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地方税の安定性と普遍性

ドキュメント内 地方税の安定性に関する分析 (ページ 117-147)

第1節 はじめに

(1.1)本章の目的

本章の目的は、地方税の普遍性を明らかにした上で、安定性や伸張性と普遍性の関 係を確認することである。地方税の普遍性は、「それぞれの地方団体が自主性をもって、

その財政運営を行わなければならないのであるから、地方団体ごとに十分な収入をあ げるような税、すなわち普遍性のある税が必要である」1として理解されており、すべ ての地方団体が十分に税収を確保できることを要請する原則である。これは、国の定 める地方税法によってすべての地方団体が標準的な財政需要を賄うことを前提とした 日本の地方税制度の特徴をもっともよく反映した原則ともいえる。そもそも地方税法 という枠組みが存在せず、地方団体が(たとえば、法律(条例)を制定して)独自に 税収を調達するような仕組みであれば、地方税に普遍性を求める必要はない。たとえ 普遍的に税源が存在しなくとも、それぞれの地方団体に所在する税源を使って、それ ぞれの地方団体が税収を確保すればよいのである。この場合には、標準税率などとい う概念も意味を持たなくなるかもしれない。そうではなく、すべての地方団体を通じ て、同じ仕組みの税が基幹税として税収調達の役割を果たすことを期待するからこそ、

地方税の普遍性は望ましい地方税の体系を構築するための要件として必要不可欠とな るのである。

最近の地方税の普遍性に関する議論は、「暫定措置」としての地方法人特別税や地方 法人譲与税の扱いとの関連で、もっぱら地方法人課税を中心に展開されている。これ は、2008 年度に、「消費税を含む税体系の抜本的改革が行われるまでの間の暫定措置 として、法人事業税の一部を分離し、『地方法人特別税』及び『地方法人特別譲与税』

を創設することにより、偏在性の小さな地方税体系の構築を進める」2として、法人事 業税の一部を削って、地方法人特別税と地方法人特別譲与税が創設されたことに始ま る。この措置は、偏在性が高いとされた法人事業税を減らして地方法人特別税として いったん国が回収し、改めて人口等の基準によって地方法人特別譲与税として都道府 県に配分し直すことによって、税収の普遍性を高めようとするものである。

このように、地方法人特別税の創設は、法人住民税や法人事業税といった地方法人 課税の偏在性を前提とした措置である。地方法人特別税の創設を是とする立場からす れば、地方法人課税が偏在的であることはもはや今さら確かめるまでもない事実であ

1 (財)地方財務協会編(2008)3ページ。

2 財務省『平成20年度税制改正の要綱』(閣議決定)11ページ。

り、普遍性の観点からして、いかにして地方法人課税の偏在性を解消するかが課題な のである。

一方で、地方法人特別税の創設、あるいは地方法人課税が偏在的であるという認識 に対して、批判的な見解もある。その代表は、東京都である。東京都は、次のように 述べる。性の解消によって税収を減らすことが見込まれる東京都は、これに対して批 判的である。「法人二税の地域間の税収格差が、他の税に比べて大きいことは事実であ る。しかしながら、首都である東京には、金融をはじめ全国の大企業の4 割近くが所 在し、全国の従業者の25% が働く(2008 年版中小企業白書より)など経済機能も集中 しており、税収が一定程度集中することはやむを得ない面がある。」「財政需要も併せ てみる必要がある。行政や経済機能の集中は、東京に300 万人超という膨大な昼間流 入人口をもたらしている。世界の大都市と比較しても突出した昼間流入人口は、道路 や鉄道、上下水道などの都市基盤に大きな負荷をもたらすとともに、警察・消防・災 害対策といった安全への対応や廃棄物対策等の環境問題への対応など、膨大な財政需 要を生み出している。」3

確かに東京都の主張するとおり、首都としての機能をもつ(あるいは、果たさねば ならない)東京都には特別な財政需要が存在するようにも考えられる。しかしながら、

地方税の普遍性(あるいは、税源の偏在性)に関する先行研究や議論の経緯を踏まえ るならば、地方法課税は偏在性が高く、普遍性に劣るというのが現在の支配的な見解 である。

