はじめに
本稿においては、当大学が取り組んでいる 21 世 紀 COE プログラム「市民 主導 型の 健 康 生 成をめざす看護形成拠点」の基盤概念である People-centered Care に関して、 国内外 の文 献を調査した結果をご報告します。ここでは、
People-centered Care モデル化への手がかり として、Rodgers(2000)のアプローチをもと に、1872~2004 年の間に発表された People-centered Care に関する12 文献から導き出され たコア要素について述べます。
People-centered Care が
注目されるようになった歴史的背景
文献調査の結果、近年においては、全世界的 に健康や社会に関連した多様で複雑な問題が増 えており、また、その中でケアを提供する側と 消費する側に役割の変化が生じてきたことが分 かりました。
健康や社会に関連した問題
文献の中では、タンザニアの子供たちにおけ る栄養の問題(Matomora, 1989)、精神障害 者の社会 復帰に伴う問題(Rogers & Palmer, 1994)、カナダの都市が抱える問題(Chalmers
& Bramadat, 1996)、北インド地方の健康問題
(Pandey, Messerschmidt, Braaten, & Eslinger, 1997)など様々な問題が取り上げられていまし た。これらの問題に関して、Matomora(1989)は、
コミュニティの住人が問題を分析し、自分たち 自身で解決策をさがすことの重要性について指 摘しています。Rogers ら(1994)は、消費者 が自身の問題について決定すること、すなわち、
解決すべき社会問題については、消費者がその 必要性を感じ努力しなければならないと述べて います。また、Chalmers ら(1996)は、コミュ ニティの人々が、専門家と同じ視点で問題をと らえるとは限らず、コミュニティの健康に影響を 与えるような問題に関しては、住民自身の参画 が必要だと述べていました。さらに、Matomora
(1989)は、人々が自ら解決すべき問題を引き 出すことによって、それが自己発見につながった り、新たな活動を導くことを論じています。
People-centered Care とは ?
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ケア提供者と消費者の役割変化
Nelson(1993)が、全ての人々は成長の可能 性と個人的な能力を最大限に活用する権利を 持っていると述べているように、現代は人々 がより良いと信じるものを自分で選択し決定す る権利があるという考えが重要視され始めて います。市民参加に着目した研 究(Florin &
Wandersman, 1990)では、例えば、女性運 動や市民権運動などの社会的運動における市民 参加が、社会における重要な問題の解決や政策 に影響を与えることが報告されています。また、
Lutz ら(2000) や Rogers ら(1994) は、 消 費者が受身的であるという従来の医学モデルか ら、消費者の主体性を尊重したモデルへの転換 を提案しています。ケア提供者と消費者の関係 性について、Lutz ら(2000)は、両者の間のパー トナーシップを強調しています。また、Rogers ら(1994)は、研究者や評価者による活動は 孤立して単独に行うことができず、それらの者 から消費者への一方的なコントロールは放棄し なくてはいけないと述べています。看護の分野 において、Gerson(1980)は、ヘルスケアにお ける焦点は患者とその家族であると述べており、
Lutz ら(2000)によると、看護活動の目標とは、
患者の責任と自己決定を支持し強めることであ るといわれています。
以上のことから、現代社会においては、市民が 自ら主体的に健康を守る必要があること、また、
市民は一人一人、自らがヘルスケアに関わる選 択や決定をする権利を持っており、それは尊重 されなければならないものであることが明らか になってきました。そのような歴史的背景から、
People-centered Care という概念は注目される ようになってきたと考えられます。
People-centered Care の定義
既存文献を概観すると、People-centered Care は、看護学・医学・心理学・社会学において、コミュ ニティの発展やヘルスケアの質の向上・健康増 進をもたらすような包括的概念として取り扱われ ていたものの、その概念について明確に定義し た上で論じているものはほとんどありませんでし た。しかし、People-centered Care については、
Community Development の視点から、専門家 ではなく市民が主導となり、コミュニティにおけ る健康や社会に関連した問題を解決していく必 要性が取り上げられ、その文脈の中で用いられ ていることが分かりました。そこで、文章の流 れの中にある意味内容のつながりぐあいから、
People-centered Care の属性、つまり、この概 念のコア要素を抽出することとしました。
市民が自ら主体的に健康を守る必要があり、
自らがヘルスケアに関わる選択や決定をする権利を持つ。
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People-centered Care のコア要素
