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―トランスディシプリナリー・チーム・アプローチの可能性―

近年,多様な専門分野の専門職で構成される「学際的チーム」において,各学問領域の境界 性を「超える(trans)」意義を追求する,トランスディシプリナリー(transdisciplinary)チーム・

アプローチについての研究が展開されている。SDPの構想には,60年代開始当初から,トラ ンスディシプリナリー・チーム・アプローチの発想がみてとれる。本章では,SDPにおける メンタルヘルスに関わる援助専門職で構成されるチームに着目して,学校における多様な専門 職の協働の意義と可能性を明らかにする。その際,ここで描かれる,専門職の協働を成立させ る組織的要件と状況を検討し,専門職チーム全体のキャパシティ(学校開発能力)を高める協 働のあり方を考察する1

第1節 学校における専門職の協働に関する理論的課題

1. 学際的チーム・アプローチにおける「協働」の意義

多様な専門分野の専門職で構成される「学際的チーム」の「学際的」という意味を表す用語 としては,①multidisciplinary,あるいは, ②interdisciplinaryが用いられている。両者は,複数 の学問領域の専門職がチームメンバーとして構成されるという意味で共通性がみられる。そし て,最近では,各学問領域の境界性を「超える(trans)」アプローチの意義を追求する,

③transdisciplinary という用語もみられるようになった2。ここでは,まず,「学際的チーム・ア プローチ」における「協働」の意義を確認していく。

学際的チームに言及するD. R. ダパー(David R. Dupper)3は,「スクールソーシャルワーカー は,学校現場で孤立して実践しているのではなく,学校における専門職の学際的チーム

(multidisciplinary team)のメンバーであることを考慮する」必要性を指摘している。ダパーは,

チームメンバー間に「『役割の混乱(role confusion)』や『縄張り争い(turf battles)』が生じてい る」ことを指摘し,「学校の学際的チームを構成する専門職集団には,各々の役割・タスクの違 い」があることを強調している4。ただし,ここで,チームメンバーの役割・タスクを,既存の 縦割りあるいは役割分業的枠組みに収めるのであれば,それは,従来からの形式的な連携の域 にとどまることも予想される。ここで重要な点は,各専門職の役割・タスクを足し算する発想 ではなく,より積極的に各専門的力能が乗算されるような「協働」的アプローチの契機を見出

していくことにあるといえる。様々な専門分野からの専門職による「協働介入(Collaborative Intervention)」アプローチを行う重要性は,序章でふれたように,わが国における「学校ソーシャ ルワーク」研究においても強調されている点である5。また,L. オープンショウ(Linda Openshaw)

は,スクールソーシャルワーカーは,「学際的チーム(interdisciplinary team)のメンバーとして」

サービスにあたる際に,「全米ソーシャルワーカー協会(NASW)の倫理基準9」の「生徒と 家族のニーズに応えるために,地域の教育機関およびコミュニティのリソースを動員して協働 的に働く必要がある」ことを強調している6。つまり,スクールソーシャルワーカーの多岐にわ たる役割遂行も「協働」が鍵となり,チームメンバーの間に生じる対立・葛藤関係を,「協働」

的関係へと転換するために,その専門性が発揮されることが期待されているとのである。

こうした学際的チームメンバーに求められることとして,L. R. ブロンスティン(Laura R.

Bronstein)によれば,①相互信頼,②新たな専門的活動の創出,③柔軟性,④目標に対する集 団的なオーナーシップ(collective ownership of goals),⑤プロセスにおける省察(reflection on

processes)が重要な要素だとする7。ここから,学際的チームの支援的力量を向上する「新たな

専門的活動の創出」のために,次のプロセスを重視する必要性が示唆される。それは第1に,

構成員が,チームの目標達成のために,各専門的知見・経験を,相殺し合うことなく発揮する プロセスである。第2に,各構成員の専門性をチームに貢献することを通して生み出される

「オーナーシップ感覚」を「結集」する合意形成過程の重要性である。第3に,その一つ一つ のプロセスをメンバー相互で「省察」するプロセスの重要性である。

2. トランスデイシプリナリー・チーム・アプローチと「分散型リーダーシップ」

さて,近年,医療や障害をもつ人々に関わる専門職チームで展開されている「トランスディ シプリナリー(transdisciplinary)・チーム・アプローチ」という発想においては,各専門職それ ぞれの学問的専門領域の「境界」を体系的にクロスさせながら,より一層の効果的で統合的な アセスメントや介入サービスの提供が目指されている8。この発想においては,専門職の役割分 業論ではなく,クライエントの最善の利益を目標に据えて,各専門領域の「境界性」における,

従来看過されていた新たな専門領域へ「協働的」アプローチの挑戦を試みるものである。こう した発想は,子どもの最善の利益を中核に据えた,学校における教職員と援助専門職で構成さ れる,援助専門職チームにおける議論にも援用しうるだろう9

