4. 本稿における 日韓語の複合動詞の相違点
4.4. 対義語同士の「並列」複合動詞
本稿における四つ目の相違点は、対義語同士の結合が韓国語では「V+V」型の複 合動詞として実現されるのに対して、日本語では「N+N」型の複合名詞として実現される
という点である。(14)に幾つかの例を挙げて確認する。 (14)a. 오가다, 여닫다, 사고팔다, 주고받다, … b. 行き来、開け閉め、売り買い、やり取り、… c. *行き来る、*開け閉める、*売り買う、*やり取る、…
日本語の場合は、対義語同士の結合が品詞としては名詞になるので、動詞としての機 能を確保するためには、軽動詞「する」の助けを借りて、(15a)のようにする必要がある。
(15)a. 行き来する、開け閉めする、売り買いする、やり取りする、… b. ?오가기 하다, ?여닫기 하다, ?사고팔기 하다, ?주고받기 하다, …
一方、韓国語の場合、通常、(15b)のようには言わないのは「より単純な形式で表すべ き意味が実現するとき、より複雑な形式で表すことはできない。但し、相応の理由や効果 がある場合には阻止は除外され得る」という語彙の阻止(lexical blocking)によって適切に 説明することができる。つまり、(14a)の「오가다/여닫다」という単純な形式が(15b)の
「오가기 하다/여닫기 하다」というより複雑な形式を阻止するのである。なお、対義語 同士の結合に関するより詳しいことについては、李(2008)を参照されたい。
4.5. 「を」と「을(를)」による境界部の分離可能性
本稿における五つ目の相違点は、日本語の「を」は複合動詞の境界部を分離すること ができないのに対して、それに対応する韓国語の「을(를)」は複合動詞の境界部を分離 することが可能な場合がある、ということである。 該の要素による境界部の分離可能性を タイプ別に示すと、以下の通りである。
【表3】「を」と「을(를)」による境界部の分離可能性
日本語の複合動詞 韓国語の複合動詞
介在要素無しタイプ できない できない
介在要素有りタイプ できない できる場合がある
具体例を見ながら確認しよう。まず、介在要素無しタイプの場合は、日韓語ともに「を」
と「을(를)」による境界部の分離を許容しない。
(16)a. *押しを倒す(押し倒す)、*叩きを込む(叩き込む)、*食べを始める(食べ始める) b. *오를 가다(오가다), *날을 뛰다(날뛰다), *오르를 내리다(오르내리다)
日本語と韓国語の複合動詞の相違点 -塚本(2009)の相違点の批判的な検討- ··· 李 忠 奎…77
介在要素有りタイプの場合は、日本語は「を」による境界部の分離を許容しないが、 韓国語は「을(를)」による境界部の分離を許容する場合がある。
(17) *打ってを出る(打って出る)、*見てを取る(見て取る)、*やってを来る(やって来る) (18)a. 신호 대기 중 신평에서 비가 얼마나 쏟아붓는지 앞이 안 보여요.
(중략) 비가 비가 그렇게 쏟아를 붓더이다.
b. 말을 하면 잘 알아를 듣든가, 못 알아들으면 그냥 가만히 있든가.
c. 내가 소리 안 지르게 생겼어? 사람이 출근을 하면 쳐다를 보고, 사람이 말을 하면 대꾸를 해야할 것 아냐?
(18)はインターネットでゲットしたものであるが、「介在要素有りタイプ」の複合動詞として 全く問題がないと判断される「쏟아붓다/알아듣다/쳐다보다」が「를」による境界部の 分離を許している。また、(19)の場合は、詩人김종태の「문」という詩から引用したもの であるが、「집어가다/훔쳐가다/빌려가다」における境界部が(18)と同じように「를」
によって分離されている。
(19) 자네에게 특별히 부탁 하나 함세. 가끔씩 아주 굳게 닫아버리는 자네의 마음. 그거 별거 아니니 대충 열어놓게. 누가 집어를 가나 훔쳐를 가나 빌려를 가나. 맘문이 열려야 세상을 보지.
