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イギリスにおける国際バカロレアの認証プロセス

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 83-169)

本章では、これまで考察してきたイギリスにおける資格認証制度整備の必要性の高まりに伴い、

その制度がどのように構築されていったのかについて検討する。それにより、これまでのイギリ スの資格認証制度がどのような課題を抱えていたのか、それを解消するためにどのような機関が 設置されたのか、また各機関や組織の役割や機能は何かを明らかにし、IBを始めとする国内外か らのイギリスの資格試験制度に参入しようとする新たな資格の認証プロセスと認証制度の構造を 明らかにする。

第1節 国 際 バ カ ロ レ ア 認 証 へ 向 け た 法 整 備 と 資 格 枠 組 み の 設 定

本節では、イギリス国内におけるIBを始めとする21世紀型コンピテンシーの育成を念頭に入 れたコア学習を含む教育プログラム及び大学入学資格の増加に伴い、それらの資格に対して公的 な認証を与えるためにどのような法整備が行なわれたのかについて検討する。特に、なぜ法整備 が必要になったのか、それに基づいてどのような機関が新たに設置されるようになったのか、そ してその機能は何かについて考察する。その後、近年質保証を前提として設定された「規制資格 枠組み」(Regulated Qualifications Framework、以下:RQF)について、その前身の「資格単 位枠組み」(QCF)からRQFに移行した背景、その機能と特質を明らかにする。

第2章において検討したように、イギリスにおいてIBは、周辺的な資格から Aレベルの代替 資格としてその位置づけが変化し、2006年当時のトニー・ブレア労働党政権下におけるIB拡大 政策により、国内におけるIB認定校の大幅な拡大が見られるようになった。また、トムリンソン 報告でよって、アカデミックな資格や職業資格等の資格の種類に関わらず、すべての生徒に「課 外プロジェクト」等を含むコア学習と主要学習を通じた多面的・総合的な能力・スキルの育成を 目指した新たな資格としての 14-19ディプロマの開発・導入が提案されている。これは、アカデ ミックな教育と職業教育の統合的な資格の提案であり、このトムリンソン報告が当時の教育省か らの委託を受けた調査研究である点からも、こうしたアカデミックな教育に偏重しない、バラン スのとれた統合的な資格の重要性が、政府レベルにおいても示されていたといえる。

1−1 資 格 認 証 制 度 の 確 立 に 向 け た 法 整 備

資格試験の水準の維持に関する法整備として、2007 年にトニー・ブレア労働党政権下(当時)

における子ども・学校・家族省(Department for Children, Schools and Families、以下:DCSF) は、それまで「資格カリキュラム局」(Qualifications and Curriculum Authority、以下:QCA) が行なっていた資格試験の監督・規制部門を独立させ、新たに「資格試験規制局」(Ofqual)を設 置した1。その後、このOfqualの機能と権限を明確化することを一つの目的として、「徒弟制・技 能・子ども・学習法2009」(Apprenticeships, Skills, Children and Learning Act 2009、以下:

ASCL法)を2009年11月に成立させている。そのASCL法第128条によれば、Ofqualの設置 目的は、まず(a)資格と評価の水準の維持し、(b) 資格の信頼性を高め、(c)資格の普及と理解 を促進させ、(d)効果的に資格を提供することとされている2

また、ASCL法では、Ofqualはイギリスにおける資格試験の監督・規制の責務を担う機関であ ると規定しているが、この規制(regulation)という概念は、このOfqualの設置に伴い、初めて 用いられるようになった概念である。実際に、ASCL法第130条において、「規制資格」(Regulated Qualifications)の定義が示されている。それによれば、規制資格とは、ASCL法第132条が規定 する認証された資格を指すとされている3。また、第130条2項では、規制の対象となる資格は、

a)イギリス国内において付与されるアカデミックな資格及び職業資格、b)北アイルランドにお いて付与される職業資格を指している4。つまり、ASCL法の規定する Ofqualの資格の規制範囲 は、イギリス国内で付与される資格に限定されているということである。

次に、先述のASCL法第132条が規定する認証された資格については、それがOfqualによっ て認証された資格であることと、第133条において規定されている認証基準(recognition criteria) に準拠した資格であることが定められている5。このASCL法第133条においては、Ofqualは資 格付与団体の認証基準を設定することが規定されており、またその基準の再点検と改訂の責任も 明記されている。このASCL法第133条に基づき、Ofqualは資格付与団体の認証基準を設定し、

それに基づいて資格認証を遂行しているのである(具体的な認証基準については、本章第3節参 照)。

また、この ASCL 法の第 134 条においては、Ofqual に対して「資格認証に関する一般条件」

(General Condition of Recognition、以下:一般条件)の発行を規定している。この一般条件は、

その後2016年にOfqualによって出されている(具体的な内容については、本章第3節参照)6

さらに、このASCL法127条の附則9では、新たに設置されるOfqualの構成メンバーとその 任命についても規定されている。それによれば、Ofqualの理事会は、イギリスの女王陛下によっ て発せられた枢密院勅令によって任命された議長、国務大臣によって任命された委員(7~12名)、

そしてOfqual の最高責任者(executive chief)によって構成されることが規定されている7。こ

の女王陛下によって任命された議長は、「資格試験の規制長官」(Chief Regulator)と呼ぶことが 規定されており、最長5年間の任期が与えられている8

このように、ASCL 法では、イギリス国内における資格試験制度の監督・規制の責務を担う新 たに設置されたOfqualの機能と権限を明確化するために、設置目的から規制の定義、その範囲や

