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少量の石炭の低温酸化挙動

ドキュメント内 内 田 宗 宏 (ページ 45-66)

3.1 緒言

これまでに述べたように、高炉法で銑鉄を生産する限り1) 熱源、2) 還元剤、3) スペーサ ーとしての役割を担うコークスは必須である。特に高炉の高位安定生産を継続するためには炉 内で粉化をしない高い物理的強度をもつコークスが要求され、このようなコークスを製造する ためには高品位なコークス用原料炭が重要となる。一方、石炭埋蔵量に対するコークス用原料 炭埋蔵量の少なさ、世界的な原料炭需要の高まりおよび資源ナショナリズムの台頭等に起因す る原料炭の安定確保のリスク回避のため、非微粘結炭のような劣質な石炭の使用比率増加と利 用可能資源拡大を模索することは重要である。

石炭は常温でも空気中の酸素と反応する。特に石炭中に含酸素官能基を多く含む劣質な石炭 ほど酸素と反応し易く、発生した反応熱により酸化が促進されることによる自然発火現象につ いての報告は多い1, 2)。また、酸素含有量の多い石炭ほど発熱量が大きくなる傾向にある3,4)た め、数万トン規模の石炭を貯蔵して管理しなくてはならないコークス製造工程では、石炭低温 酸化発熱に対する理解が重要である。

石炭の低温酸化発熱への対策を講じるにあたり石炭の低温酸化反応メカニズムを理解する ことは、反応の影響因子を特定することに繋がるため重要な項目と考えている。酸化反応メカ ニズムに関する研究は多く行われている。例えば、Liottaら5)は瀝青炭を56日間大気中に曝 したときの酸素含有量の変化を測定し、酸素含有量が約2 %増加したことを、Cronauerら6)

は125~200℃の瀝青炭の空気酸化によって試料の重量が増加したことを報告している。また、

IssacsとLiotta7)は亜瀝青炭の大気温度条件下での酸化機構には過酸化物の分解が重要である

と報告している。さらに、Rhoadsら8)は瀝青炭の酸化において、脂肪族炭素の減少とカルボ ニル基およびカルボキシル基が増加することを報告している。しかし、これらの研究の多くは 酸化前後の変化を明確に捉えられるように、酸化を受けやすいがコークス用原料炭としては利 用されていない亜瀝青炭を試料に用いたケースや、瀝青炭を100℃以上の高い雰囲気温度条件

または100℃以下の低温で数ヶ月間の長時間をかけて十分に酸化させたケースが多い。石炭の

酸化は低温においても緩やかに進行することが報告9, 10)されているので、酸化発熱現象を十分

に理解するためには、100℃以下の低温域において、酸化反応の初期段階における石炭の酸化 反応挙動を解析することが重要である。反応過程における分子の動態を的確に追跡できる方法 の一つに反応物に安定同位体を用いた試験方法がある。酸化過程における生成物の挙動を詳細 に検討するため同位体酸素 (18O2) および水 (H218O) を使用した研究11-13)の研究報告例は僅少 である。

そこで、本章では石炭低温酸化の反応メカニズムを検討するため2章で作成した試験装置を 用いて反応物である酸素に同位体酸素 (18O2) を使用し、40℃から80℃までの温度における石 炭の比較的短期間 (1日から4日間) の酸化試験を実施し、同位体酸素を含む生成ガス量から 酸素の挙動について検討し、低温における石炭の酸化反応機構を解明することを目的とした。

3.2 実験

3.2.1 石炭試料

本研究では、鉄鋼業で使用されている石炭のうち劣質な部類に属し、2章でも使用したP炭 を実験試料に使用した。使用した石炭の性状を表3-1に示す。P炭を粉砕機で粉砕し、粒子 径が0.1~1 mmとなるように調整して試験に供した。

表3-1 使用石炭性状

CSN H/C O/C

ASH VM C H N diff.O S 合計

wt.%,dry wt.%,dry d.a.f % d.a.f % d.a.f % d.a.f % d.a.f %

P炭 5.8 43.6 78.1 5.5 1.9 13.9 0.6 100.0 1.0 0.840 0.134 元素分析

試料名

工業分析

3.2.2 試料調整方法

試験には2章で使用したバッチ式試験装置を用いた。試験で使用するガラス容器は、容器内 の湿気を除くことを目的として、容器内にシリカゲルを充填し、130℃に温度設定した恒温器 内で事前に空焼き乾燥したものを使用した。

試料で使用した石炭の試験装置への装填は、2章に記載した方法と同様に、乾燥窒素ガス流 通下のグローブボックス内で全て行った。本章での試験は、試験のバラつきを抑えつつ単位試 料量に対する酸素量の割合を最大にするため、使用する試料量は10.0 gに設定した。

試料を装入した後に、ガラス容器を振とうすることで石炭充填層内に残存している酸素を無 くし、これを窒素ガスで容器内を十分に置換した。異なる雰囲気温度で容器を密栓した場合に は、容器内のガスの物質量が試験毎に変化してしまう。そこで、本試験では容器内のガスの物 質量を統一させるため、上述の専用ヘッドによる密栓は全て容器内の雰囲気温度を測温しなが ら、標準環境温度の25℃になった時点で密栓した。

3.2.3 酸素および同位体酸素 (

18O2)

