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広域的連携の充実と継承

  既存施設の利用は単にその競技施設を生かすというだけではなく、その施 設で過去に行われた国際大会などで蓄積された運営ノウハウを生かすという ことでもある。その運営ノウハウを1 都市にとどめるのではなく、競技会場 を持つすべての都市が共有することにより、円滑な運営が可能になるだろう。

観客の誘導、試合の進行、安全対策、選手にとって快適な練習・試合環境の 提供、記録の管理、会計など、一つの大会を開催するには様々な分野の知識 や技術が必要となる。広域開催ならば、1都市ではすべての運営ノウハウを網 羅できなくとも、競技会場を持つそれぞれの都市が蓄積してきたものを共有 し、互いに補い合うことができる。

  また、競技の運営だけではなく、交通や安全管理、環境対策、市民ボラン ティアなどの面でも各都市が知識や経験を持ち寄ることで、より質の高い運 営を行うことができるだろう。横浜市は第2章第3節で述べたように、競技 施設や運営を支える競技関係者、宿泊施設、セキュリティ組織、医療施設、

市民ボランティアなどを「各地域の持つ既存資源」とし、それらを効果的に

62000926日付  『日本経済新聞』

結びつけることにより、「広域的総合力」を活かすことができる、としている。

  さらに、オリンピック終了後も、オリンピックで培った経験や各都市間の 人的ネットワークや信頼関係、議論や意見交換の「場」、通信設備などを活か して、交通や医療、環境問題、ボランティア、教育など市民に身近な様々な 分野での広域的連携を行っていくことができる。広域的連携の継承は、目に 見えないがオリンピックの大きな遺産となるだろう。

  日本では現在、政府が地方分権の推進とともに、全国3200あまりの市町村 の合併を押し進めようとしている。合併に反発する市町村が規模の小ささを 克服するために考えていることの一つが、広域的連携により、仕事の効率化 を図ったり、互いの専門性を生かすことである。小さな市町村が寄り集まっ て、ある面では一つの「都市」のような役割を果たすのである。広域的連携 の充実と継承は今後ますます注目される考えだろう。オリンピック広域開催 はそのモデルプランをつくることができるだろう。

5 節  市民ボランティアの参加

  競技会場の分散により、より多くの市民が身近にオリンピックを感じ、ボ ランティアとして参加することができる。ボランティアの参加はオリンピッ クを盛り上げ、また運営コスト削減にもつながるが、市外から集まるボラン ティアの待機場所や宿泊施設の確保、ボランティア期間の調整などの仕事も かなりの負担になる。オリンピックの肥大化とともに、ボランティアの活動 内容も複雑化し、より多くの人数が必要になる。何万人ものボランティアが 1つの都市に集中すれば、かえって効果的なボランティア活動ができなくな ってしまうのではないか。競技会場の地元の人々を中心にボランティア活動 が展開されれば、宿泊などの心配がなくなり、より多くの人々が気軽にボラ ンティア活動に参加できるだろう。また、土地勘を生かした交通整理やその 街の伝統文化の紹介、ホームステイの受け入れなど、地元市民ならではのボ ランティアがある。

  商業主義化が進み、オリンピックは巨大なビジネスショーのようだという

批判がある。オリンピックはどんどん市民の手を離れていっているように思 う。スポーツを通じた選手と市民の交流、世界中からの観光客と市民の交流、

人種や民族を越えた人と人の心のふれあいを取り戻すためにも、ボランティ アは重要である。

4 章  広域開催の問題点とその解決策

  第3章ではオリンピック広域開催のメリットについて述べてきた。しかし、

当然そこにはデメリットも存在する。そこで、第4 章では広域開催のデメリ ットと考えられている点や疑問点について述べ、それを緩和したり、解決す る方法があれば検討する。また、そのデメリットがメリットを上回るほどの ものなのかどうかについても考えたい。

1 節  選手への負担

  広域開催で最も問題とされるのが、選手村と練習施設や競技会場の間の移 動時間が長いことである。選手や競技連盟の不安は大く、長時間の移動が選 手に肉体的・精神的な負担をかけることを恐れている。

  シドニーオリンピック大会でも見られたように、経済的余裕のあるプロ選 手やセミ・プロといえる選手たちは自費で競技会場近くのマンションやホテ ルを借りることもできるが、経済的余裕のない選手たちは選手村を利用する しかない。実際にはスター選手はごく一部であり、生活を切りつめて練習や 海外遠征をし、やっとの思いでオリンピックに参加している選手がたくさん いる。経済的格差から、貧しい選手にばかり負担がかかるのは問題である。

