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富士山麓の水環境の変遷 〜陸水学から見た富士五湖〜

ドキュメント内 富士山世界遺産.indd (ページ 74-81)

山梨県衛生環境研究所

 吉 澤 一 家

湖名 水面高度(m) 湖面積(㎢) 容積(百万㎥) 最大深度(m) 平均深度(m) 平均傾度 流域面積(㎢) 滞留時間(年)

本栖湖 900.0 4.70 319.1 121.6 67.9 98.4 34.5 10

西湖 900.0 2.12 80.9 71.7 38.5 88.1 33.0 2.3

河口湖 830.5 5.70 53.0 14.6 9.3 11.7 126.4 0.3

山中湖 980.5 6.78 63.9 13.3 9.4 9.7 65.5 0.5

精進湖 900.0 0.50 3.5 15.2 7.0 40.6 25.8 0.1

表 富士五湖の諸元

富士五湖の水質

形態と同様に、富士五湖の水質もまた個性的である。水質全般について言及する時間はないので、

ここでは視覚的にも理解しやすい、透明度と水色(すいしょく)を代表的な水質指標として示す。

1)透明度

透明度は直径 30 ㎝の白色円板を湖水中に垂下し、円盤が見えなくなるまでの深さ(m)で表わす。

透明度の数字が大きいほど懸濁物質が少ない湖水であると判断できる。次に山梨県による 1971 年か ら 2010 年までに、毎月 1 回測定された各湖心での透明度を示した。各グラフの中の太い線は 6 月ご との平均値を示し、毎月の測定値は点で示してある。最も透明度が高いのは本栖湖で、精進湖の値 は 3m程度と低い。またこの 40 年間で大きな変化の傾向は見られないが、本栖湖、河口湖、精進湖 でこの 15 年ほどはやや上向きの傾向がみられる。

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Jun-71 Jun-73 Jun-75 Jun-77 Jun-79 Jun-81 Jun-83 Jun-85 Jun-87 Jun-89 Jun-91 Jun-93 Jun-95 Jun-97 Jun-99 Jun-01 Jun-03 Jun-05 Jun-07 Jun-09

本栖湖の透明度の経年変化(1971年~2010年)

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西湖の透明度の経年変化(1971年~2010年)

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河口湖の透明度の経年変化(1971年~2010年)

1 2 3 4 5 6 7 8 9

Jun-71 Jun-73 Jun-75 Jun-77 Jun-79 Jun-81 Jun-83 Jun-85 Jun-87 Jun-89 Jun-91 Jun-93 Jun-95 Jun-97 Jun-99 Jun-01 Jun-03 Jun-05 Jun-07 Jun-09

山中湖の透明度の経年変化(1971年~2010年)

2)水色(すいしょく)

水色はいわゆる湖水の色を数値化することで、水質の情報を得る方法である。色の見本には青色 の 1 から茶褐色の 21 まで番号を付けられており、湖水の色と比較して近い色の番号を記録する。小

湖名 水面高度(m) 湖面積(㎢) 容積(百万㎥) 最大深度(m) 平均深度(m) 平均傾度 流域面積(㎢) 滞留時間(年)

本栖湖 900.0 4.70 319.1 121.6 67.9 98.4 34.5 10

西湖 900.0 2.12 80.9 71.7 38.5 88.1 33.0 2.3

河口湖 830.5 5.70 53.0 14.6 9.3 11.7 126.4 0.3

山中湖 980.5 6.78 63.9 13.3 9.4 9.7 65.5 0.5

精進湖 900.0 0.50 3.5 15.2 7.0 40.6 25.8 0.1

表 富士五湖の諸元

富士五湖の水質

形態と同様に、富士五湖の水質もまた個性的である。水質全般について言及する時間はないので、

ここでは視覚的にも理解しやすい、透明度と水色(すいしょく)を代表的な水質指標として示す。

1)透明度

透明度は直径 30 ㎝の白色円板を湖水中に垂下し、円盤が見えなくなるまでの深さ(m)で表わす。

透明度の数字が大きいほど懸濁物質が少ない湖水であると判断できる。次に山梨県による 1971 年か ら 2010 年までに、毎月 1 回測定された各湖心での透明度を示した。各グラフの中の太い線は 6 月ご との平均値を示し、毎月の測定値は点で示してある。最も透明度が高いのは本栖湖で、精進湖の値 は 3m程度と低い。またこの 40 年間で大きな変化の傾向は見られないが、本栖湖、河口湖、精進湖 でこの 15 年ほどはやや上向きの傾向がみられる。

