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1 あらまし 調査者が現地におもむいて,所定の調査票と調査票付図を使い,この手引きに従って面接調 査を行う。
2 調査することば 調査の対象とすることばは,被調査者(被調査者については,3のところで説明する)
自身が現在使っていることば,あるいは少年時代に使ったことのあることばで,しかも,くつろいだとき,親し い人たち(家族たちや幼なじみなど)と話し合うとき使うことば(いわゆる方言)とする。
被調査者の使ったことのない古いことばや,現在使われていても,被調査者自身が使ったことのないこと ばとは,はっきり区別する必要がある。これらのことばを参考として聞きとることは望ましいことだが,そ れはあくまで参考であり,記入するときにはそのことを注記する必要がある。被調査者の使うことばでも,
あらたまったとき使うことばとか,知らない人と話すとき使うことば(いわゆる共通語)と区別する必要のあ ることももちろんである。
3 被調査者 調査者が候補者を選び,適当であるかどうかを判定し,決定する。
3・1 数 調査地点1地点について1名。その同じ人について項目全部を調査することとする。
特別の事情で調査を途中で打ち切る場合は,別の被調査者について第1項から調査し直すこと。
3・2 条件 1903年(明治36年)以前に生まれた男子宅,いわゆる言語形成期(満3歳〜15歳)をずっとその 地点(その集落)ですごし,それ以後もよそ(その市・町・村のぞと)での生活が(兵営生活など一切を含めて)36 か月を越えない人とする
職業・学歴・階層などについては特に基準を定めないが,できるだけその地点を平均的に代表する人であ ることが望ましい(80%農業の集落で会社の経営者とか,その土地でひとりふたりしかいないような,学 歴・階層の特に高い人などは望ましくない)。なお,明治36年以前という指定だから,文久・元治・慶応の 生まれの人でもよいわけだが,あまり高齢な人は調査の対象として適当でない場合が多い。全国の水準をそ ろえる上からも,明治20年以降生まれの人が望ましい。なお,1,2か月の短期閲の旅行は,よそでの生活 とは見ないこととする。
さらに,次のような条件を備えている人を,被調査者として適当と考える。
a・言語感覚が鋭い(意味のニュアンスの違いに鋭敏で,質問に対して適切な答えをする。方言と共通語,敬 語と卑語,日常語とあまり使わない語・現在使わない語などの区別がはっきりしている。ただし,これは方言に 特定の意見を持っているという意味ではない)。
b・ふだん,その土地のその年齢層の人としてじゅうぶんな程度に方言を使っている(その土地の方言をほと んど使わない生活をしている人は,調査に向かない)。
c・精神的・肉体的に欠陥がない(もうろくしている,歯が抜けて発音がはっきりしない,耳が遠い,付図が 見えない人などは,被調査者として適当でない)。
d・そのほか,調査に協力的である。反応が早い。むだ話をしないなど。
これらの条件を満たす人であるかどうかは,実際には面接調査した上でなければわからないことが多い。そこ で,被調査者として適当かどうかは,ともかく調査をしてみて,第1調査票が終ったところで判定する。なお,
5・7参照。
4 調査地点 調査地点とは,被調査者が言語形成期を過した集落(地名として最も細かく分けたその地 名。ただし,都市は丁目とする)とする。調査地点をどのあたりにとるか,何地点調査するかなどの全体の構想 は,調査センターで立てる。具体的に,どの集落で調査するかは,調査者が決める。
5 調査の実際
5.1 準備 調査者は,あらかじめ調査地点を決める。現地では,被調査者(正確には候補者)に面接して調 査のあらましを説明し,どういう答えを求めるか,その大体を理解してもらう。
現地の被調査者や協力者(紹介者など)に対して,希望があれば所定様式の依頼状(公文書)を出すことがで きる。希望者は,あて先の氏名・住所・調査予定日を早目に連絡してほしい。事務手続き上,連絡を受けて 132
