N M R研究室便り
106
NMR
研究室便り日本核磁気共鳴学会
N M
R
2 0 1
6
7巻
製し、ピークの比較を行うことにより各ピークの帰 属を試みました。その結果、図
3
に示す通りピーク が帰属され、各ピークの面積比よりテクノーラ®が 完全ランダムに共重合していることが確認できまし た[1]。また、当社では環境負荷低減をサポートする高 機能バイオプラスチックとして、バイオフロント® を開発しました。バイオプラスチックは、生物資源 を原料としているため、カーボンニュートラルな環 境にやさしい素材として注目されています。しか し、代表的なバイオプラスチックであるポリ乳酸 は、耐熱性が低いなどの理由により、使用用途が限 定されてしまいます。バイオフロント®は、従来の ポリ乳酸に比べ融点の高いステレオコンプレックス ポリ乳酸から成ります。これにより、従来のポリ乳 酸に比べ耐熱性が格段に向上します。さらに、バ イオフロント®は耐熱性以外にも、結晶性、耐薬品 性、透明性、ガス透過性にも優れているため、自動 車や電子電機、アパレルなど、幅広い用途に適用 が可能です。
ステレオコンプレックスポリ乳酸は、
L
体のポリ 乳酸(PLLA
)とD
体のポリ乳酸(PDLA
)がペアに なって結晶化しています。しかし、PLLA
とPDLA
を溶融混練した場合、すべてがステレオコンプレッ クス結晶を形成するのではなく、一部ホモ結晶が 混在してしまうことがあります。一方、L
−乳酸とD
−乳酸の連鎖がブロック状に配列したステレオ ブロックポリ乳酸では、100
%ステレオコンプレッ クス結晶を形成することが知られています[2]。これ は、L
−乳酸とD
−乳酸の連鎖がポリ乳酸の耐熱性 などの物性発現に大きく影響を及ぼすことを意味しており、その連鎖構造に関する知見を得ることは重 要です。溶液
NMR
は、ポリマー中の連鎖構造を把 握する上で極めて有力な方法です。このため、ポリ 乳酸に対しても、LL
或いはDD
の連鎖(アイソタク チック)とLD
或いはDL
の連鎖(シンジオタクチッ ク)を詳細に解析する立体規則性解析が溶液NMR
によって一部行われてきました。立体規則性解析 には、観測されるNMR
ピークが立体規則性を反映 して分裂することが前提となります。このピーク分 裂の原因の一つは、各コンフィギュレーションごと に、溶液中での時間平均のコンフォメーションが 異なることにあると解釈されています。しかしなが ら、ポリ乳酸に対して、コンフィギュレーション、コンフォメーション、
NMR
化学シフトの相関性を 詳細に解析報告した例はあまりありません。そこ で、ポリ乳酸についてこれらの相関性の検討を行い ました。まず、
PLA
一量体モデルについて、Gaussian 09
のTZVP
基底関数を用いて、内部回転角Φ、Ψの 関数としてコンフォメーションエネルギー計算を行 い、二つの安定構造を得ました(Φ≒−70
°、Ψ≒165
°およびΦ≒−80
°、Ψ≒0
°)。この二つの構造 をベースに、アイソタクチックとシンジオタクチッ クPLA
二量体モデルについて、優位コンフォメー ションエネルギーを再度計算し、得られたエネル ギー差から各コンフォメーションの存在確率を計 算しました。その結果、アイソタクチックモデルで は、最も安定な構造が75
%以上の確率で存在する こと、シンジオタクチックモデルでは、複数のコン フォメーションを考慮する必要があることがわかり ました。ここで得られたコンフォメーションの妥当 図3 モデルポリマーを用いたカルボニル炭素ピークの帰属N M R研究室便り
性を確認するため、各コンフォメーションと
NMR
化学シフトの関係を明らかにするため、化学シフト の計算、並びにその計算値と実測値との比較を行 いました。化学シフトの計算値は、それぞれのコン フォメーションごとに1H
および13C NMR
化学シフ トを計算し、存在確率を掛け合わせて荷重平均を とり求めました。そして、重クロロホルム溶媒で測 定した二量体モデル化合物のNMR
実測値と比較し ました。その結果、1H
および13C NMR
化学シフト について、アイソタクチックとシンジオタクチック 間のシフトの傾向が、実測値と計算値の間で概ね一 致し、計算結果が妥当であり、相関性があることが 確認できました(図4
)[3]。以上、簡単ではございますが、当社での
NMR
の 活用事例について一部紹介させていただきました。図4 PLA二量体モデル化合物における化学シフト計算値と実測値の比較
現在当社は、技術の融合化による新しい機能・ソ リューションの創発・提案を目指しております。構 造解析センターは、これを実現するために必要な、
NMR
を用いた解析技術の開発に取り組んでいきた いと思います。引用文献
[1] Matsuda, H., Asakura, T., and Nakagawa, Y., (2003) Sequence analysis of Technora (copolyamide of terephthaloyl chloride, p-phenylenediamine, and 3,4 -diaminodiphenylether) using 13C NMR, Macro-molecules, 36, 6160-6165.
[2] Fukushima, K., and Kimura, Y., (2005) A novel syn-thetic approach to stereo -block poly(lactic acid).
Macromol. Symp., 224, 133-143.
[3] Suganuma, K., Horiuchi, K., Matsuda, H., Cheng, H.N., Aoki, A. and Asakura, T., (2011) Stereoregu-larity of poly(lactic acid) and their model com-pounds as studied by NMR and quantum chemical calculations. Macromolecules, 44, 9247-9253.
日本核磁気共鳴学会
N M
R
2 0 1
6
7巻 若手