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B. 急性冠症候群

5. 心筋 viability

心筋viability判定の重要性

1970年代からの多くの研究により、冠動脈疾患患者の左室収縮能低下は必ずしも不可逆 性のものではなく、CABG 等の血行再建術により改善する、また、場合によっては正常化 することが確認されている。

心筋viabilityを評価するための方法として、SPECT、dobutamine負荷エコー (DSE)、

PET、CMRが開発されてきた。

これらの検査により心筋viabilityが確認された患者は、血行再建術により心機能が改善 し、予後が改善することが多くの研究により確認され、meta-analysisの結果も同様であっ

た。Allmanらのmeta-analysisでは1992~1999年の24の研究(3,088例)を対象に研究し

た [1]。2年後の死亡率は心筋viabilityがない例では、内科的治療群6.2%対血行再建術群

7.7%で有意差を認めなった。心筋viability がある例では、内科的治療群 16%対血行再建

術群3.2%で、血行再建術により死亡率が80%有意に低下した。Camiciらは1998~2006

年の14の研究を対象にmeta-analysisを行ったが、同様の結果であった [2]。

しかし、これらの心筋viability の検査の有用性を示した多くのコホート試験にはいくつ かの限界があった。

1) 多くの試験が後ろ向き研究であり、CABGの選択が心筋viabilityのみにより決定された かは不明である。

2) 患者背景の重要な因子(年齢や付随疾患等)についてadjustmentが行われていない。

3) これらの研究は現在の積極的な内科的治療が行われる以前の研究であり、特に、β‐ブ ロッカーの使用頻度が低い。血行再検が行われなかった患者の内科的治療の内容について は記載のない研究が多い。

これらの背景から、STICH trial (2011)が行われた [3,4]。

STICH trialは最初の前向き無作為試験であり、LVEF35%以下の冠動脈疾患患者1,212

例を対象に内科的治療群 (n=602)と内科的治療+CABG群 (n=610) を比較した。平均観察 期間は5.1年であった。一次エンドポイントである総死亡はHR 0.86 (p=0.12)で、両群で有 意差を認めなかった。心血管死はHR 0.81 (95%CI 0.66-1.00, p=0.05)であった。二次エン ドポイントである総死亡および心血管事故による入院は HR 0.74 (95%CI 0.64-0.85, p<0.001)で、内科的治療+CABG群で有意に低下した。心筋 viability の有無でみると、5 年後の死亡率は心筋viabilityがあった群となかった群で、33%対50% (HR 0.64, 95%CI 0.48-0.86, p=0.003)で、心筋viabilityがあった群で有意に低かった。しかし、多変量解析

ではLVEF、LVEDVI、LVESVI等の因子の影響が大きく、心筋viability は生存の有意な

因子ではなかった。また、心筋viabilityがあった群でもなかった群でも、内科的治療群と 内科的治療+CABG群で、死亡率に有意差を認めなかった。

このようにSTICHでは心筋viability試験の有用性もCABGの有用性も示されなかった。

しかし、この試験については多くの限界が指摘されている [5,6]。

まず、CABGの有用性が示されなかった点については、

1) cross overの比率は内科的治療群が17%、内科的治療+CABG群が9%と、両群で差が

ある。

2) 内科的治療+CABG群での心血管死はCABGに伴うものがかなり多いと考えられる。

3) 内科的治療群で最初のaspirinおよびstatinに使用頻度が多い。

4) 統計学的パワーおよび観察期間が不十分である。

心筋viability試験の有用性が示されなかった点については、

1) Viabilityの検査は618例と約半数でしか行われていない。検査の選択がランダムであっ

たのか、臨床的因子に左右されたものかは明らかでない。

2) Viabilityがないと判断された症例が全体の19%しか占めていない。

3) Viability試験が行われた群の方が、より重症例が多かった。

具体的には、Viability試験群で、陳旧性心筋梗塞が多い、心房細動が多い、PCI 施行例 が多い、LVEFが低い、LVEDVI・LVESVIが大きい結果であった。

5)心筋viabilityの検査は、SPECTでの判定 (11 segment以上) が65%、DSEでの判定 (5segment以上) が31%であった。SPECTとDSEでは基本的にviabilityについて得ら れる情報の質が異なり、SPECTではcellular integrityとflowを反映しているのに対し、

DSEでは細胞レベルのoxygenationを反映している。

したがって、STICHの結果は心筋viabilityの重要性を必ずしも否定するものではない。

たとえば、左室容積やLVEFなどの他の因子が心筋viabilityの有無・程度に影響されてい たことが考えられる。LVEFは以前のほとんどの試験よりも高い、つまり、心機能低下がよ り軽度の例が対象となっている。

