第 3 章 薄膜剥離のための水素イオン注入により生成する結晶欠陥の挙動
3.5. 実験結果
図3.3は本実験で水素イオン注入により形成された欠陥層近傍の断面 TEM 像であ
る[18].その拡大したものを図 3.4 に示す.欠陥層内にはプレートレット欠陥が観察
53
できる.高分解能透過型電子顕微鏡法(HRTEM)から欠陥層内の水素プレートレット
は,(111)面上に配置された水素の飽和に由来するとされている[13].またプレー 図 3.3水素イオン注入後の試料断面TEM像.イオン注入により生じた深さ 700nm近傍の欠陥層.(a)注入量10x1016cm-2,(b)8x1016cm-2.左が表面.
50nm
m
50nm
m
(a)
(b)
イオン注入方向
→
イオン注入方向
→
↑ 転位ループ状 欠陥
↓
↓
Rp↓
Rp54
トレットは高密度のガス分子を含み,内部圧力が 1GPa 以上であるとされている.Asper
らは{100}欠陥のサイズの典型的な分布を調べ,ガウス分布に沿うことを報告した
図3.5 475℃加熱後の欠陥層の断面TEM像
図 3.4 イオン注入欠陥層内Rp近傍の拡大図.
HRTEM によるプレートレット欠陥(100)面と
(111)面を記す.左側がイオン入射方向
イオン注入方向
→
イオン注入方向
→
↓
Rp2nm
5nm (100)プレートレット
→
(111)プレートレット
→
(100)プレートレット
→
クラック
55
[19].さらに,アニーリング時の欠陥密度の減少および欠陥サイズが報告されている.
Weldon らは赤外分光法を用いて Si-H 結合の形成を調べ,アニールの際にトラップさ
れた水素原子が拡散して微細なバブルを形成し,アニーリング中にバブル内の高圧ガス
が膨張・成長の推進力となり,ウェハ表面に平行な(100)面に沿って微細なバブル
が成長しながら相互に連結しキャビティに成長すると推察した[20].最終的に注入イオ
ンの最大濃度領域となる深さでキャビティの連結がクラックあるいは剥離を誘発させ
る.その加熱時の断面 TEM 像を図3.5に示す.深さ Rp 近傍に(100)面に沿っ
てクラックが形成されているのが確認できる.
全てのバブルおよびキャビティが連結された後,貼り合わせウェハがクラックに沿っ
て完全に分離するためには水素注入量は 5x1016 cm-2以上の注入量が必要であることが
試料加熱実験からわかっている.また貼り合わせウェハが存在しない場合,キャビティ
は広範囲に連結することができず,その結果,局所的に劈開し表面側のシリコン薄膜層
が小片となり飛び散ることになる,この状態をフレーキングと呼ぶ.小片が解離した跡
にはクレータが残される.ブリスターの発生する深さおよびフレーキングで発生する小
片の厚さは Rp にほぼ等しいと報告がある[21].