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第 4 章 韓国 の福祉政 策とジェンダ ーエクイ ティ

1. 研究課題 と構成

2.2 少子高齢化

1990 年代末の大量失業と貧困問題への対処として韓国政府は、所得保障を中心とした社 会保障制度を整備し、雇用の創出・拡大を実現するための雇用保障政策を推進した。とこ ろが 2000 年代に入り、韓国社会は、非常に速いスピードで進行する少子高齢化という新た な社会問題に直面する。出生率が急速に低下するなかで、平均寿命49は猛スピードで世界 トップレベルに延び(図表 4-4 参照)、65 歳以上の高齢者人口の総人口に占める割合(高 齢化率)は予想を超えるスピードで進行している。

図表 4-4 平均寿命の国際比較

49 平均寿命は、一定期間の死亡率が今後とも同じであると仮定し、ゼロ歳の人が平均してあと 何年生きるかを表した、ゼロ歳の平均余命のことをいう。

国 年 平均寿命 延伸 平均寿命 延伸

2016 87.1 81

2000 84.6 77.7

2015 86.2 79

2000 79.7 72.4

2015 85.4 79.3

2000 82.7 75

2015 84.8 80.5

2000 82.4 76.3

2015 84.8 80.9

2000 82.2 76.7

2015 84 80.7

2000 81.9 77.3

2015 83 79.4

2000 80.1 75.3

2015 81.6 76.9

2000 79.5 74

アメリカ 2.1 2.9

資料:WHO「Life tables」、韓国統計庁「完全生命表」、日本厚生労働省 「平成28年簡易生命表の概況」により作成。

スウェーデン

2.1 3.4

イギリス 2.9 4.1

イタリア 2.4 4.2

オーストラリア

2.6 4.2

韓国 6.5 6.6

フランス 2.7 4.3

 (単位:年)

女 男

日本 2.5 3.3

52 図表 4-5 より、高齢化率の推移を確認してみよう。ちなみに国連(United Nations)は、

高齢化率が 7%を超えると「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」、20%を超えると

「超高齢社会」と区分している。韓国は 2000 年に、高齢化率が 7.3%に達し、「高齢化社 会」に突入した。

韓国の高齢化のスピードは、世界でもっとも速いとされていた日本のそれよりも速く、

「高齢化社会」に進入してから 17 年経った 2017 年 8 月現在50、韓国の高齢化率は 14.0%

を超えている。2006 年の韓国統計庁の「将来人口推計結果」によれば、韓国は、2018 年 に「高齢社会」に到達し、2026 年に「超高齢社会」になると予想された。しかし、実際に は予想より 1 年速く「高齢社会」に到達し、「超高齢社会」となるに要する期間も短縮さ れる恐れがある。図表 4-6 より、主要国における高齢化率の 7%から 14%になるまでに 要した期間を比較しても、韓国の高齢化のスピードが非常に高いことがわかる。例えば、

「高齢化社会」から「高齢社会」への到達に要した期間は、日本が 24 年、ドイツとイギ リスがそれぞれ 40 年と 46 年、アメリカが 72 年、フランスはもっとも長い 115 年かかっ たのに対し、韓国はわずか 17 年で到達したのである。

50 韓国行政安全部「報道資料:2017 年 8 月末住民登録人口数」(2017 年 9 月 3 日)による。

53 図表 4-5 韓国における高齢化の推移および将来推計(1960 年~2065 年)

資料:韓国統計庁「2016 高齢者統計」及び「将来人口推計:2015~2065」より筆者作成。

54 図表 4-6 主要諸国における高齢化の状況

資料:国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集」(2017 年)より筆者作成。

注)1950 年以前は UN, The Aging of Population and 1st Economic and Social Implications(Population Studies, No. 26, 1956)およびD emographic yearbook, 1950 年以降は UN, World Population Prospects: The 2015 Revision(中位推計)による。ただし、日本は総務 省統計局「国勢調査」および「人口推計」に、韓国は統計庁「2016 高齢者統計」及び「将来人口推計:2015~2065」による。

高齢化社会 高齢社会 超高齢社会

1900 2040 (年)

2027 1975

1929

1970 1994 2005

17年

24年 11年

2026 2017

9年 2000

1932 1972 2008

2002

36年 40年

9年 23年

2034 2025

アメリカ スウェーデン フランス 韓国 日本 中国 ドイツ イギリス イタリア

1980 2000 2020

20年 61年

14年 72年

44年 85年

2028 2016

2018

115年 39年

46年 52年

1927 1988 2008

2014 1942

1887

1864 1979

1972

1860 1880 1920 1940 1960

55 韓国の高齢化 率の急激 な上昇の背景 に、平均 寿命の延びの ほかに、 出生率の 低下がある。図 表 4- 7 より、韓国の出 生数 および合計特 殊出生率 の推移を 確認 してみよう。 生まれた 子どもの数( 出生数) は、 2002 年に 49 万 2 千人に まで 減ってから 、40 万人 台にとどまっ て いる 。また 、合 計特殊出 生率 は 、2000 年代 に入って 1.50 を切り 、2005 年に 1.08 と最 低記録を更新 し、2010 年代に 入ると 1.2 前後で横ば い状態 が続いている 。

