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地方税における税収の安定性と伸張性

ドキュメント内 地方税の安定性に関する分析 (ページ 34-71)

第1節 はじめに

(1.1)本章の目的

(財)地方財務協会編(2008)は、地方税原則の説明において、安定性の原則を「地 方団体の経費にはその行政事務の性質上経常的なものが多いし、また、市町村の多く はその財政規模が小さいので、地方税とくに市町村税は、年度ごとにその収入額が急 激に増減しない種類のものであり、増減するとしても年度間の調整ができる程度のも のであることが必要である。まして、社会の進展とともに地方団体の行政についても、

住民の福祉を保障するための最低限の画一的行政が要請されているのであるから、収 入の激変しやすいものや単に一時的な収入を得るに過ぎないものは望ましくない。」1 と述べ、その趣旨に沿う税として固定資産税などを挙げている。また、伸張性の原則 は、「社会は年々発展の過程にあるが、これに伴い住民の福祉に直結している地方団体 の行政も質量とも増加していく傾向にある。したがって、地方税もこのように増加し ていく経費に対応する収入をあげうることが必要である。」2と説明し、この趣旨に沿 う税として道府県民税、事業税、市町村民税などを挙げている。

つまり、安定性の原則は、景気変動に関わらず、地方税が安定的に税収を確保する ことを求め、伸張性の原則は、経済成長に対応して税収も増加していくことを求める。

言い換えると、地方税の安定性は、短期的な景気循環において生じる GDP の変化に 対して地方税収が敏感に反応することなく、一定の収入をもたらすことであり、計数 的には、短期的な意味において、地方税収の変化率が GDP の変化率よりも小さくな ることである。また、伸張性の原則は、長期的な経済成長によって生じる GDP の増 加よりも地方税収入の伸張が大きくなることであり、計数的には、長期的な意味にお いて、GDPの成長率よりも地方税収の成長率の方が大きくなることとなる。いずれも GDPの変化との関係で捉えることがで、短期的な景気循環に対応するのを安定性、長 期的な経済成長に対応するのを伸張性として、区別できる。

本章は、地方税の安定性と伸張性を GDP の変化との関係で推計し、明らかにする ことを目的とする。地方税の安定性と伸張性には、多くの先行研究の蓄積があある。

そこではさまざまな尺度で安定性や伸張性が測られてきた。たとえば、対前年度変化 率、標準偏差、変動係数、所得弾性値、税収の潜在的変動性、税収の所得弾力性など を挙げることができる。本章は、これらの中から税収の所得弾力性を安定性と伸張性

1 (財)地方財務協会編(2008)3ページ。

2 (財)地方財務協会編(2008)4ページ。

の尺度として採用する。税収の所得弾力性は、税収の変化率に対する GDP の変化率 の比率で定義される。したがって、標準偏差や変動係数を用いた分析とは異なり、GDP の変化との関係において地方税の変化を直接把握できるという特徴がある。

本章の推計の特徴は、税収の所得弾力性を短期と長期に区別することである。本章 は、短期の所得弾力性を安定性の尺度とし、長期の所得弾力性を伸張性の尺度とする。

このようにして所得弾力性を短期と長期に区別して安定性と伸張性を区別する方法を 最初に提案したのはSobel and Holcombe(1996)である。Sobel and Holcombe(1996) は、アメリカの1951年度から1991年度のデータを使って、主要な州税の課税ベース の弾力性を推計した。その後、同様の手法による分析は、Acqaah and Gelardi(2008) にもみられる。Acqaah and Gelardi(2008)は、1962年度から2000年度の期間で、カ ナダのブリティッシュコロンビア州の収入の所得弾力性を推計した。

本章は、1980年度から2011年度のデータを使って、短期と長期の地方税収の所得 弾力性を推計し、日本の地方税の安定性と伸張性を明らかにする。Acqaah and

Gelardi(2008)が「アメリカの州の収入の安定性や伸張性を分析した研究はたくさん存

在するが、カナダの州を対象にした同様の研究は驚くほど少ない」3と述べるように、

この分野における先行研究のほとんどはアメリカを対象にしたものである。日本を対 象にした分析も、カナダの場合と同様に、非常に少ない。さらには、税収の所得弾力 性を短期と長期で区別し、日本の地方税の安定性を短期の所得弾力性として推計する というアプローチを採用した先行研究は、存在しない。

分析の対象は、道府県税、市町村税、そして地方税の全体(つまり、合計)だけで はなく、個別の基幹税として住民税、事業税、地方消費税、固定資産税である。(財)

