先進国の大都市は概して産業革命以降,3世代約100年 以上の期間をかけて現在の数百万人の中心都市を形成して きた。これに対して,アジアの巨大都市は非常に短期間で 人口増加が発生した。これは,アジアの経済発展プロセス が,「後発者利益」を積極的に活用した「圧縮型経済発展
(出所) The World Bank (2006), World Development Indicators.
図6 都市化と経済成長
y=0.3233X+37.464
(10.35) (14.38) R2=0.2115
(出所) The World Bank (2006), World Development Indicators.
図5 都市化とサービス経済化
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プロセス」であったのと共通した変化であり,都市化にお ける「圧縮型形成プロセス」である4。例えば,中国の上 海では,1970年に約600万人であった人口が1995年には
約1,200万人(常住流動人口約300万人を含む)へと倍増
している。僅か1世代25年間余という短い期間で人口増 加が生じたのである。アジアにおける人口の自然増加はほ ぼ一定もしくは非常に緩やかなテンポであることを考え合 わせると,このような短期で起こった変化は,ほとんど全 ては社会的増加であり,しかも地方農村部からの人口流入 によるものと考えられる5。また,図8に示すように都市
化の進展に伴い欧米では,都市人口が漸減現象をみせてい るのに対して,アジアの巨大都市人口はこの20〜30年で 急増しており,しかも,その増加には,政策的規制の導入 された一部地域を除き,歯止めがかかっていない。
都市化に伴う最も衝撃的で即時的影響は,農村部の急速 な性格的変容にあらわれる。農村部の最も伝統的な産業で ある農業および小規模工業から近代産業へと地域・国の産 業の主役が変わると,都市に立地する工業や関連する商業 はその存続のために労働力を広い範囲から引き抜くように なり,さまざまな資源を製造業のために集めるようになる。
こうして農村は人的・物的資源を都市に供出し,都市から 各種のサービスを受ける,都市に従属する存在となる。
大きな都市はより専門的な財やサービスを周辺地域や地
(出所) United Nations (2007), World Urbanization Prospects; United Nations Development Program (2007), Human Development Report; the World Bank (2006), World Development Indicators;総務省『消費実態調査』(2005年版)
(注) 各国データの算出時点は異なっており,マレーシアは1999年,モンゴル,ラオス,タイは2002年,フィリピンは2003年,
日本,中国,カンボジア,ベトナムは2004年,インドネシアは2005年となっている。
図7 アジアの都市化率とジニ係数
(出所) 『世界の大都市』1988年版,1991年版,1994年版,1997年版および『上海市統計年鑑』(1996年版)より作成。
図8 巨大都市人口の変遷
4 「圧縮型経済発展プロセス」については,高中(2000)を参 照のこと。
5 中国における都市化のプロセスについては,高中・太田口
(2008)を参照のこと。
アジアにおける都市化と都市問題 135
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方の市場に供給し,小都市に対する交通や小売業のハブの 役割を果たす。資本・金融サービスの供給は大都市に集中 し,高い教育を受けた労働力や行政機能も集中するように なる。こうしてさまざまなサイズの都市に,高度なサービ スの供給が集中する大都市からその影響を受ける地方都市 に至る階層が発生する。
都市が成長すると,地代や家賃の劇的な上昇という事態 が発生し,これによって労働者階級が住宅市場から退出さ せられることも起こる。新しく地方から来た労働者は経済 や行政の中心である都心や最新の立派な住宅地域に住むこ とができず,スラムなど不良住宅地域に住むという「階級 ごとの棲み分け」が発生する。
伝統的な都市化は,都市機能と居住地域が都心の周辺部 に集中するというものであった。しかし交通機関の発達と 都市環境の悪化に伴い,居住スペースが都市外部に移転す る動きが起こった。これが郊外化である6。郊外化は居住 スペースのみに留まらない。多くの研究者は,米国におけ る郊外化の変遷や自動車交通網の発達により,都心や郊外 の外側に新しい経済活動の集中点が生まれていることを指 摘する。郊外外部に発生した,ネットワーク化された,複 数の中心を持つ新しい形の人口や機能の集中地区は「エッ ジ・シティ」(edge city)7,「ネットワーク・シティ」(network city)8,「ポストモダン・シティ」(post‑modern city)9などと,
