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低温酸化反応に伴うコークス用原料炭の構造変化

ドキュメント内 内 田 宗 宏 (ページ 66-85)

4.1 緒言

石炭が空気中の酸素と接触して生じる酸化反応は電子の授受による石炭表面構造の変化を 伴いながらCO、CO2といったガスを放出する1)。この反応は発熱反応なので、大気中で石炭を 山積みしたときに蓄熱と放熱のバランスが蓄熱側に偏った場合には、自然発火という現象をも

たらす2, 3)。発火の要因となる石炭の低温酸化反応は石炭産出国では炭鉱の操業リスクと認識さ

れており、これに関する研究が行われている。例えば、酸化過程を議論するために、TG-DTA 等の装置を活用した重量変化4, 5)、熱物性変化6,7)およびガス生成物8)の研究が行われている。本 論文では、石炭の低温酸化反応メカニズムに対する理解深化のため、3章までは反応のガスに 着目をして研究を進めてきた。3章で述べたように、低温における石炭の酸化は微小であるが 主に石炭表層部で生じていると考えられ、石炭表面を詳細に分析することで酸化による官能基 の生成といった石炭の表面構造変化を捉えらえる可能性がある。3章で明らかにしたガス分析 の結果を、石炭基質の変化と組み合わせることで石炭低温酸化反応メカニズム解明への手がか りが得られる。本章では、酸化反応が石炭の構造に及ぼす変化に着目して研究をおこなった。

石炭の酸化は石炭粒子表面から進行するため9)、酸化化合物の生成を確認する目的で赤外分 光法 (IR)10,11)、X線光電子分光法 (XPS)12)、バルク石炭の構造変化を知る目的で核磁気共鳴法

(NMR)13)などの分析手法を用いた石炭の構造解析が行われている。さらに、酸化過程における

酸素の挙動を詳細に検討するため、同位体酸素を使用した研究 14,15)も行われている。しかし、

これらの研究の多くは亜瀝青炭や十分に酸化を受けた瀝青炭を対象としている。例えば、

Clemensらは30~180℃で5~130 h 16)、Guanghengらは125℃で14日間に及ぶ瀝青炭の酸 化試験を実施17)し、IRによる官能基の変化を評価している。このように、酸化条件は100℃

以上の高温状態での反応または100℃以下の低温状態で数日間から数カ月間といった長期間で の反応である場合が多い。また、石炭試料量に着目をすると、Clemensらは1.5 gの少量試料 で酸化試験を行ない、Guanghengらは50 gの試料を用いているが、試料をパレット (250 mm

×200 mm) 上に広げた状態で酸化試験を行なっている。過去に実施された多くの試験は、少 量試料または薄層条件下で行われているが、少量または薄層条件下の酸化試験では雰囲気への

放熱が多くなり、石炭塔のような貯炭槽内の積層状態で起きている酸化反応とは異なる状況に なっている。筆者は、石炭の酸化発熱現象に伴う発熱挙動が同じ温度条件下でも積層によって 変化することから、積層によって生じる放熱量の違いがこの変化をもたらすことを報告してい る18)。実際の産業利用を考慮した場合、石炭は積層状態で保管されているので、石炭の発熱特 性を評価するためには、酸化反応によって生じた反応熱が雰囲気へ放熱され難い積層(充填層) 状態で試験を行うことが必須であると考えている。

全ての石炭の酸化は低温においても緩やかに進行する19,20)。低温での初期段階における石炭 の微小な構造変化を検出し、解析することは、石炭の酸化発熱現象の理解を深めることになる。

そこで本章では、コークス製造用に使用している配合炭を充填層状態で低温、および高温で酸 化した試料に対して種々の機器分析 (X線回折法(XRD)、レーザーラマン分光法、フーリエ変 換赤外分光法 (FTIR)、固体核磁気共鳴法 (固体NMR))を用いてその構造変化を捉えること を目的とした。

4.2 実験方法

4.2.1 試料調製方法

実験には2種類の試料(低温酸化試料,高温酸化試料)を以下の手順で調製した。なお、高温 酸化試料は、低温酸化試料が継続した酸化によって高温の熱履歴を受けた場合の極端な構造変 化を把握するための比較試料として調製した。

