94.1 地域防災計画の改訂の背景
94.2 地震防災システムの基本構造
94.3 計画の定義と性格指標
94.4 応急対策計画の課題一実行可能性
94.5 地震防災計画の検討事項
94.6 地域防災計画策定の基本
94.7 事例研究:福岡県の地域防災計画
第4章 地域防災計画の基本権造の現状分析
� 4.1 地域防災計画の改訂の背景
1995年7月, 政府は32年ぶりに防災基本計画を全面改定(中央防災会議・議長は総理) した。 ここでは主に次の二つのことが意図されている。
1. 阪神・淡路大震災の教訓に学び, 近年の社会構造の変化をふまえ, 国, 地方自治体, 企 業, 住民それぞれが果たすべき役割を明らかにする。
2. 指定公共機関の防災業務計画および地方 自治体の地域防災計画において重点を置くべき 事項の指針を示す。
この結果, 計画書のボリュームはそれ以前の15倍になり, 具体的計画の体をなすようにな った。 阪神・淡路大震災において問題になった多くの点は, この基本計画の中で改善され,
具体的な対応策が記述されている。 特に事前準備対策と応急対策についてはかなり詳しく六 体的な方針が示されている。 これに対して, 未然防止対策については, 重要な施設等の耐震 化や地震に強い都市構造にする ために既存の諸制度を活用することが述べられているにすぎ ず, 具体策に欠けるきらいがある。
地震防災対策特別措置法は, 防災基本計画を財政面からバックアッフするものであり, 都 道府県が地域防災計画に基づき作成する地震防災緊急事業五カ年計画に掲げる施設等の整備 費に対する補助率のかさ上げを主たる内容としている。 対象は避難地, 避難路, 消防用施設,
防災行政無線設備公立小中学校, 社会福祉施設, 急傾斜地崩壊防止施設, など20項目が対象 となっている。
玉|におけるこれらの動きを契機として, ほとんどの都道府県において地域防災計画の見直 しと地震防災緊急事業五カ年計画の策定が行われた。 見直しの大筋は, 防災基本計画の線に 沿ったほぼ同ーの内容となって おり, 特に応急対策計画については, これまで以上にきめ細 かく, かつ行き届いたものとなっている。 震災の教訓を受けて実効性のある計画にすること に重点が置かれており, 実効性を高めるために, 様々な活動領域でマニュアルを作成する こ とにしているのも特徴である。
S 4. 2 地震防災システムの基本矯造
自治体の地震防災システムを構築している地域防災計画は大きく分けると,災害予防計画,
災害応急対策計画, そして災害復旧計画の3つの計画で構成されている。 このうち災害復旧 計画は,災害発生直後の文字通りの危機的状況が一段落した後の段階を対象としているので,
ここでの考察対象から除く。
地域防災計画は通常, まず総論から始まる。 この総論は 1. 計画の目的
2. 計画の基本方針
3. 用語の定義
4. 関係機関の範囲や責任分担の大枠 などからなる。
総論はともすると各論の要約, 教科書的概説のように扱われるが, 事前の安全問題に力点 をおこうとする予防的立場では総論が各論の範囲ゃあり方を規定する。
この総則部分の重要な要素と なるのが当該自治体における災害発生の可能性と被害予測 で ある。 そして, この発生可能性と被害予測こそがそれ以後の災害予防計画と災害応急対策 の 質と量を規定する。 とりわけ災害予防計画に与える影響は大きい。 災害が発生する可能性が 高いほど, また予想される被害が大きいほど, 被害を予防するための対策は大がかりになら ざるをえない。 狭い意味での防災システムの側だけから見れば, 災害発生可能性をできるだ け高く見積もり, 被害の程度を最大限に想定しておけば, 災害発生時のシステム負荷が相対 的に小さくなる。 しかし自治体が災害対策に全エネルギーをつぎこむことは不可能であり,
定の妥協点で予測や想定がなされる。
自治体の防災計画での被害予想は,通常比較的細かく被害を積み上げる方法で検討される。
また, この被害予想にはさまざまな思慮や配慮が行われるのが普通である。
①いたずらに大きな被害を想定することは, 地域住民に多大の不安を与え, 地価の下落など 副次的悪影響が生じるとする配慮。
②被害予想、を示した以上, それ に見合った対策を立てる必要があるが, 人員や予算の制約か ら対策が可能な範囲の被害予想にとどめたいという配慮。
③前例や根拠がない限り, 予想といえども単なる可能性程度 では計画に盛り込めないという 行政的判断。
被害予想があってはじめてそ れに基づく災害予防対策とな る。 予防対策は, 都市計画, 電
気・ガス・水道・通信等のライフライン, 道路, 河川などの 対策を講ずべき項目毎に, 関係 行政機関や事業者が策定する計画から成っている。 また避難, 情報連絡体制, 防災訓練, 観 測, 防災知識の普及, 災害援助基金などの関連 する計画が組み込まれる。
