( 電子タグの仕様作成及び情報通信システムに関するワーキンググループ)
3. 情報通信システム
3-1. はじめに
本事業では、昨年度、ジャイロをベースとした隊員の位置特定システムの整備を行って きたが、実際、隊員同士の連絡方法、本部から隊員への命令伝達などでは、音声を含めた 統合的な通信システムの必要性が明確になった。
本年度は、この点を補うものとして、咽喉マイクを用いた無線通信システム(FiReCOS)
の活用を中心に、地下空間でも信頼の置ける通信手段の開発を目標として進めた。
3-2. FiReCOS とは
このシステムは、消防隊が火災現場において、活動中に使用するための「統合化した消 防 防 災 通 信 シ ス テ ム 」 で あ り 、 愛 称 を FiReCOS(商標:Fire fighting and Rescue Communication Systemの略。以下FiReCOSと表記)と呼んでいる。
FiReCOSは、阪神淡路大震災発生時に、携帯無線機を用いた連絡において、多くの部隊
が、限られた周波数の中で同時に共通波を使用したため混信し、通信システムとして現場 で機能しなくなったことを契機として、日本国内において数千万人の人々が携帯電話を至 る所で利用している現代において、大規模災害発生時等の場面でも、混信なく他の応援部 隊との連絡をとることを目的として開発され、1対1の通信からグループ通信、更には移 動系と固定系の相互通信や全国規模での通信も可能なコンピューターネットワーク技術を 用いた拡張性の高いシステムとなった。
現在、消防無線と防災行政無線の移動系と固定系は、
割り当てられている周波数が違うため、お互いに乗り 入れた通信はできない。ただ、現在、総務省、消防庁 他関係官庁において、防災行政無線、消防無線のディ ジタル化に向けた検討がされており、これらの問題も その中で課題として検討されている。
FiReCOSは、PHS移動体通信をベースにイーサネ
ットで接続された、セルステーション(CS)を基地 局に、通話端末を内線モードで使用することにより、
秘話性を保たせ、また、多者通話のためのサーバ機能 を持たせることにより、最大9端末があたかも電話会 議をしているがごとく通話することが可能となり、隊 員の相互連絡網としても機能する。
Cell Station
Cell Station
Ethernet LAN
PIAFS サーバー 管制用パソコン
図2‑1 FiReCos の概要図
40 3-3. 災害発生時のインフラ網の想定
開発目標を設定するに当たり、現状のインフラに関しての整理を行った。
3-3-1. ネットワークの分類 3-3-1-1. イーサネット
イーサネットは、現在構築されているネットワーク(LAN)のベースとなるシステムで あり、安価で容易な接続により、ネットワークを構築することが可能である。現在、ケー ブルについては、メタルケーブル(カテゴリ5)を使用し、コネクタは、RJ-45 規格のも のが用いられている。伝送能力は、最大100Mbps のもの(100Base-TX)が普及している が、送受信するデータが、文字ベースのものから、音声、映像とマルチメディア化、増大 化するに従い、また、利用者(クライアント)の増加に伴い、光ケーブルを用いたシステ ムも増えている
現在、大都市圏の建物の大半は、このネットワーク網が敷設されていると考えられる。
3-3-1-2. 無線LAN
無線 LAN (WLAN) は、RF (無線周波数) 技術を用いたデータの送受信システムであり、
ケーブルを介すことなく、データを送受信できる特徴がある。現在、一般的に使用されて いる規格は、IEEE (Institute of Electrical and Electronics Engineers) が策定した IEEE
802.11 であり、802.11 規格に準拠した WLAN では、イーサネットの場合と同様に、ど
のような LAN アプリケーション、ネットワーク・オペレーティング・システム、プロト コル (TCP/IP を含む) でも動作する。WLAN の場合、世界各国の主要な規制機関の承認 の下に、未使用の周波数帯を利用してデータを伝送するが、使える周波数帯は国によって 若干異なり、また、使用に際し、屋内のみ等という条件が加わる場合もある。
表.3-1 主な無線LAN規格
802.11b 802.11g 802.11a
伝 送 方 式 DSSS (スペクトラム 直接拡散方式) 2.4GHz 帯
OFDM (直交波周波数 分割多重方式)
2.4GHz 帯
OFDM (直交波周波数 分割多重方式)
5GHz 帯 デ ー タ
伝 送 速 度
11,5,,2,1(Mbps) 54,48,36,24,18,12,9,6 ( M b p s )
54,48,36,24,18,12,9,6 ( M b p s ) チャネル数 3つの非重複チャネル 3つの非重複チャネル 8つの非重複チャネル
(一部の国では4) 伝 送 距 離
(屋内)※1
11MBps:30m 1Mbps:91m
54MBps:30m 6Mbps:91m
54MBps:12m 6Mbps:91m 伝 送 距 離
(屋外)※1 ,2
11MBps:120m 1Mbps:460m
54MBps:120m 6Mbps:460m
54MBps:30m 6Mbps:305m 互 換 性 IEEE802.11b準拠
Wi-Fi
IEEE802.11b準拠 Wi-Fi
IEEE802.11b準拠 Wi-Fi
※1伝送距離は、標準的な参考値
※2屋外伝送距離は、見通しでの距離
無線 LAN によるネットワークは、どこでもネットワークを構築出来る利点がある反面、
