4-1. 工業高校生におけるキャリア選択自己効力感の因子構造
工業高校生におけるキャリア選択自己効力感の測定
第 1章第1節でもみたように,高校生のキャリア選択においては,大学のユニバーサル 化で進路が多様化し,モラトリアムの期間が長くなる傾向がみられている。学校は,生徒 の職業生活への目的意識,責任感,コミュニケーション能力,対人関係能力などの未熟さ などによる若年者の卒業後の無業,早期離職,なかなか減少しないフリーター数を改善す るために,入学の早い段階から職業生活への移行の準備をするようになってきた。文部科 学省(2004b)が提示した「人間関係形成能力」「情報活用能力」「将来設計能力」「意思決 定能力」の 4 領域において学校ごとにプログラム作成に取り組んでいる。職業教育を受け 専門性の高い専門高校においても,大学や専門学校への進学率が上昇し,就職希望から進 学へ切り換えるなど進路が多様化してきた(寺田,2009)。そのため,キャリア選択に対す る支援として,専門学科設置の高校においてもキャリア教育とインターンシップ(職業体 験)に重きを置いている(中央教育審議会,2011)。
学校による支援を充実させるには,生徒のキャリア選択過程についての様々な情報を把 握することがまず必要である。集団での情報があれば,キャリア教育のプログラム作成の 際に重点的に介入する領域がわかり,個人を対象とするキャリア・カウンセリングにおい ても支援の必要な領域がわかる。
第 1章第3節で紹介したように,わが国におけるキャリア選択に対する自己効力感尺度 は,大学生と高校生で独立して開発されており,尺度が異なれば,大学生と高校生の学校 段階の差を同じ指標で比較できない。本章では,就職を希望するものが多い大学生と工業 高校生において同じアセスメントツールでの比較検討を可能にするために,大学生を対象 に開発した 5 因子構造の尺度が工業高校生に適用可能かどうかを検討する。大学生と工業 高校生とでは,工業高校生の方がより職業生活に即した教育を受けると考えられる。しか し,キャリア選択・意思決定に至る過程においては,共通の領域が多いのではないかと考 えるからである。
第 2章,第 3章では,大学生を対象にキャリア選択自己効力感尺度を構成し,キャリア 意思決定や他の変数との関連をみた。本節では,そのキャリア選択自己効力感尺度を,大 学生と同じようにキャリア選択・意思決定を目前の課題としていると考えられる工業高校
生に適用し,EFAによりその因子構造を検討する。
工業高校生におけるキャリア選択自己効力感尺度のEFA
工業高校生を対象に質問紙調査で収集したキャリア選択自己効力感尺度の 3 つのデータ
(A,B,C)にEFAを適用し,因子構造を検討する。そして,EFAの3つの結果につい て一致性係数を求め,総合的に検討する。データの構成について,Table 4-1-1に示す。
Table 4-1-1 工業高校生のデータの構成
データ 使用した章・節 デザイン データの概要
A 第5章第1節 縦断 563名(1年生224名,2年生173名,3年生166名)
2007年8月のキャリア教育前と後に調査。欠損なし。
B 第5章第4節 横断 379名(1年生124名,2年生131名,3年生121名)
2009年の8月に調査。欠損なし。
C 第5章第5節 縦断
286名(2007年入学生135名,2008年入学生151名)
2007年,2008年入学生を3年間追跡調査。
各年8月に調査。欠損値推定。
データA
目 的
2007年に実施された2日間のキャリア教育の前と後で,工業高校生のキャリア選択自己 効力感を測定した。この2回のデータの因子構造をEFAで検討する。本研究では,就職率 が大学生のそれとよく似た工業高校生をとりあげる。
方 法
調査対象者:2007年8月末の2日間,A工業高校で夏季進路セミナーとして,キャリア 教育を実施した。2日間の午前中,1年生には自分を知ること,先輩の話を聞くこと,資格 と関連する仕事について職業理解を促した。2年生には,企業の社長や幹部から物づくりや 営業・販売の仕事などの講義により職業理解を促した。3年生には実践的に面接や小論文の 指導を実施した。これらのキャリア教育前後の 2 回の調査に参加した学生を対象とした。
セミナーには,563名(男性558名,女性5名/1年生224名,2年生173名,3年生166 名),平均年齢は16.27歳(SDは0.95,不明19名)が参加した。
測定変数:花井(2008)が開発した自己評価・目標選択・計画立案・情報収集・意思決 定の主体性度の5領域で各5項目からなるキャリア選択自己効力感尺度を使用した。なお,
項目の反応選択肢は「自信がある」「やや自信がある」「やや自信がない」「自信がない」の
4件法である。
結 果
キャリア選択自己効力感にEFAを適用し,主因子法により因子解を求めて,Promax法 で回転した。キャリア教育前の測定機会では,4 因子構造となり,『目標選択』と『計画立 案』が 1 因子としてまとまった。ここでは,キャリア教育後の結果のみを報告する。キャ リア教育後の測定機会のデータにおける因子数の決定では,固有値の減衰傾向(12.740, 1.549, 1.294, .974, .919, .650, .568, .509)となり,3因子解から5因子解の可能性が読み取 れた。そこで,5因子として回転して解釈したところ,因子が単純構造で抽出されたことか ら,5因子が適切であると判断した(Table 4-1-2)。『目標選択』『計画立案』『情報収集』『自 己評価』『意思決定の主体性度』の明確な5因子構造が得られた。なお, 5因子での累積寄 与率の割合は,62.371%であった。
因子間相関は,最も低い値が .61(『情報収集』と『意思決定の主体性度』間)で,最も 高い値が .75 (『計画立案』『情報収集』間)になった。なお,尺度の信頼性(α係数)は,
