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第三章 トランス脂肪酸摂取量の推定

1. 摂取量調査に関する方法論と課題

摂取量調査に関する方法論として生産量(供給量)からの推定、国民栄養調査等における食物摂 取頻度法質問票を基にした推定があり、以下にその特徴を示した。

1) 生産・供給量からの推定[49]

基本的な考え方として、硬化油の供給量についての正確な情報とこれら油脂中のトランス脂肪酸組 成についての情報を組み合わせることで、計算上の工業的製造トランス脂肪酸の利用度変化の推定 が可能となる。例えば、米国では、これらのデータを基に一人当たり摂取量を報告しているが、消耗率

(廃棄率)を考慮しない場合には高めの推定値を与える[37]。

なお、トランス脂肪酸からのエネルギー比1%以下という集団最終目標が、個人に適用される場合、

摂取量における変動測定量が推定できるようなトランス脂肪酸の個人摂取量の食事評価が必要とな る。

2) 食事の記録・思い出し又は食物摂取頻度法質問票による食事評価[37]

集団のトランス脂肪酸摂取量評価には、国民栄養調査時に食事内容記録・思い出し又は食物摂取 頻度法質問票により収集した通常の食品等の摂取量と食品中のトランス脂肪酸組成を含む食品組成 データベースを用いる。食品組成データベースは、食品等摂取量をトランス脂肪酸摂取量へ変換する ために使用される。トランス脂肪酸の集団摂取量を評価する上での最大の制限事項は、食品のトラン ス脂肪酸組成を含む食品組成データベースを持つ国がほとんどなく、トランス脂肪酸含量が世界的に 著しく変動しているため、食品中トランス脂肪酸組成が現状を反映していない可能性があることであ る。

また、配合変更した製品による食品成分データベースのアップデートにも困難さを伴う。

以上のような背景のため、食品成分データベース中の個別食品にトランス脂肪酸含量が強引にあ

35 てはめられている。

ただし、分析される食品の範囲がトランス脂肪酸含有食品を代表しているのであれば、全体としての トランス脂肪酸推定摂取量は信頼できることとなる。

西欧14ヵ国におけるトランス脂肪酸摂取量を推定するために、van Poppel(1998)[30]は、マーケット バスケット方式を用い、各国において脂肪摂取量を代表し総脂肪摂取量の 95%に寄与する最大 100 食品を選定した。各国に関して、食品中のトランス脂肪酸含量を食事評価調査の結果と結合させ、トラ ンス脂肪酸の総推定摂取量を求めた(表10参照)。

オーストラリアとニュージーランドの解析結果では、分析された製造食品の組成が、同一食品の最 大 5 製品を分析して範囲を求めているため、妥当性が高いものと考えられる[50]。一方、カナダのよう な非常にトランス脂肪酸含量の高い、硬化油の使用がより一般的な国では、食品中のトランス脂肪酸 含量の範囲がかなり高く、この手法を用いた集団のトランス脂肪酸推定摂取量はあまり信頼できない [51]。

どの国においても、不完全な食品成分データに基づく方法では、集団のトランス脂肪酸摂取量の変 動を評価する場合に制限された値になり、トランス脂肪酸の集団摂取量の割合を調査する場合、特定 の目標例えばエネルギー摂取量の1%以下の値になり易い。

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表10.1 各国におけるトランス脂肪酸摂取量の変遷(報告年) 下線は供給量からの推定結果, 平均摂取エネルギー比率(%)又は平均摂取量(g/日)

国名 -1989 1990-1995 2005-2006 2000-2002 2003-2004 2005-2006 2007-2008 2009-2010 アメリカ 12.1g/日(1978)*1 13.3g/日(1990)*1 2.6%, 5.3g/日*2 5.6g/日(20-59歳)*3 2.0%(男性)*4

8.3g/日(1985)*1 4.0g/日(1993,94)*1 1.9%(女性)*4

カナダ 9.1g/日(1981*1 8.4g/*1 2.2*5 11.1g/日(1981)*1

デンマーク

6g/日(1976*6 2.5g/*6 1.0%(男性),1.0%(女性)*7 1.0*6 0.6-0.7%(4-9歳)*8

0.6%(14-17歳)*8

0.6-0.7%(18-75歳)*8

フィンランド 0.8%(男性),0.9%(女性)*7 0.4%(25-74歳)*8

スウェーデン

1.1%(男性),1.1%(女性)*7 0.9%(4歳)*8

0.9-1.0%(8-12歳)*8

0.6-0.7%(18-75歳)*8

ノルウェー 1.5%(男性),1.4%(女性)*7 0.6%*8

アイスランド 2.1%(男性),1.9%(女性)*7

イギリス 2.2%*9 1.3%*7 1.3-1.4%(4-18歳)*8 1.6%(男性)*9 1.0%*9

1.3%(女性)*9

ドイツ 0.8%(男性),0.9%(女性)*7

フランス 1.1%(男性),1.2%(女性)*7

イタリア 0.5%*7

オランダ 1.5%(男性),1.6%(女性)*7 0.7-0.8%(2-6歳)*8 0.1%(9ヶ月児)*8 0.8-0.9*8 1.3-1.4%(14-18歳)*8 0.3%(18ヶ月児)*8 (19-30歳)

ベルギー 1.4%(男性),1.5%(女性)*7

*1 Craig-Schmidt(2006)[52] *2 Allisonら(1999)[34] *3 Bialostoskyら(2002)[53]

*4 Zhouら[54] *5 Health Canada(2006)[51] *6 Danish Nutrition Council[55]

*7 van Poppelら(1998[30] *8 EFSA2010[56] *9 SACN[57]

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表10.2 各国におけるトランス脂肪酸摂取量の変遷(報告年) 下線は供給量からの推定結果, 平均摂取エネルギー比率(%)又は平均摂取量(g/日)

国名 -1989 1990-1995 1996-1999 2000-2002 2003-2004 2005-2006 2007-2008 2009-2010 ギリシャ 0.5%(男性),0.8%(女性)*7

ポルトガル 0.6*7

スペイン 0.7*7

オーストラリア 0.6%*10 0.6%(2-16歳)*11

0.5%(17歳以上)*11

ニュージーランド 1.4-1.5*10 0.7*10 0.6%(5-14歳)*11

0.6%(15歳以上)*11

イラン 4.2*12

中国 0.2%(男性)*4

0.2%(女性)*4

韓国

0.11%(子供)*13

0.13%(10代)*13

0.064%(成人)*13

日本

0.7%*15 0.3%(男性)*4 0.3-0.6%*14 0.8%(男性)*18 0.44~0.47%*16 0.7%(女性)*18

0.5%(女性)*4 0.5g/日*17

*10 FSANZ[19, 33] *11 FSANZ(2009)[58] *12 Mozaffarianら(2006)[38]

*13 韓国食品医薬品庁・調査研究レポート2010[59] *14 内閣府食品安全委員会(2007)[41] *15 岡本ら(1999)[60]

*16 農林水産省(2008[43] *17 国立医薬品食品衛生研究所食品部(2008)[45] *18 Yamadaら(2010)[61]

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