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から発送まで,ほぼ1週間かかるものと予定されたい。研究所から本人あて直接発送する。
また,「日本言語地図を作る調査について」(調査のあらましを説明した印刷物)と「方言を話す人を御紹介 下さい」(紹介者に被調査者の条件を説明した印刷物)を用意したから,利用されたい。
5.2 経歴表 項目の質問を始める前に,まず経歴表の記入に関する質問をする。
最初から,個人的な立ち入ったことを聞くのはぐあいの悪いことだが,その」入が条件に合わないことをあ とになって発見すると,それまでの調査がむだになってしまうので,ぜひ項目の質問を始める前に尋ねてお きたい。
経歴表の1枚は記入(調査者保存)用,もう1枚は調査センター(研究室)への報告用である。
黒帯について説明(記入用)すると,
a一眞コで囲んだ部分について,質問し記入する。項目の質問に先立って調べる必要のあるのはこの欄であ
る。
b.[コで囲んだ部分は,調査者だけで記入できる。しかし,記憶・印象の薄れない5ちに書き入れておく必 要のあることは言うまでもない。
c.調査地点番号は,正式には報告が集まってから,調査センターでつける。研究員は,書き入れない。
d.調査地点(調査現在の地名)のふりがなは,町や村の字などにもつけること。チョウかマチか,ソンかムラ か(これは現地で被調査者に聞いておいた方がよい)。
e.調査地点名は,集落(小字または丁目など)まで記入すること。
f.調査地点のおもな産業は,農業とか工業など。細目についても,できれば記入する。
例農業(米作・養蚕・りんご)
9.調査した場所とは,被調査者宅とか,小学校・寺院などのこと。
5.3 項目の質問を始める前に それまでにいちおう説明し,納得してもらってあるはずだが,もう一度調 査の対象とする言語について念をおしておく。
質問を始める直前に,開始時刻を記入する。調査開始の時刻は,このときと考える。なお,調査票の末尾にあ る終了時刻なども,その都度記入すること。
5.4 質問の形式 項目を調査する欄は,次のようになっている。左に項目番号と付図の有無をあらわす記 号(絵)がある。次に,質問文・その注意書き(小さい字),質問文に対する答えを東京語の形(ローマ字)で示す。
余白は,答えの記入欄である。ところで,質問文には2つの形式がある。
5.41なぞなぞ式質問 項目番号001〜018などの質問の形式を,なぞなぞ式の質問とよぶ。この調査では・
共通語形を与えて方言で翻訳させるという方法はとらない。日本における共通語化のめざましい現状から,翻訳 法はいろいろの点で不利と考えたことがその理由の1。共通語形と方言形との意味分野が必ずしも一致しない
(極端な例だが,九州などでアザを何と言うかと尋ねて「やはりアザと言います」と答えても,それが東京方言での ホクロに当たるものとして答えているという事態が起り5る)から,翻訳法のみによることは避けるべきだと考 えたことがその2。また,なぞなぞ式質問であれば,調査者相互の間の質問内容の差(たとえば,項目をミミ
〈耳〉とだけしておくと,ある調査者は聴覚器官としてのミミ〈耳がきこえないのミミ〉だけを聞きとり,ある調 査者はみみたぶ〈耳殼〉に当たるミミだけを聞きとることによって生ずる差)を小さくできると考えたことがその 3。要するに,このなぞなぞ式質問は,意味分野を一定の質問文によって説明し,それに当たる方言形を求める ことを原則としているわけである。
5・42 S式質問 項目番号019,020,025,026などの質問の形式をS式(SemanticsのS)質問とよぶ。あ る語形を示し,方言での意味・用法を尋ねる質問である。
S式質問には2種類ある。その1は「〜にはどういう意味・用法があるか」という質問である(たとえば025,
144など)。この類の質問は,その方言での意味・用法をすべて聞き出すことをめざしている。共通語と一致す るものも,一調煙毒の方言であればとりあげる。