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「学校風土」の重要な構成要素―SDP評価研究の今日的到達点―

今日に至る45年間,カマー「学校開発プログラム(SDP)」の実践開発を通して追求され てきた価値指標は,とりわけ,「学校風土(School Climate)」という概念で説明されてきた。し かしながら,アメリカにおいて,School Climateという用語を用いた論考は散見されるものの,

いまだ,必ずしも一定の定義があるわけではないようである。

そこで以下では,カマーらが追求する Climate の訳語を〈風土〉(山括弧)と区別して記し,

一般的な「雰囲気や空気」を意味する「風土」という用語には解消されない,いかなる諸要素 が追求されてきたのか,カマーらの追求する〈学校風土〉概念の今日的到達点を検討する。以 下,これまでイェール大学研究チームによる量的・質的調査の蓄積から導出された〈学校風土〉

に関する総括的知見1を手がかりにして,『学校風土調査(School Climate Survey)』を通して追 求される価値概念の特質を明らかにする。

第 1 節 カマーらが追求する〈学校風土(School Climate)〉の概念

1. 子どもの発達への〈学校風土〉の影響

N. M. ハイネスとC. L. エモンズほか(Norris M. Haynes, Christine L. Emmons, and Michael

Ben-Avie)の論考(1997年)2は,〈学校風土〉に関するそれまでのイェール大学チームによる

研究知見を総括したものである(以下,「イェール大学チームの論考」と記す)。これによれば,

「私たちの〈学校風土〉に関する関心は,子どもの発達への影響に端を発している」として,

〈学校風土〉を,次のように定義している。すなわち,

〈学校風土〉とは,子どもの認知的・社会的・心理的発達に影響を及ぼす,学校コミュニティ 内部における対人関係の相互作用(interpersonal interactions)の質と一貫性(consistency)に言 及するものである3

ここで追究される課題は,「子どもの発達」に肯定的な影響を及ぼす〈学校風土〉の創出であ る。それを創出する過程においては,「学校コミュニティ内部における対人関係の相互作用」の

「質」と「一貫性(consistency)」が問われている。ここでいう「子どもの発達」とは,カマー・

プログラムで追求される【6つの発達の筋道】(前述:第1章第3節参照)を含意し,この定義

においては,「認知的発達」「社会的発達」「心理的発達」が例示されている。こうして,カマー らイェール大学チームによる〈学校風土〉概念は,「学力テスト得点向上」のみならず,子ども の全人的発達の諸側面に影響する諸要因を視野に入れる点が強調されている。

イェール大学チームによる〈学校風土〉研究は,次の2点において重要な意義があるとして いる。すなわち,①「生徒の成功に影響を及ぼす学校の諸要因を検討するもの」であり,②「学 校教職員がどのように,生徒の成功へのキャパシティを支援し発達させるかの検討を含む」と する。そして,「生徒の学業達成の説明」においては,「生徒の家族環境」や「情緒的なファク ター」に焦点化するのではなく,むしろ,「学校の文脈(context)」および「生徒と教職員との 相互作用の質」が焦点化されるべきだと主張している4

この主張の背景には,「インナーシティにおける生徒の低学力に関する説明の多くは,『貧困 の文化』が生じさせる社会的・学業的な不遇さ(disadvantage)に焦点化している」ことへの批 判的検討がある。イェール大学チームの論考によれば,「貧困の文化」に言及する説明の多くが,

学校での失敗や不適応の要因を,生徒自身の「認知的な不適応」「逸脱した価値」「不十分な発 達」に帰結させ,「学校内で生じる複雑な対人関係の相互作用や,生徒の適応や学業遂行に重要 な影響は十分に検討されていない」とする5。こうした問題意識から,カマーによる「〈学校風 土〉が生徒の失敗をもたらす主要な影響力となる(plays a major role)」6という知見を,イェー ル大学チームによる実証的研究を蓄積してきたのである。

こうした主張の論拠に関わって,イェール大学チームのC. L. エモンズ(Christine Laura Emmons)によれば,先行研究のレビューからも知見を導き出している。エモンズは,たとえ ば,「効果的な学校」研究の提唱者であるW.ブルックオーバーら(W. Brookover)らによる「学 校風土」とアフリカン・アメリカ人生徒の学業との相関関係の調査結果(1977年)における次の 点に着目している。

① ブルックオーバーらの調査において,「生徒風土(student climate)」を構成する第1因子である「生 徒にとって学業は無用だと感じる感覚(Student Sence of Academic Futility)」が,「学力平均値」およ び「人種・社会的経済的ステータス指標」と強い相関が示された。

② ブルックオーバーらは,以上の結果から,生徒の学業達成に「実際に影響する要因(real contributor)」

は,「人種・社会的経済的ステータス」の影響よりもむしろ,「生徒自身が,学校における個人の努力 が全く役に立たないと感じていること」にあると主張している。

さらにエモンズは,上記のブルックオーバーら(1977年)の知見と,コールマンらの調査(公 立・カソリック・私立高校間比較の学業調査:1982年)との合意点を次のように指摘している。

