第二章 中国における専利ライセンス取引の法的環境
第二節 強制的専利ライセンス
一、強制的専利ライセンスの定義
中国における強制的専利ライセンスとは、中国国務院専利行政部門(具体的には国家知 識産権局が担当)が、先端技術の実業化の促進や、中国の国家または公共利益の保護、独 占禁止行為の抑止、国際的責任の貫徹の観点から出発し、専利権にかかる技術につき職権 または当事者の申請に応じて実施の許諾を強制的に与えることをいう。
二、強制的専利ライセンスの適用条件
2008 年の専利法改正に伴い、強制的専利ライセンスの適用条件は以前より具体化されて いる。改正前と改正後(現行法)の専利法における強制的専利ライセンスの適用条件は以 下の通りである。
理由 改正前 現行法
先端技 術の実
1. 国家知識産権局へ申請する;
2. 対象専利は発明または実用新案専
1. 国家知識産権局へ申請する;
2. 対象専利は発明または実用新案専
32 業化の
促進(場 合一)
利に限る;
3. 実施の条件を具備する;
4.合理的条件で専利権者と交渉した が、合理的長時間許諾を取得でき なかった証明を提出する。
利に限る;
3. 実施の条件を具備する;
4.合理的条件で専利権者と交渉した が、合理的長時間許諾を取得でき なかった証明を提出する;
5. 対象専利が半導体技術ではないこ と;
6. 専利権者は専利権の登録日から 3 年間、かつ専利出願日から 4 年間 にわたって正当な理由もなくその 専利を実施していないかまたは専 利の実施が不十分である場合に限 る;
7.対象専利の実施は主に国内市場へ の供応とする。
33 先端技
術の実 業化の 促進(場
合二)
1. 国家知識産権局へ申請する;
2. 対象専利は発明または実用新案専 利に限る;
3.新たな発明または実用新案専利権
(以下、「新専利」という)を取得 している;
4. 新専利の実施は対象専利の実施に 依存する;
5. 新専利は対象専利と比べて顕著な 経済的意義上の重大な技術進歩を 有する;
6. 実施の条件を具備する;
7.合理的条件で専利権者と交渉した が、合理的長時間許諾を取得でき なかった証明を提出する。
1. 国家知識産権局へ申請する;
2. 対象専利は発明または実用新案専 利に限る;
3.新たな発明または実用新案専利権
(以下、「新専利」という)を取得 している;
4. 新専利の実施は対象専利の実施に 依存する;
5. 新専利は対象専利と比べて顕著な 経済的意義上の重大な技術進歩を 有する;
6. 実施の条件を具備する;
7.合理的条件で専利権者と交渉した が、合理的長時間許諾を取得でき なかった証明を提出する;
8. 対象専利が半導体技術ではないこ と;
9. 対象専利の実施は主に国内市場へ の供応とする。
国の緊 急状態 または 非常事 態
1. 対象専利は発明または実用新案専 利に限る;
2. 国家に緊急状態もしくは非常事態 が発生した場合限る。
1. 対象専利は発明または実用新案専 利に限る;
2. 国家に緊急状態もしくは非常事態 が発生した場合に限る;
3. 対象専利が半導体技術ではないこ と;
4.対象専利の実施は主に国内市場へ の供応とする。
34 公共利
益の保 護
1. 対象専利は発明または実用新案専 利に限る;
2.公共利益のために限る;
1. 対象専利は発明または実用新案専 利に限る;
2.公共利益のために限る;
3.対象専利の実施は主に国内市場へ の供応とする。
独占禁 止行為 の抑止
規定なし 1. 国家知識産権局へ申請する;
2. 対象専利は発明または実用新案専 利に限る;
3. 実施の条件を具備する;
4. 専利権者による専利権行使の行為 が法によって独占行為と認定され た;
5. 上記独占行為が正当な競争に不利 な影響を与えた;
6.上記の不利な影響を解消または軽 減する目的であること。
国際的 責任の 貫徹
規定なし 1.公衆の健康を保護する目的である
こと;
2. 薬品にかかる専利に限る;
3. 実施の形態は製造と輸出に限る;
4. 輸出目的地は中国の加盟した関連 国際条約の規定に合致した国また は地区に限る。
表 2-1 強制的専利ライセンスの適用条件に関する条文の改正前後の対比
三、強制的専利ライセンスのその他の特徴
強制的専利ライセンスは、上述した適用条件上の特徴以外に、以下の特徴もある:
1.強制的専利ライセンスの実施の範囲と期間は、強制的ライセンスの理由により決定され、
強制的実施許諾決定書の中に明確に記載される。強制的ライセンスの理由が解消し且つ
35
再発生することが無い場合、上記決定された期間の満了を問わずに、専利権者は強制的 ライセンスの終了について国家知識産権局に申請することができる33;
2.強制的専利ライセンスのライセンシーは独占的実施権を有さず、且つ他人に実施を再許 諾することはできない34;
3.強制的専利ライセンスのライセンシーは専利権者に合理的なロイヤリティを支払わなけ ればならず、または中国の加盟した関連国際条約の規定に従ってロイヤリティの問題を 処理する。ロイヤリティを支払う場合、その金額は双方の協議により定める。協議した が合意に達しなかった場合、国家知識産権局は、当事者が提出した裁決申立書と当事者 双方間協議不能の証明に基づき 3 ヶ月以内に裁決を下す35。
4.専利権者が国家知識産権局による強制的ライセンスの決定に不服がある場合、または専 利権者もしくは強制的ライセンスのライセンシーが強制的ライセンスの実施料に関す る裁決に不服がある場合、通知を受領した日からの 3 ヶ月以内に提訴することができる
36。
四、強制的専利ライセンス制度の利用状況
現在まで、強制的専利ライセンス制度を利用して実際に強制的実施許諾を取得したケー スはまだ無い。
33 「中華人民共和国専利法」(1985 年 4 月 1 日より施行、2008 年 12 月 27 日改正)第 55 条
34 「中華人民共和国専利法」(1985 年 4 月 1 日より施行、2008 年 12 月 27 日改正)第 56 条
35 「中華人民共和国専利法」(1985 年 4 月 1 日より施行、2008 年 12 月 27 日改正)第 57 条、「中華人民共 和国専利法実施細則」(2001 年 7 月 1 日より施行、2010 年 1 月 9 日改正)第 75 条
36 「中華人民共和国専利法」(1985 年 4 月 1 日より施行、2008 年 12 月 27 日改正)第 58 条
36