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大学生におけるキャリア選択自己効力感尺度の妥当性

3-1. キャリア意思決定, Big Five ,自尊感情,不安との関連

目 的

第 2章第1節で開発されたキャリア選択自己効力感の下位尺度とキャリア不決断,パー ソナリティ特性の Big Five,自尊感情,不安との関連をみることは,キャリア選択・意思 決定の過程を多次元でとらえることの妥当性の検討となる。多次元でとらえることが有効 となれば,より詳細な情報によるキャリア支援が可能になると思われる。

第 1章第5節に紹介したように,自己効力感尺度についての妥当性は,キャリアの意思 決定の状態を測定するキャリア不決断尺度や意思決定尺度との相関関係から検討されるこ とが多い(例えば,Taylor & Betz, 1983; Robbins, 1985; Betz & Voyten, 1997; 浦上, 1995b)。これらの研究では,キャリア自己効力感尺度とキャリア不決断尺度との間に中程 度の負の相関がみられることが報告されている。また,パーソナリティ関連変数とでは,

まず,自尊感情や不安と関連があるとみられている(例えば,Robbins, 1985; Fuqua, Seaworth, & Newman, 1987; Taylor & Popma, 1990; Gloria & Hird, 1999)。そして,Big Fiveを取り上げた研究では,情動性(N),誠実性(C),外向性(E)と,不決断,職業興 味,探索的自己効力感との関連が報告されている(例えば,Tokar, Fischer, & Subich, 1998;

Reed, Bruch, & Haase, 2004など)。

最近では,因果関係にまでふみこんだ報告もある。Creed, Patton, Prideaux(2006)は,

キャリア自己効力感と不決断の関係について潜在変数を用いた因果モデルで示している。

Albion & Fogarty(2002)は情動性(N)と誠実性(C)から,Wang, Jome, Haase, & Bruch

(2006)は情動性(N)と外向性(E)から,キャリア関連尺度への因果モデルを報告して いる。花井他(2006)は,第 2章で開発したキャリア選択自己効力感尺度の基となる短縮 前の40項目からなる尺度を用いて,大学生を対象にBig Fiveの5因子からキャリア自己 効力感とキャリア意思決定への潜在変数を用いた因果モデルを構成した。その結果,キャ リア選択自己効力感の『自己評価』には外向性(E),誠実性(C),開放性(O)から,『計 画立案』『意思決定の主体性度』には誠実性(C)から正のパスがみられ,『計画立案』には,

協調性(A)から負のパスがみられた。キャリア選択自己効力感には,情動性(N)からの パスはみられなかったと報告している。

不安とキャリア関連行動との関連では,Crites(1969)が,キャリア優柔不断の状態に

いる人はパーソナリティ特性の不安が関連していると指摘し,キャリア支援の際には不安 傾向を配慮すべきと論じている。Betz & Serling(1993)は,実際に不安とキャリア不決 断が優柔不断を説明することを確かめている。Bandura(1977)が自己効力感を変容させ る 4 つの情報源として,情緒的喚起をあげているように不安は自己効力感に影響する変数

である。Robbins(1985)での不安はキャリア選択に対する自己効力感を弱いが高める関係

を示し,Lucus & Wanberg(1995)では,不安がキャリア意思決定の下位尺度である決定 する能力を低める関連を持つなど,促進する方向と抑制する方向のいずれの報告もみられ る。また,不安を状態不安と特性不安の 2 側面からとらえることもなされている。状態不 安とパーソナリティ特性としての不安は,Fuqua et al.(1987)で検討され,特性不安の方 がキャリア不決断との相関係数が少し高いとみられた。

キャリア選択に対する自己効力感の性差については,都筑(2007)は,大学生のデータ の人数は少ないが,横断的と縦断的のいずれのデータからも,性差と学年差はなかったと 報告している。児玉・松田・戸塚・深田(2002)は,大学 3年生を対象にした進路選択行 動の調査で,進路選択に対する自己効力感(浦上,1995a)は,男子の方が5%の有意水準 で高い得点だったが,実際の会社等からの情報の活用では,女子の方が高かったと報告し ている。また,富永(2004)は,高校生を対象に進路選択過程における自己効力尺度を作 成する中で,女子の方が男子より,総点および『進路計画・実行』『自己効力感と職業の理 解・統合』『問題解決』の3つの下位尺度すべてで得点が高いことを報告している。このよ うに性差については,一貫した傾向はみられていない。本節では,第2章第1節での因子 的妥当性に加えて,キャリア選択自己効力感尺度の妥当性について他の尺度との関連で検 討をおこなってみる。