この点で通底する問題提起が,コンステーブルとトーマス(Robert Constable and Gelen Thomas) の論考にみられる。すなわち,「学際的チーム(multidisciplinary team)」の協働における,意思

決定および活動の成否を分かつ重要な要素として,次の5点を挙げている10

① 合意された共通で公的な目標遂行のために,各メンバーの仕事をコーディネートする。

② すべてのチームメンバーは,必要不可欠な独自の経験を有するという信念をもつ。

③ 各メンバーからのインプットの対等性(input equally)に価値をおく。

④ 集団におけるすべてのメンバー間のリーダーシップを分散する(distribute)。

⑤ 相互依存と個々のアカウンタビリティに基づく対面しての相互交流を用いた協働。

また,ケースマネージメントの文脈から,コーデッシュとコンステーブル(Richard S. Kordesh and Robert Constable)の論考では,トランスディシプリナリー(transdisciplinary)チーム・アプ ローチに言及している。その際,ケースマネージャーは,①チーム全体の情報・スキルの統合,

②各提供者間の関係調整,③実施プログラムのモニターを行う役割を担うとする。この「トラ ンスティシプリナリー・モデル」の場合,ケースマネージャーは,そのケースの「第1提供者 とサービス・コーディネーター」が担うのが典型だとする11

ここから,「トランスディシプリナリー・モデル」においては,前述の「5つの重要な要素」

の中でも特に,「インプットの対等性」と「リーダーシップの分散」という要素が強調されてい ることがわかる。つまり,学際的な新たな支援方法の開発に価値をおくトランスディシプリナ リーの発想においては,ケースマネージャーというリーダー的立場も固定化されていない。そ のケースにより近い存在である「第1提供者」たちがリーダーを担うというように,「リーダー シップの分散」が採り入れられている。と同時に,メンバー間相互の「インプットの対等性」

を基盤とする新たな協働態勢を創出しようとする発想が読み取れる。

以上のような協働に必要な要素を踏まえながら,カマー・プログラムの検討に移ることにす る。その際,「インプットの対等性」と「リーダーシップの分散」という要素に着目しながら,

専門職チームの支援の潜在能力が引き出される協働のあり方を探究する。

第2節 SDPモデルにおける「生徒・教職員へのサポートチーム」の特徴

1. 発達の原理に基づく全体論的アプローチ―【6つの発達の筋道】」という理解―

前述(第1章参照)したように,カマーの構想する「全体論的アプローチ」を貫く原理は,

子ども・青年の健全な発達が,次の【6つの発達の筋道】に沿って形づけられるという理解に

ある。すなわち,①身体的発達,②社会的・相互的発達,③心理的・情緒的発達,④倫理的発 達,⑤言語的発達,⑥認知的・知的発達の筋道である12

ここで確認すべきことは,この【6つの発達の筋道】という観点が,①「子どもの学習・発 達支援の原理」であると同時に,②学校における組織的機能および生徒の行動への対応を議論 する際の「情報や指針」として用いる,という2重の意味合いをもっていることである13。つ まり,学校の全構成員が,①子どもの【6つの発達の筋道】への支援という課題を中心に据え て,それを取り巻く多様な関係者の共通理解を図っていくことを共通の指針としている。それ は同時に,②【6つの発達の筋道】という観点を用いて,学校の組織的改善および個別生徒の 支援方法の開発を図るという意味をもつ。とりわけ,②の視点は,本章で検討する「生徒・教 職員へのサポートチーム」における多様な専門職の協働アプローチにおいて,メンバー相互で 議論するための重要な指針となる。そのすべてのプロセス(全体論)から,子どもの全面的発 達を促進する構想が追求されているのである。

2. 「生徒・教職員へのサポートチーム」の構成と各専門職の専門的知見

以下では,援助専門職による協働アプローチを検討するために,SDPモデルの3つのチー ムの1つ,「生徒・教職員へのサポートチーム(Student and Staff Support Team:以下「SSST」

と略す)」の役割と特徴を概観する。

(1) 「生徒と教職員へのサポートチーム(SSST)」の役割

SSSTは,子どもの発達およびメンタルヘルスの援助専門職(学校内部の専任スタッフお よび,または,外部からの非常勤スタッフ)と校長(または管理職)で構成されるチームであ る14。この前身は,パイロット・スクールにおいて,カマーらイェール大学研究者たちによる

「メンタルヘルス・チーム」である15。学校におけるSSSTの主な役割は,①個別生徒の問 題への対応,学校外の情報源へのアクセス,②学校全体の「風土」問題への取り組みや予防プ ログラムの開発である16。毎週 1 回の定例会議を開催し,①個別生徒の問題,②学校全体の問 題についてタイムリーに議論されている(2012年4月,2つの学校におけるSSST会議傍聴)。

(2) SSSTの構成と各専門職がチームに提供できる専門的知見

SSSTのメンバーは,「メンタルヘルス,あるいは,子ども・青年の発達理論・実践に関す る養成を受けた専門的知識を有する人,またはその専門職で構成する」とされる17

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