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大型プロジェクトの実施状況

2.4.1  東アジア大気海洋環境大型プロジェクトの実施状況

2010 年度より,附置研究所経費(正式名:共同利用・共同研究拠点等運営経費)による予算措置により,

「地球温暖化と急激な経済発展が東アジア域の海洋・大気環境に及ぼす影響の解明」という課題の元に,主 として東アジア域の大気海洋環境に関わる現象の解明を目指したプロジェクトが開始された.

このプロジェクトでは,地球規模の気候変動及び中国大陸における人為的環境変化など外的要因の変化 によって,東シナ海・日本海とその周辺地域の大気・海洋システムがどのように変化しうるのか,物理過 程から生物過程まで様々な素過程の解明を目指した観測的研究と,個々の物理過程や全体の循環システム を再現する数値モデル研究を通して,外的要因のインパクトを定量的に明らかにすることを目的としてい る.研究の一環として,国内の研究機関はもとより,東アジア諸国の研究機関との共同研究も多く含まれ ており,これらの研究を通じて,東アジアの海洋・大気研究の拠点としての位置づけをより明確にしてい くことを目指している.

本研究では,上述の目的と,大気海洋研究における最近の課題を考慮し,東アジア域の海洋・大気環境 を対象として,そこで起こりつつある環境変化を理解し,将来を予測するため,以下の3つの課題を設け ている.

課題1では,海洋・大気中の様々な物質の輸送・混合過程を解明するため,また,地域の生態系など海 洋環境特性の理解を目標として,①東アジア縁辺海域での水と物質の輸送・混合に関わる,特に表層・亜 表層の比較的短時間スケールの物理過程を対象とした研究,②日本海深層をはじめ,より長期的な時間ス ケールを持った物質循環とその変化過程に関する研究,③大気を通じて大陸から日本列島を含む縁辺海域 に運ばれる物質が地域の海洋・大気環境に及ぼす影響に関する研究を行う.

課題2では,海洋・大気環境が激変している東アジア縁辺海域の海洋構造とその変化が,局所的な気象 現象や大陸 - 海洋スケールの大規模な気象・気候システムに与えるインパクトに焦点を当てた研究として,

①東アジア域に特化した大気海洋結合モデルを開発し,局所的異常気象の再現,②縁辺海のメゾスケール 海洋現象がローカルな気象現象に与える影響,③縁辺海のメゾスケール海洋現象がグローバルな気象・気 候システムに与える影響,の研究を行う.

課題3では,観測・実験・数値モデルの手法を通して,海洋の鉛直混合過程の定量的な理解を進めると 共に,その研究成果を少しでも精度よく現実の現象を再現できる計算手法の確立に結びつけることを目標 として,①海洋表層混合層付近の乱流混合過程に関する実験的研究,②海洋の中深層における鉛直混合と 成層構造の維持過程に関わる研究,③ LES による鉛直混合過程の計算手法に関する研究,を行う.

これらの研究課題に基づいて,様々な視点から研究を進めており,2010 年,2011 年度の成果は,以 下のようにまとめられる.

課題1に対応して多くの研究が行われている.まず①については,1)対馬海峡を横断するフェリー

(ニューかめりあ)による流速モニタリングデータを用いた解析を行って,同海峡通過流の短周期変動や 海峡を横断する方向の構造を詳しく把握するとともに,その変動の力学的解釈とその変動が韓国沿岸にお

ける赤潮の発生と関連していることを示した.2)台湾海峡を横断するフェリーによる同海峡通過流量の モニタリングを継続し,流量の季節変動を長期間の実測データによって初めて明らかにした.また,対馬 海峡通過流量との比較により黒潮から陸棚域への正味の流量の季節変動も解析している.3)中規模渦と 黒潮による相互作用が台湾北東海域における黒潮から陸棚域への質量輸送にどのように関わっているかに ついて,単純化した数値モデルにより検討を行い,低気圧性渦と高気圧性渦の挙動を示した.4)対馬海 峡横断フェリーに搭載した GPS による海面高度計測技術の開発を行っている.これは空間的に限界のあ る衛星海面高度計測では十分でない沿岸域での海面力学高度のモニタリング手法の確立を目指したもの で,大気の成層構造の影響などが明らかになったが,フェリーデータとの比較をおこない,定量的にはま だ検討課題が残っていることが明らかになっている.5)漁業活動が盛んな沿岸域で安全な定点観測装置 として開発中のバーチャルモアリング形式の自律式ビークルの実用機の製作を開始した.実用機製作に際 した主たる改良点は,浮力調整装置の能力増大,重心移動装置の軽量化,イリジウム衛星通信の採用,電 子機器耐圧容器の変更・回路の信頼性向上・バッテリーの強化,ADCP の搭載,浮力材の信頼性増大であ る.2年間の設計と製作を経て,実海域での作動確認を行い,開発の最終段階に入った.②については,

深海での係留による流れの観測データの蓄積と,深層において初めて実施された乱流微細構造の観測など によって,主として日本海深層の海盆間の海水交換過程や,底層混合層の形成維持過程,近年確認されて いる水温上昇の解釈に関する研究が進められている.③については,1)アジア域の広域大気汚染を評価 するため,衛星によって観測された CO の鉛直分布や,全球化学輸送モデルによる数値シミュレーション 結果を利用し,新しく開発した CO 排出量の逆推定法を用いて近年の数年にわたる中国からの排出量の推 定を行った.また,SO2 排出量変化に対する硫酸塩粒子濃度への感度のソース・リセプター解析を行い,

年々の変動の大きい中国の排出量に起因する汚染の影響の解析が容易に行えるようになった.2)衛星に 搭載されたアクティブセンサを使用して雲とエアロゾル特性を解析する独自のアルゴリズムを開発し,そ れを用いて雲とエアロゾルの分布や微物理特性の全球解析を進めている.その解析プロダクトは,NASA GISS,ニューヨーク州立大学をはじめ,国内外の研究機関に配布され,多くの研究に利用されている.