図 表 4- 7 出 生 数 及 び 合 計 特 殊 出 生 率 の 推 移

資 料:韓 国 統 計 庁『 2016 年 人 口 動 態 統 計 年 報( 総 括・出 生・死 亡 編 )』よ り 筆 者 作 成 。

注 1) 合 計 特 殊 出 生 率 は 、 15~ 49 歳 ま で の 女 性 の 年 齢 別 に お け る 出 生 率 を 合 計 し た も の で 、 一 人 の 女 性 が 一 生 の 間 に 産 む 子 ど も の 平 均 数 を 示 す 指 標 で あ る 。

このような少 子高齢化 の急速な進展 は、将来 の生産 年齢人 口の減少 や人口構 造の変化に伴 う 扶養 負 担の増大など 、幅広い 社会問題を引 き起こし かねない。

韓国政府は国 家戦略と して「仕事と 家庭の両 立」 を掲げ、 とりわけ 女性の労働 力率を引き上 げること で 、生産年齢 人口 を確 保するととも に、出生 率の上昇 や 育児・介護な どに関わ る ケア・サー ビス を拡 充するなど、 膨大な予 算を投入し

4.53

3.43

2.82

1.66 1.57 1.63 1.47

1.08 1.23 1.24 1.17

0.00 1.00 2.00 3.00 4.00 5.00

0 200 400 600 800 1000 1200

1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2016 (年)

(%)

(千人)

出生数 合計特殊出生率 注1)

56 ながら積極的 に 少子 高 齢化対策に取 り組ん で きた。だが、 出生率の 低迷 と女性 労働力率の推 移を見る 限り、 その結 果は限定 的なものであ ったとい わざるをえ ない。

2.3 「 生産 的 福祉 」

1997 年代末の経済 危 機後 の韓国に おいて、古い社会的リ スクとさ れる 大量失 業や貧困と、 新しい社 会的リスクと される 少 子高齢化 問題 とがほぼ 同時に発生 し、しかも非 常なスピ ードで進展し たこと を 確認したが、 これらの 社会的リス クへの韓国政 府の対処 は、 雇用と福 祉 とを連 携 させる、い わゆる 「 生産的福祉

(DJ Welfarism)」政 策 を展開する こと であ った。「生産的 福祉」と いう 考えは、

金大中(キム ・デジュ ン :1998 年 2 月 25 日 ~2003 年 2 月 24 日) 元大統領が 、 1999 年の「 新年辞」においてはじ めて公式 的に提示した もの51で、同年 8 月 15 日の「光復 節慶祝辞 」には、「 生産的福 祉」は、「民 主主義 」、「市 場経済の発展 」 とともに国政 基本理念 の三位一体を なす新し い理念と され た。

「 [… … ]絶 対 多 数 の 国 民 が 中 産 階 層 に な れ る よ う 努 め ま す 。 中 産 階 層 の 育 成 と 庶 民 生 活 向 上 を 目 標 に 、人 間 開 発 中 心 の 生 産 的 福 祉. . . . .

政 策 を 積 極 的 に 展 開 し て ま い り ま す 。国 民 基 礎 生 活 保 障 法 が 国 会 を 通 過 し ま し た 。こ れ か ら 、最 低 生 計 費 以 下 の す べ て の 困 っ て い る 国 民 に 、生 計 、教 育 、医 療 な ど 、基 本 生 活 を 制 度 的 に 保 証 す る こ と が で き る よ う に な り ま し た 。[… … ]医 療 保 険 、雇 用 保 険 、国 民 年 金 、労 災 保 険 な ど 4 大 保 険 制 度 を 内 実 化 し て 国 民 が 一 生 、安 心 し て 生 活 し て い け る よ う に 社 会 保 障 制 度 を 確 立 し ま す [… … ]」( 金 大 中 元 大 統 領 光 復 節 慶 祝 辞 、 1999 年 8 月 15 日 )( 傍 点 筆 者 )

