第 4 章 不完全文の内容理解向上を目的とした顔映像の呈示方法
4.4 不完全文と顔映像の呈示タイミングに関する定量実験
4.4.2 実験結果
第4章 不完全文の内容理解向上を目的とした顔映像の呈示方法
第4章 不完全文の内容理解向上を目的とした顔映像の呈示方法
図4.10(a) 呈示時差定量実験結果(聴覚障害者群)
図4.10(b) 呈示時差定量実験結果(健聴者群)
第4章 不完全文の内容理解向上を目的とした顔映像の呈示方法
図 4.10(a)より,聴覚障害者群においては,どの被験者も類似した傾向を示した.字
幕先行呈示領域(字幕が顔情報に対して先に呈示される状態呈示;横軸のマイナス側)
においては,呈示時差の値が-2秒以下になるほど(横軸の値が-2秒よりも左側(-側)
に行くほど),各被験者の回答文完全率は増加する傾向が認められた.特に注目する点 として,呈示時差-1秒(顔映像に対し字幕を1秒先行表示する呈示)においては,5名 中4名の聴覚障害被験者が,全呈示時差を通して最も高い回答文完全率を示した.
呈示時差 0秒(字幕と顔の同時呈示状態)は同期呈示であり,日常的には最も自然 な呈示方法であるため最も高い値を示すと予想されたが,結果を見て判るとおり呈示時 差 0秒の回答文完全率は課題文完全率より数%の上昇に留まった.
顔先行状態(顔情報が字幕に対して先に呈示される状態;横軸のプラス側)におい ては,顕著な傾向は示さなかった.
図4.10 (b)より,健聴者群においては,呈示時差-1秒に極値(全域的な極大でなくと
も極値を取る傾向)を持つ傾向(5 名中 4 名),顔先行呈示の領域においては顕著な傾 向は確認できないなど,聴覚障害者群と似たような傾向がいくつか認められた.呈示時 差-1秒における値が極大値でなく極値であるなど,これらの傾向は顕著なものとしては 認められなかった.また,H3はこの傾向から全く外れ,H4では同様の傾向は認められ るものの全体的に低い値を取るなど,健聴者群は聴覚障害者群と比較して個人差が大き いことが見て取れた.
図4.11に,聴覚障害者群・健聴者群内で,回答文完全を各呈示時差において平均し た結果を示す.図には,呈示時差を因子とする一元配置分散分析の結果も示してある.
一元配置分散分析では,まず呈示時差を要因とした1 要因11 水準の分散分析を聴覚障 害者群と健聴者群に対して行い,呈示時差に有意差が認められたため(聴覚障害者群:
F(10, 539)=5.60, p<0.001, 健聴者群:F(10, 539)=3.91, p<0.001),その後の検定に多重比較
検定(Tukey HSD法)を用いて分析した.なお,本実験では呈示する顔映像と字幕の「時
差」が内容理解にどう影響するかを検証することが目的であるため,多重比較検定の結 果は,呈示時差 0 秒(呈示時差が無い条件)に対する各呈示時差の有意差のみ示して ある.分散分析結果の詳細を表4.13に示す.
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図4.11(a) 呈示時差定量実験結果平均(聴覚障害者群)
図4.11(b) 呈示時差定量実験結果平均(健聴者群)
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表4.13 被験者群別の呈示時差に関する分散分析結果
区分 呈示時差1 呈示時差2 有意確率(p値) 判定
-5 0.030 *
-4 0.001 **
-3 0.161
-2 0.558
-1 1.641 10-5 **
+1 0.214
+2 1.000
+3 0.009 **
+4 0.951
聴覚障害 0
+5 1.000
-5 0.003 *
-4 3.750 10-4 **
-3 0.227
-2 0.816
-1 0.001 **
+1 0.091
+2 0.975
+3 0.210
+4 0.937
健聴 0
+5 0.309
判定:* 有意水準5%有意,** 有意水準1%有意
図 4.11(a)に示すとおり聴覚障害者群においては,呈示時差-5 秒(字幕先行 5 秒)
(p<0.05),呈示時差-4秒(字幕先行4秒)(p<0.01),呈示時差-1秒(字幕先行1秒)(p<0.01) と呈示時差+3秒(顔先行3秒)(p<0.01)にいて有意差が認められた.同様に図4.11(b) より健聴者群においては,呈示時差-5秒(時差先行5秒)(p<0.05),呈示時差-4秒(字 幕先行4秒)(p<0.01)と呈示時差-1秒(字幕先行1秒)(p<0.01)にいて有意差が認め られた.図 4.11(a)と(b)を見て判るとおり,聴覚障害者群と健聴者群の両群において同 様の傾向を示すと言える.
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