注入方法

密栓した試験装置をグローブボックスから取り出しシリンジで試験ガスの注入を行った。ガ スの注入は以下の手順で行った。まず、装置の分枝にデジタルマノメーター (GLサイエンス

製、PM-222) を刺し、マノメーターの絶対圧力値を注視しながら、反対の分枝から装置内の

窒素ガスのうち20 vol%分をシリンジで吸引した。次に、吸引した窒素ガスと等量の酸素また は同位体酸素 (18O2:昭光サイエンス(株)製 純度98.0 %以上) を注入し、系内の圧力が窒素ガ ス吸引前の絶対圧力値と等しくなるようにした。酸素または同位体酸素を注入した時点を試験 開始とした。試験開始と同時に圧力記録ヘッドで装置内雰囲気の圧力測定も開始した。その後、

装置を試験温度に設定した送風型恒温器内で直ちに静置した。試験温度は、40℃、60℃および

80℃で行った。試験時間は、1 ~ 4日間とした。

3.2.4 ガス分析方法 (TOF-MS)

密栓試験時間経過後、恒温器内から試験装置を取り出し、分枝セプタム部からサンプルロッ ク式シリンジ (内容積:2.5 mL) で装置内雰囲気のガスを吸引し、発生ガスの分析を行った。

発生ガスの分析にはマルチターン型飛行時間型質量分析装置 (TOF-MS:Time of flight – Mass Spectrometer、MSI.TOKYO製) を用い、成分の定性分析および定量分析をした。

図3-1にマルチターンTOF-MSの概念図を示す14)。本分析装置は、イオン源から検出器 までの飛行軌道を8の字軌道にすることで、イオンを同一飛行空間内で複数回周回させること が可能となっている。すなわち、イオンを任意に長距離飛行させることが可能であり、これに よって高い質量分解能を達成できる質量分析法である。

図3-1 マルチターンTOF-MS原理概念図14)

本試験では、EI (Electron ionization) 電圧値を70 Vとし、飛行空間の周回数を30ターン (飛

行距離 約8 m) に固定して測定を行った。分解能は、本試験条件で最もスペクトルが近接する、

m/z = 28のCO (m/z = 27.99491) とN2 (m/z = 28.00615) の実測値で、⊿m = 0.00295であり、

質量分解能は約10000 (FWHM = m/⊿m) であった。

図3-2に実測値の一例を示す。COとN2の質量数から必要とされる分解能R = CO質量数 / (N2質量数 – CO質量数) は約2500であるため、本試験の発生ガス分析は十分な分解能をも

って測定できたと考えている。また、図3-3にCOガスおよびCO2ガス濃度を変化させた させたときのガス濃度に対する信号強度の変化を示す。COおよびCO2が濃度 10 ~ 5000 ppmまで高い直線性を示した。これらのことから、本分析装置の検出限界値が10 ppmであ ること、そして、この装置が本試験条件下で発生するガスを定量的に計測できる能力を持つ ことを示している。

図3-2 TOF-MSを用いたガス測定結果事例

図3-3 CO, CO2測定時のガス濃度に対する信号強度 (検量線)

3.3 結果と考察

3.3.1 酸素消費と

CO, CO2

の生成挙動

図3-4に試験期間中の各試験温度でのバッチ式試験装置内の圧力推移と、試験温度を60℃

に設定したときの装置内の酸素濃度の変化を示す。すべての試験温度において試験開始ととも に圧力が低下した。圧力変化の挙動は試験温度によって異なり、試験温度40℃および60℃で は、試験期間中、緩やかな低下傾向を継続して示したが、80℃では試験開始2日後にはその傾 向が無くなり、その後はほぼ一定の圧力で推移した。試験初期の圧力低下の挙動に着目をする と、試験温度が高いほど圧力低下が顕著である。

図3-4 バッチ式試験装置内の圧力推移および60℃での装置内の酸素濃度変化

図3-5に試験開始から1日、2日、3日および4日経過した時点のCOおよびCO2発生量 を示す。時間の経過にともないCO、CO2の発生量はともに増加した。40℃および60℃では試 験期間中、CO、CO2の発生量が緩やかに増加しているのに対し、80℃では試験開始から1日 間にCOおよびCO2の多くが放出された。また、2日経過以降のCO発生量は緩やかに増加

図3-5 COおよびCO2発生量推移

し、CO2発生量は漸近傾向を示した。これは、図3-4で見られた圧力低下の推移と傾向が一 致する。このようにCOおよびCO2の発生は、酸素分子との接触後概ね1日で終了しており、

酸素分子が継続的に石炭分子と反応をしてこれらのガスを生成するのではなく、石炭分子にも ともと存在していたCOおよびCO2として脱離しやすい部分がこれらの脱離の源になってい ることを示している。

図3-4において、装置内の酸素濃度変化と圧力変化の挙動が概ね一致していることから、

装置内の圧力低下は酸素の消費によって生じ、さらに、CO、CO2が生成したことより石炭の 酸化反応が進行したと推定した。図3-4の圧力低下量から算出した酸素消費量とCOおよび CO2の生成量を表3-2に示す。

試験中は酸素消費と同時にCOとCO2の生成が生じているため、図3-4の圧力低下には、

この影響が含まれている。そこで、COおよびCO2は(1)式のような反応によって生成したと仮 定して、(2)式を用いて酸素消費量を算出した。

ドキュメント内 内 田 宗 宏 (ページ 45-66)

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