第1項 ロピニロールによるオレキシン陽性細胞の減尐
非麦角系ドパミンD2受容体アゴニストがオレキシンニューロンに対して影響 を及ぼすかどうかを確かめるために, ロピニロールを培養視床下部切片に処置 し, 切片中のオレキシン陽性細胞数の変動を調べた. まず, 濃度依存的な影響を 確かめるために, ロピニロールを様々な濃度(100, 200, 500 Mおよび1 mM)で 72時間処置したところ, 100 Mの処置濃度においてオレキシン-A陽性細胞数 の減尐傾向がみられ, 1 mMの処置濃度では細胞数の顕著な減尐が観察された
(Fig. 10A). しかしながら, 近傍に存在するMCH陽性細胞数の減尐はほとんど
観察されなかった(Fig. 10A). 切片中のオレキシン陽性細胞およびMCH陽性細 胞を計数したところ, ロピニロール(100 M)の72時間処置よりオレキシン-A陽 性細胞数の有意な減尐がみられ, 200 M, 500 M および1 mM処置により濃度 依存的に細胞数は減尐していた(Fig. 10B). その一方で, いずれの濃度のロピニ ロールを処置しても, MCH陽性細胞数の有意な減尐はみられなかった(Fig. 10 B). さらに, ロピニロールによるオレキシン陽性細胞数の時間依存的な変動を 調べたところ, ロピニロール(1 mM)の6時間処置よりオレキシン-A陽性細胞数 の有意な減尐がみられ, 24時間処置まで時間依存的に細胞数は減尐していた
(Fig. 10C). その後, 24時間から72時間処置においてはオレキシン-A陽性細胞
数の減尐の程度はほぼ一定であった (Fig.10C). これらの結果より, 高濃度のロ ピニロールはオレキシンニューロンに対して影響を及ぼし, オレキシンニュー
44
ロンの方がMCHニューロンよりも, ロピニロールに対する感受性が高いこと が示唆された.
45
A
B
46
C
Fig.10. Ropinirole induces selective decrease of orexin neurons in hypothalamic slice culture. (A) Representative photographs of orexin- and MCH-immunoreactive neurons in hypothalamic slice culture. Ropinirole at indicated concentrations was applied for 72 h. Scale bars = 50 m. (B) Concentration-dependency of the effect of ropinirole applied for 72 h on the number of orexin- and MCH-immunoreactive neurons. n = 12–18 for each condition. **P < 0.01, ***P < 0.001 vs control. (C) Time course of the effect of 1 mM ropinirole on the number of orexin-immunoreactive neurons. n = 12–18 for each condition.*P < 0.05, ***P < 0.001 vs control (Cont).
47
第2項 プラミペキソールおよびタリペキソールによるオレキシン 陽性細胞の減尐
第1項の実験より, 高濃度のロピニロールを処置することでオレキシン陽性 細胞数が減尐することが示されたので, 他の非麦角系アゴニストについても細 胞数の減尐が認められるかを確かめた. プラミペキソール(1 mM)およびタリペ キソール(1 mM)を24時間処置したところ, 切片中のオレキシン-A陽性細胞数の 減尐傾向が認められ, 72時間処置では顕著に減尐していた(Fig. 11A). 細胞数を 計数し, 定量化したところ, プラミペキソール(1 mM)およびタリペキソール(1 mM)の24時間処置により, オレキシン-A陽性細胞数は有意に減尐し, 72時間処 置により細胞数はさらに顕著に減尐していた(Fig. 11B). しかしながら, プラミ ペキソールおよびタリペキソールの24時間および72時間処置を行っても, オレ キシン陽性細胞の近傍に存在するMCH陽性細胞数の有意な減尐はみられなか った(Fig. 11B). これらの結果より, 非麦角系のドパミンD2受容体アゴニストで あるプラミペキソールおよびタリペキソールもオレキシンニューロンに影響を 及ぼし, オレキシンニューロンはMCHニューロンよりもこれらの薬物に対する 感受性が高いことが示唆された.
48
A
B
Fig.11. Selective decrease of orexin-immunoreactive neurons by talipexole and pramipexole. (A) Representative photographs of orexin-A-immunoreactive neurons in hypothalamic slice culture. Talipexole (1 mM) and pramipexole (1 mM) was applied for 72 h. Scale bars = 50 m. (B) Quantitative results on the number of orexin- and MCH-immunoreactive neurons. Talipexole (1 mM) and pramipexole (1 mM) was applied for indicated periods. n =15 for each
condition. ** P < 0.01, *** P < 0.001 vs. control (Cont).
