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H. 肺塞栓症

I. 冠動脈疾患と食事・ホルモン

1. Fish oil

He ら (2004)は魚の摂取量と冠動脈疾患死を検討した13 のコホート試験 (n=222,364、

平均観察期間は11.8年)を対象に、meta-analysisを行った [1]。その結果、冠動脈疾患死 のRRは魚を摂取しない群に比べて、摂取回数が1-3回/月の群では0.89 (95%CI 0.79-1.01)、

1回/週の群では0.85 (95%CI 0.76-0.96、2-4回/週の群では0.77 (95%CI 0.66-0.89)、5回以 上/週の群では0.62 (95%CI 0.46-0.82)と、魚の摂取量が多いほど冠動脈疾患死は減少して いた。1日20gの魚の摂取により、冠動脈疾患死は7%減少した (p=0.03)。

このように、魚の摂取量が多いと冠動脈疾患が少ないことは以前から知られており、こ れは主にn-3 polyunsaturated fatty acid (PUFAs)であるeicosapentaenoic acid (EPA)およ びdecosahexaenoic acid (DHA)の効果とされている。そこで、PUFAsの投与により、冠動 脈疾患関連の事故が減少するか否かが、多くの試験により検討された。

GISSI-Prevenzione (2002)では心筋梗塞発症3カ月以内の11,323例を対象に、n-3 PUFA (1g/d)群、vitamin E (300mg/d)群、併用群、対照群を比較した [2]。総死亡は3ヶ月後に n-3 PUFA群で対照群に比べ有意に減少した (RR 0.59, 95%CI 0.36-0.97, p=0.037)。心臓 突然死は 4 ヶ月後に n-3 PUFA 群で有意に減少した (RR 0.47, 95%CI 0.219-0.995,

p=0.048)。また、6-8ヶ月後には心血管死、心臓死、冠動脈死もn-3 PUFA群で有意に減少

した。

SOFA (2006)ではVT/VFの確認されたICD植込み患者546例を対象に、fish oil (2g/d)

群とplacebo群を比較した [3]。中央観察期間は356日であった。一次エンドポイントであ

るICDの作動・総死亡は30%対33% (HR 0.86, 95%CI 0.64-1.16, p=0.33)で、両群で有意 差を認めなかった。ICD植込み前1年間にVTを経験した例 (HR 0.91, 95%CI 0.66-1.26) および心筋梗塞例 (HR 0.76, 95%CI 0.52-1.11)でも、両群で有意差を認めなかった。

JELIS (2007)では総コレステロールが250mg/dl以上の患者18,645例を対象にEPA(EPA 1,800mg/d+statin)群と対照群(statin)を比較した [4]。平均観察期間は4.6年であった。一 次エンドポイントである心臓突然死・致死性および非致死性心筋梗塞・不安定狭心症・血 行再建術は2.8%対3.5% (RR 0.81, p=0.011)で、EPA群で有意に少なかった。心臓突然死 と冠動脈死は両群で有意差を認めなかった。冠動脈疾患を有する二次予防例では 8.7%対 10.7% (RR 0.81, p=0.048)で、EPA群で有意に少なかった。一次予防例では1.4%対1.7% (RR 0.82, p=0.132)で、両群で有意差を認めなかった。

GISSI-HF (2008)では NYHAⅡ~Ⅳ度の心不全患者(元疾患や心機能は問わない) 6,975 例を対象に、n-3 PUFA (1g/d)群とplacebo群を比較した [5]。中央観察期間は3.9年であっ た。一次エンドポイントである総死亡は 27%対 29% (HR 0.91, 95%CI 0.833-0.998,

p=0.041)で、n-3 PUFA 群でわずかだが有意に減少した。死亡・心血管疾患による入院は

n-3 PUFA群で有意に減少した (HR 0.92, 95%CI 0.849-0.999, p=0.009)。

Alpha Omega Trial (2010)では陳旧性心筋梗塞患者4,837例を対象に、EPA-DHA群、

ALA (alpha-linolenic acid)群、EPA-DHA+ALA群、placebo群の4群を比較した [6]。平 均観察期間は40カ月であった。1日の摂取量はEPAが226mg、DHAが150mg、ALAが 1.9g で あ っ た 。 一 次 エ ン ド ポ イ ン ト で あ る 致 死 性 お よ び 非 致 死 性 の 心 血 管 事 故 ・ interventionはplacebo群に比べて、EPA-DHA群 (HR 1.01, 95%CI 0.87-1.17, p=0.93)お よびALA群 (HR 0.91, 95%CI 0.78-1.05, p=0.20)で、有意に減少しなかった。