その結果、People-centered Care のコア要素と して、市民が主体であること、健康増進を目標 としていること、コミュニティとの協働という 3 つの内容が導き出されました。
市民が主体であること
Matomora(1989)は、コミュニティにおける 健康を促進するためには、市民がその中心とな ることを強調していました。同様に、Florin ら
(1990)は、市民が政策などの意思決定プロセ スに参加することの重要性について述べていま した。また、Lutz ら(2000)は、患者が積極 的にヘルスケアに関連した決定や選択に参加す る権利があること、また、そこには責任を伴うこ とを論じています。市民が主体であるということ は、全ての文献に共通して認められた要素でし た。
健康増進を目標としていること
Matomora(1989)、ANA/consumer groups
(1995)、Chalmers ら(1996)は、コミュニティ を基盤としたケアについて、ホスピスに焦点を当 てた Gerson(1980)は、がん患者やその家族
People-centered Care モデル化への手がかり
ができる限り十分に快適に生活できるようなヘ ルスケアについて、Nelson(1993)は、クライ エントの自助技能(self-helping skills)を発展 するためのアプローチについて示し、それらは すべて対象者の健康増進を目標としていました。
コミュニティとの協働
コミュニティとの協働に関しては、各文献におい て様々な方策が示されていました。Chalmers ら
(1996)は、コミュニティにおける健康のために、
グループを組織化して協働的な実践を行う方法 について述べています。また、社会福祉事業に ついて論じた Uehara ら(1996)は、社会変化 を導くためには、専門家とコミュニティの構成員 との反映的で協働的なプロセスが必要であると 報告しています。精神科のリハビリテーションに おいては、異なる権力・地位・影響・言語を持 つ人々が、共通の問題に対して働きかけるよう 調和すること(Rogers & Palmer, 1994)、ホス ピスケアにおいては、患者・家族・医師・看護 師などを含む集学的チームによるケアを提供す ること(Gerson, 1980)が提案されていました。
これらの方策が実現することによって、Brown
(1985)は、コミュニティとの協働が、より大き な政治的・経済的文脈へ関連づけられると論じ ています。
専門家は市民と協働しながら、
より健康を志向できる環境を作りあげることが重要。
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以上の People-centered Care におけるコア要 素から考えると、人々が健康を保持増進し、そ の人らしい質の高い生活を送るためには、個人 はもとよりコミュニティ全体で健康や社会に関連 した問題に取り組むことが必要であると思われ ます。したがって、専門家は市民と協働しながら、
市民がコミュニティにおいてより健康を志向した 取り組みができるような環境を作り上げていくこ とが重要であると考えられました。
おわりに
今回の調査の結果から、People-centered Care という概念は、理論と実践を結びつける重要 な概念であり、市民が自ら主体的に健康を守る ことを基本にした看護実践モデルやシステムを つくり出すために、更に発展させていく必要が あると考えられました。また、わが国における People-centered Care を検討する上では、引き 続き文献検討を重ねながら、日本の文化や医療 現場における風土をも考慮し、この概念につい て探求していく必要があると思われます。
文献
ANA/consumer groups(1985). ANA/consumer groups tackle community health with innovative people-centered pilot programs: if they can do it, we can do it, Nebraska Nurse, 28(1), 12.
Brown, L. D. (1996). People-centered development and participatory research, Harvard Educational Review, 55
(1), 69-75.
Chalmers, K. I. & Bramadat, I. J. (1996). Community development: theoretical and practical issues for community health nursing in Canada, Journal of Advanced Nursing, 24(4), 719-726.
Florin, P. & Wandersman, A. (1990). An introduction to citizen participation, voluntary organizations, and community development: Insights for empowerment through research, American Journal of Community Psychology, 18(1), 41-54.