ところで、地方法人課税に対する批判は、普遍性の観点だけではない。安定性の点 からも批判されることがある。そこには、地方法人課税は税収の安定性に欠けるので 地方税としてはふさわしくないのであり、廃止すべきであるとの主張もある4

橋本(2008)は、最近の地方税の普遍性に関する関心の高まりの背景を次のように 説明する。「地域間税収格差への対応が相次いで打ち出された背景には、三位一体改革 が挙げられる」。「三位一体改革では、これまで地方に手厚く配分されてきた国庫補助 負担金や交付税を削減し、地方税を増税したことにより、都市部、とりわけ東京都に 大幅な税収増大をもたらすことになった。都市部の地方税収増大は、地方交付税の交 付団体にとっては、地方交付税の減少をもたらす。しかし、三位一体改革以前から不 交付団体であった東京都では、地方税収増大がそのまま歳入の増大につながる。東京 都での大幅な歳入増大は、オリンピックの開催などで東京での歳出増加へつながる可 能性が高い。そこで、東京など都市部に税収が集中している地方法人2税の税収を地

3 『平成20年度東京都税制調査会答申』27ページ。

4 これに対しても、『平成20年度東京都税制調査会答申』は「地方税にふさわしい税の一 つであり、引き続き地方税として維持していくことが適当である」として批判している(27 ページ。)。

方へ再配分する案が浮上したわけだ。」56

本来、地方税の普遍性の問題は、首都機能における特別な財政需要の問題や地方分 権改革の副産物としての東京都の税収の集中といったこととは切り離して、望ましい 地方税の体系の構築という観点からなされるべきである。地方法人特別税に関する議 論では、法人事業税の分割基準の問題が指摘されることもあるが、これも本来は地方 税の普遍性とは別の問題である7。しかしながら、最近の議論では、これらが混同され ることがある。その理由は、これらのすべてが、結局は、東京都への税収の集中とし て顕在化することにあると考えられる。

確かに東京都は、地方団体の中でも首都として特別な存在である。それゆえに、経 済の機能や人口など、すべてが東京一極集中となり、その結果、税収も集中する。地 方税の普遍性を検討するときに、東京都の存在をどのように扱うかは悩ましい問題で ある8

特別な存在である東京都の影響に配慮して分析を行う方法のひとつは、東京都を除 いて分析することである。東京都を除いて分析することによって、地方税の普遍性の 問題を、東京都への税収の集中とは切り離して、望ましい地方税の体系という観点か ら検討できる9。そこで、本章では、東京都を除いて、税収の普遍性を分析してみるこ とにする。

(財)地方財務協会編(2008)は、地方税原則における税収の普遍性の趣旨に沿う 税として、道府県民税、市町村民税、固定資産税、地方消費税などを挙げる。さらに、

同書は、伸張性のある税目として道府県民税や市町村民税を挙げ、安定性のある税目 として固定資産税を挙げる。また、通常、地方消費税は安定性があるとされる。

既に第2章や第3章で述べたように、これまでの通説では、安定性と普遍性は両立 する傾向があり、安定性と伸張性は相対立する傾向があるとされてきた。この場合、

伸張性と普遍性も相対立することになる。しかしながら、上で述べたように、地方税 原則は、道府県民税や市町村民税を伸張性のある税として挙げ、同時に、普遍性のあ

5 橋本(2008)2ページ。

6 その後、2020年の東京オリンピック開催が決定した。

7 地方消費税の清算制度の問題も、当然、普遍性とは別の問題である。

8 普遍性だけではなく、安定性や伸張性の分析においても、東京都は推計結果に大きく影 響を及ぼしている可能性がある。

9 これまでの議論で前提とされてきた地方法人課税における税源の偏在性は、結局のとこ ろ、東京都への税収の集中の問題である。『平成20年度東京都税制調査会答申』が述べる ように、東京都には、税収だけではなく、「行政や経済機能」、そして人口などのすべてが 集中している。東京都への地方税の集中の問題は、これだけを切り離して安定性や伸張性 と同様のレベルで議論するのではなく、首都に所在する税源を(国も地方も含めて)すべ ての課税主体としてどのようにして効率的に利用すべきかという観点から検討されるべき である。

ドキュメント内 地方税の安定性に関する分析 (ページ 117-147)