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本栖湖の透明度の経年変化(1971年~2010年)

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西湖の透明度の経年変化(1971年~2010年)

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河口湖の透明度の経年変化(1971年~2010年)

1 2 3 4 5 6 7 8 9

Jun-71 Jun-73 Jun-75 Jun-77 Jun-79 Jun-81 Jun-83 Jun-85 Jun-87 Jun-89 Jun-91 Jun-93 Jun-95 Jun-97 Jun-99 Jun-01 Jun-03 Jun-05 Jun-07 Jun-09

山中湖の透明度の経年変化(1971年~2010年)

2)水色(すいしょく)

水色はいわゆる湖水の色を数値化することで、水質の情報を得る方法である。色の見本には青色

異なることが判るとともに、本栖湖のようにあまり変化がなく、常に青色に近い湖と、西湖のよう に大きく色が変化する湖があることが見て取れる。

以上、透明度と水色という比較的簡便な方法で得られる水質の情報からも、富士五湖は個性的な 湖の集まりであると言えるであろう。

生物と水質の関わり

このように水質に変化をもたらしている原因の一つに、湖の中の生物群の違いがあげられる。

下図に湖沼中の生物群をごく簡単に示した。生物群は大きく分けて、生産者、消費者、分解者の3 つのグループに分類される。

植物である植物プランクトンや水草は、太陽光と二酸化炭素、水に加えて肥料成分である窒素(N)、

りん(P)を利用して、無機物から有機物を生産する。動物プランクトンや魚などの消費者は、これ らの生産者とその有機物を食する。さらに生産者や消費者の排泄物や死体を栄養源としてこれらを 分解し、再び生産者が使える無機物を作りだしているのが底生動物や菌類などの分解者である。

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精進湖の透明度の経年変化(1971年~2010年)

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18

4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3

本栖湖 西湖 河口湖 山中湖 精進湖

富士五湖の水色の経月変化 (2010年4月~2011年3月)

1次消費者

2次消費者

3次消費者 1次生産者 NP

図 湖沼中の生物群の概略

仮に肥料成分である窒素やりんが豊富に流入すると、植物の成長が盛んになり、水温や日射量の条 件が整えば、大増殖することが考えられる。特に植物プランクトンが増殖すると、水中に光合成色 素を持った微小物が大量に浮遊することになり、水の透明性は失われ、着色していくことになる。

これが湖の透明度と水色が変化する一因である。富士五湖の各湖沼が透明度や水色が異なるのは、

湖の中の生物群集の違いによるものであり、その主因は流入する肥料成分(栄養塩とも呼ぶ)の量 にあると言えよう。

冒頭で湖沼は調和のとれた小宇宙という表現を引用したが、水中の生物群が調和を持って生活し ている場合は、急激な透明度や水色の変化は生じないはずである。しかしひとたび過剰な窒素やり ん等の流入により植物プランクトンの異常増殖が起こり、生物量のバランスが崩れると「アオコ」

や「赤潮」と呼ばれる現象となって現れるのである。

湖沼の健全な保全のために

以上のように、富士五湖湖沼群は個性豊かな湖の集まりという意味で、陸水学の研究対象として も非常に価値が高い存在である。私たちはこの宝物を後世にしっかり残していかなくてはならない。

そのためには、まず栄養塩である窒素やりんの流入量を抑制することが必要となる。富士五湖流 域でも下水道の整備が進み、雑排水が直接流入することが抑制されている。その成果は河川水では 顕著に現れてきているが、全国の湖沼と同様に富士五湖でも即効性をもって現れてきてはいない。

ひとつの原因は、既に湖底に蓄積された栄養物からの溶出による回帰があると考えられるが、流 域の山地、森林などからの自然由来の流入負荷も考えなければならない。その意味で、流域の森林 整備も積極的に行っていく必要があるだろう。特に降雨時の流入負荷量については充分に調査され ているとはいえず、今後の重要な研究課題となっている。

その一方で、積極的に水質改善を行う方法も試行されている。富士五湖は国立公園内にある湖沼 であり、名勝指定もされているため、湖沼の人工的な改変には大きな制限が課されている。そのた めより環境影響や負荷の少ない生態工学的な方法での水質浄化方法を検討してきた。そのひとつと して植物プランクトンの競争相手としての水草を積極的に利用する試みが、山梨県総合理工学研究 機構の研究として行われた。生物多様性の保護のため、その湖沼に生育している在来の水草を、そ の湖沼の泥を用いた基物で植栽するという方法である。この方法は水草の成長に伴う窒素、りん吸 収による栄養塩の減少と、繁茂した水草による底泥の巻上げ抑制効果を用いて透明度の向上が期待 される。

