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オリンピック憲章と開催都市

1 項  オリンピック憲章

  IOC の憲法ともいえるオリンピック憲章には開催地に関するいくつかの規 定が盛り込まれている。長くなるが関連する項目を引用する。

オリンピック憲章1

  第Ⅴ章  オリンピック競技大会   36  オリンピック競技大会の開催

  2―オリンピック競技大会を開催する栄誉は、オリンピック競技大会の開    催都市に指定された都市に対し、IOCによって託されるものである。

  37  開催都市の選定

  2−当該国のNOCが立候補を承認した1都市だけがオリンピック競技大    会の開催都市となる候補申請をすることができる。オリンピック競技    大会の開催都市となるための候補申請は、当該都市当局によって、そ    の国のNOCの承認を添えてIOC宛になされるものとする。(中略)

   同一オリンピック競技大会の開催都市となることを希望する都市が1    国のなかに複数ある場合、その1つの都市を候補として推薦すること    を決めることはNOCに一任されるものとする。

  38  オリンピック競技大会の開催地

  1−1部の種目を同じ国内の他の都市、もしくは他の場所で開催する権利

1 財団法人日本オリンピック委員会発刊  1996年度版オリンピック憲章  参照

   を開催都市がIOCから得ていない限り、すべての競技はオリンピック    競技大会の開催都市でおこなわなければならない。このような趣旨の    要請は、いかなるものでも、遅くとも候補都市のための調査委員会の    訪問以前に書面でIOC宛に提出されなければならない。開会式および    閉会式は開催都市のなかでおこなわなければならない。

  2−オリンピック冬季競技大会において、地理的もしくは地勢上の理由の     ために、競技のうち1部の種目もしくは1部の種別を開催都市のある    国内で開催することができない場合には、IOCは例外的根拠にもとづ    いてこれらを周辺国で開催することを許可することができる。

  39  組織委員会

  1−オリンピック競技大会の組織は、IOCが開催都市のある国のNOCお    よび開催都市自身に一任するものである。当該NOCは、この目的の    ために組織委員会(OCOG)を組織する。

   組織委員会は、設置されたときから直接IOCと連絡を取りIOCから    指示をうける。

  42  オリンピック村

  1−すべての競技者、チーム役員、その他のチーム要員を1か所に集める    ために、組織委員会は、オリンピック村をオリンピック競技大会の開    会式の少なくとも2週間前から閉会式の3日後まで使用できるように    しておかなければならない。また、オリンピック村はIOC理事会が制    定したオリンピック村ガイドの必要条件を満たしていなければならな    い。

  規則42付属細則

  1−OCOGは、選手、チーム役員およびその他のチーム要員のオリンピ    ック村での食事、宿泊費および彼らの現地での交通費を全額負担する。

  2−開催都市以外の場所での競技種目の開催をIOCがOCOGに許可する    際には、IOC理事会は、上記とおなじ条件のもとで選手、チーム役員    およびその他のチーム要員がこのような競技の開催地、もしくはその    近くで利用することができる正規の宿泊施設を提供するようOCOG    に要請することができる。

  オリンピック憲章36−2はオリンピック開催の栄誉が都市に与えられるこ とを定めている。国家ではなく、都市であるのは、オリンピック運動への政 治の介入を防ぐためである。また、IOCは国や地域、NOCの代表としてでは なく2、IOCが直接任命するIOC委員によって構成されるという独特の構成 原理によるものである。スポーツ活動やオリンピック運動は国家権力や政治 から独立した自由なものである、との理念から、近代オリンピックの創始者 ピエール・ド・クーベルタンはオリンピックの開催を都市に託したのである。

また、オリンピックは個人種目もしくは団体種目での競技者間の競争であり、

国家間の競争ではないことがオリンピック憲章に記されている。現在このこ とが守られているかどうかは甚だ疑問であるが、オリンピック大会が国家と いう枠組から独立したものであるということは、オリンピック運動の理念の 一つである。

  しかし、第1次世界大戦後の1936年の第11回ベルリンオリンピック大会 はベルリン市のものではなく、台頭著しいアドルフ・ヒトラー率いるナチス 党のものであった。1933年に政権の座についたヒトラーはベルリン・オリン ピック大会組織委員会総裁に就任し、スタジアムの建設などを次々と指示し た。オリンピックはナチスの威力と第三帝国の脅威を世界中に見せつける絶 好の機会であった。当時のドイツの最新の技術が披露され、華々しく荘厳な セレモニーが開かれた。オリンピックはヒトラーとナチス・第三帝国の宣伝 に利用されたのである。第2 次世界大戦後、その反省に立ち、オリンピック が国家や政治に利用されることのないようにと、改めて都市での開催が確認 された。