課題2では,1)日本海が高緯度寒冷域の気象に与える影響について,対馬暖流の流量が低下すると,

日本海 SST が低下し,北西太平洋域で 500hPa のジオポテンシャル高度が低下(トラフが強化)する関 係を明らかにした.また,日本海中規模擾乱が「急発達した日本海低気圧」に与える影響や,黄海・東シ ナ海における二つ玉低気圧の併合過程に低気圧の発達域・経路が黒潮域から対馬暖流域に変わることが影 響していることなど,東アジア縁辺海での地域な気象に対する大気海洋相互作用の果たす役割について明 らかにしてきた.2)東シナ海と日本海を結合した縁辺海域のデータ同化モデルを構築し,海面水温・海 面高度ともに高い再現性を得た.さらに大気 GCM・海洋混合層結合モデルへ衛星水温データを同化し,

海面水温の日変化をかなり正確に再現することにも成功した.

課題3では,1)海洋表層乱流境界層における乱流過程に関する定量的評価をめざして,海面近傍の表 層流動構造観測,対流境界層での乱流エネルギー収支の解析,熱フラックスの日変化が吹送流に及ぼす影 響の全球評価,海洋前線域での鉛直循環に及ぼす大気強制力の影響に関する研究などを行い,海面直下に おけるストークスドリフトの影響や,海洋前線域における内部重力波の生成が,非線形エクマン輸送の収 束・発散によって特に活発となることなどを明らかにした.2)海底境界層における潮汐に起因した乱流 の生成・発達過程について LES による数値シミュレーション実験を進め,海底乱流に対するコリオリ力の

鉛直成分の影響に注目して海底境界層内の流向依存性を調べ,日周潮と半日周潮に対する応答の違いを,

海底境界層流速の鉛直スパイラル構造の違いから説明した.3)内部波は海洋での混合のエネルギーソー スとして大きな役割を果たしていると考えられるが,その挙動特性を正しく理解することは海洋内での混 合過程を知る上で重要である.海洋中の複雑な内部波の理解につなげるため,造波装置のある実験水槽を 用いて,孤立波の生成や二つの孤立波の融合等,二次元孤立波の相互作用による物理過程を調べた.

2.4.2  球状トカマク QUEST プラズマの定常化研究の成果と将来計画

研究組織

 高温プラズマ力学研究センター :図子秀樹,花田和明,藤澤彰英,坂本瑞樹(~ 2010. 9.30),

       上瀧恵里子,出射 浩,永島芳彦(2011. 5. 1 ~)

 極限構造材料分野       :吉田直亮,渡邊英雄

 プラズマ表面相互作用分野   :中村一男,徳永和俊,長谷川 真

1.第1期中期目標・中期計画の概要と到達点

 H16 年から始まった中期目標・計画では“トカマクプラズマの定常運転の原理実証”を目標として推進 してきた TRIAM project を終結し,“温度制御された第1壁とダイバーター排気を特徴とする球状トカマ ク装置を用いて,プラズマ・材料相互作用の能動制御と非誘導電流駆動を基軸とした球状トカマクの定常 化に関する学術研究”を目指して,新たに QUEST project を立ち上げることが主要な目標であった.新 たに始まった双方向型共同研究の枠組みで全国共同利用実験装置の建設と project の推進・運営が認めら れ,H17 年より三カ年計画で QUEST 実験装置が建設され,H21 年度から本格的な実験が開始された.第 1期の研究上の目標は“ 10-20 kA の非誘導方式での定常運転を見込める短パルス運転の実現”というも のであったが,8.2GHz 30 kW の高周波により,~10 kA の非誘導電流駆動を実現し,その電流値を約 0.7s 間維持することに成功し,掲げた目標を概略達成することができた.組織運営上の目標は“外部委 員による開かれた project 運営と新たな共同研究の参加形態である Virtual Laboratory 方式の整備”であ るが,これに関しても QUEST 実験推進会議を中心として学会構成員に開かれた運営がなされた.SNET を活用した仮想実験室への共同究者の参加に関しては機器や研究環境の整備を終えることができた.以上 のように共同研究に関しての研究並びに運営に関して目標とするところを概略達成し,H22 年度から始ま る第2期中期目標・計画遂行に向けた準備を完了できたのも国内外の関係者のご支援の賜であり,研究所 の共同研究の成果発表会の場を借りて改めて深謝の意を表したい.

2.共同研究成果の概略

2-1) EBWCD のための位相配列アンテナ整備と非誘導電流駆動(東京大学,京都大学,NIFS,東北大学,

JAEA,名古屋大学,広島大学,筑波大学,東海大学 他)

 QUEST 装置での定常プラズマ維持のために,電子バーンシュタイン波による加熱・電流駆動(EBWH/

CD)を計画し,加熱・電流駆動アンテナシステム開発を行ってきた.プロトタイプの4×2(8連)の 位相配列アンテナを用い,垂直磁場を一定にして 30 kW 入射時に 10 kA 電流を 0.7 秒間達成した.低ア