3. Tm 3+ :ZBLAN ファイバを用いた光格子用 レーザーの開発
3.1. 基本的な実験構成
本節では基本的な構成について記述する。基本的な構成は図3.1に示すように 後方励起を採用している。マスターレーザーに ECLD を使用し、Tm3+添加
ZBLANファイバを後方からYb3+ファイバレーザー(YbFL)でコア励起している。
ECLDの波長は813.42 nm、出力70 mW、周波数線幅は200 kHz以下である。励
起波長は785 nmと1064 nmの2通り考えられる。813 nmでは再吸収が強いた めにクラッド励起では励起強度が不十分であり増幅が難しいため、コア励起に よる高強度励起が必要である。その点、785 nm励起の場合は高出力なマルチモ ードファイバ出力の LD を用いたクラッド励起手法が広く用いられているが高 輝度な光源は無い。一方で1064 nmの場合はYb3+:ファイバレーザーという高輝 度なレーザーで励起できる。Sr光格子時計の光格子用レーザーには1 W以上の 出力が必要であり、LD では輝度が不十分であるため Yb3+:ファイバレーザーを 励起レーザーに用いた。基本的な構成は、マスターレーザー(ECLD)の光をYbFL で後方コア励起されたTm3+添加ZBLAN ファイバによって増幅する構成である
(図3.1)。
図 3.1 ファイバMOPAの基本構成
3.1.1. 外部共振器型半導体レーザー(ECLD)
マスターレーザーとして用いたECLD(External Cavity Laser Diode)について説 明する。
ECLDは小型で狭線幅なレーザーとして知られている。近年では堅牢にデザイ ンすることで10 kHz以下の周波数線幅が実現されており、波長掃引も可能であ るため分光や他レーザーの評価にも使用することができる[124]。810 nm帯にお いて狭線幅で波長可変性に優れた安定な光源はECLDしか無いため ECLDをマ スターレーザーとした。
片側がAR(Anti Reflection)コーティングされた半導体レーザーと外部鏡によっ
て共振器を構成することで共振器長が長くなり狭線幅化が可能になる。しかし、
FSR(Free Spectral Range)が小さくなるため多くの縦モードが存在する。そこで単
一縦モードで出力するために回折格子やフィルターが用いられる。フィルター を用いた場合は回折格子の場合と比べて周波数掃引帯域が小さいが、出射光の ポインティングの安定性が高いという利点がある。
そこで、図3.2のようなECLDを作製した。LD(Laser Diode)チップはEagleyard 社の片側がARコーティングされており、780 nmから850nmまでチューニング できる。コリメートレンズは Thorlabs 社製のレンズ(LD に近い方から f=4.51
mm、f=18.4 mm、f=11.0 mm)を用いた。円筒型のピエゾ素子には部分反射ミラ
ー(OC : Output Coupler、シグマ光機社製)がエポキシ樹脂で接着されており、
800 nmで20%の反射率を持つ。干渉フィルターはRadiant Dyes社製のフィルタ
ーを用いており、6 で中心透過波長が817 nmであり、0.4 nmの半値全幅(FWHM :
Full Width at Half Maximum)をもつ。傾きを変えることで中心透過波長を変える
ことができるので、813 nmで単一縦モードを出力できるように傾きを調整した。
温度と電流値とピエゾ素子の電圧によって波長をチューニングできる。図3.3に ECLDのPI特性を示す。180 mAで95 mW出力できるが高負荷で使用すると壊 れる危険性が高くなるため基本的に100 mAで使用した。
図 3.2 ECLDの構成の概略図(左)と写真(右)
図 3.3 ECLDのPI特性
フィルターの角度を調整しモードホップしない波長帯域内で 813.42 nm を出 力した。ECLD(印加電流:100 mA)の温度を変えながらから出力される波長を 波長計(671B-NIR, Bristol Instruments, Inc.)で測定した(図3.4)。プロットがと びとびになっているのは波長計の分解能に由来する。図 3.4 の横軸は ECLD に 取り付けてあるサーミスタの抵抗値、縦軸は波長計で表示された波長である。こ
れよりモードホップしない波長領域内で 813.42 nm を出力できることを確認さ れる。そして 813.42 nmが出力される温度に温度制御された ECLDを用いて増 幅実験を行なった。
図 3.4 温度に対する出力される波長(100 mA時)