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第 5 章  結論

5.2 今後の展望

本研究では,話者の発話時のノンバーバル情報の最適呈示により,不完全文の内容 理解を阻害せずに促進させる結果を示した.また,システムのネットワーク化において は,字幕精度・変換時間への影響は実用上認められないことを示した.

字幕とノンバーバル情報の呈示方法に関しては,本研究の結果より,字幕を顔情報

5章  結論

に対して1秒先行表示させる方法により,内容理解を促進させることが分かったが,そ の理由としては,比較的読み取りが困難で,意味に多義性を持つ情報(顔情報)に対し,

比較的正確で厳密な意味を表記できる情報(文字)を先行呈示させることで,情報取得

者のattentionが固定もしくは絞られ,結果,曖昧な情報に対してもより正確な情報取得

へ誘導させることができ,最終的にこれらの情報の相互作用により,より高い内容理解 に繋がっていると推察された.本実験に関する今後の展望としては,基礎研究領域への 探求が挙げられる.例えば,字幕を1秒先行表示させる際,どの様な順番で情報取得者 が情報を取得しているかを知るための視線追従装置の活用した評価実験や,コンテンツ 依存のある呈示情報を用いることで,情報取得者のattentionがどう変化するかなどの検 証により,複数情報呈示におけるヒトの情報取得の方法に関する基礎研究に結びついて いくと言える.顔映像と字幕は発話と言う同じ行為から取得もしくは変換されたと言う 意味で基本的には同じ内容を包含していると言える.これら複数情報から情報を取得す る際,「モダリティは異なるが同じ(もしくは類似した)内容を持った複数情報」とし て最終的にこれらの情報を統合して内容理解していると言える.4.4.3.1条で述べたとお り,同じ情報を持つ異なるモダリティの複数情報を呈示する際,同時に呈示するのでは なく,意図的にタイミングを変えた呈示方法を採ることで,情報に対する理解度が向上 すると言う結果は,基礎研究としても非常に興味深い.これらの基礎研究により,更に 良いバーバル・ノンバーバル情報の呈示方法に繋がると考えられる.より基礎的な内容 まで掘り下げていくことで研究領域の更なる発展も期待される.

システムのネットワーク化においては,字幕精度・遅延時間の観点から,実用上特 に問題は見られないと言う結論を得た.遠隔運用の可能性が開かれた意味で,今後は対 遠隔地運用が主流な運用手段となっていくと言える.今後は実際のシステム運用を踏ま えた,より実際的な運用評価実験を実施していくことが重要となる.実際の運用では,

遠隔運用特有の留意点があると予想される.例えば,ネットワークシステムで送受信さ れる情報は,基本的に現地からの音声や音声-字幕変換結果である字幕データ等であり,

現地の情報の全てが中核システムのあるシステム設置場所に送信される訳ではない.現 地の情報をより多く取得するための機器等を増設したとしても,現地の臨場感あふれた 状況を全く同じに再現するのは困難である.このような高臨場感をシステム運用の場所 に再現する方向で運用評価を行っていくのではなく,むしろ,現地の情報再現性の程度 が,字幕精度や遅延時間などの実用値にどう影響するか把握し,運用上支障のないバラ ンスを見極めることが重要と言える.高性能な機器を用いれば良い運用ができると思い がちであり,また,技術開発に関してもより高性能・高精度と言った工学技術の性能を 如何に向上させるかのみに向きがちであるが,そのような高性能機器を用いた運用や工 学技術の向上の方向性と,本研究で行ったようなヒトの認知特性との双方を探求しつつ,

5章  結論

その中で実現可能なシステム形態を見いだし,具現化させたシステムを積極的に社会に 還元させていくことが重要であろう.