51「 生 産 的 福 祉 」 と い う 言 葉 が 初 め て 提 示 さ れ た の は 、 金 大 中 元 大 統 領 の 1999 年

「 新 年 辞 」に お い て で あ る が 、そ れ は 、金 大 中 が 1969 年 に 主 唱 し た「 大 衆 経 済 論 」(『 新 東 亜 』 , 1969 年 11 月 ) に 内 在 し て い る 福 祉 哲 学 を 具 体 化 し た も の で あ る 。金大中の「 大 衆 経 済 論 」は「 大 企 業 を 中 心 と し た 権 威 主 義 的 な 経 済 開 発 成 長 政 策 に 対 す る 対 案 モ デ ル 」 で あ る 。「 大 衆 経 済 論 」 と は 、「 社 会 の 実 質 的 な 生 産 力 で あ る 労 働 大 衆 の 知 恵 と 能 力 を 最 大 限 に 発 揮 す る と 同 時 に 、 彼 ら の 福 祉 を

『 制 度 的 に 』、そ し て『 事 前 的 に 』保 障 す る 経 済 シ ス テ ム を 形 成 し 、彼 ら の 権 益 を 永 続 的 に 保 障 ・ 拡 大 す る 経 済 政 策 」 で あ る (Yang, 2017:231-232)。

57 大統領秘書室 生活の質 向上企画団(以下 、企 画団)(2002:19)によ れば、「生 産的福祉 」論の基礎 を なすの は 、「人 権と市 民権としての 福祉 」、「 仕事を通じて の 福 祉 」、「 社 会 的 連 帯 と し て の 福 祉 」52で あ る 。 す な わ ち 、「 生 産 的 福 祉 」 は 、

「過去の成 長主義が 招 いた人権軽 視と福祉 最 小化の弊害 を是正し 、 成長と分配 の均衡を追 求する新 し い社会発展 戦略」で あ り、すべて の国民が 人 間としての 尊 厳 を 維 持 で き る 、「 基 礎 的 な 生 活 を 保 障 す る と 同 時 に 自 立 的 か つ 主 体 的 に 経 済・社会活動に 参加で きる機会を拡 大し、分 配の公平性を 高めるこ とによって、

生活の質(QOL)を向 上させ、社 会発展を 追 求する国政 理念」で あ る (企画団, 1999:33)。

金大中政権が 「生産的 福祉」 理念の もとで実 行 に移した福 祉制度改 革 の内容 は、大別して 三つにま とめられる。 第一は、 国民基礎生活 保障制度 の 実施であ る。毎年、政 府 が発表 する公式的な 貧困線を 基準にして、 労働能力 の有無にか かわらず、す べての国 民 の最低生活 を権利と して 保障する 。第二は 、 四大社会 保険制度の拡 充および 内実化 である 。 社会保 険の 適用対象 の普遍化 と 制度構想 における社会 連帯およ び社会統合の 原則 の採 用で、社会安 全網 の基 礎 を構築す る。第三に、 社会福祉 サービス を拡 充し生活 の質 を高める ことであ る (イ, 20 06:61-62)。

金大中政権は 、社会保 障 制度の拡充 および社 会 福祉サービ スの拡大 によって 社会安全網の 構築を 図 りつつ、その 具体的な 内容において 、雇用と 強く連携し たワークフェ ア政策を 展開しようと し た。ま た、 経済危機 後の 国家 財政 の逼迫 のなかで、よ り普遍的 な制度へ の転 換と、給 付水準の抑制 および自 己負担の拡 大 が 同 時 に 進 め ら れ た53。 例 え ば 、 社 会 保 障 の 基 本 的 枠 組 み は 、 自 助 を 基 本 的 な仕組みとす る 4 大社 会保険の適用 範囲 の拡 大 に重みが置 かれたし 、 2000 年 1 0 月から施行 された「 国民基礎生活 保障法」 は、すべての 国民をそ の対象とす

52 株 本(2009:19)は 、「 生 産 的 福 祉 」理 念 が 、「 人 権 と 市 民 権 と し て の 福 祉 」の 脱 商 品 化 的 な 志 向 と 、「 仕 事 を 通 じ て の 福 祉 」の( 再 )商 品 化 的 な 志 向 と の 矛 盾 を 抱 え て い る こ と を 指 摘 し 、そ れ は 、「 福 祉 国 家 に お け る 最 低 限 の 権 利 を 保 障 す る こ と と 、 先 進 福 祉 国 家 で 新 し い 経 済 ・ 社 会 構 造 に 対 応 す る た め に 既 に 実 行 さ れ て い る ワ ー ク フ ェ ア に よ っ て 人 的 資 本 を 育 成 す る こ と の 両 方 の 実 現 が 求 め ら れ て い る 」 韓 国 の 現 状 を 表 し て い る と 主 張 し た 。

53 宮 本(2008:144)に よ れ ば 、福 祉 レ ジ ー ム 再 編 の 基 底 に は 二 つ の 流 れ 、す な わ ち 、 第 一 に 、 財 政 の 逼 迫 を 強 調 し 、 給 付 水 準 の 抑 制 と 自 己 負 担 の 拡 大 を 進 め る