雑駁な内容でありますが、富士五湖の素晴らしさを別な角度からご紹介し、皆さまの今後の生活

仮に肥料成分である窒素やりんが豊富に流入すると、植物の成長が盛んになり、水温や日射量の条 件が整えば、大増殖することが考えられる。特に植物プランクトンが増殖すると、水中に光合成色 素を持った微小物が大量に浮遊することになり、水の透明性は失われ、着色していくことになる。

これが湖の透明度と水色が変化する一因である。富士五湖の各湖沼が透明度や水色が異なるのは、

湖の中の生物群集の違いによるものであり、その主因は流入する肥料成分(栄養塩とも呼ぶ)の量 にあると言えよう。

冒頭で湖沼は調和のとれた小宇宙という表現を引用したが、水中の生物群が調和を持って生活し ている場合は、急激な透明度や水色の変化は生じないはずである。しかしひとたび過剰な窒素やり ん等の流入により植物プランクトンの異常増殖が起こり、生物量のバランスが崩れると「アオコ」

や「赤潮」と呼ばれる現象となって現れるのである。

湖沼の健全な保全のために

以上のように、富士五湖湖沼群は個性豊かな湖の集まりという意味で、陸水学の研究対象として も非常に価値が高い存在である。私たちはこの宝物を後世にしっかり残していかなくてはならない。

そのためには、まず栄養塩である窒素やりんの流入量を抑制することが必要となる。富士五湖流 域でも下水道の整備が進み、雑排水が直接流入することが抑制されている。その成果は河川水では 顕著に現れてきているが、全国の湖沼と同様に富士五湖でも即効性をもって現れてきてはいない。

ひとつの原因は、既に湖底に蓄積された栄養物からの溶出による回帰があると考えられるが、流 域の山地、森林などからの自然由来の流入負荷も考えなければならない。その意味で、流域の森林 整備も積極的に行っていく必要があるだろう。特に降雨時の流入負荷量については充分に調査され ているとはいえず、今後の重要な研究課題となっている。

その一方で、積極的に水質改善を行う方法も試行されている。富士五湖は国立公園内にある湖沼 であり、名勝指定もされているため、湖沼の人工的な改変には大きな制限が課されている。そのた めより環境影響や負荷の少ない生態工学的な方法での水質浄化方法を検討してきた。そのひとつと して植物プランクトンの競争相手としての水草を積極的に利用する試みが、山梨県総合理工学研究 機構の研究として行われた。生物多様性の保護のため、その湖沼に生育している在来の水草を、そ の湖沼の泥を用いた基物で植栽するという方法である。この方法は水草の成長に伴う窒素、りん吸 収による栄養塩の減少と、繁茂した水草による底泥の巻上げ抑制効果を用いて透明度の向上が期待 される。

 富士山の環境問題の認識

・高校3年(昭36,1961)の終業式での校長の挨拶

「富士山は汚い」

・外国人から「富士山はゴミの山」という手紙が来る

・富士山をきれいにする会(昭37,1962)発足(山梨日日新聞主催)

 ゴミ問題

 解決へ向けた取り組み ・登山道周辺のゴミ拾い

・ゴミをブルドーザーで下界へ運搬 (昭53・1978年より)

・ゴミ問題への地元関係者の関心の薄さ「ゴミなんてその辺に捨てろ」

→父親と喧嘩が絶えず

・登山者のマナーの悪さ→ゴミを拾うも限り無し

・登山者、山小屋、行政が一体となった対策が必要であった

・山小屋内のゴミ箱を撤去し、自分で持ってきたものはすべて持ち帰るように徹底

・食事メニューの変更によるゴミ減量

・登山者のマナーも向上し、ゴミを捨てる人が減少

・様々な団体による清掃活動も活発に⇒登山道周辺でのゴミは非常に少なくなった

 まだ課題は終わらない

・登山者のマナーも向上し、ゴミを捨てる人が減少 様々な団体による清掃活動も活発に

⇒登山道周辺でのゴミは非常に少なくなった

・とはいえ、昔捨てられたゴミが、広い富士山の中にはまだまだある

・昔捨てられたゴミが、広い富士山の中にはまだまだある ・昔捨てられ埋もれたゴミ

・過去の尻拭いを続ける必要   

富士山の環境と観光

  

―日本一の山の抱えてきた問題 ゴミ問題とトイレ問題を中心に―

富士吉田田口旅館組合

 井 上 洋 一

ドキュメント内 富士山世界遺産.indd (ページ 74-81)

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