各下位尺度の5項目から求めたが,教育前の測定で.790(情報収集)から.858(計画立案), 教育後で.856(情報収集)から.892(計画立案)におさまった。
考 察
工業高校生に対して,大学生で開発したキャリア選択自己効力感尺度を適用した。2回の 測定機会でのデータから,EFAを行い,キャリア教育後では,大学生と同様の5次元が適 当と判断できた。キャリア教育前の因子分析では,目標選択と計画立案が一つにまとまり4 因子構造となったが,教育後のデータから明確に 5 因子が得られた。キャリア教育は,自 己理解と職業理解を促進するプログラムであった。このプログラムに参加したことにより,
キャリア選択に必要な行動の理解が進み,キャリア選択自己効力感の下位尺度を明確にと らえることができたのではないかと推察される。
データB
目 的
2009年の8月に実施された夏季進路セミナーで,工業高校生を対象にキャリア選択自己 効力感を測定した。この時の夏季進路セミナー前のデータの因子構造をEFAで検討した。
自己評 価
目標選 択
計画立 案
情報収 集
意思決
定 共通性 平均値 標準偏 差 自分の性格を理解すること 0 .9 3 -0.04 -0.06 0.00 -0.06 0.69 2.75 0.85 仕事をするうえでの自分の長所と短所を理解するこ
と 0 .7 5 -0.07 0.14 -0.02 0.03 0.63 2.70 0.84
自分の得意・不得意を理解すること 0 .7 1 -0.04 -0.12 0.06 0.23 0.65 2.84 0.85 自分の適性を理解すること 0 .6 2 0.14 0.05 0.04 -0.05 0.58 2.67 0.82 自分自身についてより深く理解すること 0 .4 8 0.24 0.20 -0.06 -0.02 0.61 2.70 0.85 将来、なりたい自分を明確にすること -0.11 0 .8 1 0.05 0.04 -0.02 0.62 2.76 0.79 今後の人生で、自分が何をやりたいのかを明確にす
ること 0.07 0 .7 6 0.04 -0.01 -0.06 0.64 2.79 0.83
将来従事したい職業が何なのかをはっきりさせること 0.06 0 .6 8 0.06 -0.08 0.10 0.62 2.67 0.84 自分にとって理想の職業とは何かを明確にすること 0.13 0 .6 8 -0.01 0.00 0.05 0.65 2.80 0.82 仕事に対する自分の興味を理解すること 0.32 0 .4 4 -0.13 0.16 0.03 0.57 2.90 0.78 将来のために今やっておくべきことの計画を立てる
こと 0.03 0.01 0 .7 9 -0.02 -0.03 0.61 2.49 0.80
進路目標を達成するために、計画を立てること -0.02 0.06 0 .7 7 0.00 0.03 0.70 2.53 0.81 就職活動をうまく進めるための計画を立てること 0.00 -0.06 0 .7 7 0.04 0.08 0.66 2.46 0.80 就職活動について具体的な計画を立てること 0.05 -0.07 0 .7 5 0.05 0.02 0.62 2.46 0.76 将来、なりたい自分に必要なことを身につけるため
の計画を立てること -0.08 0.19 0 .6 8 -0.01 0.02 0.62 2.60 0.80 職業情報を得るために、インターネットを利用するこ
と -0.02 -0.04 -0.11 0 .8 7 -0.02 0.55 2.71 0.89
自分の職業選択に必要な情報を得るために、新聞・
テレビなどのマスメディアを利用すること 0.01 0.05 0.03 0 .7 2 -0.05 0.57 2.62 0.84 興味ある職業分野の会社や組織に関する情報を入
手すること 0.04 0.07 0.12 0 .6 5 -0.03 0.64 2.56 0.79
自分が就きたい職業の採用状況に関する情報を入
手すること 0.02 -0.07 0.20 0 .5 8 0.12 0.63 2.62 0.83
興味ある組織では、どの様な人材を必要としている
のかを調べること 0.08 0.04 0.28 0 .4 5 -0.01 0.59 2.57 0.77 本当に好きな職業に就くためなら、努力を惜しまな
いこと -0.03 -0.07 0.02 0.01 0 .8 5 0.65 2.86 0.81
志望職業に就くために粘り強く頑張ること 0.01 -0.02 0.02 0.07 0 .7 5 0.64 2.82 0.80 困難な問題が生じても目標とする職業に就くために
頑張ること -0.03 0.07 -0.01 0.10 0 .7 4 0.68 2.85 0.77
就きたい職業に就けるのであれば、少々の苦労でも
我慢すること 0.21 -0.05 0.06 -0.21 0 .6 8 0.53 2.91 0.81
自分で決めた志望職業を実現するために意志を貫
くこと -0.11 0.38 0.01 0.02 0 .5 5 0.65 2.74 0.81
α係数
自己評価 1 0.870
目標選択 0.74 1 0.870
計画立案 0.65 0.74 1 0.892
情報収集 0.62 0.69 0.75 1 0.856 意思決定の主体性度 0.65 0.72 0.69 0.61 1 0.871 注1: 『意思決定の主体性度』を意思決定と略している。
因子パターン 統計量
Table 4-1-2 データA: キャリア選択自己効力感尺度の探索的因子分析結果(キャリア教育後)(N=451)
意 思 決 定
変数(項目)
自 己 評 価
目 標 選 択
計 画 立 案
情 報 収 集
方 法
調査対象者:ある工業高校の 2009年入学の1年生227名,2年生199 名,3年生182 名に対して,8月の夏季進路セミナーの2日間に質問紙調査を行った。キャリア選択自己効