  2008年横浜オリンピック大会の計画を例にとると1、みなとみらい21地区 の選手村から100㎞以上離れた栃木県今市市(カヌー・スラローム)、群馬県 前橋市(自転車・トラック)、山梨県小淵沢町(総合馬術)、栃木県宇都宮市

(バレーボール)、茨城県鹿嶋市(サッカー)の5会場については選手村分村 を設けるとしている。しかしそれでも50㎞圏を越える地域にまで競技施設は 点在している。サッカー会場の一つである埼玉県浦和市までは78㎞、ハンド ボールやホッケーの会場となる千葉県千葉市や卓球が行われる神奈川県小田

1 本論文p.46・47  図6・7  参照

70㎞以上の距離がある。千葉県、埼玉県、神奈

となる施設については、宿泊施設を確保するとしているが、選手村の使用が 基本である。設備やサービス、環境の点から、宿泊施設があっても選手村を 20㎞圏内にあるのはわずか 会場であ る。

  横浜市と国内選考で争った大阪市の計画 は、対照的に全体の75

会場を選手村から20 30分以内の大阪市内に配置するとしてい 2つの人工島をつくり、1つにはメインスタジアムやプール、ホッケー、

1 つの島までは という歩いて行ける近さであることを売り物にしている。

国内選考では結局、競技会場の配置に議論が集中し、「選手本位」「コンパ クト五輪」を強調した大阪市が選ばれた。国内選考会翌日の新聞各紙は次の

を今春に示した。しかし、競技団体からは『遠い』『不便』と嫌われ、コンパ クトに新設施設を配置した大阪市にさらにリードを広げられる結果になった。

は大きい。分村など選手村以外の宿泊施設が増えることで、世界の若人が一

最後までこだわる選考委員は少なくなかった。4

「最大のポイントは、『 都市集中型開催』と『広域開催』への評価。競技会 場をコンパクトに配置する大阪市の計画は、国際間の競争で受けいれられや

5

(大阪市長は)「『選手本位に、一都市開催であることが大事だと考えた』と

2 付属資料Ⅰ 

31997 14   『日本経済新聞』

4 8 14日付 『朝日新聞』

1997 8 日付 

いう。選手村から競技会場へ、また競技会場間同士の連絡。移動距離の少な い、選手が競技に集中しやすい環境をアピールした。6

  移動時間の長さという会場の分散によるデメリットが、選手や競技団体、

選考委員の支持を集められなかったことが分かる。また、「コンパクト開催」

はIOCでの評価が高く、大阪市の1都市集中開催の方が国際競争を勝ち抜く ために有利だと判断されたことも大きい。2000年の第29回シドニーオリン ピック大会でも、競技施設の集中は高い評価を受けた。シドニーオリンピッ ク公園内で全競技のおよそ半数が行われ、選手村も同じ敷地内に建設された。

  広域開催ではどうしても選手村と練習施設や競技会場の間の移動時間が長 くなってしまう。第3章で述べたように、会場の分散によって交通渋滞は緩 和されるが、距離を縮めることはできない。その点では選手に負担がかかる のは確かである。交通基盤の整備や綿密な輸送計画によって移動時間を短縮 することができるが、それにも限界があるだろう。移動時間の短縮について は最大限努力するとして、その他に考えられる対策としては、選手村の分村 を増やすことや、競技の前後に滞在できる競技場近くの施設を提供すること などが挙げられる。また、開催時期を気候のよい時期にすることもできる。

横浜市の計画では開催時期を10月中旬に設定しており7、この点では真夏の 7月下旬に設定した大阪市に比べて「選手本位」と言える。移動中の専用バス などでの快適な空間づくりも重要であり、移動時間が逆に選手にとって気持 ちを高める時間やリフレッシュの時間になるよう工夫することは有効だろう。

  長時間の移動が選手に負担をかけることは事実であるが、本論文第3章第2 節で述べたように、会場の分散によって交通の一極集中が避けられることは 広域開催の大きなメリットである。逆に言えば、1都市集中開催は常に渋滞な どの交通問題を抱えているといえる。1996年アトランタオリンピック大会や

61997814日付  『読売新聞』

7 本論文p.43  参照

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