OMEGA (2010)では急性心筋梗塞発症3-14日後の患者3,851例を対象に、omega-3-fatty acid ethyl ester-90 (1g/d)群とplacebo群を比較した [7]。77.8%がPCIを受けていた。一 次エンドポイントである1年後の心臓突然死は1.5%対1.5% (p=0.84)で、両群で有意差を 認めなかった。また、総死亡(4.6%対 3.7%, p=0.18)、主要脳心血管事故(10.4%対 8.8% , p=0.1)、再血行再建術(27.6%対29.1%, p=0.34)も、両群で有意差を認めなかった。

Overview

最近の多くの臨床試験ではfish oilは冠動脈疾患の予後を改善しないことが示されている。

文献

1. He K, Song Y, Daviglus ML, et al. Accumulated evidence on fish consumption and coronary heart disease mortality. A meta-analysis of cohort studies. Circulation 2004; 109: 2705-11.

2. The GISSI-Prevenzione investigators. Early protection against sudden death by n-3 polyunsaturated fatty acids after myocardial infarction. Time-course analysis of the results of the Gruppo Italiano per lo Studio della Sopravvivenza nell’Infarto Miocardico GISSI-Prevenzione. Circulation 2002; 105: 1897-903.

3. The SOFA study group. Effect of fish oil on ventricular tachyarrhythmia and death in patients with implantable cardioverter defibrillators. The Study on Omega-3 Fatty Acids and Ventricular Arhythmia (SOFA) randomized trial. JAMA 2006; 295:

2613-9.

4. The Japan EPA Lipid Intervention Study (JELIS) investigators. Effects of eicosapentaenoic acid on major coronary events in hypercholesterolaemic patients (JELIS): a randomized open-label, blinded endpoint analysis. Lancet 2007; 369:

1090-8.

5. GISSI-HF investigators. Effect of n-3 polyunsaturated fatty acids in patients with chronic heart failure (the GISSI-HF trial): a randomized, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet 2008; 372: 1223-30.

6. The Aipha Omega Trial group. n-3 fatty acids and cardiovascular events after myocardial infarction. N Engl J Med 2010; 363: 2015-26.

7. The OMEGA study group. OMEGA, a randomized, placebo-controlled trial to test the effect of highly purified omega-3 fatty acids on top of modern guideline-adjusted

therapy after myocardial infarction. Circulation 2010; 122: 2152-9.

GISSI-Prevenzione

Gruppo Italiano per lo Studio della Sopravvivenza nell’Infarto Miocardico-Prevenzione SOFA

Study on Omega-3 Fatty Acids and Ventricular Arhythmia JELIS

Japan EPA Lipid Intervention Study GISSI-HF

Gruppo Italiano per lo Studio della Sopravvivenza nell’Infarto Miocardico- Heart Failure

2.Hormone replacement therapy (HRT)

女性の冠動脈疾患の発現は男性よりも10年遅れている。これは女性ホルモンのためと考 えられており、冠動脈疾患の発症は閉経後に増加することが知られている。

動物実験及び観察研究では女性ホルモンの閉経期前後からの投与により冠動脈疾患の発 症が減少することが報告されている。

しかし、前向き無作為試験では女性ホルモンの冠動脈疾患の1次予防および2次予防効 果は証明されておらず、むしろ逆に冠動脈疾患を増加させるとの報告もある。

Framingham study では閉経後の女性の心血管疾患の頻度は同年齢の閉経前の女性の

2.6 倍であった [1]。さらに、閉経後でエストロゲンを内服中の女性がエストロゲンを中止 した場合、心血管疾患が増加することが観察され、閉経後のエストロゲン投与の心血管疾 患への保護効果が期待されるようになった。

動物実験ではエストロゲンの有効性が示された。

大規模なcase-control studyではHRTにより心筋梗塞が減少することが示された [2]。

投与期間が長期になるほどその効果は大きいように思われた。さらに、Nurses’ Health

Studyという70,000人の無症候例を対象にした大規模な観察研究ではHRTを受けている

女性は受けていない女性と比べて冠動脈疾患の頻度および総死亡が有意に少なかった [3]。

この研究ではHRTは閉経期前後から開始され、試験開始時には冠動脈疾患がない女性が対 象であった。

これらの結果を受けて、前向き無作為試験が行われたが、女性ホルモンの冠動脈疾患の1 次予防および2次予防効果は証明されなかった。

冠動脈疾患を有する女性あるいは頸動脈のIMTの肥厚のある女性ではHRTにより動脈 硬化の進行を抑制できなかった [4,5]。不安定狭心症の女性で HRTにより心筋虚血を抑制 できなかった [6]。脳卒中患者においてHRTにより脳卒中の再発および死亡を予防できな

