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第2章 半導体のキャリア寿命

2.3 キャリア寿命の評価

2.3.3 電気的測定法

キャリア寿命の光学的測定法は、一般的に非接触で測定できるという特長があるが、半導体中 に電子-正孔対を光励起で生成するため、励起光の波長に対する吸収係数の関係が正確にわかって (2.30)

(2.31)

いなければならない。またサンプル表面の光の反射や、輻射再結合で生成された光子が半導体に吸 収される自己吸収などを考慮すると、生成する過剰キャリアの定量は複雑になる。

一方、電気的な注入は、pn 接合の空間電荷領域の端面が少数キャリアの注入源となり、キャ リアの制御が容易である。以下に電気的測定法として逆回復法と開放回路電圧減衰法の特徴につい て述べる。

(1) 逆方向回復 (Reverse Recovery) 法

ダイオードの逆方向回復法は、キャリア寿命を初めて電気的に評価した方法の一つである

[19,20]。ダイオードに流れる電流を、逆バイアスを印加することで、逆方向に切り替え、測定され

る電流の過渡特性からキャリア寿命を求める手法である。測定回路と、その電流-時間応答を図2.7 に示す。図2.7(b)では、電流を瞬時に切り替えているが、急に電流を切り替えられないパワーデバ イスでは図2.7(c)のように電流の変化に傾き(電流減少率)を有して電流が切り替わる。

図(b)の場合、逆電流が流れると、過剰キャリアの一部は逆電流によって、デバイスの外に掃き 出され、一部は再結合して過剰キャリア密度が減少する。空間電荷領域端部での過剰少数キャリア 密度が𝑡 =𝑡sでほぼゼロになると、ダイオードはゼロバイアスになる。𝑡 >𝑡sでダイオードの電圧 は逆バイアス電圧𝑉rに、電流はリーク電流𝐼0に近づく。この𝑡sを蓄積時間と呼び、

erf�𝑡s

𝜏r = 1 1 +𝐼r/𝐼f

で再結合寿命と結び付けられ

𝑡s =𝜏r�ln�1 +𝐼f

𝐼r� −ln�1 + 𝑄s

𝐼f𝜏r��

を得る。この関係式より、𝑡sとln(1 +𝐼f/𝐼r)のプロットから、キャリア寿命が傾きとして求まる。

図2.7(c)の場合、キャリア寿命は電流波形の𝑡1 ~ 𝑡3の値より、

𝜏r ≈ �(𝑡2− 𝑡1)(𝑡3− 𝑡1) として求められる[20]。

なお、注意点として、耐圧維持層の薄いダイオードや、表面および界面に再結合中心となる深 い準位が高密度に存在する場合は、測定される実効的なキャリア寿命には、バルクの再結合と表面 再結合の両方が含まれる。またアノード層は一般にベースに比べて十分に高い濃度にドープされて いるので、アノード層での再結合寿命は耐圧維持層での再結合寿命に比べて短い。特に、高レベル 注入では再結合寿命が明らかに短くなるという問題がある[21]。高レベル注入に限らず、キャリア 注入レベルが中レベルあるいは低レベルであっても、アノード層での再結合は逆方向の回復過程に 影響し、耐圧維持層の再結合寿命が真の値からずれることがあることにも注意を要する。

(2.32)

(2.33)

(2.34)

I

d

I

f

I

0

I

r

t

S

0 0

t

t V

f

V

d

V

r

I

d

I

f

I

0

I

r

t

2

t

1

t

3

t

t V

f

V

d

V

r

t = 0

I

d

S

V

r

I

f

R

(a)

(b) (c)

図2.7 : 逆方向回復法の測定回路とその電流-時間応答 (a) 回路図, (b) 瞬時に電流を切り替えたときの電流および電圧波形, (c) 電流を傾斜さ せたときの電流および電圧波形

(2) 開放回路電圧減衰 (OCVD : Open-Circuit Voltage Decay) 法

開放回路電圧減衰(OCVD)法の測定回路および得られる測定波形の模式図を図 2.8 に示す。ダ イオードを順バイアスにし、𝑡 = 0でスイッチ S を開き、図 2.8(b)のような過剰キャリアの再結合 による電圧の減衰を検出する[22]。∆𝑉dの段差は、電流が止まった時のダイオードのオーム性抵抗 による電圧降下で、これよりデバイスの直列抵抗を求めることができる[23]。またキャリア寿命は その後の測定電圧の減衰曲線の傾きより求められる。過剰少数キャリア∆𝑝(𝑡)は、時間変化する接 合電圧𝑉(𝑡)と次式の関係がある。

∆𝑝(𝑡) =𝑝0�exp�𝑞𝑉(𝑡) 𝑘𝑇 � −1�

ここで、表面再結合などを無視した理想的な再結合を考慮すると

−d∆𝑝 d𝑡 =∆𝑝

𝜏r

の関係から

𝜏𝑟 =−𝑘𝑇 𝑞 �

d𝑉(𝑡) d𝑡 �

−1

が求まる。

高レベル注入の場合は、耐圧維持層の過剰キャリア密度が均一、かつ耐圧維持層のドーピング 密度より高いという条件で、

𝜏𝑟 =−2𝑘𝑇 𝑞 �

d𝑉(𝑡) d𝑡 �

−1

で与えられる[24]。

(2.35)

(2.36)

(2.37)

(2.38)

0 t

V

d

V

d

t = 0 S

V

d

V

0

R

(a) (b)

図2.8 : 開放回路電圧減衰(OCVD)法の測定回路および得られる測定波形の模式図

(a) 回路図, (b) 測定される電圧波形

逆方向回復法とは異なり、OCVD法では電流がゼロになるため、過剰キャリアは全て再結合し、

逆電流によるデバイスからの流出は無い。また、𝑉 − 𝑡曲線の内、耐圧維持層での再結合が支配的 な部分から寿命を求めるため、実験の解釈が簡単である。このため、OCVD法はRR法よりも簡易 で精度が良いとされる[21]。

ただし、ダイオード容量が無視できない時や、接合の並列抵抗が低い時は注意が必要である。

容量成分があると、𝑉 − 𝑡曲線を引き延ばす傾向があり、傾きがゆるくなって、長めの寿命になる[25]。 また、空間電荷領域での再結合や並列抵抗の低下があるときは、準中性バルクでの再結合に見られ るより速く𝑉 − 𝑡曲線が落ち込む。このような減衰曲線を持つデバイスに対しては、外付けの抵抗 とキャパシタで補償した測定回路で曲線を得、これを微分してキャリア寿命を求める方法がある [26]。