魑 湘
第6節 授業仮説の検証
第6節では全4時間の授業を包括し,分析の視点に基づいて授業仮説の有効性を検証す
る。
1 授業仮説の検証と考察
本研究における分析の視点は「人物の意思決定を吟味することで,歴史的エンパシーの 深化・発展がみられたか」である。人物の意思決定を吟味する活動は第4時で行った。第 4時における「本時の成果と課題」の項でも述べた通り,意思決定場面で人物の「目的」
と「予測」を基に「選択」をしている児童は,人物の立場に立ち,歴史上の人物の見方で 判断ができていると考えられるため,歴史的エンパシーの深化・発展における「区別され たエンパシー」の段階であると言える。また,「事実関係の分析」場面においては徳川家光 の目的を理解していたが,意思決定場面では「予測」のみを基に「選択」をしている児童 は,人物の立場は理解しているが,現在の見方で判断をしているため,歴史的エンパシー の深化・発展における「ステレオタイプのエンパシー」の段階であると言える。このこと から,児童の記述を基に歴史的エンパシーの深化・発展を確認することができた。人物の 意思決定を吟味することで,人物の立場に立った判断を促すことができ,児童のエンパシ ー能力を育成することが可能である。よって,授業仮説が実証されたことになる。
児童全体の歴史的エンパシーの段階をグラフで表すと,次の通りである。
区別されたエンパシー(5人)
ステレオタイプのエンパシL一…(23人)
日常的エンパシー(7人)
エンパシーのない状態(2入)
﹁ 噌
一^一 . − .い
一 薗幽圏圏 聾 一一
o 5 10 15 20 25
図3−6 児童全体の歴史的エンパシーの段階(児童数37人)
歴史的エンパシーの段階は,児童が書いたワークシートの記述を基に判断している。全 4時間ある授業の中でワークシートの記述は合計で5回させてある。その中でも特に歴史 的エンパシーの段階を判断する手がかりとなるのが,第2時復習ワークシート「前回の授 業を振り返ろう!」と第4時授業ワークシート「徳川家光の選択」である。第2時復習ワ ークシートは第1次「事実関係の分析」の総括として位置づけている。また,第4時授業 ワークシート「徳川家光の選択」は第2次「意思決定過程の分析」の総括として位置づけ てある。「事実関係の分析」においては,人物の行為から人物の目的を導きだすことをねら いとしている。また,「意思決定過程の分析」においては,人物の目的と選択肢の予測に基 づいて選択することをねらいとしている。よって,第2時復習ワークシートにおいては「人 物の行為」,第4時授業ワークシートにおいては「人物の目的」「選択肢の予測」という3 つの観点で2つの記述を分析し,児童の歴史的エンパシーの段階を割り出した。以下に,
それぞれの段階にあたる代表的な児童の記述を挙げ,その考察を述べる。
まず,「区別されたエンパシー」の段階にあたる児童の記述を挙げる。
表3−5圖の記述(人物の行為:直弟,人物の目的:左墾,選択肢の予測,碗趣)
第2時復習ワークシート「前回の授業を振り返ろう!」
参勤交代/家光は、一旦的の為に、
人質をとったり、費用をかけて武器を買わせなくした。/僕は、ちょっと勝手な制度だ なと思う。でもこれが、江戸幕府が長く続いた理由だと思う。/鎖国/ 易の利益を独 占するために、貿易を制限した。また、キリスト教が広まらないために信者をおそれ、
国を閉鎖した。/まとめ/結局、家光は、支配するという一つの目的に対して参勤交代 や鎖国を行った。
第4時授業ワークシート「徳川家光の選択」(選択の理由)
選 択
A
幕府が長く続かないBよりも、自分の支配下におけ、邪魔するものもいないA の方が良い政策だと思う。貿易杢亙き左隻』.国交浴塞二なli2工至 府がっつく 方が良いと思った。
國は,第2回復習ワークシートにおいて人物の行為の事実から人物の目的を導きだし ている。よって,人物の立場は理解できていると考えられる。一方,第4時授業ワークシ ートにおいては,人物の目的を選択の理由に挙げている。また,選択肢を予測することで 挙げられた,選択肢Bのメリットを示しつつもそれを選ぶよりも選択肢Aの方が人物の目 的が達成できるのではないかと考えている。よって國は,人物の立場に立ち,歴史上の 人物の見方で判断していると読み取れるため,「区別されたエンパシー」の段階であると言
える。
続いて「ステレオタイプのエンパシー」の段階にあたる児童の記述を挙げる。
表3−6匡i≡ヨの記述(人物の行為:塞墾,人物の目的:極,選択肢の予測,破i趣)
第2時復習ワークシート「前回の授業を振り返ろう!」
参勤交代をさせてる間、大名の妻子を人 にしていた。江戸に行くことで豊野がかかり、