Gerson, C. K. (2000). Hospice: People-centered Care, American Pharmacy, 20(6), 27-29.
Lutz, B. J. & Bowers, B. J. (2000). Patient-centered care:
understanding its interpretation and implementation in health care, Scholarly Inquiry for Nursing Practice, 14(2), 165-187.
Matomora, M. K. (1989). A people-centered approach to primary health care implementation in Mvumi, Tanzania, Social Science and Medicine, 28(10), 1031-1037.
Nelson, J. R. (1993). Lifeskills helping: Helping others through a systematic people-centered approach, Brooks / Cole Publising Co.
Pandey, S., Messerschmidt, D. A., Braaten, B., & Eslinger, G. (1997). Process evaluation of primary health care project: A mid-term evaluation of a primary health care project in North India, Journal of Community Practice, 4
(3), 1-22.
Rodgers, B. L. (2000). Concept analysis: an evolutionary view, Rodgers, B. L. & Knafl, K. A., Concept development in nursing foundations, techniques and applications
(second edition), 77-102, W.B.Saunders.
Rogers, E. S. & Palmer, E. V. (1994). Participatory action research: implications for research and evaluation in psychiatric rehabilitation, Psychosocial Rehabilitation Journal, 18(2), 3-12.
Uehara, E. S., Sohng, S. S. L.,Bending, R. L., Seyfried, S., Richey, C. A., Morelli, P., Spencer, M., Ortega, D., Keenan, L., & Kanuha, V. (1996). Toward a values-based approach to multicultural social work research, Social Work, 41(6), 613-621.
Van, V. H. (1993). Psychological research in the process of social change: A contribution to community development, Psychology and Developing Societies, 5(1), 95-110.
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今後の方向性と課題
1) COE 活動を目に見えるように いかに発信するか
COE の事業は、市民が主役になる医療サービス のあり方を、市民の方々とパートナーシップのも とに模索し、それを多くの人たちの意見を反映 させたものとして実現することをめざしています。
このような活動に対して、人々の関心や意見を 集めることができるようにするには、まず、活動 のめざすところや内容、進み方などを分りやす く、確かな動きとして、つかみやすい形で提示 していくことが求められます。共通して含むべき 項目としては次のようなものがあげられます。
a. 論文
b. プレゼンテーション c. 公共サービス上の活動
d. 研究実践開発センターの利用度‐訪問者数 e. 看護ネットへのアクセス件数
f. 国際駅伝シンポジウムへの参加者数と所属 など‐各セミナーにおいて参加者の性別、
年齢、参加理由などを把握するために簡単 なアンケートを行うと良い。
2) いま、COE のビジョン、使命、
や目的を見直す
事業を 2 年間推進してきた今は、戦略策定のた めの機会を再度もうけ、COE のビジョン、使命、
や目的を見直す時期といえます。COE プログラ ムでは、看護、地域のエンパワメント、健康教 育、地域の活性化、地域との協働、意思決定、
医療政策など非常に広範な分野が焦点に置かれ ており、その重要性については、よくわかるが、
何をめざしているかが、まだ少しわかりにくいも のになっています。COE をさらに実り多いプログ ラムにするためには、社会学的、組織論的なア プローチを視野に置きながら、具体論に踏み込 むことが必要と思われます。そのためにも、多 岐にわたるプログラムの分野を束ねて、目標を 明確に定義する魅力的で分かりやすい「キー ワード」を導き出すことも必要です。ビジョンを 反映するような「キーワード」「統一テーマ」を 一般の人々にもわかるように導き出し、広く宣伝 していくことがまず必要と考えます。
駅伝シンポジウムのテーマに掲げたような「考 えよう医療と看護 : あなたも医療チームの一員」
「医療の選択 : 自分で決めた生き方を実践するた めに」といったメッセージも効果的と思われま す。また、プログラムのめざす統一テーマをよ りわかりやすく、「市民が主役になる医療・ケア」
「Nursing: A Resource for People Centered Care or Caring for the Community(看護 : 市 民中心型ケアのための資源)」などと表すことも できる。