方法と分析 調査対象者

2006年と2007年の2回に6月から7月にかけての大学1年生から3年生を対象に横断 的調査を実施した。本節では,第2章と同じ対象者の中から,2007年での1年生から3年 生492名と2006年での3年生82名の計574名を対象とした。3学年で人数差が大きくな らないように2006年の3年生を対象に含めた。その結果,1年生205名(男子74名,女 子131名;平均年齢は18.37歳,SDは0.64),2年生208名(男子66名,女子142名;

平均年齢は19.45歳,SDは0.79),3年生161名(男子50名,女子111名;平均年齢は

20.71歳,SDは1.54)の構成となった。

測定変数

(1) キャリア選択自己効力感尺度

花井(2008)が開発した自己評価,目標選択,計画立案,情報収集,意思決定の主体性 度の5領域で各5 項目からなるキャリア選択自己効力感尺度を使用した。なお,項目の反 応選択肢は「自信がある」「やや自信がある」「やや自信がない」「自信がない」の4件法で ある。下位尺度ごとに総点を項目数の 5 で除し,下位尺度の得点とした。本データにおけ る信頼性を表すα係数は,自己評価(.895)・目標選択(.902)・計画立案(.883)・情報収 集(.858)・意思決定の主体性度(.899)であった。

(2) キャリア意思決定尺度

清水・花井(2007)のキャリア意思決定尺度を用いた。これは,キャリア不決断状態を 測定するもので,花井・清水(2006)が,下山(1986),清水(1989,1990),古市(1995), 浦上(1995b),奥井・大里(2004)の研究をもとに作成した 47 項目に修正を加え,因子 分析を経て35項目を選んだものである。回答は,「4:そう思う」から,「1:そう思わな い」の 4 件法である。不決断,決定不安,障害不安,葛藤,相談希求,モラトリアム,逃 避の7つの下位尺度で構成されている。下位尺度ごとに総点を項目数の5で除し,下位尺 度の得点とした。本データにおける信頼性を表すα係数は,不決断(.918),決定不安(.895), 障害不安(.753),葛藤(.880),相談希求(.878),モラトリアム(.904),逃避(.847)で あった。

(3) 自尊感情尺度

Rosenberg(1965)の自尊感情尺度で,山本・松井・山成(1982)による翻訳版を用い た。10 項目からなり,回答は,5 件法で,一般的には単因子構造とされている。逆転項目 については,6点から得点を減ずることで修正した。総点を項目数の10で除し,得点とし た。本データにおける信頼性を表すα係数は,.837であった。

(4) Big Five

清水・山本(2008)のBig Five形容詞短縮版2006を使用した。これは,清水・山本(2007)

で構成した30項目を再検討したもので,外向性(E),情動性(N),誠実性(C),開放性

(O),協調性(A)の5つの次元からなっている。回答は,7件法である。逆転項目につい ては,8点から得点を減ずることで修正した。総点を項目数の6で除し,下位尺度の得点と した。本データにおける信頼性を表すα係数は,外向性(E)(.882),情動性(N)(.888),

誠実性(C)(.760),開放性(O)(.737),協調性(A)(.777)であった。

(5) STAI(新版STAI-JYZ (State-Trait Anxiety Inventory-Form JYZ)

一過性の状況反応としての状態不安(State Anxiety)とパーソナリティ傾向としての特 性的な不安(Trait Anxiety)の2側面を測定する不安検査で,各20項目である(肥田野・

福田・岩脇・曽我・Spielberger, 2000)。回答は,4 件法である。逆転項目については,5 点から得点を減ずることで修正した。各総点を項目数の20で除し,下位尺度の得点とした。

STAIについては,1,2年生でのみ検査を実施した。本データにおける信頼性を表すα係数 は,状態不安で .912,特性不安で .883であった。

分析

キャリア選択自己効力感尺度については,横断による学年と性別による 2 要因の分散分 析を行い,他の尺度との関連については全体,性別,学年ごとに相関分析を行った。多重 比較については,Tukey法を適用した。