かった [7]。

HERS (1998)は2,763人の冠動脈疾患患者を対象にした2次予防試験である [8]。1次エ ンドポイントである心筋梗塞・冠動脈死はHRTを受けた群とプラセボ群で有意差を認めな かった。

WHI (2002)は 16,608 を対象とした最も大規模な 1 次予防試験である [9]。この試験は HRT群で乳がんの発症が増加し、心血管疾患が減少しなかったため予定より早期に中止と な っ た 。 こ の 試 験 で は HRT と し て conjugated equine estrogens (CEE)と medroxyprogesterone acetate (MPA)が使用されていた。CEE-MPA投与群では10,000人 年あたり、冠動脈イベントが8件、脳卒中が8件、肺塞栓症が8件、乳がんが8件増加し た。CEE群では10,000人年あたり、脳卒中が12件増加し、大腿骨骨折が6件減少した。

動物実験及び観察研究と前向き無作為試験の結果の乖離の理由としては次のような要因 があげられている [10]。1) 対象女性の年齢、2) 投与時期が閉経期前後か閉経後か、3) 投 与開始時の動脈硬化の程度(1次予防か2次予防か)、4) 投与量、5) 投与薬の内容(経口、経 皮、静注、progesteroneの有無)、6) 遺伝的素因。

第1世代・第2世代の高容量の HRT は有意に心筋梗塞・VTE のリスクが増加する。特 に喫煙者ではリスクが高い。しかし、第1世代・第2世代のHRTの中止および第3世代の HRT では心筋梗塞・VTE のリスクは減少する、あるいは増加しない。血栓症のリスクは HRT開始1年以内が最も高い [11]。

Overview

女性ホルモンの冠動脈疾患の1次予防および2次予防効果は証明されていない。さらに、

乳がんや血栓症が増加するリスクがある。

文献

1. Kannel WB, Hjortland MC, McNamara PM, Gordon T. Menopause and risk of cardiovascular disease: the Framingham study. Ann Intern Med 1976; 85: 447-52.

2. Varas-Lorenzo C, Garcia-Rodriguez LA, Perez-Gutthann S, Duque-Oliart A.

Hormone replacement therapy and incidence of acute myocardial infarction.

Circulation 2000; 101: 2572-8.

3. Grodstein F, Stampfer MJ, Manson JE, et al. Postmenopausal estrogen and progestin use and the risk of cardiovascular disease. N Engl J Med 1996; 335:

453-61.

4. Clarke SC, Kelleher J, Lloyd-Jones H, Slack M, Schofiel PM. A study of hormone replacement therapy in postmenopausal women with ischaemic heart disease: the Papworth HRT atherosclerosis study. BJOG 2002; 109: 1056-62.

5. Byington RP, Furberg CD, Herrington DM, et al. Effect of estrogen plus progestin on progression of carotid atherosclerosis in postmenopausal women with heart

disease: HERS B-mode substudy. Arterioscler Thromb Vasc Biol 2002; 22: 1692-7.

6. Schulman SP, Thiemann DR, Ouyang P, et al. Effects of acute hormone therapy on recurrent ischemia in postmenopausal women with unstable angina. J Am Coll Cardiol 2002; 39: 231-7.

7. Viscoli CM, Brass LM, Kernan WN, Sarrel PM, Suissa S, Horwitz RI. A clinical trial of estrogen-replacement therapy after ischemic stroke. N Engl J Med 2001;

345: 1243-9.

8. Hulley S, Grandy D, Bush T, et al. Randomized trial of estrogen plus progestin for secondary prevention of coronary heart disease in postmenopausal women. Heart and Estrogen/Progestin Replacement Study (HERS) research group. JAMA 1998;

280: 605-13.

9. Rossouw JE, Anderson GL, Prentice RL, et al. Risks and benefits of estrogen plus progestin in healthy postmenopausal women: principal results from the Women’s Health Initiative randomized controlled trial. JAMA 2002; 288: 321-33.

10. Quyang P, Michos ED, Karas RH. Hormone replacement therapy and the cardiovascular system. Lessons learned and unanswered questions. J Am Coll Cardiol 2006; 47: 1741-53.

