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国際バカロレアのローカル化と資格認証制度の新たな方向性

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 169-200)

本章では、2000年以降のイギリスの資格試験制度改革に伴い、見られるようになった統合的な 資格やIB等の新たな資格を認証評価し、規制強化を通じた制度全体の質保証を目的に構築された 資格認証制度が、実際にどのように運用され、その後どのように展開しているのかを明らかにす る。特に、これまでの伝統的な資格としてのAレベルを中心に入学者選抜を行なってきた大学ア ドミッション・システムが今日新たな資格に対して、どのように入学要件を決定し、入学者選抜 を行なっているのか、UCASタリフがどのように活用されているのか等について、現地インタビ ュー調査を通じて明らかにする。また、IBの拡大政策以降、イギリスの資格試験制度におけるバ カロレア型資格が増加するという IB のローカル化が生じる要因とそれが提起するイギリスの資 格認証制度の課題について検討する。

第 1節 キ ャ メ ロ ン 保 守 党 政 権 下 に お け る 国 際 バ カ ロ レ ア 関 連 政 策

キャメロン保守・自民連立政権(当時)は、それまで続いていた労働党政権から13年間ぶりの 政権交代を果たし、2010年5月に発足した。そして、これまで影の教育大臣を務めていたマイケ ル・ゴーヴ(Michael Gove)が教育大臣に就任した。ゴーヴ教育大臣率いる教育省(Department

for Education、以下:DfE)は、前労働党政権によって行われた資格試験制度改革を批判し、さ

らなる改革の必要性を提唱している。

ゴーヴ教育大臣によるIBに関する言及は少ないものの、2010年9月には、「イギリス国内のよ り広範囲に及ぶIBの取り込みを決心した」、「自分はIBのファンであり、AレベルもIBと似た ような教育プログラムにしたい」、そして「深い思考を行なうIBのライバルとなる教育プログラ ムを作りたい」と述べている1。また、2011年2月にはIBを称賛し、「現在富裕層の子どもにし か与えられていない一流の試験(prestige exam)を低所得家庭の子どもにも受けさせたい」と述 べている2。さらに、ゴーヴ教育大臣の下、2010 年に出された教育白書、『教職の重要性』(the Importance of Teaching)では、Aレベルの科目数を増やし、学習内容の幅を広げる提案やGCSE レベルにおける「イングリッシュ・バカロレア」(English Baccalaureate、以下:EBacc)の導 入を提案しており3、この点から保守・自民党連立政権(当時)がフランスのバカロレアやIBを 意識して、それと同様の教育プログラムを開発・導入することを考えていたといえる。実際に、

ゴーヴ教育大臣は BBC によるインタビューの中で、多くのヨーロッパやアジア諸国において運 用されている「バカロレア・システム」に非常に強い関心をもっていると述べており、そのシス

テムがイギリスよりも幅広い教育カリキュラムを提供していると認めている4。このような点から、

当時のキャメロン保守・自民党政権下においてIBに関する直接的な記述や言及はないものの、世 界水準の学力に追いつくために、世界で実践されている「バカロレア・システム」や世界の教育 水準を達成している国々を意識し、それをモデルとしたバカロレア型資格プログラムの開発・導 入を目指していたといえる。

このバカロレア型資格の普及・拡大の背景には、内的な要因と外的な要因がある点が指摘され ている5。まず内的な要因として、特に2010年の保守・自民党連立政権(当時)が誕生して以降、

「イングリッシュ・バカロレア」(EBacc)や「技術バカロレア」(Technical Baccalaureate、以

下:TechBacc)の導入、労働党の影の教育大臣であるトリストラム・ハント担当相による「ナシ

ョナル・バカロレア」(National Baccalaureate)の提案6及び教育やその他のステークホルダー の恊働による「ナショナル・バカロレア・トラスト」の設立などがあげられる。また、前労働党 政権によって出された、2015年までに18歳時の就学率を向上させるという政策においても、今 後イギリスにおいても、普遍的な後期中等教育制度を構築する必要性とバカロレア型の資格が

