第5章 p 型 SiC 結晶のキャリア寿命の向上
5.3 深い準位の低減
5.3.3 基板除去によるキャリア寿命の改善
エピタキシャル成長層の厚みを増加させることで、表面再結合や基板での再結合の影響を低減 できることは、数値解析で確認し、また表面再結合の低減については、実験的にも確認できた。し かし、基板での再結合の影響については実験的に確認できておらず、また、これまで特に議論して こなかった。エピタキシャル成長層と基板間の界面の影響などについても未解明である。そこで、
基板中での再結合や基板界面がキャリア寿命に及ぼす影響を把握する目的で、147 µm厚みのエピ タキシャル成長層のサンプルに対し、基板を除去し、キャリア寿命を評価した。
ここで用いたサンプルは、炭素イオン注入+高温アニール処理を行った147 µm厚p型4H-SiC エピタキシャル成長層を用いた。基板除去に関しては、炭素イオン注入による表面のダメージ層を 3 µm研磨し、かつ、裏面の基板を完全に除去するために、研磨後のエピタキシャル成長層の厚み
が134 µmになるまで研磨を進めた。なお、裏面基板の除去は機械研磨で削りとり、研磨面の最終
仕上げは、両面ともにCMP(Chemical Mechanical Polishing)処理を施した。
(5.1)
C ar rier L ifet im e ( µ s)
Annealing Temperature (
oC)
1400 1600 1800 2000
Generated carriers:
1.0x10
15cm
-32.5
1.5 1.0 0.5 0 2.0
As-Grown
0 5 10
10 0 10 1
10 -1 10 -2
10 -4
Time ( µ s)
Generated carriers:
3.8x10
15cm
-3µ- PCD Si gn al ( ar b. u ni t)
As-Grown
10 -3 With Substrate
(Carbon-implantation) w/o Substrate
(Carbon-implantation)
図 5.9: 炭素イオン注入処理を施した147 µm厚みp型4H-SiCエピタキシャル成長層の炭素イオン 注入後のアニール温度に対するキャリア寿命の依存性
図 5.10: 炭素イオン注入した147 µm厚p型4H-SiCエピタキシャル成長層に対する基板除去前後の
µ-PCD減衰曲線の比較(基板除去後のサンプル厚みは135 µm)
このように裏面基板を除去した自立p型4H-SiCエピタキシャル成長層に対し、キャリア寿命 を評価した。基板除去前後で得られたµ-PCD減衰曲線を図5.10に比較する。この結果、基板除去 により測定キャリア寿命は1.6 µsから2.0 µsへと若干改善されたが、それほど顕著な改善は見ら れず、前述の長時間の熱酸化処理で得られたキャリア寿命(2.6 µs)までの改善にも至らなかった。
しかしながら、基板を除去してもキャリア寿命にあまり変化が無かったという結果は、厚いエピタ キシャル成長層ではキャリア寿命測定に及ぼす基板での再結合の影響が小さくなるという数値解 析結果を、実験的に確認できたと言える。
さらに、熱酸化処理を行うことで、表面と裏面の両面からZ1/2センター密度の低減を行い、さ らなるキャリア寿命の改善を試みた。熱酸化処理は1350℃-10 hで行い、表裏面の酸化膜をフッ酸 溶液により除去した後、キャリア寿命を測定した。測定により得られたµ-PCDの減衰曲線を図5.11 に示す。この結果、熱酸化処理によりキャリア寿命が減少したことが判明した。念のため、自立p 型エピタキシャル成長層の裏面側からもキャリア寿命を測定したが、裏面側から測定したキャリア 寿命も同様に減少していた。キャリア寿命が減少した原因は明らかでないが、熱酸化処理により新 たなライフタイムキラーが生成した可能性が考えられる。
0 5 10
10 0 10 1
10 -1 10 -2
10 -4
Time ( µ s)
Generated carriers:
3.8x10
15cm
-3µ- PCD Si gn al ( ar b. u ni t)
As-Grown
10 -3
Before Oxidation
After Oxidation (1350 ℃ - 10h)
Front sideBack side
図 5.11: 135 µm厚みの自立p型4H-SiCエピタキシャル成長層に対する熱酸化処理前後の
µ-PCD 減衰曲線の比較(自立エピタキシャル成長層は基板除去前に炭素イオン注入処理が
施されている)