システムのネットワーク化における実用化は,視覚障害者による復唱作業や,車椅 子利用者などの在宅における修正作業などの,障害者運用による障害者ための支援シス テムと言う,システム運用の最終目標と言う意味だけでなく,障害者の職域開拓と言う 新たな可能性も秘めていることは先述の通りであるが,これらの目標を達成させるため には,例えば,視覚障害者が1人でも使用できる復唱入力用ソフトウェアなどが必要に なることは言うまでもない.実運用においては復唱入力された音声認識結果は,正誤に 関わらずそのまま修正者に送られるため,復唱者は音声認識結果の正誤を知る必要がな い.しかし,運用を見据えた場合,使用する音声認識辞書の語彙は出来るだけ話題や講 義内容に合わせる必要がある.そのためには事前に使用する単語の辞書に学習をさせる 必要があるが,視覚障害者がこの作業を無理なく行うためには,読み上げ音声と認識結 果の音声による確認が効率よくできる仕組みが必要となる.同様に,車椅子利用者など が在宅における修正作業を行う場合においても,複数人数による修正作業をネットワー ク化することにより,その場に居ないことによる連携の困難さが生じると予想され,実 運用に到達するまでには,問題の洗い出しとその対策を講じるための実運用試験を繰り 返す必要があると言える.

本研究で実施したバーバル・ノンバーバル情報の呈示方法とシステムネットワーク 化における成果をシステムに反映させ,システムを通常運用状態にさせるには,運用に 根ざした評価試験を繰り返す必要があるが,本研究の成果は,聴覚障害者のための情報 保障手段の新しい方式だけでなく,障害者ための障害者による情報保障システムの運用 やそれら運用側となる障害者の職域開拓と言った,いままでにない領域を開拓すること になると期待される.同時に,本研究で得られた結果は,バーバル・ノンバーバル情報 と言った複数情報呈示に関するヒトの認知心理的な基礎領域においても新たな領域を 築くことが期待される.

謝辞

本論文は,筆者が宇都宮大学大学院 システム創成工学専攻 博士後期課程に在学する 間,加えて,東京大学先端科学技術研究センター,筑波技術大学に在籍する間に行った 研究をまとめたものです.

指導教員である湯山一郎教授には,定年退官間際のお忙しい時期にも関わらず,また 突然なお願いにも関わらず,研究指導を快諾頂いたことで,無事ここに論文を纏め上げ ることができました.在学中においては研究推進や論文執筆など,多くに渡りご意見と ご指導を頂きました.

副査である,岡建雄教授,阿山みよし教授,尾崎功一教授,長谷川光司准教授には,

お忙しい時にも関わらず貴重な時間を割いて頂き,研究推進・論文執筆にあたり,多く の貴重な意見を頂くことができました.

東京大学 伊福部達 名誉教授,独立行政法人産業技術総合研究所 井野秀一 研究グル ープ長には,東京大学在籍時を含め,研究面の指導だけでなく公私に渡り大変お世話に なりました.

筆者がこれまでに所属した大学や職場における数多くの方々のご協力とご支援のも と,本論文を完成させることができました.いままで様々な面でご協力・ご支援頂いた 皆様に心より感謝いたします.

最後に,私のやりたいことを自由にさせ,様々な面で支えてくれた父 勇 ,母 公代 と,

私と共に歩み支えてくれた妻 玲子 に感謝します.

  付録A  顔映像の呈示部位に関する定量実験  回答票

回答票  回答の例: 

 

回答票の「学生は***を北東ちょっと頭下げてから出ていった」に対して   

「学生はレポートを置くとちょっと頭を下げて出ていった」と回答する場合   

     

学生は****を北東ちょっと頭下げてから出ていった   

      レポートを置くと        を   

以下回答用   

 

***格差はさらに拡がるだろう   

 

いい味のワインを**店なら*があふれる   

 

平均倍率を下げた**がある   

 

人物の独白があれば*から見おろすような両社がある   

 

運命を支える土台から崩れてしまう   

 

人びとが自由に***できる   

 

だんだん自分が恐ろしくなって*に**帰った   

 

午前中で終わる*集合を****からかい間みた 

単語を修正する場合 単語を挿入する場合 単語を削除する場合

 

付録A  顔映像の呈示部位に関する定量実験  回答票

いつもの休日のパターンを過して***れる   

 

音楽も好きだこれのためにわざわざ***ミュージックを用意してきてあった   

 

不思議なくらい美しく****道を行く   

 

真っ白な歯が白いテープとともに*** 

   

入学試験を受けると旧必死の想いである   

 

こちらもcatわめいて**上がった   

 

両手の指は変形し関節***が国情に盛り上がっていた   

 

問題は投票開票を防いでやる   

 

変わり**は世相をつづる   

 

**医師は患者の話をよく聞く   

 

後手にまわって負けた警察が**する番だ   

 

天衣無縫****なものだ   

 

今度は風の季節に***みたい