地方財務協会(2008)が述べるところでは、地方税原則で安定性を期待する基幹税は 固定資産税のみであり、道府県民税、事業税、市町村民税には、安定性ではなく、伸 張性を期待している。しかしながら、最近では、地方消費税が地方基幹税に加えられ、

地方消費税には安定性が期待されている。そして、第1章で述べたように、タックス・

ミックスの観点において地方税の全体の安定性を検証することは有意義であり、そう であるとすば、地方税の体系を構成する部分としての個別税目それぞれを安定性の観 点から評価することもまた意味のあるとことであろう。

本章の構成は、次のとおりである。まず、第1節の残りを使って、本章が分析対象 とする地方税の1980年度から 2011年度までの期間における税収の変化を、GDPの 変化との関係で確認する。第2 節は、先行研究をサーベイし、これまでに行われてき た地方税の安定性に関連する議論を整理する。とくに税収の変動性を測定する尺度に ついて説明し、安定性と伸張性を区別することの意義を述べる。第3節は、分析で用 いるデータと方法を説明する。第4節は、分析の結果を示す。第5節は、分析の結果

3 Acquaah and Gelardi(2008)42ページ。

に考察を加える。第6節は、本章のまとめである。

(1.2)地方税収の変化と経済の動向

本章の関心は、地方税収の安定性と伸張性にある。これらは GDP の変化に対して 地方税収がどのように変化したのかを検証することと言い換えられる。そこで、まず は、GDP の変化との関係で地方税収の変化を確認する。ここでは 2 通りの方法で、

GDPの変化と地方税収の変化の関係を確認する。

第1は、基準年に対する変化によって傾向を捉える方法である。これは、図2-1(a) と(b)で示している。ここでは、1980年度から2011年度を期間にして、道府県税、

市町村税、そしてGDPの大きさ(すべて名目額)を1980年度の金額を100とした指 数で表している。これらの図によって、GDPの成長と対比する形で地方税収の伸張の 軌跡を把握できる。

図2-1(a)からは、GDPの成長と道府県税の成長の関係を読み取ることができる。

個人道府県民税は1990年代の前半まではGDPの成長とおおむね同様のペースで伸張 していたが、その後は景気の停滞とともにGDPの成長を下回る。しかしながら、2007 年度の税源移譲によって税収が急増すると、再び GDP の成長を上回るようになる。

法人道府県民税と事業税は、2009年度までは似たような動きをする。これらの地方法 人課税の動きは、GDPの変化に比べて、増減が激しいようにもみえる。特徴的なのは 2011年度に事業税の水準が82.9となることであり、これは1980年度の水準よりも(名 目額で)税収が少ないことを意味している。地方消費税は 1997 年度に創設された税 である。図2-1(a)では、地方消費税のみ1997年度の水準を100として表している。

1998年度以降、地方消費税は比較的安定的な推移を見せている。これらを含めて道府 県税の全体の税収の推移は、1980年度の100から始まり、1990年代から2000年代 にかけては200前後の水準で推移する。2007年度に、一旦、大きく増加するが、2009 年度には以前の水準に戻る。総じて、GDPの推移と比べると、法人道府県民税や事業 税は成長が大きく、個人道府県民税や地方消費税は安定的であるように認められる。

図2-1(b)は市町村税の推移を示している。一見して、固定資産税が大きく税収を 伸ばしているのが目につく。1980年度の100から始まり、2011年度には330に至っ ている。ちなみに2011年度の名目GDPは190である。個人市町村民税は、2002年 度までは名目 GDP の成長を上回っており、全体的に見ても比較的なめらかに推移し ている。個人市町村民税の推移は、課税ベースを同じくする個人道府県民税とは随分 異なるように見えるが、法人市町村民税は、法人道府県民税と傾向が似ているように 見える。つまり、個人住民税では道府県分と市町村分が異なる推移を示しているが、

法人住民税では道府県分と市町村分が同様の推移を示すのである。また、法人市町村 民税は、個人市町村民税や固定資産税に比べて、税収の変化が激しいようにみえる。

(出所

(注 それ

(出所

(注 それ

所)総務省

)1. すべ 以外は198

所)総務省

)1. すべ 以外は198

図 省『平成25年

て名目額に 0年度を10

図2 省『平成25年

て名目額に 0年度を10

図2-1(a)道 年度地方税

よっている 00とした指

2-1(b)市町 年度地方税

よっている 00とした指

道府県税と に関する参

。 2. 地 指数である、。

町村税と名 に関する参

。 2. 地 指数である、。

GDPの推移 考係数資料 地方消費税の

目GDPの変 考係数資料 地方消費税の

料』により作 のみ1997年

変化

料』により作 のみ1997年

作成。

年度を100 と

作成。

年度を100 と とし、

とし、

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