49
第 3 項 ロピニロールによるオレキシン減尐の可逆性
ロピニロールによりオレキシン陽性細胞が減尐した原因として, オレキシン ニューロンの細胞死あるいは細胞内のオレキシンの枯渇が考えられる. そこで, ロピニロール処置による細胞死誘導の有無を検討した. 視床下部切片に対して, 死細胞を蛍光染色するPIをロピニロール(1 mM)と24時間共処置したところ, オ レキシン-A陽性細胞の顕著な減尐はみられたものの, PIの蛍光は切片中に観察 されなかった(Fig. 12A). また, ロピニロール(1 mM)を72時間処置した場合に おいても, PIの蛍光を呈する細胞はほとんど観察されなかった(Fig. 12A).
高濃度のロピニロール処置(1 mM)を行っても, 視床下部切片中における細胞 死の誘導はほとんど見られなかったことから, オレキシン-A陽性細胞の減尐が 可逆的なものであるか否かを検討した. ロピニロール (1 mM) を24時間処置 し, その後, 薬物を含有しない新しい培地に切片を移して72時間のポストイン キュベーションを行った. その結果, ロピニロールによって減尐したオレキシ ン-A陽性細胞数は, 72時間のポストインキュベーションにより著明に回復した
(Fig. 12B, C). これらの結果より, ロピニロールによるオレキシン陽性細胞の減
尐は, ニューロン自体の脱落によるのではなく, ニューロン内に貯蔵されてい るオレキシンの可逆的な枯渇によるものであることが示唆された.
50
A
B
C
Fig.12. Reversible decrease of orexin by ropinirole. (A) Propidium iodide (PI), a marker of dead cells, was applied to medium with ropinirole for 24 h or 72 h.
PI-positive cells (in red) were not observed in ropinirole-treated slices, although orexin immunoreactivity (in green) was decreased. Scale bar = 50
m. (B) Photographs showing orexin-immunoreactive neurons in slices cultured under control conditions (Control), treated with 1 mM ropinirole for 72 h, or cultured for 72 h after 72-h treatment with 1 mM ropinirole (72 h post). Scale bar = 50 m. (C) Quantitative results of the effect of
post-incubation. n = 12 for each condition. *** P < 0.001 vs control; ###P <
0.001.
51
第 4 項 ロピニロールによるオレキシン減尐におけるドパミン D
2受容体の関与
ドパミン受容体にはいくつかのサブタイプ(D1〜D5)が存在するが, ロピニロ ールはD2受容体に対して高い親和性をもっていることが知られている54. さら に, これまでの報告により, D2受容体を刺激するとオレキシンニューロンの発 火が抑制されることが示されている. そこで, 本検討でみられた高濃度のロピ ニロールによるオレキシンの減尐にドパミンD2受容体が関与しているかどうか を調べた. ロピニロールよりもD2受容体に対する親和性が高く, 選択的なD2受 容体のアンタゴニストであるスルピリド(50, 100, 200 M)を24時間単独で処置 し, その後, ロピニロール(1 mM)と24時間共処置を行った. スルピリドの単独 処置を行った場合では, いずれの処置濃度においてもオレキシン-A陽性細胞数 に影響を及ぼさなかったが, ロピニロール処置によるオレキシン-A陽性細胞数 の減尐は, スルピリドとの共処置によって部分的に抑制された(Fig. 13A, B). こ れらの結果より, 高濃度のロピニロール処置によるオレキシンの減尐にはドパ ミンD2受容体が一部関与していることが示唆された.
52
A
B
Fig.13. D2 receptors are involved in ropinirole-induced decrease of orexin. (A) Photographs showing orexin-immunoreactive neurons in slices treated with 1 mM ropinirole and sulpiride. Sulpiride at indicated concentrations was applied for 24 h concomitantly with 1mM ropinirole. (B) Quantitative results on the number of orexin-immunoreactive neurons. n = 12–18 for each condition. ***P <
0.001 vs control (Cont; no drug treatment); #P < 0.05, ##P < 0.01 vs ropinirole alone.
53
第 5 項 ロピニロールによるオレキシン減尐における 5-HT1A 受容 体の関与
ロピニロールは選択的なドパミンD2受容体アゴニストであるが, 高濃度処置 を行うことで, 他の受容体に対する作用が現れる可能性が考えられる55. 第4項 の実験において, ロピニロールよりもD2受容体に対する親和性が高いアンタゴ ニストであるスルピリドを共処置しても, ロピニロールによるオレキシンの減 尐が完全に改善されなかったことから, D2受容体以外の受容体の関与が考えら れる. 第3章の実験より, 神経活動の持続的な抑制は視床下部切片中のオレキシ ンを枯渇させるという結果が得られたので, オレキシンニューロンの神経活動 を抑制することが報告されている様々な受容体の関与について検討した.