18/19 歳時における幅広い学習成果を適切に認証評価することを可能にすることが記されている

ことが明らかにされている7。もちろん、これまでもバカロレア型資格の開発・導入案は度々出さ れていたものの、いずれも本格的な導入には至らなかった。しかし、近年のこうしたバカロレア 型資格の導入に向けた動きの最大の特徴としては、政権与党(保守党)による導入へ向けた施策 のみならず、野党(労働党)もそれを支持し、導入に向けた施策を打ち出している点である8。こ の点から、今日のイギリスにおける資格試験制度は、与野党ともに一致してバカロレア型の資格 や教育プログラムの開発・導入を支持しており、様々なかたちでの提案がなされているというこ とが分かる。

一方、バカロレア型の教育ブログラムは、ホジソンとスポーズ(2015)によれば、明確な教育 理念や目標をもつ、ホリスティックなカリキュラムであり、これは科目ごとに履修するAレベル では不可能な特徴であると指摘している9。また、バカロレア型の教育プログラムは、単一の統合 的な枠組みの中で、一般教育(general education)と職業学習(vocational learning)を提供す ることで、より幅広く、個々の生徒のニーズにあった学習内容を提供し、新しく、創造的な能力 を獲得するための多様な学習機会を準備することができるとしている。それにより、従来の狭い 一般教育または、職業教育コースと比べ、若者を継続的な学習へ向けた準備と生涯学習の機会を 提供することができると考えられている。

以上の点から、2010年の政権交代以降、キャメロン保守・自民党連立政権下(当時)において、

IBはAレベルよりも厳密な資格試験であり、一流の試験として評価され、バカロレア・システム の導入の必要性が強調されていることが分かる。しかし、EBaccやTech Bacc等の開発・導入の

動きが見られるように、IB自体の普及拡大ではなく、それに代わるイギリス独自のバカロレア型 教育資格の開発・導入が推進され始めていることが分かる。この点から、当時の政権がIBを国内 の資格試験制度を改革するためのモデルとなる教育プログラムとして着目していたといえる。

第 2節 国 際 バ カ ロ レ ア の ロ ー カ ル 化—バ カ ロ レ ア 型 教 育 モ デ ル の プ ロ グ ラ ム の 拡 大− イギリスにおいて2006年以降急速に拡大したIBであるが、その問題点の一つとして、毎年各 IB認定校から徴収される高額な年会費や維持費があげられる。IB認定校はIB機構に対し、年間

約 10,000ドル(約 120 万円)の年会費を支払うことで認定校としてのいわばステータスを保持

することができる10。また、この他にもIB認定校として認定されるまでの初期費用として約200 万円、IBの最終試験の受験料(生徒一人当たり約32,000円)、教員研修への派遣等、多くの追加 費用がかかるため、それを維持するためには財政的な安定性が求められる。

イギリスでは、2010年の政権交代以降、保守・自民党連立政権(当時)による緊縮財政策によ り、公的セクターへの予算削減が行なわれたため、IBの提供が困難な学校が増加することとなっ た。実際に、IB教育の提供を断念する学校が、特に公営学校を中心に出ており、認定校数も2013 年時点の168校から2015年6月には138校、そして今日その認定校数は、126校(2016年12 月現在)にまで減少している11。そのうち、大学入学資格の取得を目指す、IBディプロマ・プロ グラムを提供する学校は119校であり、75校が独立学校、そして公営学校は44校となっている。

この点からも、今日イギリスにおけるIB認定校は急速な減少傾向にあることが分かる。

しかし、イギリスにおけるIB認定校の減少の要因については、この保守・自民党連立政権下に よる財政緊縮策だけではなく、カリキュラム内容の「柔軟性」(flexibility)をめぐる考え方の違 い(ズレ)が影響していることが、バース大学教育学部専任講師で元IB認定校教師であったトリ スタン・バンネル氏(Tristan Bunnell)へのインタビュー(2015年11月)を通じて明らかにな った。バンネル氏によれば;

「イギリスにおけるIB認定校の減少には、もう一つ、カリキュラムの「柔軟性」(flexibility)

をめぐって、イギリスとIBでは考え方に大きな違いが存在し、相容れない部分があるため、それ が国内におけるIB認定校の減少につながっている」

「最近、イギリス国内の学校では、IBディプロマがその取得を目指す全ての生徒に対し、6科 目 3要件の履修を求めているが、この「6科目3要件」という固定化された要件がある点から、

IBは柔軟性を欠いていると考える学校が増えている」

と述べている。

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 169-200)

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