11. Shufelt CL, Merz NB. Contraceptive hormone use and cardiovascular disease. J Am Coll Cardiol 2009; 53: 221-31.

HERS

Heart and Estrogen/Progestin Replacement Study WHI

Women’s Health Initiative

3.抗酸化剤 antioxidants

病態生理学的研究から酸化ストレスがリスク・ファクターにより血管の障害を起こし、

動脈硬化に至る中心的機序を担うことが報告されている。したがって、高血圧、高脂血症、

糖尿病、喫煙により引き起こされる酸化ストレスを予防することにより、内皮機能障害を 始めとする動脈硬化性イベントを予防することができると期待される。

多くの疫学的研究および動物実験が酸化ストレスを調整することにより、心血管疾患の 予後を改善できるとする仮説を支持している。

初期の疫学研究のひとつでは、野菜や果物の消費量、特にビタミンC の摂取量が多いと 心血管疾患による死亡が減少することが示されている [1]。また、別の8つのヨーロッパの 研究を対象にしたpooled analysisでは血清のビタミンEおよびビタミンAのレベルが虚

血性心疾患による死亡率と負の相関を有することが証明されている [2]。

他にも10万例以上を対象にした長期間の観察研究も抗酸化剤の心保護効果を支持してい る。たとえば、Health Professional’s Follow-Up Studyでは、40,000例の男性の医療従事 者を4年間経過観察した結果、α-tocopherolやβ-caroteneの摂取量と冠動脈疾患の発症率 に負の相関を認めている [3]。87,000 例以上の女性看護師を対象に 8 年間の経過観察を行 ったNurse’s Health Studyにおいても同様の結果が得られている [4]。

このように多くの観察研究は患者の抗酸化レベルを上昇させれば予後が改善することを 証明はしていないが、強く示唆している。

このような背景のもと、多くの前向き臨床試験が行われている。あるmeta-analysisでは 7つのビタミンEの試験(症例数は81,000例以上)および8つのβ-caroteneの試験(症例数 は138,000以上)を解析している [5]。その結果、ビタミンE投与群とplacebo群の心血管 死は有意差を認めなかった。β-carotene投与群ではplacebo群よりもわずかではあるが、

心血管死が多い結果であった。別のmeta-analysisではimagingを用いた7つの試験(3,100 例以上)を解析しているが、抗酸化剤の有無で動脈硬化の進行に有意差を認めなかった [6]。

このように酸化ストレスの動脈硬化発症・進展における役割は基礎的に証明され、多く の疫学研究および動物実験で抗酸化剤の有用性が明らかに支持されているにもかかわらず、

実際の多くの臨床試験では抗酸化剤が動脈硬化の発症・進展を予防・抑制できないことが 報告されている。

この原因は何であろうか?いくつかの可能性が考えられる [7]。

第 1 は誤った薬剤あるいは薬剤の組み合わせが用いられている可能性である。臨床試験 で使用されるビタミンEは入手しやすいものが選択されており、自然のビタミンEと同等 ではない。また、ビタミンEは酸化作用を促進するという研究もあり、ビタミンEは完璧 な抗酸化剤ではないかもしれない。ビタミンEはLDL-コレステロールの酸化を予防するた

めにはco-oxidantが必要である可能性もある。したがって、ビタミンE単独では有用では

なく、有害である可能性もある。最近の研究では高容量のビタミン E の投与群では死亡率 が増加することも報告されている。また、ビタミンE が正しい薬剤であったとしても、正 しい剤形のビタミンE が適切に研究されていなかった可能性もある。ほとんどの臨床試験 は安価で容易に入手できる合成のビタミンEを用いている。しかし、自然のビタミンEは 合成のビタミンEとは同じではなく、8つの異なるisoformから成っており、そのため作用 が強力であるかもしれない。

使用薬剤の好ましくない作用が試験結果に影響した可能性がある。たとえば、β-carotene は脂質に悪影響があるし、ビタミンEはHDL-2の増加を抑制するかもしれない。実際、β -caroteneとビタミンEはniacinのHDL-C増加作用を抑制することが報告されている。

第2は薬剤の選択は正しくても、その投与量や投与期間が適切でなかった可能性がある。

動物実験では抗酸化剤が初期の動脈硬化病変の形成を予防することが証明されており、臨 床試験の数年の経過観察ではこのような有用性を検出できないことが考えられる。実際の

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