第 5 章 溶融水酸化物法による Y124 のストロンチウム添加効果
5.2. 実験方法
表 5-1に溶融水酸化物法によるSr添加Y124粉末試料の合成条件を示す。また、実験は 図 5-2に示す流れで行った。原料には、Y2O3、BaCO3、SrCO3、CuOを用い、組成比がY(Ba 1-xSrx)2Cu4Oyとなるように秤量し、乳鉢にて混合を行った。これまでの報告と比較するため、
BaとSrの置換を想定し、組成比をこのように定めた。原料の混合粉と、それに対して100 wt%のKOH をアルミナるつぼに入れ、それらを電気炉にて600–750Cの温度で12時間の 熱処理を行った。炉冷した後、フラックスの除去を水とエタノールによって行った。得られ た試料の相の同定と格子定数並びにTcの評価はそれぞれ、XRD 2–測定並びにSQUIDの 磁化測定によって行った。また、高温において合成した試料に関しては、XRD並びにSQUID の結果から Y123 の混入が確認された試料については、N2中で還元アニールを行うことに よって、Y123の超伝導特性を消失させ、Y124のみの転移温度を評価した。
- 目的温度にて12時間保持・炉冷
KOH
熱処理
水・メタノールによる洗浄
XRD測定 SQUID測定
試料の調合 - 原料の混合
- KOH由来の不純物等の除去
- 相の同定、c軸長、Tc等の評価 原料
るつぼ
図 5-2 試料作成から評価までの流れ 原料 Y2O3、BaCO3、SrCO3、CuO 初期組成 Y(Ba1-xSrx)2Cu4Oy
フラックス KOH (原料粉に対し100wt%) 合成温度 600–750C (25C間隔)
昇温時間 3 hour
保持時間 12 hour
冷却方法 炉冷
表 5-1 溶融水酸化物法によるSr添加Y124粉末試料の合成条件
85
また、図 5-3にTcの評価方法の概略図を示す。磁気モーメントが10 K の値の1/2000にな った温度をTconsetとした。また、急激に磁気モーメントが変化する領域と、Tconsetが離れて いる場合、Tconsetは試料の平均的なTcを評価する指標としては不当であるため、本研究に おいては、新たにTc,effという指標を導入した。磁気モーメントの温度変化が最大であった 点の接線を、0に外挿し、その切片の温度をTc,eff とした。
温度
磁気モーメント
0
↑
T
consetT
c,eff (effective)Temperature
Magnetic moment
図 5-3 Tcの評価方法の概略図。
86
5.3.
640Cで合成を行った Y124のc軸長並びにTcのSr添加量依存性始めに、Tc及びc軸長のSr添加量依存性を調査することを目的とし、これまでの研究か ら、溶融水酸化物法を用いて粉末試料を作製した際、容易に単相の Y124 が得られやすく、
不純物の量などが少ないと考えられる640Cにおいて、x=0–0.5の試料に関して合成及び評 価を行った。
5.3.1. 640Cで合成を行った試料の相の同定
図 5-4に640Cで合成を行ったSr添加Y124粉末試料のXRD 2–パターンを示す。い ずれの試料もY124に由来する強い回折が確認された。また図中に示したとおり、Y2O3, CuO, Y2Cu2O5などの不純物ピークに由来する弱い回折ピークが確認された。ただし、Y123やY247 のような超伝導性を示す不純物相は確認されなかった。
5.3.2. 640Cで合成を行ったSr添加Y124の磁気モーメントの温度依存性
図 5-5に、640Cで合成を行ったSr添加Y124粉末試料の規格化した磁気モーメントの 温度依存性を示す。いずれの試料も、10 Kにおける超伝導体積分率は100%前後の強い反磁
図 5-4 640Cで合成を行ったSr添加Y124粉末試料のXRD 2–パターン。シンボルはそれぞれ(•) Y2O3, () Y2Cu2O5, (+) CuOを示す。
0 10 20 30 40 50 60
2[degree]
Intensity [arb. unit]
*
•
•
*
+
•
x = 0
x = 0.025
x = 0.05
x = 0.1
x = 0.2
x = 0.3
x = 0.4
x = 0.5
•
87
性を示す試料が得られた。x = 0の試料は典型的なY124のTcである81 Kにおいて転移が確
認された。また添加量のx の増加に従って転移は高温にシフトし、x > 0.1の試料に関して
は、90 K付近において転移が確認された。XRD パターンからはY123やY247相は確認さ
れていないことから、溶融水酸化物法においては、Sr の添加によってY124のTcが大きく 上昇することが明らかとなった。
5.3.3. 640Cで合成を行ったY124のTcとc軸長のSr添加量依存性
図 5-6 にXRD 2–パターンのY124 (0012)から求めた c軸長と Sr添加量 xの関係を示 す。また、図中には先行研究のSr/Ba置換Y124のTc並びc軸長のデータも示した。
Srの添加量の増加に従ってTcは増加し、x=0.1–0.2において最大でTconset= 90 Kを示した。
この値は他者の報告よりも高く、溶融水酸化物法を用いれば高い Tcを有する Y124 が得ら れること明らかとなった。x=0.3以降においては添加量の増加に従ってゆるやかに低下する 傾向が確認された。c軸長はx = 0.05以下の少量のSrの添加に対しては、わずかに伸張し、
x > 0.1の添加量では、収縮する傾向を見せた。
本研究においては、x = 0.05程度ではc軸長が伸張し、Tcが上昇しているが、それ以上の 添加量においてはc軸長が収縮している。格子定数の変化とTcの変化は必ずしも一致して おらず、Srの添加によって生じるTcとc軸長の変化の要因は1つだけではなく、複合的な
図 5-5 640Cで合成を行ったSr添加Y124粉末試料の磁気モーメン トの温度依存性。
-1.2 -1 -0.8 -0.6 -0.4 -0.2 0 0.2
40 50 60 70 80 90 100
Normalized magnetic moment
Temperature [K]
0 0.025 0.05 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 Starting Sr
content x
-0.04 -0.02 0
75 80 85 90 95
88
ものになっていることを検討するべきであると考えられる。
図 5-6 640Cで合成を行ったSr添加Y124粉末試料の
Tconsetとc軸長のSr添加量依存性。本研究において横
軸は仕込み組成としている。Wada、Karpinski、Itohら の報告において横軸は置換量である。
c-lattice parameter [Å]
75 80 85 90
27.00 27.05 27.10 27.15 27.20 27.25
-0.1 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6
x in Y(Ba1-xSrx)2Cu4O8in starting composition Tc[K]
●This work
▲Wada et al.
◆Karpinski et al.
■Itoh et al.
(a)
(b)
89