一方、内科的治療群の死亡率は以前の試験と比べると非常に低い(7%対 15%)。これは

STICHでのβ‐ブロッカーの使用率が、以前の試験と比べて非常に高いことが大きく影響

しているものと考えられている。ちなみに、HEARTやOAT試験は内科的治療と血行再建 術の有意差を認めなかった試験であるが、いずれもβ‐ブロッカーの使用率が非常に高い。

各imaging modalityの特徴

SPECT は感度(80~90%)と陰性適中率が高いが、特異度(50~70%)と陽性適中率は低い

[7-9]。臨床的にはTlの取り込みがあっても、多くのdysfunctional segemntが血行再建術

後も動きが改善しないことを意味している。これは収縮能に最も関与しているのは心内膜 側の心筋なので、心外膜側の心筋が生き残っていても、心内膜側の心筋が壊死していれば 壁運動は改善しないためと考えられる。(正常では壁運動の 60%は心内膜側の心筋により、

33%は中層の心筋により起こるとされている。壁運動が心内膜側の心筋血流量に非常に影 響されるのはこのためである。)

PETも感度(85~90%)と陰性適中率が高く、特異度と陽性適中率は低い [10]。

ドブタミン負荷エコー(DSE)では少量のドブタミンではdysfunctional segemntの動きが 改善するが、冠動脈狭窄存在したではドブタミンを増量すると逆に動きが低下してくる。

このbiphasic responseがあると、血行再建術後の心機能改善が高率に期待できる。ドブタ

ミン負荷エコーは特異度(80~90%)と陽性適中率が高いが、感度(80%)と陰性適中率は低い [7-9]。

これらの違いはSPECTはcell integrity を反映しているのに対し、DSEはcontractile

reserveを反映している、つまり異なる病態生理学的現象をみているためと考えられる。

Cardiac magnetic resonanceによるlate gadolinium enhancementが、現在最も心筋壊 死を正確に評価できるimaging modalityとされており、心筋viabilityの判定に有用とする 研究が増えてきている [9]。

Inaba (2010)らは虚血性心筋症患者で血行再建術により生存率の改善を認めるために必 要な生存心筋の量を検討した 29 の臨床試験 (n=4,167)を対象に meta-analysis を行った

[11]。その結果、生存心筋の量はimaging modalityにより異なっており、SPECTでは38.9%、

ドブタミン負荷試験では35.9%、PETでは25.8%であった。

Overview

Imaging modalityにより心筋viabilityの診断能力は異なるが、これらの検査により心筋

viability が確認された患者は、血行再建術により心機能が改善し、予後が改善すると言え

る。STICHの結果は心筋viabilityの重要性を必ずしも否定するものではない。

文献

1. Allman KC, Shaw LJ, Hachamovitch R, Udelson JE. Myocardial viability testing and impact of revascularization on prognosis in patients with coronary artery disease anf left ventricular dysfunction: a meta-analysis. J Am Coll Cardiol 2002; 39:

1151-8.

2. Camici PG, Prasad SK, Rimoldi OE. Stunning, hibernation, and assessment of myocardial viability. Circulation 2008; 117: 103-14.

3. The STICH investigators. Coronary-artery bypass surgery in patients with left ventricular dysfunction. N Engl J Med 2011; 364: 1607-16.

4. The STICH investigators. Myocardial viability and survival in ischemic left ventricular dsyfuncton. N Engl J Med 2011; 364: 1617-25.

5. Schuster A, Morton G, Chiribiri A, Perera D, Vanoverschelde JL, Nagel E.

Imaging in the management of ischemic cardiomyopathy. Special focus on magnetic resonance. J Am Coll Cardiol 2012; 59: 359-70.

6. Bonow RO, Holly TA. Mocardial viability testing: still viable after stich? J Nucl Cardiol 2011; 18: 991-4.

7. Schinkel AF, Bax JJ, Poldrmans D, Ekhendy A, Ferrari R, Rahimtoola SH.

Hibernating myocardium: diagnosis and patient outcomes. Curr Probl cardiol 2007: 32:

375-410.

8. Buckley O, Di Carli M. Predicting benefit from revascularization in patients with ischemic heart failure. Imaging of myocardial ischemia and viability. Circulation 2011; 123: 444-50.

9. Schuster A, Morton G, Chiribiri A, Perera D, Vanoverschelde JL, Nagel E.

Imaging in the management of ischemic cardiomyopathy. Special focus on magnetic resonance. J Am Coll Cardiol 2012; 59: 359-70.

10. Ghosh N, Rimoldi OE, Beanlands RSB, Gamici PG. Assessment of myocardial

ischemia and viability: role of positron emission tomography. Eur Heart J 2010; 31:

2984-95.

11. Inaba Y, Chen JA, Bergmann SR. Quantity of viable myocardium required to improve survival with revascularization in patients with ischemic cardiomyopathy: a meta-analysis. J Nucl Cardiol 2010; 17: 646-54.

STICH

Surgical Treatment for Ischemic Heart Failure

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