• 検索結果がありません。

実践と検証

ドキュメント内 美術作品に対する固定的イメージを (ページ 49-60)

 本章は前章にて作成した授業案を実践し、その概要をまとめ、成果と課題について考察す る。各授業の発話記録、使用したワークシート、スライドの内容は巻末資料を参照。

第 節 実践の概要と整理

 本節は各授業実践についてその概要をまとめる。今回授業実践を行うに当たって、兵庫県 の神戸市立丸山中学校美術科教諭小菅康生氏と同中学校二年生の皆さんに協力頂いた。授業 時間は各クラスー時限分(50分)である。

授業実践I〜IVの概要 日時2010年10月26(火)・27日(水)、11月1目(月)

場所 兵庫県 神戸市立丸山中学校

対象第2学年1〜4組

目標

主体性を持って、美術について考え、美術に対する固定的イメージを揺 るがし、人間形成を図る

梧童{恋人ノT㌧1 ■

マルセル・デュシャン《泉》を中心に、様々な作品を見る中で美術につ いて主体的に考える

実践事例はクラス数と同数のI〜1Vまである。授業実践Iは前章の第一授業案にそって行っ たものである。授業実践■〜lVはその改訂版である第二授業案に沿って行ったものである。

故にn〜wの授業内容はクラスの雰囲気によって多少の違いがあるにしても、大まかな授業 の流れ、成果と課題、共に殆ど変わらない結果が得られた。よって、本節は授業実践I、並 びに授業実践1I〜IVは一つの事例としてまとめ、この二つについてその概要を提示すること

とする。

(1)授業実践I(第一授業案版)

授業実践Iは第2章 第2節冒頭で説明したとおり、その内容が上手く伝わらず、成功した 事例とは言えない。

 ①授業の流れ 巻末資料pp20−29

48

 まず、《泉》を提示した時の反応はよかった。便器の形に気付くと笑いと共に様々な疑問の 声が聞こえ、大きな興味を持ったと感じられた。《泉》が既製晶であり、デュシャンが作って いないこと、それが美術館に展示されていることを知ると、一層興味を高めたように思う。

《モナ・リザ》や《叫び》など色々な作品を見ている時も対話が成り立っており、時折笑い も起こるなど雰囲気もよく、問題は無かった。しかし、(s14)の発問「何故、芸術家によっ て出来る作品が違うのか?」に対する答えを、生徒の側から聞きだすことが出来ず、授業進 行を優先して筆者自らが答えてしまった。この辺りから段々と対話が成り立たなくなる。居 眠りを始める生徒も出始めた。

 そして、《泉》の解説が始まり、5分程すると約半数の生徒が睡眠。起きている生徒もこち らの間い掛けに一切反応しなくなり、筆者の言葉が空を切り始めた。生徒の思考も段々と止 まり始めたような印象を受けた。続く(s34)の発問「美術作品は本当にモノか?」も、(s14)

の発間同様に生徒からの発言は無く、筆者自身が答えるという結果になった。

 結局、そういった状態を改善することは最後まで出来ず、授業開始33分でスライドによる 講義は終了した。残り時間はワークシートを記入させた。巻末資料の発話記録を見ていただ

ければ最初は活発だった生徒の発言が段々と減少し、最後には筆者からの一方通行になって いるのが明確に分かる。

 この様な事態に陥った原因として、授業を対話形式で進めていたものの、答えに窮すると 考える間を与えずに先に進めてしまったこと、解説部分が難解で、時間も長かったこと、生 徒の作業が無く単調な進行であったこと、等が考えられた。

②ワークシート記述の整理 巻末資料pp53・56

 ここからは、授業後に行ったワークシート記述についてまとめる。質問項目は以下四点で ある。回答者数は24名

(i),あなたは今、デュシャンの『泉』のことをどう思いまか?

(i),なぜ①の様に思うのですか?理由を教えてください

(血),今日の授業で分かったこと、発見したこと、驚いたことはありま   すか?それは何ですか?

(廿),授業の感想を教えてください。(おもしろかった、わからなカ)った、

  質問など、なんでもOK)

49

 授業の理解度

 まず、質問項目(i)、(i)を見ると、《泉》に対して肯定的な意見が14人、否定的な意見が 10人(無記述1人を含む)という結果になった。肯定的な意見の理由は独創性があるから、

デュシャンの考え方に驚いたから、デュシャンの言葉に納得したから、という結果に分けら れた。一方、否定的な意見の理由はデュシャンが《泉》をっくってないから、誰にでも出来 ることだから、授業の内容が分からなかったから、他の芸術家に失礼だから、という結果に 分けられた。

 また、否定的意見をもった生徒は(柵)の感想を求める質問に対して「分からなかった」、

「眠たかった」、「無記述」という記述が目立った。(10人中7人)逆に、肯定的意見を持っ た生徒はその様な記述は少なかった。(14人中3人)つまり、授業の内容がよく伝わった生 徒ほど《泉》に対して肯定的な意見を持ちやすいようである。勿論、(i)〜(㎡)の記述を 総合的に判断すると、授業内容について理解した上でそれでも納得できないという記述、理 解できないが直感的に肯定している記述、一貫性が無ぐとの様に受け取っていいのか不明な 記述等も、少数見られたことから、記述内容と実際の理解度にある程度の誤差があると考え られる。《泉》に否定的な生徒の全てが授業を理解していなかったとも言えないし、肯定的な 生徒の全てが授業を理解していたとも言えないのである。よって、授業実践Iの理解度は約 半数という一推測に留まる他無い。しかし、曖昧な結果であるにしても半数というのは大変 少なく、成功した実践とは言えないと判断できる。

成功例

 この様に、決して成功したとは言えない授業実践Iであるが、ワークシート記述を見ると、

狙い通りの反応を示してくれた生徒も、少数であるが、いたようである。以下に抜粋する。

(雌)今日の授業で分かったこと、発見したこと、驚いたことはありますか?

