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大学教育に対する需要

ドキュメント内 我が国大学システムの経済学 (ページ 37-54)

(1)大学教育サービスに対する需要の経済合理性

以上で,大学 という社会的存在 とその役割, ミッシ ョンについて,我が国 社会の考 え方は,歴吏上,早 くか ら大学を もち,それを育てて きた欧米諸国 のそれ とは大 き く異なっていること,そ してそのちが を生み出 した歴史的, 社会的背景について見て きました。その基本的な違 いを,経済用語 に置 き代

えて言います と,欧米では,人類進歩の源泉 となる知識を生み出 し普及する 活動をする大学は社会全体が支 えるべ き 「公共財」である とす る考 え方であ るのに対 して,我が国の場合には,大学 とは,政府 に とっては国家 目的に奉 仕すべ く,人 々に とっては立身出世の装置 として利用すべ き 「私的財」 と見 る考 え方である と言 えま しょう。 これ らの考 え方の うち,いずれが人類社会 の進歩,発展の見地か ら正 しいかは,改めて指摘す るまで もあ りませんが, 経済論理的 にも,教育サービスや知識 とい う財が 「外部性」,それ も稀 に見 る大 きな 「正の」外部性を備 えていることを認識す るな らば,社会全体 とし ての最適供給量を確保 す るためには,その活動費用は社会全体が,すなわち, 社会 目的を実施するための人 々の合意 による代理機関である国家が,大学 と い う存在 を支 えるべ きことは当然であ り, したがって, この点か らも,欧米 の理念の方が優れていることが分か ります。

日本の大学システムは,大学 に対する政府や社会の認識 において以上の意 味での基本的な誤 りもあって,その質的成果は冒頭で見た ような世界的な低

評価 とな ってお り,我が国大学人を含む関係者の間で も多 くの問題点が認識 されて,つねにその改革の必要性が言われて きた ところです。 しかし,その 一方で,大学進学率 とい う量的成果の側面 においては,逆 に世界的に非常 に 高い位置 にあ りまして, この量 と質 との大 きな落差 を どう理解す るかが,本 日の講義の一つのテーマであるわけです.以下では, これまでに明らかにな りま した我が国大学システムの制度的特性 に基づいて,我が国社会が見せ る 大学サー ビスに対する異常な需要の本質 とその需要行動の経済的合理性の有 無 について,統計数字 を参照 しなが ら考 えることにします。

大学教育サービスに対する需要行動の経済的合理性の問題を正面 か ら論 じ ようとすれば,他のすべての財 ・サービスを含む私的財 "バスケ ット''を対 象 とし,それに公共財 としての教育サービスを含む生産活動 との関連で社会 全体 としての最適資源配分を検討す る必要があ りますが,本 日は,その よう な大学教育 に対する一般均衡的分析の取 り掛か りとして, 日本の大学教育に 対する需給構造の特異性を分析 し,欧米 と対比 して大学 に対する社会的理念 および構造の違い との関連を明 らかにしようと思います。

高等教育 サー ビスに対 す る需要 の経済分析 としては, これ まで,

Gar y Be c ke r

,

H. Mi l l e r

,

T. W. Sc hul t z

な どによる人的資源アプローチの応用が 主流 となってお り, この理論 を基本 に して,大学進学の効用関数の計測が行 われてお ります。その理論の基本は,市場経済システムの下で各個人は教育 サービスに対する需要 について も自己の主観的効用 を最大にするように決定 する とい うものです。 まず,大学進学を選択することか ら得 られる純効用を 大卒者 としての雇用か ら得 られる生涯割引総便益か ら,その機会費用 (授業 料等の直接費用および進学 による喪失所得)を差 し引いた もの として計算 さ れ,その純効用 を個人的能力,家庭の所得水準な どで説明 しようとするのが, 一般的な研究方法です。研究者の問題意識の違 いによって説明変数が相違す

るわけで して,例 えば,ラデ ィカルな立場か らの分析ではIQ指数 とか両親 の社会的経済的背景な どが採用 されて きます。本 日は,時間の関係で, これ

らの研究のサーヴ ェイは割愛 しまして,我が国の大学教育サービス需要の実 証的な検討 に入ることに致 します。 まず,大学教育サービスに対す る需要者 は学生およびその家庭ですが,大学教育修了者 に対する需要 を考 えれば,企 業等の産業界 も,また,大学教育サービスに対す る需要者 と言 えます。高等 教育機関をキ ャリア リズムの社会的装置 と考 える傾 向の強い我が国では,産 業界の需要が学生 とその家庭 (以下では 「家計」 と言います)による直接的 需要を創 り出 している と言 って も良いのです。家計 と産業のいずれの側にし て も,大学教育あるいはその卒業生 に対する需要 が発生するのは,その需要 によって機会費用を上 回る便益がそれぞれの側で発生する 「将来見通 し」が あってのことであ ります。 もし,そ うでなければ この需要 には経済合理性は な く, 日本社会 として無駄な資源配分を していることにな ります。大学進学 率か ら見て世界的に極めて高い大学教育の量的成果を示 している我が国にお いて,その ような家計の側か らの旺盛な大学教育サービスに対す る需要 には, 十分な経済合理性が認め られるのかについて検討 します。

