。肢体不自由単独 校、知肢併置校とも小児神経科医のかかわりが少ないのが目立っ。
表1−2 医療専門スタッフとの関わり (肢体Nエ61、知肢N=21)
常駐 定期的に 不定期に 関わっていない 肢
体 不
自 由 単 独 校
知 肢 併 置 校
小児禾こ医
1
0 0
1 5 5 5 16 3
1
小児神経科医 正
精神科医 1
整形外科医 1
理学療法士 3
作業療法士 0
言語療法士 2
学校看護婦 1
派遣看護婦 4
25 12 11
44
11 4 4
9 6 9 13 2 0
1
11 6 9 11 5 3 3
4
0 4 5 3 2 2
23 42 40
4
39 48 48 44 57 7 14 7 2 13 19 16 20 17
学校看護婦や訪問看護制度等による派遣看護婦については、まだまだ その制度を導入している自治体が少ないせいもあり、関わっている学校
は少ない。
また、 「医療スタッフとの連携はうまくとれていますか」の質問に対 する回答は、表1−3及び図1−1の通りである。肢体不自由単独・知肢併 置校では約半数、医療、福祉施設併設・隣設校では約7割の学校が「は い」と答えている。 「いいえ」と回答した学校は肢体不自由単独・知肢 併置校のうち2校のみ、2.4%にすぎなかった。この結果からは、医療 スタッフとの連携は概ね良好であるといえる。
表1−3 医療スタッフとの連携状態
はい まあまあ いいえ 無回答: 計 肢体不自由単独・
@知肢併置校 44 33 2 3 82
医療・福祉施設併
@設、隣設校 36 16 0 2 54