低温酸化試料は、実際のコークス炉操業で使用した配合炭 (2章、3章で使用したP炭、Q 炭も任意割合で配合) 約50 g (平均粒子径3 mm) をSUS製の容器 (φ50 mm×h50 mm) 内 に大気下積層充填し、これを80℃に設定した大気雰囲気の送風型恒温機内で24 h静置する ことで得た。このときの石炭充填密度は約0.8 g / cm3であり、試料歩留りはほぼ100 %であ った。容器の上部は開放されているため、系内は自然対流状態にあり、石炭充填層への酸素 供給は主として表層から起こる。調製した試料の内、約40 gを工業分析、元素分析用の試料 とし、残りをその他機器分析用試料とした。

高温酸化試料は、同上の配合炭を原料として、蓋のない SUS 製の円筒容器 (ペール缶、寸

法:φ300 mm、h200 mm) を用いて調製した。缶内の底面に断熱材(新日本サーマルセラミッ クス (株) 製 寸法:φ300 mm、高さ50 mm) を敷き、その上に約5 kgの粉砕した石炭試料

(平均粒子径3 mm) を高さが100 mmになるように充填した。石炭試料を充填後、表層から深

さ60 mmの中心部に熱電対を配置し、試験中の石炭充填層内の温度を測定した。石炭試料を

充填したペール缶を送風型恒温器内に静置し、室温から試験開始温度 (80℃) までの昇温期間 中は石炭試料の酸化を防止するため、系内を窒素雰囲気に置換した。石炭充填層内の温度が

80℃に到達した状態で送風型恒温器内の雰囲気を窒素から空気 (湿分:大気湿度) へ切り替え、

その時点を試験開始とした。空気置換後の系内は自然対流状態であり、石炭充填層への主な酸 素供給は表層より行われる。試験開始後に送風型恒温器上部から排気される排ガスは、堀場製 作所製ポータブルガス分析計PG330を用いて測定した。

図4-1に石炭充填層内の温度推移を示す。充填層内の温度は、試験開始1 日後には85℃

まで緩やかに達し、その後、急激な温度上昇に転じた。これは、雰囲気温度 80℃の低温でも 石炭の酸化反応が進行し、少なくとも試験開始1日後には充填層内の温度が上昇したことを示 している。このことは上記の条件下において、酸化反応が進行していることを示している。

試験開始後、石炭充填層内の温度が 300 ℃以上になった時点で円筒容器を水冷し、室温冷 却後石炭試料を回収し、高温酸化試料とした。後述の工業分析値より、試料歩留りは80%以上 と推定される。

図4-1 石炭充填層内温度推移

4.2.2 工業分析および元素分析値

表4-1に工業分析および元素分析の結果を示す。工業分析および元素分析結果からは、配 合炭と低温酸化試料の間に明確な差異は見られなかった。一方、高温酸化炭では,工業分析値 および元素分析値に大きな変化が認められた。揮発分は配合炭の26.9 mass% (dry) に対し,

8.1 mass% (dry) へと減少した。また、元素分析結果より、炭素が87.4 mass% (d.a.f.) から 89.4 mass% (d.a.f.) に増加し、水素が4.9 mass% (d.a.f.) から1.9 mass% (d.a.f.) に減少した ことが分かる。高温酸化試料に見られるこれらの変化は、この試料が300℃以上の高温履歴を 受けることで引き起こされたものである。

表4-1 試験試料性状分析値

4.2.3 試料分析方法

4.2.3.1

X

線回析 (XRD)

XRD の測定には(株)リガク製の X 線回折装置 UltimaⅢを用い、X 線源には Cu-Kα

(0.15418 nm) を使用した。XRD のパターン解析には、炭素材料解析ソフトウェア Carbon

Analyzer FE2011を使用した。なお、配合炭と低温酸化試料の測定に当たっては、構造変化の

差異が微小であると想定される。回折角の校正と装置定数補正を行ない差異を正確に捉えるた めに内部標準物質 (Si) を添加した。

測定によって得られた回折線のピークプロファイルに対して、学振法 (JIS R7651) に基づ きローレンツ因子 (L)、偏光因子 (P)、吸収因子 (A)および炭素の原子散乱因子 (fc) に関する

