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固定資産税において負担調整措置が税収の安定性に与えた 影響

ドキュメント内 地方税の安定性に関する分析 (ページ 181-200)

第1節 はじめに

(1.1)本章の目的

本章は、固定資産税の安定性に大きく影響を及ぼす要因として、負担調整措置を取 り上げる。負担調整措置は、固定資産税の研究においてしばしば対象とされてきた課 題であり、固定資産税を考察する上では、もっとも関心の高い論点のひとつである。

負担調整措置は、税負担の激変緩和を目的として固定資産評価制度の実施に伴って導 入された仕組みである。(収益税ではなく)財産税である固定資産税において納税者の 税負担に配慮することを趣旨にして始まった。現在では、そこに負担水準の均衡とい う税負担の公平性を担保するための機能が追加されている。日本の固定資産税制度で は、固定資産税の税負担額は、事実上、負担調整措置によって決まる。

本章は、税収の安定性との関係で負担調整措置が果たしている役割を考察する。こ れは、先行研究ではまったく論じられたことのないアプローチである。現行の負担調 整措置の特徴は、とくに宅地に対する負担調整措置に現れており、税負担の激変を緩 和しつつ、税負担の不均衡の是正を図ることである。本章は、宅地に対する固定資産 税に焦点をあて、固定資産税の負担を実効税率によって測ることで、固定資産税の負 担と地価の関係、そしれこの関係に税収の安定性が及ぼす効果を明らかにし、税収の 安定性の観点から負担調整措置の効果を考察する。

現行の負担調整措置が導入されたのは 1997 年度である。古来、固定資産税はもっ とも評判の悪い税として知られている1。したがって、固定資産税に対しては、数多く の批判がさまざな角度からなされてきたが、1997年度以降、日本の固定資産税に対す る批判は、大半が「地価が下落しているのに固定資産税は減らない(むしろ、増加す る)」といった苦情ともいえる内容に変化した。そこでの悪玉は、この新たな負担調整 措置である。地価が低下しているのに固定資産税が減らないのは負担調整措置のせい であるとして、ここに負担調整措置の仕組みそのものの複雑さも合わさってか、2000 年代以降、固定資産税は多くの批判にさらされた。

本章の分析は、この批判に対して、解答を与えるものでもある。負担調整措置の意 味を納税者の税負担への配慮の観点から再考し、その効果を税収の安定性との関係で 検証することによって、固定資産税の負担の変化を税収の安定性の観点から説明する。

これによって、地価の下落期においても固定資産税の税収が減らずに済んできたこと

1 たとえば、Kenyon (2007)を参照。

を負担調整措置による税収の安定性確保の効果として説明する。

本章の分析の特徴のひとつは、固定資産税の負担を実効税率で捉えることである。

実効税率は、税の実質的な負担を表す指標として、課税客体の大きさに対する税支払 額の割合によって測られる2。これは、たとえば土地に対する固定資産税の場合には、

土地の価格に対する固定資産税の支払額となる。

従来の固定資産税の議論では、地価の下落は税負担を減らすはずであると考えられ てきた。そして、それにもかかわらず、地価下落期において固定資産税が上昇するの は、負担調整措置のせいであるとされてきた。確かに、納税者の立場において、個別 に土地を見て、固定資産税を見るとそのように見えなくもない。

しかしながら、本章は、固定資産税の負担を実効税率によって捉えることで、これ らの見解に対して異なる解答を示す。そして、負担調整措置が税収の安定性に与えた 影響を考察し、負担調整措置が地価下落期における固定資産税の負担の変化に及ぼす 効果を明らかにする。

本章の構成は次のとおりである。第2節は、固定資産税の負担調整措置を説明する。

負担調整措置が導入された経緯から紐解いて固定資産税における負担調整措置の意義 を説明するとともに、宅地に対する7割評価の導入に対応して内容を変えた負担調整 措置が固定資産税に与えた効果を地価や固定資産評価額等の推移によって説明する。

第3 節は、固定資産税の実効税率について述べる。固定資産税の負担を実効税率によ って捉えることは、本章の分析の特徴のひとつである。ここでは、固定資産税の負担 を実効税率で測ることの意義を説明し、固定資産税の実効税率を推計する。第4節は、

