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キャリア選択自己効力感尺度の開発とモデルの構成

第1章第3節で,海外とわが国で開発されてきたキャリア選択に対する自己効力感につ いての因子の次元性を研究方法の発展とともに因子の数から検討した。Crites(1978)の 5領域のキャリア選択能力を自己効力感でとらえることを目的としたCDSEとその短縮版 のCDSE-SFでは,その次元性の検討が続けられている。最近では,Lo Presti et al.(2012)

が,イタリア語版のCDSE-SFを用いた高校生の調査から,CFAにより5因子の1次因子 モデルを最もよいモデルとし,Crites(1978)の5領域を確認したと報告している。わが 国では,CDSEの影響を受けつつも,翻訳版ではなく,研究者がそれぞれ独自に自己効力 感尺度を開発してきた。それは,日本の社会の現状に応じたもの(浦上,1995a),あるい は日本の大学生を対象にしたもの(冨安,1997)を目指したからであった。そして,CDSE の項目には,「大学を出て5-10年後に大学院に入ること」というように1990年代の尺度 開発当時の日本のキャリア選択状況とは合わないものも含まれていたからだと考えられる。

また,学校段階が異なる大学生と高校生の目前の選択は,大学生が主に就職で,高校生は 進学と就職というように独立した視点から尺度が開発されてきた。そのため,多くの尺度 が開発されてはいるが,共通にみられる因子構造が確認されているとはいえない。

この状況をふまえて,Critesの5領域の能力に基づいたキャリア選択に対する自己効力 感尺度を開発する。第1節では尺度の開発を試みる,第2節では,その尺度から抽出され た因子を基に因子間の関連を因果モデルとしてとらえることを試みる。第3節では,開発 したキャリア選択自己効力感を大学生に適用することにより,半年間隔の得点の変化を因 果モデルで検討する。

2-1 .キャリア選択自己効力感尺度の開発

目 的

キャリア選択自己効力感の次元性については,1 次元構造とみながらも,実際の分析で

は,Critesの5領域のキャリア選択能力に基づいた下位尺度との関係が示されている研究

がある(Taylor & Betz, 1983;Robbins, 1985;Taylor & Popma, 1990など)。たとえば,

Robbins(1985) は,CDSEの合計得点だけでなく,5下位尺度得点での分析も行い,目

標選択,自己評価,計画立案の下位尺度が,自尊心や職業同一性(Holland, Gottfredson,

& Power, 1980)と正の関連があり,キャリア不決断(Osipow et al., 1976)と負の関連が

あると報告している。冨安(1997)は,87 名の大学4 年生を対象に進路決定をする前に 自己効力を測定し,進路決定を経験したと思われる7ヶ月後に実際の進路関連行動をたず ねた。その結果,抽出された5因子に基づいた5下位尺度のうちの目標を決定する「進路 選択」自己効力は,就職活動や情報収集の開始時期や興味の程度などの関連行動を予測す ることができると主張している。また,富永(2000)は,就職活動をほぼ終えた女子大学 生では,抽出された 11 因子のうちの「基礎情報収集」の自己効力が進路選択行動を開始 した時期と特に関連があることを示し,進路指導において,自己効力の尺度を1因子で扱 うよりは,多次元のほうが細かい指導ができるのではないかと主張している。

安達(2001b)は,進路指導やキャリア・カウンセリング場面で援助介入を行うための 具体的方針を講ずるためには,CDSEの総得点を指標とすることでは自己効力感のどの下 位領域が職業選択過程に影響を及ぼすのか明らかに出来ないと指摘し,CDSEの下位尺度 の中から自己評価と職業情報の収集をとりあげ,就業動機,そして職業未決定に至る因果 モデルを構築している。そして,女子短期大学の431名(1年生199名,2年生232名)

を対象に,「自己評価」と「職業情報の収集」の因子を主因子法(Promax回転)で抽出し,

因子得点でのパス解析を行った結果,1 年生では,職業情報収集に対する効力から直接的 に職業未決定への負のパスがみられ,2 年生では,自己評価に対する効力から直接的に,

また自己向上志向動機を経て間接的に,職業未決定に負のパスがみられた。このことから,

1 年生に対しては,職業や就職に関連した情報を広く効率よく収集する自信が高まるよう な働きかけが効果的であり,進路選択場面に直面している2年生に対しては,自分の職業 適性について正しく評価する自信が高まるような援助や介入が有効であろうと報告して いる。長岡他(2001)は,44 名の大学生を対象にパス解析を用い,教育実習前後で自己 効力感の5つの下位尺度の得点平均を比較し,すべての下位尺度において実習前よりも実 習後の方が高くなったとしている。さらに各下位尺度からキャリア成熟へのパスをモデル 化し,実習前の進路選択に対する自己効力感から実習前のキャリア成熟を介して,間接的 に実習後のキャリア成熟を高めるパスがほとんどの下位尺度で認められたと報告してい る。

このように因子分析でキャリア選択に対する自己効力感の因子が確認されていない場 合でも,Crites の理論に基づいた下位尺度を用いて他の変数との関連が分析されている。

これは,キャリア選択に対する自己効力感が進路指導やキャリア・カウンセリングの場で 利用されるうえで,多面的なアセスメントでの方が,支援者は,より的確に学生のキャリ

