第 5 章 対象物の形状モデリング
5.2 実環境での問題と対処
形状モデリングでは 、画像から得た特徴点の推移情報から、カメラの位置・姿勢と、対象 物の形状を得る。一方で、対象物の周囲を走行しながら取得される画像列では 、対象物の見 え方が時々刻々と変化していくため、特徴点の追跡ミスが増加し 、また特徴点の追加をおこ なう必要が生じ る。これらの理由により、形状モデリングが成功するか否かは 、それぞれの 処理において特徴点の推移情報を効果的に利用できるかど うかに依存する。本研究では 、こ の問題に対し 主に2つの対策を施した。
5.2.1 KLT-Trackerの改良
特徴点のセルフオクルージョンに対処し 、形状モデリングの復元精度を向上する。[52]
本研究で用いているKLT-Trackerは 、連続する2枚の画像間でテクスチャの類似度を調べ、
(1) Tracker改良前:
特徴点が左端にまとまって残る
(2) Tracker改良後:
特徴点は全体的に抽出されている
図5.3:セルフオクルージョンの影響
特徴点の追跡をおこなっている。一方、本研究では 、ロボットは対象物の周囲を走行しなが ら画像を取得するため、今まで見えていた対象物のテクスチャがセルフオクルージョンによ り徐々に見えなくなる現象が起こる。KLT-Trackerはこのような状況に対し 、既に隠れきって しまった特徴点が 、物体と背景の境界線上に存在し続けていると判断してしまう。図5.3は、
ロボットが対象物の周囲を半時計周りに走行しながら取得した画像列に対し 、特徴点を抽出・
追跡した例である。対象物の見え方がゆっくりと変化する場合、通常のKLT-Trackerでセルフ オクルージョンを検知することは困難である。結果として、(1)に示すように、追跡が正確で ない特徴点が物体の境界部分に残るといった事態が起こる。
対策として、抽出された特徴点と、その近傍の特徴点との位置関係を記録しておき、追跡 が正しいかど うかを、画像を取得し特徴点を追跡する毎にチェックする。具体的には、以下の ように特徴点の削除項目を設定する( 図5.4)。
• 2枚の画像間において、現在の特徴点と周りの特徴点との位置関係で、所定の閾値以上 の変化が観察された場合、現在の特徴点を削除
• 追跡を続けるうちに、現在の特徴点と、周囲の特徴点との距離が小さくなりすぎたなら ば 、現在の特徴点を削除
• 2枚の画像間で、周囲の特徴点と比較した中でひとつだけ大きくずれた特徴点があるな らば 、その特徴点のみを削除
このルールに従い特徴点の取捨選択をおこない、追跡精度の悪い点とセルフオクルージョ ンが起きた点を除去する。図5.3 (2)は 、KLT-Trackerに提案手法を加えた場合の特徴点の追 跡結果の例を示す。提案手法を適応した結果では 、セルフオクルージョンによる特徴点の誤
特徴点抽出 近傍の点でグループを形成
変化を観察
現在の点が変化した →現在の点を削除
全体が歪んだ →現在の点を削除
近傍の点が変化した →その点を グループから削除
図5.4: KLT-Trackerの改良
追跡を除去可能になり、特徴点は全体にわたって追跡できている。なおこの手法は 、特徴点 の誤対応の除去にも有効である。
5.2.2 RANSACの利用
Trackerの追跡ミスに対処し 、形状モデリングのロバスト性を向上する。
KLT-Trackerから得られる特徴点の追跡結果は、全てが良好なものではない。映り込む対象
物が画像間で大きく移動した場合、画像がぶれてし まった場合や、特徴そのものが弱い場合
など 、Trackerはしばしば追跡ミスを起こす( 図5.5)。形状モデリングは、特徴点の推移情報
から 、カメラの位置・姿勢と特徴点の3次元位置を推定するため、追跡ミスの起きている特 徴点からこれらの推定をおこなうことは、処理の破綻や復元精度の低下につながる。しかし 、 特徴点の追跡ミスを全てその場で検知することは非常に困難である。この対処として、本研 究ではRANSAC(RANdom SAmpling Consensus)の枠組みを用いて、誤対応した特徴点を取
り除く。RANSACとは、ランダ ムサンプ リングしたデータを用いて最小二乗推定をおこない
システムを評価することを繰り返し 、外れ値が含まれないデータの組み合わせを見つける仕 組みのことである。以下で、概要を説明する。
N個のパラメータの中に外れ値がf 個含まれている。そこからn個のデータをサンプ リン グして評価をおこなうとき、サンプ リングしたデータに全く外れ値が入っていない確率をP とする。全体のデータに対する外れ値の割合をe= Nf としたとき、「 少なくとも一回のサン プ リングは外れ値を一つも含まない」確率Pは以下の式で表される。
P = 1−[1−(1−e)n]J (5.1)
Jはサンプ リングの回数であり、Pが任意の値になるように調節する。
時刻 t - 1 時刻 t
図5.5: KLT-Trackerの追跡ミス
本研究では 、多数の特徴点をランダ ムサンプ リングするデータ、評価されるシステムを推 定したいパラメータ( カメラの位置・姿勢など )を含む評価関数として、RANSACの枠組み を用いる。利用局面は 、初期フェーズにおける因子分解法や、逐次フェーズにおけるカメラ の位置・姿勢推定の非線形最小化である。これらについては本章で後述する。