・世界にはいろんな作品があるんだなあって思いました。想像力がすごいと思う。自分やっ たら絶対思い浮かばないと思うし

・美術には、決められたことがないっていうのが分かった。みんなが知っている常識なこと も見ることを変えると、ちがうものが出来ることがわかった。

・見る人が意味を決めるのは、本当やと思った。今まで、そんなん思わんかったけど、納得 した。まず、そういうことを思いつくのには驚いた。デュシャンは理屈っぽいことを発見        50

 した。

・人は、一つの作品を見ていろんな事を感じるんだなと思った

・物は、人のみかたによってかわることや、性格とかも、わかった。「モナリザ」とか「さけ び」とかも、よく見たらいろいろあって、すごいと思った。

(肘)授業の感想を教えてください。

・私が今まで思っていた、美術に対する考え方が、全部かわったと思う。色々な話をきいて、

そういう考え方もおもしろいなと思った。

・おもしろかったです。またいろんな作品がみてみたいと思いました。

 これ等を見ると、今回の授業の目標「主体性を持って、美術について考え、美術に対する 固定的イメージを揺るがし、人問形成を図る」が多少なりとも達成できたように思われる。

特に下線を引いた記述を見ると、《泉》を中心に色々な美術作品を見る中でその多様性を感じ、

美術に対する考え方が変わったり、《泉》について詳しく解説することで、デュシャンの考え を知り、そういった他者の考えを受け入れ、それを面白いと感じたりしていることが分かる。

これはっまり、第一章第一節で考察した鑑賞教育の意義、「作品を見る中で作者との精神的交 流を図り…  (中略)… 創作の意図やその精神的背景を読み取ろうと努めることで、一 つの作品として結晶化された作者の人間性や考えを深く理解する。そして、自分がそれに対

してどう感じるか確かめることで新たな自己を発見する人間形成の意識活動」1)に当たるも のである。授業中は反応が薄く、目に見える主体性は感じられなかったものの、個人の内面 においては考えを深めてくれていた生徒も僅かながらいたようである。

失敗例

  方で、予想通り、授業内容が上手く伝わらなかった様子や、部分的な理解、誤解等が見 受けられる記述が多く見られた。以下に抜粋する。

(血)今日の授業で分かったこと、発見したこと、驚いたことはありますか?

・芸術には制限がない!1!

・どの作品も、少し昔のちょっとボロくなったのが「美術の作品 ってかんじだった。「泉」

 も今の便器にサインしても、ただの落書きとしか思えない。げと、昔のなら「美術の作品」

 ってかんじがする。

       51

・授業をほとんどねていたのでいみがわかりません

(iV)授業の感想を教えてください。

・最後の方はねむかったけど、楽しかった。

・ぶっ一、話が長くて少し疲れた。

・とても難しい、わからなかった

・途中めっちゃねむかった

・50分が長く感じました

・美術は好きだけどデュシャンな人がやった作品はスキになれないと思うし、美術がだんだ  んわからなくなってきた。

 これ等を見ると、授業進行にメリハリが無く、退屈で眠たいものであったことが分かる。

特に、授業の内容が面白かったと記述している生徒が同時に眠たかったとしていることは、

筆者の授業進行に大きな難があると判断できる。

 また、失敗例の1つ目と2つ目の下線部を見ると授業の内容が部分的にしか伝わらず、美 術に対する新たな固定的イメージを形成しており、今後の授業において悪い影響が残らない か心配である。

 更に、最後の下線部の記述「美術がだんだんわからなくなってきた」は、この生徒の中の 前向きな葛藤の現れであれぱ良いのだが、どちらかと言えば新たな美術嫌いを生む可能性を 感じさせるもので、大きな問題である。

(2)授業実践皿〜1V(第二授業案版)

続いて授業実践皿〜lVについてその概要を述べる。

①授業の流れ 巻末資料pp.30−52

 《泉》に対する反応は授業実践Iと同様に、クラスによって多少の差はあるものの、概ね 良かった。続く《モナ・リザ》や《叫び》などの作品を見る時も同じく問題は無い。授業実 践Iで授業停滞のきっかけとなった(s14)の発問「何故、芸術家によって出来る作品が違う のか?」も、発表の前に改訂版のワ』クシート記述(i)を挟むことで、難なく発表させること が出来た。これにより、授業にメリハリが付くと共に、生徒1人1人にそこまでの授業の整       52

ドキュメント内 美術作品に対する固定的イメージを (ページ 49-60)

関連したドキュメント