ア選択・意思決定の状況を把握し,効果的な援助や介入に結びつけることができるからで ある。

本節では,わが国の蓄積されてきた研究をふまえ,Crites(1978)の5領域に基づく5 因子構造の尺度を開発することを目的とする。そして,EFAで尺度の内部構造を検討する ことにする。

方 法 キャリア選択自己効力感の構成概念

浦上(1995a),古市(1995),冨安(1997),富永(2000),長岡他(2001),安達(2001a)

の先行研究で用いられたキャリア選択自己効力感の尺度をもとに項目の整理を行なった。

すべての項目を網羅すると約250項目となる。それぞれの因子分析結果や下位尺度を参考 にそれらの項目の内容からまとめていくと,Crites(1965, 1978)のキャリア選択能力に 相当する5つの領域に分けることができた。すなわち,①自分について理解する自信(自 己評価),②将来の目標を明確にする自信(目標設定),③進路を達成するために計画を立 てることへの自信(計画立案),④情報を集めることへの自信(情報収集),⑤職業を決め る際にいろいろな状況に対処し,自分の意志を貫く自信(問題解決,意思決定の主体性度)

である。その5領域の項目をさらに内容から分類し,各分類から代表となる項目を選んで いった。①については,自分自身,興味を持つ職業,性格,能力,適性を理解する 10 項 目を選んだ。②については,つきたい職業,価値観,生きる目的,ライフスタイルから10 項目を選択した。③については,在学中やっておくべきこと,免許や資格,就職活動,進 路目標への計画や,希望通りでなかったときの計画修正から9項目を選んだ。また,④に ついては,インターネット,マスメディア,図書館,就職課などの手段・媒体や,仕事の 内容,採用状況,面接準備の情報の内容から 13 項目を選んだ。⑤については,職業を選 択する際の問題に対処する自信と,その際にいかに意志を貫くかという観点から項目を検 討した。困難な状況でのがんばり,あわないと思えば断る強さ,勤務先が遠隔地であろう と家族の反対があろうと貫く意志や,望んでいた職業に就けなかった場合の検討のやり直 しから13項目を選んだ。このようにして,合計で55項目を選定した。

さらに,既存の項目の表現を修正あるいは短縮した5項目を追加して,項目表現による 反応傾向を見ることとした。その 5 項目とは,「自分を活かせる職業分野を明確にするこ と(自己評価)」で,既存の類似した項目の語尾を「挙げること」から「明確にすること」

と変えたもの,「将来,なりたい自分を明確にすること(目標選択)」で,「自分が何をやり たいのか」を「なりたい自分を」としたもの,「希望通りの職業に就くための計画を立てる こと(計画立案)」で,「志望職業の実現に向けて,実行可能な計画を立てること」を簡素 化したもの,「希望する職業なら,どこででも就職する(意思決定の主体性度)」「好きな職 業なら,どこへでも転勤する(意思決定の主体性度)」で,「好きな職業に就くためなら,

遠近や地域を問わず,どこにでも移動すること」の内容を2つにわけたものである。

この60項目を用いて,2006年1月に,大学生158名(男性43名,女性115名)を対 象に調査を実施した(花井・清水,2006)。EFA(主因子法,Promax回転)から,まず4 次元構造がえられた。すなわち,第1因子には,多数の項目が集まり,『目標選択』と『自 己評価』の領域に設定された項目が,一つにまとまった形で負荷した。第2因子には,『計 画立案』『情報収集』の項目がまとまった。第3因子には,『問題解決・意思決定の主体性 度』への自信の項目が主として負荷し,第 4 因子には,『計画の修正や意思の変更』の項 目が負荷した。さらに,第1 因子と第2 因子に含まれた項目だけで再度因子分析すると,

それぞれ『目標選択』と『自己評価』,『計画立案』と『情報収集』と2つに分かれた。こ の4因子の中で,『自己評価』に負荷した項目は4個と少なかった。

これらの因子分析結果をふまえ,表現に留意しながら項目をさらに検討し,再調査のた めに項目の選定,修正,追加をおこなった。第1因子の『目標選択』については,因子パ ターンの高い 8 項目を選定した。そして,『自己評価』の項目については,因子としてま とまった4項目の他に『目標選択』因子との識別性を高めるために,修正・追加した。「自 分の適性や能力を活かせる職業分野をいくつかあげること」に対しては,概念が重ならな いように「自分の能力を正確に評価すること」とし,「自分の適性を理解すること」を別の 項目とした。その結果,『自己評価』とみられる項目を新たに加え,3項目を追加した。第 2因子の『情報収集』については,因子パターンの高い8項目を選定した。『計画立案』に ついては,大学生のみを対象とした表現の項目を避け,5 項目を選定した。そして,一般 の人を対象にした将来の計画立案となる項目を 3 つ追加した。『計画立案』については,

計画を立てるという範囲に限定し,別の因子に負荷した計画を修正することへの自信の項 目は含めなかった。第3因子の『問題解決や意思決定の主体性度』については,キャリア 選択のためには,問題に対処し解決した上での主体的な意思決定が必要と考えた。そのた め,「困難な問題が生じても目標とする職業に就くために頑張ること」というように,問題 解決後,意思決定の主体性に結びつく項目など6項目を選定した。そして,キャリア選択