工業分析値 H/C O/C

VM C H N O S

mass%,dry d.a.f % d.a.f % d.a.f % d.a.f % d.a.f %

配合炭 (ベース条件) 26.9 87.4 4.9 1.7 5.5 0.5 0.672 0.047

低温酸化試料 26.9 87.3 5.0 1.7 5.5 0.5 0.678 0.048

高温酸化試料 8.1 89.4 1.9 1.9 6.2 0.6 0.253 0.052 元素分析値

試料名

補正を行い、補正強度を求めた。強度補正した回折ピークプロファイルから半価幅 (β) を求 め、(1) 式のScherrer式に代入することで結晶子の大きさ (Lc) を決定した。形状因子 (K) は 1.00とした。

Lc = Kλ / βcosθ ・・・(1)

(Lc : 結晶子の大きさ, K : 形状因子, λ : Cu-Kα線の波長, β: 半価幅, θ : 回折角度)

4.2.3.2 レーザーラマン分光

ラマンスペクトルの測定には日本分光(株)製NRS-7100型を使用した。励起光には波長532 nmのレーザーを用いた。得られたスペクトルに対し、960~2000 cm-1の範囲でベースライン を補正した。実測されたスペクトルは、理想的なグラファイト構造と帰属されるG成分と非晶 質構造と帰属されるD1、D2、D3およびD4の5つの成分21)から成ると仮定し、フィッティ ングを行った。

フィッティングは以下の手順で行った。まず、各成分のピーク位置と半値幅を適宜指定した。

そのうち、非晶質由来のD3成分の波形 (ガウス関数)とピーク位置 (1517cm-1) は固定した。

その他の成分ピークは、波形処理とピーク位置を固定せず、フォークト関数を用いた。これら D1 ~ D4およびG成分の5成分から合成したスペクトルと実測されたスペクトルとの差分が 最小となるように、スペクトルフィッティングを行った。

4.2.3.3 フーリエ変換赤外吸光分析 (FTIR)

IRスペクトルの測定には、日本分光(株)製FT/IR-6100型で測定し、KBr錠剤法にて試 料を作製した。分解能4 cm-1、積算回数80回で測定した。

4.2.3.4 固体

13C

核磁気共鳴 (NMR) および固体

1H NMR

固体13C NMRおよび固体1H NMRスペクトルの測定は、Agilent製のINOVA-500分光

計により、11.7 Tの静磁場強度下で測定した。13Cおよび1Hの共鳴周波数はそれぞれ125.69 MHzおよび499.86 MHzであった。試料回転数は、20 kHz (13C) および58 kHz (1H) に設定

し、固体13C NMRスペクトル測定の積算回数は900~2400回、固体H NMRスペクトルの

積算回数は128回に設定した。固体13C NMRのパルスシーケンスはスピンエコー法を用いた。

固体 1H NMR ではプローブ由来のバックグラウンドを消去するため、シングルパルス法に

DEPTH法22)を組み合わせたパルスシーケンスを使用した。

4.3 試験結果

4.3.1

XRD

測定

石炭は加熱によってその結晶性の変化することが知られている23,24)。そこで、両試料の結晶 子サイズ変化を評価するためにXRDを測定した。図4-2に配合炭、低温酸化試料および高 温酸化試料のXRDプロファイルを示す。配合炭(ベース)と低温酸化試料のXRDプロファイル

には、2= 28°および高角領域に幾つかのピークを確認できる。これは内部標準試料のSiに由

来するピークである。

配合炭と低温酸化試料のXRDパターンには明確な差異が見られなかった。これに対し、高 温酸化試料では, 2 = 10°~33°のピークがシャープになっていること、2 = 12°、 20°およ

び 25°にみられるカオリン由来のピークが減少していること,2 = 29°にみられるCaCO3

ピーク強度が若干低下していることである。これらの観察事実は,300℃以上の加熱によって カオリンの脱水およびCaCO3の脱炭酸が生じたことを示している。500℃の高温で無機物の脱 水や脱炭酸が生じることは知られており25)、XRDで得られた結果はこの知見と一致している。

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