4-1慢性腎不全時のアミノ酸投与によるアミノ酸代謝
緒言
慢性腎不全患者は蛋白制限の厳しい食事(低蛋白食)で管理し、腎臓への負荷が低下さ せることにより慢性腎不全病態の進行を遅延させる効果があることが報告されている。低 蛋白食療法は、摂取蛋白質の体蛋白質への利用率の高まりと窒素老廃物として生成された NH3の体蛋白質への再利用により体内窒素老廃物の産生減少の影響と考えられている。これ まで、体内窒素老廃物の産生減少を実験的に証明し、さらに投与アミノ酸組成による蛋白 代謝への影響を明らかにしてきた。しかし、これまでの報告は蛋白質代謝の見かけ上の変 化を見たものであり、窒素代謝に影響を及ぼす蛋白合成や異化などの詳細を確認できてい ない。そこで、本章では投与アミノ酸の蛋白質への利用率を]5Nで標識したロイシン(I5N -Leu)を使い、投与アミノ酸の蛋白合成への影響を検討した。
方法 1.動物
4週齢のSD系雄`性ラット(日本チヤールス・リバー)に固形資料(CRF-1,オリエンタ ル酵母工業)及び水を自由摂取させて7日間予備飼育した後、順調に成育したラットを実 験に供した。飼育条件は、室温23±2℃,湿度55±15%,明暗周期を12時間とした。
2.モデルの作成及び被験液投与方法
CRFモデルの作製はPlattらの方法])に準じて行った。すなわち、最初に左腎の3/4に 相当する皮質部分を切除し、2週間後に右腎を摘出した。2週間後、血漿中Cre濃度が1.5 mg/d1以上の個体をCRFラットとして試験に用いた。輸液投与の手技の模式図を図2-1-1 に示した。体重を指標に群分けを行ったCRFラットに、Steigerらの方法2)に従って、中心 静脈カテーテルを内頚静脈を経て、上大静脈に留置した。カテーテルはラットに設置した プロテクトコイルにより保護した。カテーテルとコイルはケージ中の動物の動きを制約せ ずに輸液投与するためにシーベルに接続した。初日、翌日と段階的に投与速度を上げ、2 日目以降30,1/hrの投与速度で7日間のTPN管理を実施した。なお、3日目以降のTPNの 維持投与カロリー量を非蛋白性投与カロリーで230Cal/kg/dayと設定した。
3.被験液と実験群
常法に従って作成したCRFラットでTPN実施の2群(E/N3.2群、EAA群)を、さらに同 週齢のNormal群を設けた。被験液はTPN基本液としてパレメンタールA、B(森下ルセル)
を、総合ビタミン剤としてソービタ(扶桑薬品工業)を用い、EAA群にはアミノ酸輸液と
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して市販のEAA製剤E/N3.2群にはE/N3.2のアミノ酸輸液(自家調製品)を配合した。
各被験液はグルコース、総窒素、電解質、ビタミン濃度を同一とし、Cal/N比300の条件 下でアミノ酸組成を変化させた。
4.実験プロトコール 実験方法を図4-1-1に示した。
TPN管理期間中、ラットの状況確認を毎日実施すると共に、尾静脈より採血を行った。
また、試験期間中毎日、尿量の測定と採尿を行った。なお、摂餌群は摂餌量及び糞採取も 行った。I5N-Leu(99.2atom%、昭光通商㈱)を被験液中の非標識Leuに-部置き換えた液を準 備し、被験液投与3日目13:30から4日目の9:30までの20時間持続注入した。投与終了 後5時間目に解剖を行った。
試験終了日、体重測定後にペントバルビタール麻酔下(35mg/kg、Lp.)、腹大動脈より 採血後安楽死させた。その後、肝臓及び腓腹筋を採取し、湿重量を測定した。血液は、ヘ パリン処理後常法に従って血漿を得た。得られた血漿は血液生化学検査及び血漿中タンパ ク質への'5Nの取り込み量測定のサンプルに供した。肝臓及び腓腹筋は15N含有量測定用サ ンプル及び核酸(DNA、RNA)、タンパク質測定に供し、分析まで-80℃で冷凍保存した。
5.測定項目及び測定方法 1)血液検査
試験期間中に尾静脈より採取されたヘパリンカロ血漿は、Cre、BUN、TP及びAlbを日立 自動分析装置7150-Eを用いて測定した。測定法は表2-1-2に示した。
2)臓器中成分
肝臓をphosphate-buffersaline(pH7.5)でホモジナイス後、核酸(DNA,RNA:EBr法3))
及びタンパク質量(Folin-Lowry法4))を測定した。また、腓腹筋中の核酸は Schmidt-Thannhauser法5)により抽出し、RNAはUV法で、DNAはDiphenylamine法で、また、
タンパク質量はFolin-Lowry法4)で測定した。
3)'5N含有量
血漿、腓腹筋及び肝臓中のタンパク質に含まれる'5N含有量は、5%PCAによってタンパ ク質を回収したサンプルを用いた。サンプル中の総窒素含有量はCNコーダーMT-l600(柳本 製作所)で、’5N含有量は質量分析計TE-360S(ANELVA)で行った。
4)窒素出納
窒素排泄量は、試験期間中採取された尿及び糞の窒素含量をCNコーダーで分析し、算出 した。投与窒素量は、TPN群は投与TPN液量、またNormal群は摂餌量より算出した。
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5)尿中3-メチルヒスチジン
3-メチルヒスチジンは尿を常法に従って処理した後、イオン交換クロマトグラフイ法を 用いたアミノ酸分析機JLC300(日本電子)により分析した。
