7. 命令形と接続法
(5) a. sóm-a
‘read’-F
「読め」Soma!
b. som-ení
‘read’-F.PL
「読め(対複数)」Someni!
(6) a. kúnd-a
‘love’-F
「愛せよ」Penda!
b. kund-ení ~ kúnd-ení
‘love’-F.PL
「愛せよ(対複数)」Kuleni!
(1) のみが不規則な形であるが,それ以外は単音節語幹も含め,語幹とFのみという構造である.対複数 の命令は,Fを -eni に交替させる.動詞構造のスロットを用いて一般化すれば,次のように記述できる.
≪命令形(肯定)≫
SM- NEG2- TAM- (OM-) ≠stem -a
≪命令形(肯定・対複数)≫
SM- NEG2- TAM- (OM-) ≠stem -eni
7.1.2 否定
命令の否定形,すなわち禁止「~するな」に相当する表現は次のようである.
(7) a. u-tá≠sh-(ꜜé)
SM.2sg-NEG.SUBJ≠’come’-SUBJ
「来るな」Usije!
b. mu-tá≠sh-(ꜜé)
SM.2pl-NEG.SUBJ≠’come’-SUBJ
「来るな(対複数)」Msije!
(8) a. u-tá≠end-(é)
SM.2sg-NEG.SUBJ≠’go’-SUBJ
「行くな」Usiende!
b. mu-tá≠end-(é)
SM.2pl-NEG.SUBJ≠’go’-SUBJ
「行くな(対複数)」Msiende!
(9) a. u-tá≠l-ꜜé
SM.2sg-NEG.SUBJ≠’eat’-SUBJ
「食べるな」Usile!
b. mu-tá≠l-ꜜé
SM.2pl-NEG.SUBJ≠’eat’-SUBJ
「食べるな(対複数)」Msile!
(10) a. u-tá≠saku-é /utásakwé/
SM.2sg-NEG.SUBJ≠’watch’-SUBJ
「見るな」Usiangalie!
b. mu-tá≠saku-é /mutásakwé SM.2pl-NEG.SUBJ≠’watch’-SUBJ
「見るな(対複数)」Msiangalie!
(11) a. u-tá≠som-é
SM.2sg-NEG.SUBJ≠’read’-SUBJ
「読むな」Usisome!
b. mu-tá≠som-é
SM.2pl-NEG.SUBJ≠’read’-SUBJ
「読むな(対複数)」Msisome!
(12) a. u-tá≠kund-é
SM.2sg-NEG.SUBJ≠’love’-SUBJ
「愛するな」Usipende!
b. mu-tá≠kund-é
SM.2pl-NEG.SUBJ≠’love’-SUBJ
「愛するな(対複数)」Msipende!
これは,聞き手が単数であれば2sgの,複数であれば2plのSMをとって,Fは -e という形式が用いら れる.これは,7.2で扱う接続法(subjunctive)の形で,日本語に訳せば「~するように」という表現で おおむねカバーできる概念(未実現,あるいはirrealisである事態の表現)を表わす.命令の否定は,こ の接続法形の否定形によって表現される.接続法形において,否定概念は第2否定辞(NEG2)スロット に充填される ta- という形式で表示される.
≪命令否定=禁止=接続法否定形≫
SM(2sg)- ta- TAM- (OM-) ≠stem -é
≪命令否定=禁止=接続法否定形(対複数)≫
SM(2pl)- ta- TAM- (OM-) ≠stem -é
7.2 接続法 7.2.1 概要
接続法とは,法(mood)概念のひとつで,事態(事象 event)を,未実現(irrealis)のものとして 捉える場合の表現である.日本語では,おおむね「~するように」という形式に置き換えることができ
る.7.1.2の否定命令=禁止は,すなわち「~しないように」という表現ということになる.接続法の肯
定形について,以下に具体例を示す.
(13) lasímá ngi≠síhili-é /ngisíhilyé/
‘must’ SM.1sg≠’go out’-SUBJ
「私は出発しなければならない」Lazima niondoke
(14) boṛá u≠som-é
‘good, better’ SM.2sg≠’read’-SUBJ
「あなたは読んだ(勉強した)方がよい」Bora usome.
(15) m’≠(a)mb-i-(é) /m’mby(é)/ e≠sh-é sasá ifi OM.3sg≠’say’-APPL-SUBJ SM.3sg≠’come’-SUBJ ‘right now’
「彼(女)にすぐ来るように言って」Mwambie aje sasa hivi.
(13) は1sgを主語に取る形で,動詞構造だけを取れば「私が出発するように」という概念(より実際的
には「私が出発しましょうか」という申し出)を表わすが,lasima という副詞要素とともに用いること で,「~しなければならない」という義務の表現になる.(14) は boṛa という同じく副詞的な要素と用い ることで「あなたは~した方がよい」という意味を示す.(15) は主節動詞も,またその補部の形式も接 続法形である.前者は,「あなたが彼(女)に言うように」(2sgの SMが脱落),後者は「彼(女)が来 るように」という意味を表わす.
7.2.2 構造の一般化
まず,接続法の構造を,動詞形態論のテンプレートにしたがって示せば次のようになる.
≪接続法(肯定)≫
SM- NEG2- TAM- (OM-) ≠stem -é
≪接続法(否定)≫
SM- tá- TAM- (OM-) ≠stem -é
以下に接続法の基本活用パターンを示す.音調は単独発話におけるそれである.まずL動詞 ≠end-a
「行く」に各人称形のSMを接合した形式は次のとおりである.
肯定形 否定形
SM.1sg: ngí≠end-(é) ngi-tá≠end-(é)
SM.2sg: ú≠end-(é) u-tá≠end-(é)
SM.3sg: é≠end-(é) e-tá≠end-(é)
SM.1pl: dú≠end-(é) du-tá≠end-(é)
SM.2pl: mú≠end-(é) mu-tá≠end-(é)
SM.3pl: vé≠end-(é) va-tá≠end-(é)
structure: SḾ≠[v]stem(L)-(é) SM-tá≠[v]stem(L)-(é)
肯定形,否定形とも,F位置でHが実現する(単独発話では実現しないこともある).肯定形ではSM位 置で,否定形ではNEG2位置でHが実現する.
次に,H動詞 ≠kab-a「叩く」の活用パターンを示す.
肯定形 否定形
SM.1sg: ngí≠kab-(é) ngi-tá≠kab-(é)
SM.2sg: ú≠kab-(é) u-tá≠kab-(é)
SM.3sg: é≠kab-(é) é-tá≠kab-(é)
SM.1pl: dú≠kab-(é) du-tá≠kab-(é)
SM.2pl: mú≠kab-(é) mu-tá≠kab-(é)
SM.3pl: vá≠kab-(é) va-tá≠kab-(é)
structure: SḾ≠[v]stem(H)-(é) SM-tá≠[v]stem(H)-(é)
H動詞も,L動詞同様の音調パターンを見せる.つまり,接続法形においては,音調パターンの対立が中 和していると見てよさそうである.