2 つの方法によって、固定資産税の負担の変化を分析する。第1 は、実効税率の変化 を税支払額の変化と地価の変化に分解する。これによって、実効税率で測った固定資 産税の負担の変化は、ほとんどが税支払額の変化ではなく、地価の変化によって説明 されることを示す。第2は、税収の安定性の観点から、実効税率の変化と地価の変化 の関係を分析する。これによって、税収の安定性が満たされている場合には、実効税 率の変化と地価の変化が負の関係になることを示す。つまり、地価の下落が実効税率 を上昇させるのである。第5節は、本章をまとめる。

(1.2)固定資産税の仕組み

固定資産税の税支払額(納税額)は、課税標準額に対して税率を乗じることで計算 される。固定資産税の課税標準は価格であり、これは「適正な時価」であるとされて いる3

土地の適正な時価は、「正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格、すなわち客

2 実効税率は、法人税の議論(とくに国際比較)において、税負担の尺度としてよく用い られる。

3 地方税法第341条の5。

観的な交換価値」4と解されている。客観的な交換価値として観念される固定資産税の 課税標準は、市場における取引価格がそのまま用いられるのではない。「固定資産評価 基準」に基づく資産評価の手続きによって評価額を算定する5。固定資産税における土 地の評価は、不動産登記制度を利用して分類された地目ごとに、それぞれ定められた 方法によって行われる6。宅地の場合、1994 年度の導入された7 割評価の考え方を踏 まえて、地価公示価格の7割の水準を目途として評定され、評価額が決まる。

宅地は、小規模住宅用地、一般住宅用地、そして商業地等に分類される。これらの うち、住宅用地(つまり、小規模住宅用地と一般住宅用地)には、課税標準の特例の 措置がある。

資産評価によって決定された評価額に対して、(住宅用地の場合には課税標準の特例 措置を加味した上で)一定の調整を加えることで課税標準額が決まる。課税標準額の 決定に際して評価額に加えられるこの調整の手続きが、負担調整措置である。現行の 固定資産税では、負担調整措置の楔の存在によって、評価額と課税標準額は異なる(乖 離する)ことになる。(負担調整措置の詳細は、次節で述べる。)

表6-1は、固定資産税の税率の推移を示している。固定資産税の税率は、1955年度 に標準税率1.4%になって以降、現在まで一定である。ここで、(財)資産評価システ ム研究センター(2000)によって、固定資産税の税率が 1.4%になるまでの経緯を説 明すると、次のようになる。

1950 年度の固定資産税創設時の税率は、1.6%の一定税率である。地租改正および 1949年のシャウプ勧告は固定資産税の前史である。地租の税率3%、シャウプ勧告の 税率1.75%は、ともに必要な税収額(500億円)を見積もった上で、それを実現する ために必要な税率として設定された。1950年度の1.6%の一定税率も、必要額として の520億円の税収を確保できる見込みを得たためとされている。1951年度には、税率 が一定税率から標準税率に改められると同時に、3年間の暫定措置として3.0%の制限 税率が設けられる。1950年度に一定税率によって固定資産税が始まったのは、新税と して全国的に固定資産税を実施するためには、まずは一定税率で始めるのが望ましい という暫定的な意味からであった。また、制限税率は、「将来的に制限税率を設けない ほうが望ましいと考えているが、価格の決定も税率の決定も全面的に市町村に委ねら れている中で価格だけで操作されるようなことになっては困るため、評価等について 調整的な運営が行われるようになるまでは、制限税率を設けておいたほうがよいとの 判断」 によって設けられた。これには、シャウプ勧告の「それ以後は、数年間は3%

4 平成15年6月26日最高裁判決。

5 固定資産税において負担調整と資産評価は表裏一体の関係にあり、密接な関わりがある。

本章は、負担調整のみを考察する。資産評価に関わる問題は、固定資産税の性格をめぐる 問題と関連して、次の第7章で考察する。

6 田、畑、宅地、塩田、鉱泉地、池沼、山林、牧場、原野その他の土地に分類されている。

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