7.統計処理
全てのデータは平均±標準誤差で示した。TPN群間の有意差検定はStudent-t検定を行 い、p<0.05の値を有意差として示した。
結果及び考察
腎不全時のタンパク質代謝に対するアミノ酸組成の影響を見るために、EAA製剤とE/N 比3.2アミノ酸製剤投与時の窒素代謝とl5N-Leuのタンパク質への取り込みを比較検討した。
体重と窒素出納
試験期間中の体重変化量と4日間の累積窒素出納の結果を表4-1-2に示した。体重変化 量及び累積窒素出納は被験液群間で差は認められなかった。
血液生化学検査結果
血漿中Cre及びBUNの経時変化を図4-1-2に、TP及びAlbの経時変化を図4-1-3に、血 漿中蛋白質への'5N取り込み量を図4-1-4に示した。
Cre値は被験液投与開始後低下が認められたものの、試験期間を通じて健常と比較して 高値を示し、腎不全病態であることが確認された。BUN値は、試験開始時には腎不全病態 を反映した高値を示したが、TPN投与により試験期間を通じて低下し、3日目には健常と同 じレベルまで低下した。本結果は、これまでの試験結果を再現するものであり、用いたモ デルの再現'性が高いことを示した。
TPN開始に伴いBUN値は著しく低下し、健常状態まで回復している。これは明らかに、
TPNによる投与エネルギー量に対する窒素の制限により窒素の体内での有効利用されてい るものと考えられる。投与されたアミノ酸が、十分なエネルギーの投与によりエネルギー 産生の必要性が低下し、NH3及びその代謝物質であるUNの産生が低下しているものと考え
られる。
血漿中TPとAlb値は試験の1-2日目に低下し、その後回復傾向を示した。Normal群に おいてもその傾向は同様であるため、試験期間初期の血漿蛋白の低下は、試験開始時に各 個体を代謝ケージヘ移動したためのストレスによる影響と考えられる。また、TPN各群は、
急激なエネルギー投与による代謝障害を防ぐ目的で、1-2日目に投与エネルギー量及び投 与水分量の投与抑制(順化)を実施しているため、エネルギー不足による影響も出ている のかもしれない。
TP及びAlbの経時的変動で特徴的なことは、初期の低下時におけるEAA製剤による低下
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の抑制と4日目のE/N3.2による回復である。3日目から投与したl5N-Leuの蛋白への取り 込み員は、血漿蛋白の結果を反映し、E/N3.2群で有意に高い値を示した。
肝臓中成分
肝臓重量、肝臓中のDNA、RNA、タンパク質含有量及び肝臓中タンパク質への'5N取り込 み量を表4-1-3に示した。肝臓重量はこれまでの報告と同様にEAA群で高値を、さらに肝 臓中タンパク質、核酸量はE/N3.2群に比較し低値を示している。EAA投与による肝臓重量 の増大は肝細胞の肥大が主な原因であり、これまでの研究で脂肪の蓄積がその主な原因と 考えられた。しかし、肝臓当たりで見ると、EAA製剤投与により肝蛋白の著しい増加が短 期間で起こっていることが、先の試験同様に確認できた。
筋中の成分と尿中3-メチルヒスチジン排泄量
腓腹筋重量、筋中のDNA、RNA、タンパク質含有量及び腓腹筋中タンパク質への'5N取り 込み量を表4-1-4に示した。また、TPN液投与群の4日間の試験期間中の尿への3-メチル
ヒスチジン排泄量を図4-1-5に示した。
CRFラットは筋重量の低下が認められたが、単位重量あたりのDNA量はNormal群と差は 認められなかった。このことは、本モデルは、筋細胞数の減少により筋肉量が低下してい
ることが示された。
輸液群間で核酸量、タンパク質量に差が認められなかった。腓腹筋は肝臓と異なり、成 分含量に大きな差は現れなかったものの、E/N3.2群で重窒素のタンパク質への取り込み量 の増大が確認され、筋中タンパク質合成の高まりが示された。
組織蛋白分解量の把握は、蛋白分解によって生成されるアミノ酸が蛋白へ再合成される ため難しい。しかし、筋蛋白の分解時には、アクチンとミオシン特有の3-メチルヒスチジ ンを生じ、さらに再合成には利用されずに尿中に排泄されるため、筋崩壊の指標としても 信頼'性が高いことが明らかとなっている。今回、E/N32群でEAA群に比較し、3-メチルヒ スチジンの排泄量が低値であり、筋崩壊がE/N3.2群でEAA群に比較して抑制されているこ とが示唆された。試験期間が筋肉の半減期に比較して短期であるため、筋重量の差として は確認できなかったが、E/N3.2群で筋肉の合成の高まりと異化の抑制が確認できた。BCAA は筋肉中の主要なアミノ酸であり、筋肉でのエネルギー産生に重要な役割を果たすことが 知られている。また、BCAAの補給で筋肉の分解を押さえ、合成を促進することが報告され ているが、BCAA含量が高いEAA群がその含量が少ないE/N3.2に比較してその効果が低値 であった。これまで報告されているBCAAの効果は補給効果であり、他の食品などからNEAA の補給がある。筋蛋白合成にBCAAに加えてNEAAなどの補給が効果的であることが示唆さ れた。
以上の結果より、投与アミノ酸組成が蛋白質の合成と分解に影響を及ぼし、その影響は臓 器によって異なることが明らかになった。臓器毎に構成蛋白のアミノ酸組成が異なってい
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