第6章 まとめ
6.1 政策提言
実証分析結果より、リノベーションは周辺の賃貸マンションに対して正の外部性をもた らしており、このため政府が介入しない状況ではリノベーションは過小になり、死荷重が発 生していることがわかった。また賃貸マンションが多いところでリノベーションを促進し た方が周辺への正の外部性が大きいこともわかった。更に周辺の商業への影響は、既存商店 街の中でリノベーションが行われた場合は既存商店への正負の効果が相殺されるが、既存 商店街の外でリノベーションが行われた場合には商店街が競合する効果により既存商店に 負の効果をもたらすこともわかった。これらの知見に沿って、リノベーションの便益を享受 する周辺不動産オーナーは、リノベーション実施者に対して、正の便益に見合うように補助 金を創出すべきである。
提言① リノベーション実施者に対して補助金を付与。
周辺への正の便益に見合った補助金と死荷重の解消が目的である。
リノベーションの受益者は賃貸オーナーであり、理想はリノベーションの補助金を賃貸オ ーナーが負担することである。しかし、賃貸オーナーは多数おり、交渉費用=取引費用がか さみ、実質不可能である。(周辺オーナーは金銭負担をしたがらない。それぞれの便益には 相違、かつ金銭換算することはほぼ不可能。)従って、行政が補助金を支出する方法も一つ の施策として提案する。(この場合、公平性は損なわれる。)
提言② リノベーション実施者に対して、既存商店街の中で実施するインセンティブを付与 する仕組みを創設。エリアリノベーションが継続していくようなインセンティブを付与。
既存商店街より離れた場所でリノベーションを実施されると、既存商店街と競合してし まうことが実証分析から示された。よって既存商店内でリノベーションが実施されるイン センティブが働くような制度を創設すべきである。例えば、離れた場所でリノベーションす る事業主には補助金を付与しない等の条件をつけることが有効である。リノベーション供 給者(事業者等)に補助し、促進のインセンティブを付与(官民連携リノベーションスクー ル等の事例参照74。)し、その際には行政の補助は初期投資に限定とし、あくまでランニング は民(原則市場に委ねる)が主体となって実施することが望ましい。なぜなら補助金依存の 事業は継続せず、エリアリノベーションが創生されないからである。また、既存商店街に悪 影響がでないような特化したコンセプトリノベーションを実施し、事前に周辺の不動産オ ーナー等の関係者に、どのようなリノベーション物件が新設されるのが望ましいか等、事前 アンケートを実施することも必要と思われる。
74 第2章2.3に論じた「民間まちづくり活動支援・普及啓発事業」の対象事業での事例も有効ではあるが、あくまで制 度融資であり、一方でイニシャル分(初期工事費等)は行政が補助すべしという結論である。
53
提言③ リノベーションを促進する関係者間で情報共有する仕組み
新規にリノベーションを実施しようとする不動産オーナー等への情報提供が必要である。
リノベーションの失敗事例に鑑み、事業判断、ポイント・オブ・ノーリターンをコントロー ルするためであり、行政が成功事例地区におけるリノベーション実施効果の情報収集を行 い、成功要因や実施すべきかの判断材料を提供する。
この場合、成功失敗の享受を受け取る人物は、リノベーションがなされた街全体(既存商 店街等)になり、失敗要因の一つは、既存の店から300m以上500m未満の離れた場所でリ ノベーションを実施すると、既存の店(商店街)の顧客を奪われるという店舗間の競争が起 こり、衰退する可能性があるということである。少なくとも、既存商店街の中でリノベーシ ョンが行われるか否かが成功要因と失敗要因の分かれ目になる。実証分結果より、既存商店 への正負の効果が相殺されるため、既存商店街の内の中で実施されるのが望ましいという ことが立証された。以上のような有益な情報を与えることによって、成功要因失敗要因にお ける情報の非対称を解消し、エリアリノベーションが継続していくようなインセンティブ を与えることである。この成功要因との適合、及び失敗要因に該当しないかチェック機能が 必要である。
提言④ 行政75だけにしか実施できないことを徹底とすべき
日本でのリノベーションスクールも街を活性化させる一つの手法ではあるが、海外実例
(上海、米国)も参考とすべきであり、リノベーションテーマに沿った雰囲気づくり、場作 りが必要であり、それは公共空間の整備である。これは行政にしかできないことであり、原 則は民間がリノベーションを実施していく中、行政が公共空間を整備して相互に協力して いくということである。例えば、照明、道路等における景観ガイドライン策定も考えられ、