(2

)我が国家計の大学教育需要

以下 の統 計資料 に関 して 「高等教育」 と言 い ますのは,外 国で一般 に

" hi ghe reduc a t i on'

'と呼ばれてい るもので して,中等教育 ,

" s ec onda r y e duc a t i o n'

'よ り上の教育機関の全体を指 します。我が国について言 えば, 大学,大学院の他,短期大学,各種学校,行政機関付属の職業学校等を含み ます。 まず,中等教育修了後の高等教育進学率に関する推移 を 日本 と欧 (ド イツ)米 とについて示 したのが第3表です。 この統計は,先進 国間の大学等

第3表 高等教育進学率

1986 1988 1990 1992 1994 1996 35.3 37.iZ 36.8 .39.4 43.9 46.8 アメリカ 44.3 45.7 45.0 48.5 46.6

n. a.

資料 :文部省,教育指標の国際比較

への進学率について,すでに,常識的 に知 られている事実を確認 するもので して, ドイツに対する日米の高等教育進学率の高さを示 してお ります。大雑 把 に言います と,最近の進学率は ドイツが

3

人に

1

人の割合であ るのに対 し て, 日米では

2

人に

1

人が高校か らそれ以上の学校 に進学 してお ります。時 間的推移 を見ます と, 日本では,ほぼ一貫 して進学率が上昇傾向を見せてア メ リカの水準に近づいて きたのに対 して,アメリカの場合

,5 0 %

の手前で落 ち着いているようです。 したがって,最近時点では, 日本の高等教育進学率 はアメ リカの水準 に到達 し,それを追 い越 している状態にあるもの と思われ ます。冒頭で見ま した

IMD

報告の中の資料

2. 5. 0 4

は,それを示唆 してお り ます。 ドイツでは,80年代の終わ りまで上昇 し,その後はほぼ

3 2‑3 3 %

の と

ころで落ち着いているようです。

4

表 は,この ような我が国の高等教育進学率の上昇傾向の背景にある進 学意欲の強 さ,継続性を予見 させ る内容 となってお ります。周知の通 り,戟 が国では

,7 0

年代半ば以降の急速な少子化の傾向の反映 として

9 0

年代に入 り

1 8

歳人 口は急速に減少 して きてお ります

。7 0

年代半ばの出生率が千人中

1 9

人 近 くであ った ものが,一貫 して低落 して,最近では一桁の

9

人台にまで落ち ているわけですか ら,18歳人 口の減少 は更に持続することは確実です。 この ように世界で も例を見ないほ ど急速 に

1 8

歳人 口が減少 してお り,特別の事情 で もなければ,通常,その コウフ ォー トの中で大学へ行 く人の数なども,当 然,比例 して減 って行 くはずです。それに加えて, 日本経済は

9 0

年代に入 っ てか ら長期の経済不振か ら抜け出せないでお ります。普通 に考 えれば, これ らのマ イナス要因が重 なって高等教育への需要は大 き く減少す るはずです が,高等教育への進学者数は減少 しません。我が国では,人 口割 りでみた高

4

1 8

歳人 口の中での高等教育進学者数 (単位 :

1

万人) 1986 1988 1990 1992 1994 1996 18歳人 口 185 188 201 205 186 173 資料 :第 1表 に同 じ。

等教育進学率は,不利な経済的要因にもかかわ らず上昇の一途をた どってい るわけです。

つぎに,高等教育サービスを供給する側の状況を見てみまし ょう。第5表 は,最近時点における我が国の高等教育機関の数を学校の種類別,設置者別 に示 したもの,そ して,第

6

表は,それぞれの高等教育機関における在籍学 生数,言い換えると,教育サービス供給量を示 してお ります。 これ らに対 し て,高等教育機関のうちの大学に関 して,欧米の状況を教える統計が第7表 です。 これ らの統計資料を見て,まず気が付 くことは,我が国は,その量 と 機能において高等教育機関の中心的存在である大学について,大学数 と在籍

5

表 日本の大学等.高等教育機関の数

設置者 種類 4年制大学 短期大学 高等専門学校 各種専修学校

国 立 98 29 54 137

57 62㌔ 5 211

私 立 431 ・504 3 2,633 586 595 62 2,986 資料 :文部省,学校基本調査報告,平成9年度

6

表 日本の大学等,高等教育在籍者数 (単位 :千人

,1 9 9 7

年現在)

設置者 種類 4年制大学 短期大学 高等専門学校 各種専修学校 国 立 279.0 10.3 18.6 17.1 80.1 23.2 1.6 33.7 1,841.2 403.9 1.0 901.2 資料 :同上。

7

表 欧米の大学数 と学生数 (単位 :千人

,1 9 9 4

年現在)

国 設置者 国公立大学 私立大学

国 大学 .学生 大学数 学生数 大学数 学生数

ア メリカ 605 5,825 1,610 2,923

イギ リス 155 1,024 ‑ ‑

ド イ ツ 83 1,214 ‑ ‑

資料 :文部省,教育指標の国際比較

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