地域防災計画の次の部分は災 害応急対策である。 これは, 災害が発生した場合の応急対策 の活動体制を定め, それぞれの 活動主体がどのように行動するかについての枠組みを示し て いる。 活動体制は, 当該自治体の関係機関全体を有機的に結びつける内容となっているが,
具体的な応急対策計画は各機関 が独自に策定した計画の積み上げ方式で策定されることが多 い。
これらの応急対策計画は,計画の編成上は被害予想や災害予防対策と一体となっているが,
内容的には連動している部分はむしろ少ない。というのは応急対策は,現在利用しうる施設・
設備・ 人員をどのように配置し動かすかということにならざるをえないからである。 被害が 大きいからといって能力以上の対策は行 えない。
94.3 計画の定義と性格指標
自治体の地震防災システムの 特徴を一言で表現すれば, 典型的な「計画Jに基づく行政で あると言える。 そもそも行政における「計画」には確立された定義が存在するわけではない。
その中でも比較的一般的にみら れる定義は, I一定の目標を設定し, その目標を達成するた めに諸手段を総合する行為また はその結果」というものであ る。 このような定義における計 画の特徴は, まず目的があり, それを具体化したり数値化し た目標が設定されていること を 前提としている点である。 一方, I計画」を「未来の複数または継起的な人間行動について,
定の関連 性のある行動系列を提案する活動Jとする定義も ある。 この定義では, 目標設定 を計画の必要な要素としていないという特徴が見られる。
自治体の防災システムを構成 している地域防災計画は, 明らかに後者の定義に合致する 計 画である。 そこでは明確な目標 が設定されているわけではなく, 関係機関の行動提案計画 と なっているのである。 したがっ てこのような計画の構造をと っていることを認識した上で,
地域防災計画を検討する必要がある。
そこで, 後者の定義を提示した西尾勝の「性 格指標」を参考に検討してみよう。 性格指 標 とは
①重要性 計画を持って対処しようとする課題が計画主体の全活動において占める割合。
②複雑性 計画に際して考慮される要素, 手段の量と連関。
③完全性 手段の成否に決定的な影響を与える諸要因をどこまで計算に入れるか。
④実効性 計画が提案している人間行動に対して計画の実現主体がどの程度まで拘束力を持 っか。
⑤明細性ないし具体性 計画の提案している行動がどれだけ明確か。
⑥未来性 計画がどの程度先の未来を考慮しているか。
⑦総合性 計画がどの程度多数の組織の行動を対象としているか。
⑧集権性 計画の作成権がどの程度まで計画主体に独占されているか。 である。
まず, 計画の「重要性jという点では, 阪神大震災以前では一部の地震危険地帯とされて いる地域を除け ば, 一般に重要性が低かったと言えるが, 地 域防災計画の見直しなどにより 重要性が高まる傾向がある。 計 画主体の定義を明確にしなければならないが, ここでは自治 体の防災担当部局とすると, そ こではきわめて頻度の低い大規模な災害よりも, 比較的発生 頻度の高い災害(一般には火災及び風水害)を対象にした計画や予防活動jが中心で、あった 。 なぜなら住民の生命と財産を守るという目的からすれば目前 の災害対策を重視せざるを得な いし, 風水害による危機はある程度まで管理可能だと思われているからである。 逆に頻度の 低い大地震に起因する危機を管理するような計画を策定するためには, 政治的合意を調達す るための膨大なエネルギーを投じなければならなくなる。
「複雑性Jの点では, 交通, 保健・衛生, ライフラインの確保など考慮、すべき要素が多方 面にわたっている。 したがって , きわめて多くの手段を含むことになるため, その複雑性 は 高い。
「完全性Jの点では, 防災計画の根底にある被害予想自体がきわめて不確定な要素を多 く 含んでおり, 完全性はかなり低い。
「実効性」の点でもあまり高いとは言えない 。 特に行政機関以外の行動に対しては必ずし も強制力を伴っているわけではなく, 事前の協定に基づいて依頼するケースが多い。 危機 管 理の体制確立に向けて, 実効性 を高めるためには災害発生時 におけるかなり中央集権的な指 揮命令系統を確立しなければならない。
「明細性・ 具体性Jの点では, 多くの地域防災計画は大枠を定めている程度であり, 具 体 的とはいえなかったが 現在 震災時の活動マニュアルづく りを進める自治体が増加して い る。
「未来性Jの点では, 大地震となると100年単位の長期間を想定しなければならない。 何 より問題なのは 大地震がいつおこるかわからないという不確定性である。 対象としてい る 期間が長期にわたっていても, 確実に計画期間が定まっている場合は, 計画に対する関心を 高め, 資源の投入を計画的にお こなえるが, 地震防災計画はこの点で不利である。 特に都市 直下型断層地震は, 数千年の再現期間が対象となり, 計画の 実行に関するコンセンサスを 得 ることは困難である。