イタリアを事例にあげると、馬小屋、農場をホテルにリノベーション(Ex,アグリツーリズ ム)した際、まち全体の公共空間を行政がコントロールし、民間が動きやすいようなフレー ムワークを構築76している。また、アルベルゴ・ディフ-ゾでは、街全体をホテルにする新 しい観光を実践しており、リノベーションが新たなビジネス観光、地域活性化として成功し ている。
提言⑤ 賃貸マンションが多い所でリノベーションを多く、持続的に促進すべき
実証分析結果より、リノベーションは周辺の賃貸マンションに対して正の外部性をもた らしており、このため死荷重が発生していることがわかった。また賃貸マンションが多いと ころでリノベーションを促進した方が周辺への正の外部性が大きいこともわかった。以上 の実証分析よりエリア価値を高めることが立証されたわけであり、賃貸が多いところでベ
75 公的機関であるUR都市機構も実践すべきである。
76 参考文献(2017)馬場正尊「CREATIVE LOCAL エリアリノベーション海外編」P24、P49-50、P248学芸出版社
54
ーションが実施されるインセンティブが働くような制度を創設すべきである。例えば、分譲 マンションが多い場所でリノベーションする事業主には補助金を付与しない等の条件をつ けることが有効と考えられる。なお、補助金については政策提言②と同様に実施することが 望ましいと考える。なお、リノベーションは以下の事例のようなインパクトを周辺に与えら れるコンセプトリノベーション77が望ましいと考える。
コンセプトリノベーションとして、以下を参考に取り上げる。ケース1(図33)中国上海 旧フランス植民地時代の歴史建築物をリノベーションした事例。(図33)新天地78は、建物 そのものと同時に、まちの雰囲気、公共空間も併せて整備している。
ケース2として中国上海の「船厰1862」(MIFA1862)79を取り上げる。元々は古い造船所だ ったところを設計&リノベーションした複合アートセンターというコンセプトである。廃 墟同然であった、巨大造船所をフルリノベーションしたダイナミックな事例である。(図34)
ケース3として、同様に中国上海の巨大石炭積み卸し施設をフルリノベーションした「龍美
77 馬場正尊+Open A(2016) 「エリアリノベーション変化の構造とローカライズ」P58-59、学芸出版社 参考。
78 出典shanghi navi「https://www.shanghainavi.com/special/5036280」画像引用
79 Fly media HP 出典「https://flymedia.co.jp/#about」画像引用
図33コンセプトリノベーション事例ケース1 中国上海
c
図34 コンセプトリノベーション事例ケース2中国上海
c
55
術館西岸館」80を取り上げる。混沌とした廃墟、異空間をアート空間へと癒合させたコンセ プトである。(図35)
下記、ケース4米国の事例では、犯罪温床危険エリアであり、治安の悪化、スラム拡大、
ゴミ悪臭等の負の外部性があった倉庫街を、アート施設へフルリノベーションを実施した。
新たなカルチャー「ブルックリンスタイル」の確立に成功した。(図36)
81
80 雑誌pen https://www.pen-online.jp/blog/n-aono/1527039331/ 画像引用
81 出典 まちづくり参加型クラウドファンディン「penhttps://hello-renovation.jp/topics/detail/358」画像引用
図36 コンセプトリノベーション 事例ケース4 米国
c
「Down Under the Manhattan Bridge Overpass」
図35 コンセプトリノベーション事例ケース3中国上海
c
56
下記、ケース5米国の事例では、(NY city)MPDエリアのリノベーション事例は、基は 精肉工場街、精肉加工店街の集工場街を世界最大のApple Store等の最先端ショップにフ ルリノベーションしたものである。コンセプトリノベーションは「最先端ショップ」であり、
特にこのようなインパクトがあるコンセプトリノベーションが望ましいと考える。(図 37)
82
83
リノベーションテーマに沿った雰囲気づくりの事例として、イタリアのアグリーツーリズ
Trip note HP 「https://tripnote.jp/new-york/brooklyn-empire-stores」画像引用
82 出典OurLifeIsAJourney「 https://ourlifeisajourney.net/2015/01/meatpacking-district-gansevoort-market/ 」 画像引用
83 ドコイク?Hp出典 「https://welove.expedia.co.jp/destination/europe/italy/10734/」画像引用
図38 アグリーツーリズム、アルベルゴ・ディフ-ゾのリノベーション 4
c
図37 コンセプトリノベーション 事例ケース4 米国 c 「Meat Parking District」