武器が買えなくなった。人質がいて、武器がないことで、反乱できなくなった。そのこ とで、家光は、大名、農民、町人、商人、武士を支配した。/鎖国鑛をして いたけど、1635年、海外渡航・帰国の禁止をしました。そのことで貿易を独占、制限し ました。キリスト教の教えを禁止したが、島原・天草の一揆があって、キリスト教のと
りしまりを強めました。このことから、支配された。
第4時授業ワークシート「徳川家光の選択」(選択の理由)
選 択
B
キリスト教の一揆は、外のてでとめることができるかもしれないし、貿易.を二 塁至と主群塁でお込て鉛か麺る、それに、揮うム乙な野薄な.ど圭と.り込ま』r.、_?一
れを、日本だけの文化にしていって新しい文化にできるから
匡≡ヨは,第2回復習ワL一一・クシートにおいて人物の行為の事実から人物の目的を導きだし ている。よって,人物の立場は理解できていると言える。一方の第4時授業ワークシート においては,選択肢Aのデメリットや選択肢Bのメリットを選択の理由としているが,人 物の目的は挙げられていない。よって匡≡ヨは,人物の立場は理解しているが,現在の見方 で判断していると読み取れるため,「ステレオタイプのエンパシー」の段階であると言える。
続いて「日常的エンパシー」の段階にあたる児童の記述を挙げる。
表3−6國の記述(人物の行為:墾,人物の目的:杢墾,選択肢の予測,碗塞)
第2時復習ワークシート「前回の授業を振り返ろう!」
なぜ、徳川家光は参勤交代をさせたのだろうか、ぼくは参勤交代じたいは大名統制のた めの目的と反乱させないための目的だと思いました。鎖国もなぜしたのだろうか、当時 のキリスト教は植民地化への手段でした。スペインは、日本に比べれば遥かに小国でし たが、現地でキリスト教を布教し信者が増加すれば扇動して現地の国家を滅ぼして植民 地していました。そしてその魔の手がアジアにまで伸びていったのです。しかし、家康
もそのことに気づきキリスト を弾圧することによって三竿一。
そして、家光のときに鎖国までなってしまったんだと思いました。/鎖国は、日本の文 化はいいけど、輸入などの、外国の文化がはいってこないので、鎖国をするのはよくな かったんだと思いました。家康や家光は、鎖国などのことを考えていたなんてすごいと 思いました。
第4時授業ワークシート「徳川家光の選択」(選択の理由)
選 択
B
ポルトガルと貿易をすることによって、仲良くなって戦争もなくなるし、技術 や≧食型物空文仕塞伝h2匹豊エ、伝わってきた食べ物によって栄養がとれて、
人間の生きれる、年数がふえて平和になるキリスト教が広まっても、食べ物が ふえたら生きていける。
國は,第2回復習ワークシートにおいて人物の行為に関する記述はあるが,そこから 人物の目的を導きだせていない。よって,人物の立町が理解できているか否かはこの記述 からは判断できない。一方の第4時授業ワークシートにおいては,選択肢Bのメリットを 選択の理由としているが,人物の目的は挙げられていない。よって國は,人物の目的や 立場を漠然と捉え,現在の見方で判断していると読み取れるため,「日常的エンパシー」の 段階であると言える。
最後に,「エンパシーのない状態」の段階にあたる児童であるが,この二人の児童は特別 な支援を要する児童であり,記述内容からはエンパシーの段階を判断することが困難であ ったため,この段階においた。
今回,児童全体の歴史的エンパシーの段階を分析した結果,歴史人物学習における歴史 的エンパシーの深化・発展のためには次の2点が必要だということがわかった。
①「事実関係の分析」において,人物の立場を理解させること。
②「意思決定過程の分析」において,人物の見方を意識させること。
児童を「日常的エンパシー」から深化・発展させるためには,①「事実関係の分析」に おいて,人物の立場を理解させる必要がある。「日常的エンパシー」は歴史上の人物の目的 や立場などを漠然と捉え,無意識のうちに現在の見方で見ている状態である。この場合現 在の観点で歴史を見ているため,歴史上の人物の立場に立つためには過去の観点を獲得し なければならない。
さらに,児童を「ステレオタイプのエンパシー」から深化・発展させるためには,②「意 思決定過程の分析」において,人物の見方を意識させる必要がある。「ステレオタイプのエ ンパシー」とは,過去の人物の目的や立場などを理解しているが現代の画一的なイメージ が拭えない状態である。つまり本時においては,選択場面において過去の人物の見方では なく現在の自分の見方で判断をしていることを指す。意思決定場面においては人物の目的 や立場を意識づけ,過去の見方と現代の見方を区別させなければならない。
人物の意思決定を吟味することで歴史的エンパシーの深化・発展を図る際は,以上の点 に留意して授業を展開する必要があるだろう。