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第十章 国際機関等の評価とその背景

1. 低減方法

食品中のトランス脂肪酸を減少させる主な方法として、業界の自主的対策、表示(任意表示又は 強制表示)、製品中の上限値設定の 3 つがありそれぞれ以下のような短所、長所(例を表示)があ る。各国での事情により、いろいろな対応が取られている。

1) 業界の自主的対策 短所の例:

・業者間で対応が異なる可能性があること。

・輸入品に対しては対応が困難である。

長所の例:

・一般消費者の負担が無いこと。

対応国:イギリス、オーストラリア、ニュージーランドなど

イギリスでは産業界の自発的活動により食品中の人工的なトランス脂肪酸レベルは減少し、

平均摂取量は劇的に減っている。このため業界の自主的対応で十分であると考えている。「食 品・油業界から提供されたデータによると、イギリスの食品製造において使用されている植物油 中のトランス脂肪酸レベルを最小限(1%)に下げるために、包括的な活動がとられている。これ は、最も法規制の厳しいデンマークの管理値よりも低い。イギリスの油供給業者にとって更なる 削減の余地はなく、強制的な制限を導入するための一方的な活動は、イギリスの生産者の間で は現在の慣例を一定の形にするかもしれないが、さらなる公衆衛生の向上に繋がるとは思えな い。」と結論している。

オーストラリア・ニュージーランド食品基準局[58]は、緊急の法的な介入は不要であり、オー ストラリアとニュージーランドにおける食品中のトランス脂肪酸含量のさらなる低減のため国家的 な法規制を伴わない取組みが、リスク管理に対して最適な対策であると結論している。

この結論の根拠としては、以下の通りである。

・ オーストラリアとニュージーランドにおける比較的低いトランス脂肪酸摂取量

・ 規制強化により達成が期待される疾病リスク低減の包括的な程度における不確かさ

・ 表示が消費者行動に与える影響における不確かさ

・ 既存の表示要求内容を改善できる可能性

・ 食品中のトランス脂肪酸低減のためのこれまでの取組みの有効性

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・ Codex 及びオーストラリアとニュージーランドと同等であるトランス脂肪酸摂取量の諸国で 適用されている規制との同一性

・ 利害関係者が受ける負の影響の可能性

2) 食品での表示 短所の例:

・一般消費者及び硬化油使用業者にトランス脂肪酸に関する知識が必要で、教育が必要 である。

・より重要な表示項目であるエネルギー(カロリー)や塩分(ナトリウム)への注意が散漫にな る。

長所の例:

・硬化油製造業者が売り上げを増やすため、トランス脂肪酸の少ない製品を作ろうと努力 すれば、平均的なトランス脂肪酸摂取量は減少する。

対応国:カナダ、デンマーク、米国、韓国、台湾、香港等

2003年カナダとデンマークがトランス脂肪酸の任意表示を、2005年カナダがトランス脂肪酸 の強制表示を導入した。2006年米国は、それまでの飽和脂肪酸、コレステロールに関する強制 表示に追加して、一食あたりのトランス脂肪酸を0.5 g以上含む食品にトランス脂肪酸含量の強 制表示を義務づけた。EU諸国やオーストラリア、ニュージーランドでは、総脂肪、飽和脂肪酸、

コレステロールなどの強調表示を行う場合にのみ、表示を義務化している。

3) 製品中の上限値設定 短所の例:

・製造業者の負担になる。

・モニターをする費用負担がある。

長所の例:

・消費者の負担がない。

・確実にトランス脂肪酸の摂取量を減少できる。

・輸入品に対しても対処可能。

対応国:デンマーク、スイス、オーストリア、ニューヨーク市、カナダ(予定)

デンマークは最初の法規制を行った。その理由は 3 つあり、トランス脂肪酸の平均一日摂取

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量は、減少しているが、個人ではトランス脂肪酸の摂取量の多い人がいること、製造者が成分リ ストに表示せずに、製品中に工業由来トランス脂肪酸を混合していたこと、輸入製品にかなり多 くのトランス脂肪酸を含有して可能性があることである。このため、法令により、「2003 年 6 月 1 日以降、この規則で扱う油脂及び脂肪中のトランス脂肪酸含有量は、2 g/100 gを超えてはなら ない。「トランス脂肪酸フリー」という強調表示がされた製品では、最終製品中のトランス脂肪酸

含有量は1 g/100 g・油脂以下でなければならない。」とした。

カナダのトランス脂肪酸対策チームは、全ての加工食品中のトランス脂肪酸を除去する、或 いは可能な限り低減するために法規制措置をとることを提言し、政府もこの提言に同意してい る。

以下がその理由である。

・ 全ての範囲の食品を対象とする必要性

・ デンマークにおける法規制の経験(1994年以来トランス脂肪酸に関する懸念が言及され、

マーガリン製造業者は製品中から工業由来トランス脂肪酸含量を減らすべく対応策を取 ってきたにも拘わらず、事実上デンマークの食品から工業由来トランス脂肪酸含量が消失 したのは規制が発効された直後であった。)

・ 食品表示とその他関連する活動から得た教訓

・ 種苗業者と油脂製造業者に対して健康に良い代替品開発に投資する継続した強い要望 を送る必要性

・ 冠状動脈心疾患には高いリスクを示す低所得者及び/又は読み書き能力の低い弱者グ ループを含めて食品表示を理解出来ない集団にも効果があるという事実

対策チームは「小売業者又は食品サービス企業が製造業者から購入し、直接に消費者に売 られる食品は最終製品又は出口ベースで法対象となり、小売業者又は食品サービス企業の現 場で調理される食品は材料又は入り口ベースで法対象となる。すなわち小売店で消費者に販 売されるか、又は小売店、食品サービス企業の現場で調理される食品に使われる全ての植物 油、ソフト・スプレッド・桶タイプのマーガリンを対象として総トランス脂肪酸含量は総脂質含量の 2%に法的に制限されるべきである。小売又は食品サービス企業によって消費者への販売目的 で購入されるか、又は現場で調理されるために使われるその他全ての食品を対象として総トラ ンス脂肪酸含量は総脂質の5%に法的に制限されるべきである。この上限値は反芻動物食肉 又は乳製品のみに由来が限定される脂肪をもつ食品製品には適用しない。」とした推奨基準を 2006年に発表した。2007年に工業界に推奨基準までトランス脂肪レベルを低減するため2年の

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猶予を与えた。2年間で有意な進展がない場合、レベルに適合するよう規制すると公約している。

しかしながら、現在のところ規制措置はとられていない。

ニューヨーク市は、レストランにおける 2006 年にトランス脂肪禁止を通告し、2008 年ベーカリ ー製品及びディープフライバターを含む製品に、トランス脂肪0.5 g以上含むことを禁止した。

スイスとオーストリアも、それぞれ2008年と2009年にトランス脂肪酸の含有量基準値を設定し た(第十一章参照)。

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