(18)の「쏟아붓다/알아듣다/쳐다보다」に比べて、(19)の「집어가다/훔쳐가다/
빌려가다」の場合は、V2に「가다」という同一の動詞が立っており、「가다」をV2とす る動詞結合は、例えば、「걸어서 가다/걸어서 천천히 가다」から分かるように、検 討無しに「複合動詞」として認定することは注意を要するが、いずれにせよ、「를」による 境界部の分離を許容している。(19)の例は、日本語の方では「取って行く/盗んで行く/借 りて行く」のように訳され、これらは「複合動詞」と分類せず、「句」と処理するのが一般 的であるが、このような場合でも境界部に「を」を挿入にして「*取ってを行く/*盗んでを行 く/*借りてを行く」のようにすることは全くできない。
今まで調べた範囲ではこの相違点を指摘したものは見 たらないが、通常、格助詞と分 類される「を」と「을(를)」が複合動詞の境界部を分離することができるか、という点にお いて相違を見せるということは対照言語学的には非常に興味深い。本稿では、両者による 境界部の分離可能性の可否しか指摘することができなかったが、「을(를)」による境界部 の分離が他の「은(는)」「만」などによる分離より一般的ではない理由、また、 該の 相違点を通して何が言えるのか、などに関してはより綿密な観察と分析を要する。このことに 関しては今後の課題にしたい。
5. まとめ
本稿は、塚本(2009)が指摘した日韓語の複合動詞の相違点について批判的な立場か ら検討し、結果的に同氏の相違点とは異なる相違点を新たに提示したものである。まとめと して、塚本(2009)の相違点と本稿の相違点を以下に示す。
<塚本(2009)の相違点>
①日本語ではV2が自立性を失った複合動詞を比較的多く見出すことができるのに対し て、韓国語にはV2が自立性を失った複合動詞が非常に少ない。
②日本語では統語的複合動詞を用いて表現することができる場合に、韓国語では複合 動詞として成立することが認められない。
③日本語ではV2が様態を表す複合動詞を数多く見出すことができるのに対して、韓国 語ではそういった複合動詞はなくはないが、非常に限られている。
④韓国語における統語的複合動詞が日本語においては「動詞連用形+接続語尾 「て」+動詞」という形式に対応して表現される。
⑤韓国語で複合動詞を用いて表現することができる場合に、日本語では「動詞連用形 +接続語尾「て」+動詞」という形式で表現する必要があるものがかなりの割合で 見受けられる。
⑥両言語ともに複合動詞としては成立するが、V1とV2が両言語でちょうど逆の順序に なっている複合動詞が存在する。
⑦韓国語では語彙的意味が類似した動詞がV1とV2に入っている複合動詞が比較的 に見出されるのに対して、日本語ではそういった複合動詞がなくはないが、非常に限ら れている。
<本稿の相違点>
①日韓語の複合動詞を網羅的に扱うために、V1の形式を「動詞語幹」という概念を適 用して分析した場合、日本語の子音語幹動詞がV1に立つ時だけ登場する「-
i」という特別な母音がある。
②複合動詞の形成に介在する要素が数の違いを見せる。日本語では{-て/-で}
が介在し、韓国語では{-아/-어/-여}{-고}{-아다/-어다}が介在 するので、1対3の相違があることになる。
③日本語の複合動詞は、形態構造上、主に「介在要素無しタイプ」の形で形成され るのに対して、韓国語の複合動詞は、形態構造上、主に「介在要素有りタイプ」の 形で形成され、数という面で分布上における相違が見られる。
日本語と韓国語の複合動詞の相違点 -塚本(2009)の相違点の批判的な検討- ··· 李 忠 奎…79
④対義語同士の結合が韓国語では「V+V」型の複合動詞として実現されるのに対し て、日本語では「N+N」型の複合名詞として実現される。
⑤日本語の「を」は複合動詞の境界部を分離することができないのに対して、それに対 応する韓国語の「을(를)」は複合動詞の境界部を分離することが可能な場合がある。 本稿では塚本(2009)とは異なる相違点を新たに指摘したが、塚本(2009)の相違点も併せ て参考にすれば、日韓語の複合動詞についての理解をより深めることができると思われる。
今後の課題としては、①複合動詞を判別する基準をより明確に示すこと、②複合動詞は、 句と補助動詞結合とは連続的な関係にあるものなので、この三者を「連続性」という観点か ら分析すること、③介在要素有りタイプの複合動詞における境界部の分離可能性、特に、
韓国語の格助詞「을(를)」による境界部の分離可能性についてより詳細に分析すること、な どが挙げられる。今後、さらなる観察と分析を通して、日韓語の複合動詞の本質を究明して いきたい。
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