エモンズが着目するコールマンらの知見とは,「運命をコントロールする感覚(sense of destiny control)」をもつマイノリティ生徒が,この展望をもたないマジョリティ生徒よりも学力テスト 得点が高かったことである7。そこで,イェール大学チームの〈学校風土〉研究では,この「運 命をコントロールする感覚」をもつことによる発達の潜在可能性に着目しているのである。こ の点,同様の指摘が,前述(第5章第 1 節)の R. R.メーヨー(Reginald R. Mayo,ニューヘイ ブン学区教育長:1992~2013)による博士論文(1988年)においてもみられた。メーヨーもま た,コールマン報告(1966年)における「環境をコントロールする感覚(sense of control of

environment)」が最も学業達成に相関関係があったという点に特に着目している8

こうして,イェール大学チームの論考(1997)では,カマーらの論考(1987)における次の 結論を支持している9。すなわち,「とりわけ黒人生徒にとって,彼らの学校適応とより良い遂 行能力(ability)に,〈学校風土〉が重要な役割を果たす(plays a significant role)」という結論 である10。ここで注目されるのは,〈風土〉自体が,一般的な「雰囲気」という意味合い以上に,

価値指向型の「役割を果たす(plays a role)」総体として捉えられている点である11

以上の主張から,カマーらが追求する〈学校風土〉概念は,一般的用語の「雰囲気」にとど まらず,次のような含意があると捉えることができる。第1に,〈風土〉自体を創り出す人々の 人間発達の過程を基軸に据え,人々の主体形成過程を時間軸において発展させていこうとする 視座がある。第2に,〈学校風土〉の創造プロセスを通して,「雰囲気や空気」という言葉に象 徴されて「見えない(隠される)」12ような,対人関係における個人的感情・認識と,その複雑 で否定的な相互作用の問い直しを人々に喚起するものである。第3に,個々人に影響を及ぼす 諸要素を,個人的問題に帰結させるのではなく,「学校内部コミュニティ」構成員による「役割」

遂行プロセス全体から捉え直す視座である。こうした視座には,カマーによる人種問題への洞 察(序章第2節4参照)から導かれる,社会的・政治的・構造的な問題を克服する道筋を「全 体論的アプローチ」から追求する構想がある。

2. 〈学校風土〉の重要な構成要素

イェール大学チームの論考(1997年)では,量的・質的調査結果からの知見を総括して,〈学 校風土〉を次のように定義づけている。すなわち,

〈学校風土〉とは,生徒の「 学校適応」および「心理的・教育的発達(psychoeducational

development))」に重要な「文脈変数(context variable)」である13

ここでの「文脈変数」は,生徒にとっての「学業の成功.....

およびその後の人生における心理的・....

社会的適応.....

に持続的な影響力」となる「学校で生徒が出会う相互作用と経験」の質を問うもの である(傍点:引用者)。その上で,目指される「健全で支援的な学校風土」に重要な構成要素 を15項目列挙している(表 23-(A)参照)14

表 23は,(A)「15指標・定義」(1997年)を示した上で,(B)イェール大学チームにより開発 された『学校風土調査』(2004 年改訂版)15の指標を対照したものである。両者から確認できる 形式上の特徴として,次の3点を指摘することができる。

第1に,(A)「15指標・定義」のうち14指標が,(B)今日版『学校風土調査』尺度に反映され ている。例外として,(A)—④「全般的な風土」は,直接に(B)の指標には採用されていないが,

全体を通して追求される〈学校風土〉の定義を示しており,各質問項目の中に趣旨は組み込ま れている。もう1つの例外として,(B)—(親用)『学校風土調査』の指標「Ⅰ学業への焦点化」

(表中,最下段のグレー色部分)は,(A)「15 指標」(1977 年)には無い指標である。この指標 は,ハイネスにより1996年に提起された「暴力問題への効果的な取り組みを可能にする〈学校 風土〉の重要な指標(12項目)」16の1つであり,この12項目もすべて,今日版『学校風土調 査』尺度に反映されている。このように,今日版『学校風土調査』に,これまでの評価研究の 知見が結実していることが確認できる。

第2に,(B)『学校風土調査』においては,その担い手となる4者(小中学生用,高校生用,

教職員用,親用)それぞれに,(A)「15 指標」の各指標が分散されていることである。たとえ ば,教職員と親との共通指標は,①「学業への動機づけ」,②「協働による意思決定」,⑦「学 校と地域の関係性」,小中学生と教職員との共通指標は,③「平等と公平」,⑤「秩序と規律」

というようになっている。このことは,各指標で定義される〈風土〉は,単一主体により完結 されるものではなく,二者・三者の相互作用において創造されることが含意されている。

第3に,全体の意義に関わって,カマーらの追求する〈風土〉の特質を示唆しているのは,

(A)—④「全般的な風土」の定義である。すなわち,「学校コミュニティ内部に存在する....

(exist),

相互作用の質(quality of interactions),信頼感および尊重(feelings of trust, and respect)」と定義 されている17(傍点:引用者)。

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