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工業高校生におけるキャリア選択自己効力感尺度の妥当性

5-1. キャリア教育によるキャリア選択自己効力感の変化

目 的

第4章第1節で,専門高校の現状についてみたように,専門高校においても「学校から 職業への移行」が先延ばしされる傾向にある(寺田, 2009; 中村, 2008)。このような専門高 校生の現状を改善するには,入学時から将来のキャリア選択を指導の視野においた学校に よる支援が必要である。

キャリア教育の実践は,1999年の中央教育審議会答申と 2004年のキャリア教育推進に 関する報告書を契機として,その取り組みが本格化してきた。このような教育的プログラ ムによる介入が,生徒あるいは学生にどのような変化を引き起こしているのかの検討が行 われている。この変化の検討は,実験的デザインにおける研究(例えば,Betz & Luzzo, 1996,

Sullivan & Mahalik, 2000;川﨑,2000など,第1章第4節参照)や,実践的な教育支援

(例えば,安達,2004;山本,2010;労働政策・研修機構,2008 など,第1章第5節参 照)で報告されている。キャリア教育の成果として,生徒が働くことにより関心を持ち,

キャリア選択に自信を持って取り組むようになる変化を測定することは,同時に一人ひと りの生徒・学生の発達の様相をとらえることであり,個別性を確保した介入の方策への道 をひらくことになると考えられる。

キャリア発達の測定に使用されてきた自己効力感については,キャリア選択行動に関連 する変数や要因についての研究が蓄積されてきている。本節では,工業高校生に対して,

キャリア選択のための自己理解と職業理解の講義や面接などの実践指導が行われた夏季進 路セミナーにおける自己効力感をとりあげる。これは,進路指導の一つのプログラムとし て,キャリア教育によりキャリア選択に向けて生徒が真剣に取り組むことを促そうとする ものである。講師による話や先輩による話は,Banduraのいう4つの資源でいえば,言語 説得と代理学習にあたる。こうしたキャリア教育による生徒の変化をとらえることは,キ ャリア教育の効果測定ともなる。本節では,そのためのアセスメントツールとしてキャリ ア選択自己効力感尺度を用い,尺度の妥当性の検討として,キャリア教育による生徒のキ ャリア選択に対する自己効力感の変化を5つの下位尺度によりとらえることを目的とする。

方法と分析

調査対象者:2007年8月末の2日間,A工業高校で夏季進路セミナーとして,キャリア教 育を実施した。その前後の 2 回の調査に参加した学生を対象とした。セミナーには,563 名(男性558名,女性5名/1年生224名,2年生173名,3年生166名),平均年齢は16.27 歳(SDは0.95,不明19名)が参加した。将来の進路希望としては,進学69名(12.3%), 就職349名(62.0%),未定83名(14.7%),その他7名(1.2%),不明55名(9.8%)の構 成であった。

測定変数:花井(2008)が開発した自己評価・目標選択・計画立案・情報収集・意思決 定の主体性度の5領域で各5項目からなるキャリア選択自己効力感尺度を使用した。なお,

項目の反応選択肢は「自信がある」「やや自信がある」「やや自信がない」「自信がない」の 4件法である。下位尺度ごとに総点を項目数の5で除した得点を下位尺度の得点とする。下 位尺度の信頼性であるα係数については,第 4 章において,工業高校生で十分に高いこと を報告した。

キャリア教育プログラム:2日間の午前中にわたって実施された。1年生には1日目,外 部から講師を招き,自分を知ること,先輩の話を聞くこと,2日目には資格と関連する仕事 について職業理解を促すものであった。2年生の1日目では,企業の社長や幹部から製造業 にについての話があった。2日目には,製造業での物づくりの魅力の理解とその製品を販売 する営業・販売の営業職の理解を促した。3年生には実践的に面接や小論文の指導を実施す るものであった。参加の仕方は,クラスごとから学年全体とプログラムにより異なる編成 で実施された。

キャリア教育の前後でキャリア自己効力感の各下位尺度が学年でどのように変化したか を反復測定の2 要因分散分析で分析する。多重比較については,Tukey 法を適用した。な お,分析には SPSS15を用いた。

結 果

第 4章第1節において,工業高校生のキャリア教育前後測定したキャリア選択自己効力 感に対し,EFA を適用し,5 因子構造をとらえたことを報告している。本節ではキャリア 教育前後と学年を独立変数とし,キャリア選択自己効力感の各下位尺度を従属変数とした2 要因の反復測定の分散分析を行った。Table5-1-1 にキャリア選択自己効力感における教育 と学年の分散分析の結果を示す。学年と教育前後の交互作用が『自己評価』を除く 4 下位

尺度で 5%の有意水準で有意となった。『目標選択』『計画立案』『情報収集』において,1 年生と2年生のキャリア教育前と教育後に差がみられ,キャリア教育後の得点が上がった。

『意思決定の主体性度』では,1年生でのみキャリア教育後の得点の上昇がみられた。3年 生での変化はいずれの下位尺度でもみられなかった。主効果が,『自己評価』を含むすべて の下位尺度のキャリア教育と学年でみられた。キャリア教育後には得点は上がっており, 3 年生の得点が1年生よりも高かった。『自己評価』と『計画立案』では,2年生の得点も1 年生よりも高かった。