2 項  1都市開催の原則

  広域開催を考えるうえで、最も注目すべきはオリンピック憲章38−1に定 められている1都市での開催という原則である。IOCから特別な許可を得て

2オリンピック憲章第Ⅱ章20−1.5は「IOC委員は、それぞれの国においてIOCを代表す るものであって、IOC内では自国を代表するものではない。」と定めている。

いない限り、すべての競技は開催都市で行わなければならないのである。許 可を得て、他の都市や場所で開催する場合にも、開会式と閉会式は開催都市 のなかで行わなければならない。1977 年にプラハで開かれた IOC 総会で修 正されるまで、オリンピック憲章は「選定された都市はその(開催の)特権 を他の都市と分け合ってはならない」としていた。修正が可決されても、1 都市開催はクーベルタンの最初の構想のなかにしっかり根をおろしていた伝 統であるため、IOC 委員は1都市開催にこだわった。オリンピック憲章の趣 旨を大きく変更することなく、この論文で提案する広域開催を実現させるた めには、次のニつの方法が考えられるだろう。

  一つは、開会式・閉会式を行うスタジアムを持つ都市を便宜上の開催都市 とし、他の都市で開催される競技・種目については、オリンピック憲章に定 められた「1部の種目を同じ国内の他の都市、もしくは他の場所で開催する権 利」をIOCに申請するという方法である。しかし、このオリンピック憲章38

−1の権利は、夏季大会であればボートやカヌー、ヨットなど、冬季大会であ れば滑降やジャンプなど地理的条件が必要となる競技・種目について、地勢 上の理由からどうしても開催都市内に競技会場を設定できない場合を想定し てつくられたと思われる。バレーボール、サッカー、テニス、柔道、その他 多くの特に地理的条件を必要としない競技・種目についてこの権利が認めら れるだろうか。また、場合によっては半数以上の多くの競技・種目を開催都 市以外の都市で行うことが「1部の種目」とみなされるかどうかは疑問である。

  さらに、メインとなる開催都市を決めることで、その都市とその他の都市 が差別化され、各都市間の対等な関係が崩れる恐れがある。オリンピック広 域開催の定義③3で示したように、すべての都市が招致の段階から計画立案に 携わり、議論を重ねることが最終的に各都市間の摩擦を小さくするだろう。

広域開催の場合、各都市間の協力体勢が成功・不成功に大きく関わる。また、

シティ・セールスもオリンピック招致・開催の大きな目的の一つとなってい る現在、大会の名称は重要である。この方法では、必然的に開会式・閉会式

3 本論文p.31  参照

が行われる施設がある都市の名が大会の名称となる可能性が高く、ここでも 他の都市とのバランスが崩れるだろう。

  もう一つの方法はオリンピック憲章の「都市」の範囲を拡大して解釈し、

都市と都市の集まりである「地域」をひとつの「都市」と考えることである。

第1 項で述べたように、オリンピックの開催権が都市に与えられるのは、オ リンピック運動への国家権力や政治の介入を警戒する意味合いが強い。オリ ンピック大会の組織は開催都市とその都市がある国の NOC に一任され、大 会組織委員会は直接IOCと連絡をとり、IOCから指示をうけるのである。開 会式では国家元首による開会宣言が行われるが、あくまでゲストとしてであ る。

  このように考えると、競技会場となる都市が集まってつくられた「地域」

を一つの開催都市と考えても差し支えないのではないか。もちろんその「地 域」が地方自治体として活動し、国家とは異なるものであることを示すこと ができなければならない。「地域」の解釈がさらに拡大されれば、やがては国 家の影響を受けざるを得ない。「地域」と国家の間の明確な線引きが必要だろ う。オリンピック広域開催の定義④4で述べたことが大変重要になる。日本で は1995年5月に地方分権推進法が成立し、地方自治体への分権化が進められ ている。21世紀はまさに「地方の時代」と言えるだろう。オリンピック広域 開催によって結ばれた「地域」は国家に対するものとして、オリンピック大 会終了後も分権時代のなかで大きな役割を果たすことができると考える。

  広域開催を実現させるための二つの考え方を検討したが、今後オリンピッ ク開催の在り方の一つとして広域開催を定着させていくためには後者の方法 が望ましいと思われる。1都市での開催を原則としながら、例外として他の都 市での競技の実施を増やしていくよりは、時間はかかっても都市の集合であ る「地域」を一つの大きな「都市」と捉える考え方に理解を求める方が、結 果的には広域開催の長所を生かすことになるだろう。

4 本論文p.31  参照

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