さまざまに呼称され,新しい形の都市化とみなされている。
ロサンゼルスは業務中心地がこうした郊外外部のインター チェンジ付近に展開する典型的な都市である。
世界の大都市圏の人口動態変化をみると(図9),アジ アの大都市は現在も先進国の都市より高い人口増加率を 保っていることがわかる。急激な人口流入の受け皿として の役割を担うアジア都市は産業革命以降3世代100年以上 かけて形成された先進国の都市と違って,過剰都市化とも いえ,確実な経済基盤が形成されていない「産業化なき都 市化」10であるため,多くの問題を形成している。
図10では世界都市の首位都市(都市圏)の都市化の状 況を示している。マニラ,ホーチミン,上海,バンコクな どのアジア主要国の巨大都市における市街地面積の広がり は,先進諸国の大都市エリアの広がりに比べると極めて狭 隘で,10Km圏への集中がみられる。激しい人口の増加を 考えると,アジアの都市は非常に高密度な都市であるとい えよう。
アジア諸国・地域においては,経済成長と共に都市部へ の人口集中が進んでおり,今後共この傾向が続くことが予 測される。都市部への人口集中は,渋滞や大気汚染,無秩 序な開発や資金不足等による公共空間の不足などの都市問 題を招いており,都市における生活・経済活動を支える社 会資本の整備など計画的な都市整備が課題となっている。
特に渋滞問題は,アジア諸国・地域の多くの大都市に共 通する課題である。渋滞問題の背景として,人口の増加に 加え,モータリゼーションの急速な進展や道路交通への依 存度の高さなどが挙げられる。アジア諸国・地域の大都市
6 ここでいう「郊外化」は日本の首都圏,近畿圏などでみられ た「ドーナツ化」現象は異なるものである。「ドーナツ化」
現象は,どちらかというと都市の外延的拡大の延長線上で捉 えられる現象である。
7 「エッジ・シティ」については,以下を参照のこと。Joel Gar-reau. (1991), Edge City:Life on the New Frontier, Doubleday &
Company.
8 「ネットワーク・シティ」については,以下を参照のこと。
David F. Batten (1995), Network Cities : Creative Urban Agglom-erations for the 21st Century, Urban Studies, Vol.32, No.2, 313‑327.
(出所) United Nations (2007), World Urbanization Prospect; UN‑HABITAT, Global Urban Observatory System (http://www.devinfo.info/
urbaninfo/)
図9 世界大都市圏の 1975‑2015 の年人口動態変化
9 「ポストモダン・シティ」については,以下を参照のこと。
Michael J. Dear (2000), The Postmodern Urban Condition, Black-well Publisher.
10「産業化なき都市化」については,Marianne Fay and Charlotte Opal (2000), Urbanization without Growth : A not so uncommon Phenomenon, World Bank.を参照のこと。
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におけるモータリゼーションの進展の状況をみると,例え ばタイのバンコクでは,新規自動車登録台数は1990年代 末の通貨危機からの経済状況の回復と共に急速に増加して おり,バンコクおよびその周辺部における自動車保有台数 は1990年代の約240万台から2000年代には約550万台に 倍増している。また,中国の上海では1995年から2002年 の期間における人口増加率は極めて緩やかなものであった にもかかわらず,自動車保有台数は1.8倍に伸びており,
韓国のソウルでも1980年から2003年の期間に人口が1.2 倍であったのに対して自動車保有台数は13.4倍に伸びて いる。このため,道路整備や地下鉄等の大量輸送機関の整 備が課題となっており,環状道路や地下鉄等の公共交通機 関,特に都市鉄道の整備が重要な施策となっている。