Table 5-1-1 キャリア選択自己効力感におけるキャリア教育と学年の反復測定の分散分析結果 交互作用

学年 前後*学年 教育前後 学年

F=(2, 410~425) F=(1, 410~425) F=(2, 410~425) 1年生(N=183) 2.51 0.67 2.58 0.73 n.s. 7.93** 8.83***

2年生(N=140) 2.71 0.61 2.80 0.64 前 <後 3年>1年 ***

3年生(N=104) 2.80 0.68 2.86 0.62 2年>1年 **

学年全体 2.65 0.66 2.72 0.68

1年生(N=179) 2.50 0.65 2.67 0.70 3.14* 43.2*** 6.50**

2年生(N=144) 2.61 0.60 2.83 0.60 2年の前 <後 *** 前 <後 3年>1年 **

3年生(N=105) 2.81 0.64 2.88 0.63 1年の前 <後 ***

学年全体 2.62 0.64 2.78 0.65

1年生(N=178) 2.26 0.65 2.47 0.67 3.51* 28.41*** 9.03***

2年生(N=141) 2.32 0.59 2.43 0.61 2年の前 <後 ** 前 <後 3年>1年 ***

3年生(N=99) 2.63 0.65 2.69 0.73 1年の前 <後 *** 2年>1年 **

学年全体 2.37 0.65 2.51 0.67

1年生(N=176) 2.35 0.63 2.55 0.69 3.16* 27.02*** 2.98⊥

2年生(N=146) 2.49 0.63 2.61 0.62 2年の前 <後 ** 前 <後 3年>1年 * 3年生(N=101) 2.60 0.64 2.66 0.64 1年の前 <後 ***

学年全体 2.46 0.64 2.60 0.66

1年生(N=173) 2.62 0.72 2.75 0.70 3.08* 3.87* 6.69**

2年生(N=139) 2.82 0.63 2.83 0.57 1年の前 <後 ** 前 <後 3年>1年 **

3年生(N=101) 2.96 0.66 2.97 0.66 学年全体 2.77 0.69 2.83 0.65

注1: *** p < .001, ** p < .01, * p < .05, ⊥ p < .10 注2: 意思決定の主体性度を意思決定と略している。

教育前 教育後 主効果

平均値 標準偏

平均値 標準偏

自己 評価

目標 選択

計画 立案

情報 収集

意思 決定

考 察

本節では,キャリア教育による工業高校生のキャリア選択自己効力感の変化を学年でみ た。キャリア教育による生徒のキャリア選択への自信の高まりは,すべての下位尺度でみ られ,キャリア教育の前後で得点の上昇がみられた。『自己評価』では学年の特徴はみられ なかったが,『目標選択』『計画立案』『情報収集』では,1年生と2年生でキャリア教育後 に効力感の高まりとなってあらわれた。『意思決定の主体性度』では1年生でのみ高くなる 変化がみらわれた。このことは,今回のキャリア教育では,1年生,2年生でその効果が大

きく,特に1年生で効果が大きくみられたことを示している。3年生での変化はみられなか ったが,学年の主効果の結果にあるように3年生の得点は1年生よりも全体的にすでに高 いものであった。キャリア教育という介入を行ったことで,1年生と2年生においては,目 標を選択し,計画を立案し,情報を収集する自信が高まったといえる。1年生では,主体的 に意思決定をする自信も高まったが,2年生では変化がみられなかった。このことは,目標 を選択し,計画を立案し,情報を収集する自信については,短期のキャリア教育でも効果 が期待できるが,主体的に意思決定をすることについては,2年生になると容易に変化がみ られるものではないと考えられる。主体的な意思決定については,第2章第2節での因果 モデルに示したように自己効力感の 5 因子の因果関係の中では,キャリア選択・意思決定 の最終段階であると考えられる。したがって,主体的な意思決定に対する自信については,

時間をかけて慎重に高まっていくものであることから,今回のキャリア教育において 2 年 生の得点に変化がみられなかったと考えられる。

今回のキャリア教育のプログラムは,1年生には自分を知ること,職業理解,先輩の話を 聞くこと,2年生では,講義をうける職業理解が主であった。3年生には実践的に面接や小 論文の指導を実施するものであった。職業理解や先輩の話などは, Banduraのいう自己効 力感を高める4資源のうちの言語的説得と代理学習に相当する(Betz, 1992)。この言語的 説得により,キャリア選択自己効力感のうち,特に目標選択,次いで計画立案と情報収集 が高まった。先輩の話は,先輩をモデリングの対象として聞くことができるため,代理学 習となる。職業の理解や先輩の話により,情報収集よりもむしろ目標選択が高まったとい う結果が出たことは,短期間ながらキャリア教育の有効性を示している。

キャリア選択自己効力感の 5 つの下位尺度は,工業高校生に生じたキャリア選択への自 信の高まりを特徴的にとらえており,キャリア選択自己効力感の 5 領域で測定することで 豊富な情報を提供することができたといえる。また,今回のキャリア教育という介入によ る変化は,3年生よりも1,2年生において大きかったことから,高校入学後の早期からの キャリア教育は重要であると思われる。さらに,2日間にわたって実施されたキャリア教育 の効果が大きなものであることを明らかにすることができた一方で,意思決定の主体性を 高めるのは,2年生では難しかったと言わざるを得なかった。

夏季進路セミナーは,2日間の午前中に行われたものであり,キャリア教育というには不 十分であったかもしれない。また,調査の関係上,セミナーの終了と同時に事後テストを 行っている。このことは,効果をとらえるには,短期間すぎたかもしれない。しかしなが