守秘性、伝送距離等にやや難があると考えられている。
41 3-3-1-3. VDSL
DSL(Digital Subscriber Line) は、既存のメタル電話線、有線放送ケーブル等を用いて、
高速広帯域のデータ伝送を可能にする技術の総称であり、その技術は、マルチメディアア プリケーションを利用するために、1989年ベルコア(ベル・コミュニケーションズ・リサ ーチ)において開発されたが、インターネットの普及と共に ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)を始めとする、DSL技術を活用が増えていった。
この中で、VDSL(Very high bit rate Digital Subscriber Line)は、伝送距離を短く限定す ることにより、ADSLに比較してより高速な伝送を可能にする技術として確立された。
伝送速度、20〜40Mbpsに対し、数mから1km程度の伝送距離が可能である。
この利点は、ビル内等にある電話線等の通信網を活用し、容易にネットワークを構築で きることにある。
3-3-2. 地下空間におけるネットワーク敷設の要件
例えば、地下空間においては、屋外とは遮断されており、携帯電話、PHS のような無線 通信は使用出来ない。また、わざわざ、メタルケーブルを通信手段確保のために敷設する ことは考えにくい。
仮に無線 LAN カードを各端末に組み込むと仮定し、その場合の伝送経路を考えた場合、
防火扉のような電波の遮蔽率が高いものがその伝送を軽くする可能性がある。また、現状
のFiReCOSを音声以外の情報も含めたデータ伝送として利用する場合も、通信網の確立に
関して確実性が乏しいと考えられる。
但し、現在中規模以上のビルについては、非常用の通信網の敷設が義務づけられており、
火災報知システムに付帯する形での通話網があり、この通話網は、ビル内の集中管理セン ター等をハブに一定のポイント毎に開設されており、通話機を接続することで、その通信 が可能である。
ビル内にて、1階階段室にCSを設置した場合の2階、3階での通話品質の参考値を以 下に示す。
表3-2 ビル内フロア間の通話品質
アンテナ表示 通話品質 電界強度
1F階段室付近 5 5 70(dB.u.V)
2F階段室付近 4 5 47(dB.u.V)
2F階段室から10m 2 2 27(dB.u.V) 2F階段室から20m 圏外 − 20(dB.u.V)
3F階段室付近 圏外 − 20(dB.u.V)
測定場所:日本ビクター(株)久里浜技術センター社屋 フロア間:高低差約4m
このように水平方向であれば、ある程度の遮蔽に対しても通話が可能であるが、フロア をまたいだ場合は、通話がとぎれてしまう。地下においては、この状況が顕著であるため、
臨時のネットワークを構築する必要が生じる。
42 3-3-3. アドホックネットワーク
通信網の確立が乏しい状況では、各端末が自律的にマルチホップのネットワークを構成 するアドホックネットワークの技術を用いることが有効であると考えられる。
アドホックはラテン語の“ad hoc”をそのまま現代に持ち込んできた言葉で、「一時的な、
この問題に限って、その場しのぎの、特別な」といったニュアンスをもっている。ここで いう、アドホックネットワークは、電話回線、携帯電話ネットワーク、インターネットワ ークなど既存の特定のネットワークインフラに依存することなく、 中継機能を搭載した移 動端末だけから構成された一時的なネットワーク のことを指す。アドホックネットワー クは、台風や地震のような非常災害時における有効な情報通信インフラとして活用すべく、
各機関、企業等にて研究開発を行っている。
今回の事業での運用に考えると、各隊員の持つ移動型端末が中継機の役割をすることで、
災害発生場所から、現場本部までの一時的なネットワークを構築することがこのアドホッ クネットワークを活用することで可能になってくる。
現在、通信総合研究所、電気通信大学では、802.11 無線LANアドホックモードを用いた 無線リンク上でのマルチホップによる TCP/IP 通信を可能にするための動的ルーティング ソフトウェアの開発を行っている。ソフトウェアは、インターネットで広く利用されてい るOSPF(Open Shortest Path First)をベースとしたソフトウェアと、アドホックネットワ ークの標準化で検討されているAODV(Ad hoc On-Demand Distance Vector)ルーティング プロトコルをベースとしたソフトウェアの開発を行っている。
このうち、OSPFベースのものは、無線LANのようなポイントツーポイント、ポイント ツーマルチポイントのインフラについては、ネットワーク構成の頻繁な変更には対応でき るが、制御時のオーバーヘッドが予想される。
この実験では、AODV ルーティングプロトコルをベースとしたソフトウェアを各無線 LANノードにインストールすることで、有線系ネットワークから、任意に設定した各ノー ドを経由するネットワークが構築できる。
3-4. 開発ターゲットの設定
前項により定めた今年度の開発テーマについて、それぞれの開発ターゲットを次のとお り確定していった。
3-4-1. 可搬型セルステーション(HCS)
HCSについては、現在の能力から鑑み、以下に示す要求点に対し開発ポイントを定めた。
表4-1 システム稼働のための要求点
(1) 酸素ボンベ等他の機器に付加出来る大きさ、形状であること (2) 防水対応であること
(3) 質量が軽いこと
(4) 消防隊員の活動単位時間(30分)以上の連続使用が可能なこと