結 果

キャリア選択自己効力感尺度の横断による学年と性別による特徴

キャリア選択自己効力感尺度の5下位尺度における学年と性別による2要因の分散分析の 結果をTable 3-1-1に示す。『自己評価』では,学年の主効果がみられ(F(2,568)=3.172,

p< .05),2年生の得点が1年生よりも5%水準で高かった。『情報収集』では,学年と性別 による交互作用がみられた(F(2,568)=5.169, p< .01)。男子では,3年生の得点の方が1年 生よりも高く,3年生では,男子の得点が女子の得点よりも高かった。主効果が学年でみら れ,2年生の得点が1年生の得点よりも高かった(F(2,568)=4.821, p< .01)。いずれも1%

水準で有意であった。『計画立案』,『目標選択』,『意思決定の主体性度』の尺度では,学年,

性別での違いはみられなかった。

キャリア選択自己効力感尺度とキャリア意思決定との関連

キャリア意思決定の下位尺度における学年と性別による 2 要因の分散分析の結果を Table3-1-2に示す。『決定不安』では,性別の主効果がみられ(F(1,535)=4.819,p< .05), 女子の得点が男子よりも 5%水準で高かった。『モラトリアム』では,学年の主効果がみら れ(F(2,535)=10.216,p< .001),2年生の得点が1年生よりも0.1%水準で高かった。

Table3-1-1 キャリア選択自己効力感尺度の分散分析結果 (横断による学年×性別)

平均 標準偏差 平均 標準偏差 平均 標準偏差

1年生 2.71 0.69 2.69 0.66 2.70 0.67 2年生 2.91 0.70 2.82 0.59 2.85 0.63 3年生 2.89 0.74 2.74 0.63 2.78 0.66 総和 2.82 0.71 2.75 0.62 2.78 0.65 1年生 2.59 0.73 2.59 0.71 2.59 0.71 2年生 2.61 0.72 2.56 0.70 2.57 0.71 3年生 2.67 0.76 2.52 0.76 2.56 0.76 総和 2.62 0.73 2.56 0.72 2.58 0.72 1年生 2.35 0.61 2.27 0.65 2.30 0.64 2年生 2.38 0.62 2.29 0.63 2.32 0.63 3年生 2.40 0.65 2.32 0.65 2.35 0.65 総和 2.37 0.62 2.29 0.64 2.32 0.64 1年生 2.68 0.61 2.86 0.57 2.80 0.59 2年生 2.85 0.57 2.99 0.57 2.94 0.57 3年生 3.06 0.58 2.85 0.60 2.92 0.60 総和 2.84 0.61 2.90 0.58 2.88 0.59 1年生 2.84 0.77 2.90 0.65 2.88 0.70 2年生 2.89 0.69 2.75 0.71 2.80 0.70 3年生 3.11 0.67 2.83 0.70 2.92 0.70 総和 2.93 0.72 2.83 0.69 2.86 0.70 1年生N

2年生N 3年生N 総和N

注1: ** p < .01, * p < .05

注2: 多重比較については,Tukey法を適用した。

男子 女子 総和

意思決 定の主 体性度

74 自己評

計画立 目標選

情報収

111 384 50

190

学年の主効果 F(2,568)=3.172*

2年生>1年生

交互作用:F(2,568)=5.169**

男子で3年生>1年生  3年生で男子>女子

学年の主効果: F(2,568)=4.821**

2年生>1年生

205 208 161 574 131

142 66

キャリア選択自己効力感尺度とキャリア意思決定との関連を全体,性別,学年に分けて 相関係数からみた結果をTable3-1-3に示す。全参加者を対象としたキャリア意思決定との 関連では,キャリア選択自己効力感尺度の下位尺度すべてと『不決断』,『決定不安』,『逃 避』の3つの下位尺度で0.1%の有意水準で負の相関があった。特に『目標選択』と『不決 断』『決定不安』『逃避』との相関係数は,それぞれ,-.765,-.540,-.528と高く,『計 画立案』と『不決断『決定不安』『逃避』との相関係数は,それぞれ,-.473,-.443,-.435 と中程度に高かった。また,『意思決定の主体性度』と『逃避』で-.475,『自己評価』と『不 決断』で-.434となった。キャリア意思決定の下位尺度の『決定不安』については『目標 選択』と『計画立案』との関連が高かった。『障害不安』では,『目標選択』とのみ正の相 関(.174)があった。『葛藤』とは,『目標選択』と『計画立案』とそれぞれ,-.272,-.108 の負の相関があった。『相談希求』とは『情報収集』を除いたキャリア選択自己効力感尺度 の下位尺度と,-.157から-.246の負の相関があった。『モラトリアムと』は,キャリア選