Ofqualに対して認証基準の設定や改訂、一般条件の発行等の権限と義務を課している。また、構

成メンバーや任命についても規定されており、それらのメンバーによってOfqualは運営されるこ とになっている。こうして、ASCL 法によって、資格試験に関わる機関の機能と役割を明確化す ることで、法の下に規定された資格試験の監督・規制を行なうことが可能になったといえる。

その後、2010年の政権交代以降、当時のキャメロン保守・自民党連立政権下において、Ofqual の機能と役割の見直しがなされた。その結果、2011年教育法(Education Act 2011)が制定され ている。この2011年教育法では、Ofqualの機能について、以下のような改訂がなされている;

2011年教育法第22条においては、Ofqualの目的として、それが規制し、公的な認証を与えた 資格は、(1)知識、スキルや理解に関して信頼に値するものであり、(2)規定のレベルに到達し ているものであり、(3)イギリスの外において付与された資格も規制の範囲であると規定してい る9。特に(3)については、先述のASCL法第130条2項が規定する、規制の範囲に関して、イ ギリス国内で付与される資格に限定されていたものから、2011年教育法においては、イギリスの 外で付与される資格にまで拡大していることが分かる。この規制範囲の国外資格への拡大の背景 には、2010年に出された教育白書「教職の重要性」(The Importance of Teaching)において、

「世界で最も成功している国」(the best in the world)としてシンガポールや香港を引き合いに、

それに追いつき、追い越すためには、国際比較(international comparison)を通じて世界水準 を把握し、そこから学ぶことの重要性が強調されている点10が反映されているといえる。この国 際比較の重要性については、この2011年教育法の制定へとつながる法案(2011年 1月26 日付 でイギリス議会下院に提出)の中でもその経緯が示されている。2009 年の ASCL 法の制定につ ながる法案が議会に提出された際にも、当時の野党であった自由民主党所属の議員や保守党のス ポークスマンであったニック・ギブ(Nick Gibb)氏によって、海外で開発された資格も規制範囲 に含めることが提案されていたものの、ASCL法には反映されなかった。そのため、2010年に政 権与党となった保守・自民党連立政権は、Ofqualの規制範囲の拡大を改めて法案に盛り込み11、 これが2011年教育法に反映されたのである。

以上のように、2007年以降、資格試験の水準の維持が強調されるようになり、監督・規制を専 門的に行なう政府から独立した機関として、Ofqualが設置されている。そして、その機能と権限 を明確化するため、政府は2009年にASCL法を制定した。その中で、政府はOfqualの設置目的、

規制及び規制資格の定義、認証基準、組織や構成員、そして規制範囲としてイギリス国内で提供

される資格に限定すること等が規定されていた。その後、2010年の政権交代以降、キャメロン保 守・自民党連立政権下において、国際比較の重要性が強調され、Ofqualの規制範囲を海外で開発 される資格にまで拡大することを規定した2011年教育法が制定されたのである。Ofqualは、こ の ASCL法及び2011年教育法において規定された機能や権限により、イギリス内外において開 発される資格試験の監督・規制を通じて、国内の大学進学や雇用の際に利用可能な資格として公 的な認証を与えることで、国内の資格試験制度の水準維持の責務を担う機関として法的に規定さ れたのである。次に、その規制される資格が、イギリス国内で提供される多様な資格群と比較し てどの教育段階で提供されるものなのか、またそのレベルを示す資格枠組みが近年変化している 点に着目し、どのような再編が行なわれたのか、どのように新たな資格がこの資格枠組みの中に 組み込まれているのかを検討する。

1-2 資 格 枠 組 み の 再 編−「 資 格 単 位 枠 組 み 」(QCF) か ら 「 規 制 資 格 枠 組 み 」(RQF) へ の 移 行 −

イギリスでは、16 歳から19歳の教育段階において、法的拘束力をもつ国家基準が存在してお らず、国内において提供される資格の種類の多さや複雑性から、しばしば「資格のジャングル」

と呼ばれてきた。このように、多様な資格付与団体によって資格が授与される資格試験制度は、

義務教育後の教育・訓練の多様性や柔軟性を高める一方で、「断片的で一貫性のないシステム」

(fragmented and incoherent system)12であると批判されてきた。そこで、1980年代以降、こ の状況を改善し、資格の整理・統合・調整が行なわれ、標準化された全国資格枠組みが設定され ている。それは、1996年の「全国資格枠組み」(National Qualifications Framework: NQF)か ら始まり、2008年には「資格単位枠組み」(Qualifications and Credit Framework: QCF)へと 移行してきた。しかし、その後2015年より新たな資格枠組みとして、これまでのQCFから「規 制資格枠組み」(Regulated Qualifications Framework、以下:RQF)へと再編されている。ま ず、このQCFからRQFへの再編の背景について検討する。

2015年10月に資格試験の監督・規制の責務を担うOfqualは、これまでのQCFから新たな資 格枠組みとして、RQFへの再編を発表した。その背景として、これまでのQCFが導入された2008 年以降、5 年を経て既に資格の質を維持できなくなっていること、実施に要する厳格な規定が活 用を複雑にしていること、また雇用主のニーズに沿った内容の資格が提供できていないこと等を 理由としてあげている13。Ofqual は、2011 年より資格付与団体が国内において資格を公的に提 供するために満たすべき要件を定めた「承認のための一般遵守事項」(General Conditions of

Recognition)を公表し、資格を構成するユニット(単元)の有効性だけでなく、資格全体として

の有効性を重視する方向性を示していた。しかし、資格付与団体は、この承認すべき一般遵守事

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