GABAニューロンはオレキシンニューロンに投射しており, GABA受容体の刺 激によりオレキシンニューロンの発火が抑制されることが報告されている35. そこで, GABAA受容体のアンタゴニストであるピクロトキシン(30 M)をロピ ニロール(1 mM)と24時間共処置したが, オレキシンの減尐は抑制されなかっ た(Fig. 14A, B). オレキシンニューロンの発火はアドレナリン2受容体刺激に よっても抑制されることが知られているので56, 2受容体の遮断薬であるヨヒ ンビン(5 M)をロピニロール(1 mM)と24時間共処置した. しかしながら, ロピ ニロールによるオレキシンの減尐はヨヒンビンとの共処置を行ってもほとんど 抑制されなかった(Fig. 12A, B). さらに, セロトニン5-HT1A受容体刺激もオレ キシンニューロンの発火を抑制することが報告されている57. そこでまず, 5-HT1A受容体の遮断作用をもつピンドロール(30 M)をロピニロール(1 mM)と
54
24時間共処置したところ, ロピニロールによるオレキシンの減尐が一部抑制さ れていた(Fig.14A, B). ピンドロールは5-HT1A受容体以外にもアドレナリン受 容体などに作用することも知られている. そこで, ロピニロールによるオレキ シンの減尐における5-HT1A受容体の関与を明確にするため, より選択的に 5-HT1A受容体を遮断するWAY100135 (100 nM)を共処置した. その結果, ロピ ニロールによるオレキシンの減尐は, WAY100135との共処置により有意に抑制 された(Fig. 14C). これらの結果より, 高濃度のロピニロール処置によるオレキ シンの減尐にはセロトニン5-HT1A受容体も関与していることが示唆された.
55
A
B
56
Fig.14. 5-HT1A receptors are involved in ropinirole induced-decrease of orexin. (A)Representative photographs of orexin-A-immunoreactive neurons in hypothalamus slice culture. Effects of 30 M picrotoxin (PTX), 5 M yohimbine (Yoh) and 30 pindolol (Pind) were examined. These drugs were applied for 24 h concomitantly with 1 mM ropinirole. n = 12–18 for each condition. ***p < 0.001 vs control (Cont); #p < 0.05. (C) Effect of 100 nM WAY100135 (WAY). WAY100135 was applied for 24 h concomitantly with 1 mM ropinirole. n = 15 for each condition. ***P <
0.001 vs control (Cont); ###P < 0.001 vs ropinirole alone.
C
57
第 6 項 NMDA 受容体刺激によるオレキシン減尐の改善
第4項及び5項の実験より, ロピニロールによるオレキシンの減尐にはD2受 容体と5-HT1A受容体が関与していることが示唆された. これらの受容体刺激は オレキシンニューロンの神経活動を抑制することが知られている56, 57. 第3章 の実験より, 神経活動の抑制によるオレキシンの減尐がNMDA受容体刺激によ り改善され, オレキシンの発現維持にはNMDA受容体刺激が重要であることが 示唆されたので, ロピニロールによるオレキシンの減尐に対するNMDA受容体 刺激の影響を調べた. 第3章の実験においてTTXによるオレキシンの減尐を改 善した濃度のNMDA (20 M)をロピニロール(1 mM)と24時間共処置したとこ ろ, ロピニロールによるオレキシンの減尐はNMDAとの共処置によって著明に 抑制された(Fig. 15A, B). また, 神経活動の興奮マーカーであるc-Fosの発現を 指標としてオレキシンニューロンにおける神経活動の変動を調べたところ, NMDA単独処置によりオレキシンニューロンにおいてc-Fosの発現が顕著に増 加した. ロピニロール単独処置ではc-Fosの発現はほとんどみられなかったが, NMDAを共処置することでc-Fosの発現増加が認められた(Fig. 15A, C).
オレキシンニューロンはグルタミン酸作動性ニューロンからの興奮性入力を 受けていることが知られており, オレキシンの減尐がNMDA受容体刺激により 改善されたので, ロピニロールによるオレキシンの減尐におけるNMDA受容体 の関与について調べた. NMDA受容体の遮断薬であるMK-801(10 M)を24時 間処置したところ, 切片中のオレキシンは顕著に減尐し, 減尐の程度はロピニ ロール(1 mM)を処置した場合とほぼ同程度であった(Fig. 15D). しかしながら,
58
MK-801とロピニロールを共処置しても, 相加的なオレキシンの減尐はみられ
なかった(Fig. 15D).
これらの結果より, ロピニロールはオレキシンニューロンへ投射しているグ ルタミン酸作動性ニューロンからの興奮性入力を阻害することで, オレキシン ニューロンの神経活動を抑制し, オレキシンの発現を減尐させている可能性が 考えられた.
