第4章 大画面高品質映像コンテンツの感性評価
4.4. 実験結果
各映像コンテンツの実験結果を図 53,図 54,図 55,図 56,図 57に示 す.グラフの横軸は今回実験で用いた5種類の評価語を示す.縦軸は各評価 語で被験者が良いと回答した解像度の比率であり,青が4K解像度,赤が2K 解像度の割合を示している.また,横軸の評価語ラベルで*を付記した項目 は,統計値有意差(5%)が認められた事を示している.
4.4.1 奥行表現に関する実験結果
「重なり」による奥行き表現の映像コンテンツは,全ての評価語において 統計的有意差(5%)が認められ,今回の実験で使用した映像コンテンツな かで4K解像度の評価値が最も高い映像であった.
「重なり」による奥行き表現は,重なり合う被写体の輪郭が明瞭に知覚さ れること,さらにはその重なり関係が画面全体に存在していることが重要で ある.今回の映像は画面全体に焦点を合わせた全焦点映像であり,4K解像 度になることで被写体の木々の輪郭が明瞭となる.明瞭となった輪郭から,
画面全体で木々の重なり関係を明確に知覚し,その結果,画面全体の空間印 象が高まったと考えられる.さらに,「質感」,「綺麗」,「きめ細かい」
の項目についても4K解像度で高い評価値が得られた.これらの結果から,
高解像度映像で「重なり」を効果的に表現することにより,奥行きの印象だ けでなく映像品質についても向上することが明らかとなった.
図 53 重なり映像コンテンツの実験結果(※印は統計値有意差5%有りを示す)
82
大気遠近法による奥行き表現の映像コンテンツについては,統計的有意差
(5%)が認められた評価語が,「質感」,「きめ細かい」,「奥行き感」
の3項目であり,高解像度になることで期待される「綺麗」「自然」といっ た印象で4Kと2K解像度で有意差が出ない結果となった.
大気遠近法を用いた奥行き表現は,焦点が合っている領域とぼけている領 域の両方を見比べて,その空間周波数成分の差分を知覚することにより効果 が得られる.しかし,人間の視野(約60°)の中で,被写体を注視すること が有効視野は視野中心15°の範囲に限られるため,今回のような大画面映像 では,被験者は画面の一部分しか注視する事出来ない.本実験でも,被験者 は視線を動かしながら,焦点が合っている領域とぼやけている領域を見比べ たため,その差分が充分知覚できなかったと考えられる.さらに,大気遠近 法で重要となる「ぼやけた領域」が,高い空間周波数成分も持っていないた め,高解像度化しても見えに大きな変化が出なかったと考えられる.
この結果は,これまで空間表現や注目被写体を際立たせるために多用され てきた大気遠近法のぼかし演出は,大画面高品質映像では効果的に機能しな い可能性があることを示唆するものである.
図 54 大気遠近法映像コンテンツの実験結果(※印は統計値有意差5%有りを示す)
線遠近法による奥行き表現の映像コンテンツは,「自然」の項目を除く5 項目で統計的有意差(5%)が認められた.「重なり」による奥行き表現の 映像コンテンツと同様に,画面全体に焦点があった映像であるため,高解像
83
度化することにより,線遠近法で奥行きを表現する並行線分が明瞭に知覚さ れ,その結果,4K解像度で高い印象の評価値が得られたと考えられる.
但し,「自然」の評価項目で統計的有意差が認められず,被験者からも
「4K解像度はすごいが,現実の見えとは違う」,「4K解像度は見た事がな い映像だが不自然」といったコメントがあった.これは,線遠近法が奥行き 表現の中で最も直接的かつ効果的に空間を表現できる手法であるため,高解 像度にすることにより空間表現が過度に強調された結果と考えられる.大画 面高品質映像の高い表現能力は,過度な強調表現で視聴者に違和感を与える 可能性があることを示唆する結果といえる.
図 55 線遠近法の映像コンテンツの実験結果(※印は統計値有意差5%有りを示す)
4.4.2 記憶印象に関する実験結果
記憶印象がある人物被写体の映像コンテンツは,全ての評価語において統 計的有意差(5%)が認められず,今回の実験で使用した映像コンテンツの なかで最も4K解像度の評価値が低い映像であった.
特に質感の印象に関しては4Kと2K解像度でほぼ同じ評価値となり,先 行研究や他の評価映像で得られた高解像度化による質感印象の向上が確認で きなかった.被験者の多くは質感印象について,肌に注目して判断したとコ メントしているが,人肌の質感は記憶印象として視聴者が保持しているた め,少ない情報からもその質感は想像されやすい.今回の映像コンテンツの ように,被写体の顔が画面中心に大きく撮影された映像では,2K解像度の
84
情報量でも記憶している印象から質感を充分に想像でき,4K解像度による 情報量の増加が質感印象の向上に寄与しなかったと考えられる.
図 56 人物被写体コンテンツの実験結果(※印は統計値有意差5%有りを示す)
一方,記憶印象が少ない人工物が被写体の映像コンテンツは,全ての評価 語において統計的有意差(5%)が認められた.特に,「質感」「きめ細か い」に関しては評価値が高く,被写体の光沢感,机の木目の細かさが良く感 じられたとのコメントがあった.この被写体は記憶印象が少ないため,質感 を得るためには映像からの情報が必要であり,4K解像度の情報量が,記憶 印象の少ない被写体の質感印象の向上に大きく寄与したと考えられる.
図 57 人工物被写体コンテンツの実験結果(※印は統計値有意差5%有りを示す)
85