59
A
B C
60
Fig.15. Stimulation of NMDA receptor activates orexin neurons and prevents depletion of orexin by ropinirole. (A) Double immunofluorescence staining against orexin (in green) and c-Fos (in red). Slices were treated for 24 h with 1 mM ropinirole, either alone or in combination with 20 M NMDA. Scale bars
= 50 m. (B) Effect of NMDA on ropinirole-induced decrease in the number of orexin-immunoreactive neurons. (C) Percentage of c-Fos-positive cells within orexin-immunoreactive neurons, after treatment for 24 h with 1 mM
ropinirole and 20 M NMDA, either alone or in combination. n = 18 for each condition in panels B and C. *P < 0.05, ***P < 0.001 vs control (Cont); ###P <
0.001. (D) Effect of combined treatment with MK-801 and ropinirole on the number of orexin-immunoreactive neurons. MK-801 (10 M) was applied for 24 h, either alone or concomitantly with 1 mM ropinirole. n = 15 for each condition. ###P < 0.001 vs control (Cont); n.s., not significant.
D
***
61
第 3 節 考察
ロピニロールなどの非麦角系ドパミンD2受容体アゴニストは, パーキンソン 病の治療薬として頻繁に使用されているが, 近年, 副作用として前兆を伴わな い突発性の睡眠により, 自動車事故を起こしたという例が報告された52, 53. 本 研究では, 覚醒の維持に重要な役割を担い, また, 睡眠・覚醒の破綻をきたすナ ルコレプシーにおいて選択的な減尐が認められているオレキシンニューロンに 注目し, ロピニロールなどの薬物がオレキシンニューロンに及ぼす影響につい て視床下部組織切片を用いて検討した.
ロピニロールを視床下部切片に様々な濃度(50, 100, 200, 500 Mおよび1
mM)で処置したところ, 100 M以上の濃度で切片中のオレキシン陽性細胞数の
減尐が認められ, 特に1 mM処置では細胞数は顕著に減尐していた(Fig. 10). 一 方で, 近傍に存在するMCH陽性細胞数の変動はほとんどみられなかったこと から, ロピニロールによるオレキシン陽性細胞数の減尐は選択的なものである ことが示唆された. さらに, 他の非麦角系のアゴニストであるプラミペキソー ル(1 mM)やタリペキソール(1 mM)を処置した場合においてもオレキシン陽性 細胞数の選択的な減尐が認められた(Fig. 11). したがって, 第1項および第2項 の実験結果より, オレキシンニューロンはロピニロールなどの非麦角系ドパミ ンD2受容体アゴニストの影響を受けやすいことが示唆された.
第3章の考察でも論じたように, 視床下部切片中のオレキシンの免疫反応性 が減尐する原因として, オレキシンニューロンの細胞死あるいは細胞内のオレ キシンの枯渇が考えられる. 第3項の実験結果より, ロピニロール(1 mM)処置
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を行っても切片中においてPI染色による細胞死の兆候は認められず, 薬物の含 まれていない培地でポストインキュベーションを行うことでオレキシンの免疫 反応性が回復したことから, 第3章での神経活動を阻害した場合と同様, ロピニ ロールによるオレキシン免疫反応性の減尐はオレキシンニューロンの細胞死で はなく, 細胞内オレキシンの一過性の枯渇によるものであることが示唆された.
ロピニロールはドパミンD2受容体に対する親和性が高いので, 本研究で認め られたオレキシンの減尐にはD2受容体が関与していると考えられた54. そこで, D2受容体の選択的なアンタゴニストであるスルピリドをロピニロールと共処置 したところ, オレキシンの減尐が一部改善された(Fig. 13).したがって, オレキ シンの減尐にはD2受容体が関与していると考えられるが, スルピリドはロピニ ロールよりもD2受容体に対する親和性が高いにも関わらず, オレキシンの減尐 を完全には抑制できなかった. 本研究で処置した濃度のロピニロール(1 mM)は 非常に高濃度であることから, D2受容体以外の受容体にも作用している可能性 が考えられる. 第3章の実験結果より, 神経活動を持続的に阻害することでオレ キシンの発現が減尐することが示唆されたので, オレキシンニューロンの神経 活動を抑制する受容体に注目した. これまでの報告により, GABAA受容体, ア ドレナリン2受容体, そして, セロトニン5-HT1A受容体がオレキシンニューロ ンの発火を阻害することが示されているので35, 56, 57, これらの受容体の遮断薬 をロピニロールと共処置したところ, 5-HT1A受容体の遮断薬である
WAY100135との共処置によりオレキシンの減尐が一部抑制された(Fig. 14).
親和性は低いものの, ロピニロールは5-HT1A受容体に作用することが報告され ており58, またオレキシンニューロンには5-HT1A受容体が発現していることが