3.1 原子力関連行政・規制機関の役割 エネルギー省(DOE)
今日の米国原子力行政の担い手は、エネルギー省(DOE)である。第2 次世界大戦中のマン ハッタン計画後、原子力管理に戦時型の機密重視の組織を維持しようとした軍部と、よりオープ ンな文民統制形態を望んだ科学者・政治家グループとのせめぎ合いの結果、1946 年に発足した 原子力委員会AEC(Atomic Energy Commission)がDOEの前身である。1974年からのエネ ルギー再組織法(Energy Reorganization Act of 1974)によるエネルギー研究開発庁(ERDA)
を経て、1977年に 12番目の省として設置された。DOEの使命は、科学・工学の革新的解決を 通じて、エネルギー、環境、原子力に関する課題を解決し米国の安全保障と繁栄を確保すること とされている。1946年制定(54年改正)の原子力法(Atomic Energy Act)が大本の法律的基 礎を与え、その第1条に「原子力の開発と活用を、恒に最大の目標である国家の安全保障確保の 条件の下に可能な限り、公共福祉の増進、生活水準の改善、民間企業自由競争の強化と世界平和 の促進に振り向けることを宣言する」とある。従って、DOEの組織には、国防・民生両目的を カバーする部局が存在する。
DOEには、科学局(SC)、エネルギー効率・再生可能エネルギー局(EERE)、原子力エネル ギー局(NE)、化石エネルギー局(FE)、環境管理局(EM)などの部局がある。国家核安全保 障局(NNSA)は、2000年にDOE内に準独立組織として設置されており、国防計画(DP)、核 不拡散(DNN)などの部局を持つ。
DOEは、2017年12月15日に、DOEの組織改革を行う意思があることを発表した。2018 年5月付のDOE組織図によれば、2013年に設立された科学・エネルギー担当次官室(office of Under Secretary for Science and Energy)を2つに分割することにより、その設立以前と同様 に、エネルギー担当次官(Under Secretary of Energy)、科学担当次官(Under Secretary for Science)、核安全保障担当次官・国家核安全保障局(NNSA)長官(Under Secretary for Nuclear Security and NNSA Administrator)の計3人の担当次官による体制へと変更されている。また 今回の組織改革では、エネルギー政策・システム分析室(Office of Energy Policy and Systems Analysis)が政策室(Office of Policy)に置き換えられている。なお今回の組織改革計画は、新 政権のエネルギー計画に沿ったものであるという。
また、2018年2月14日、R.ペリー(Rick Perry)DOE長官は、エネルギー担当次官の下に サイバーセキュリティ・エネルギー安全保障・緊急時対応局(CESER:Office of Cybersecurity, Energy Security, and Emergency Response)を新たに設置することを発表した。
環境保護庁(EPA)
放射性物質の環境汚染には、1970年に農務省、内務省、保健福祉省から権限を委譲されて発 足した環境保護庁(EPA)が、1980年制定の通称スーパーファンド法(包括的環境対処・補償・
責任法(CERCLA:Comprehensive Environmental Response, Compensation and Liability Act)
1986年修正)によって対処する。通常の手順では、汚染地をその重要度に応じてクリーンアッ プ優先順位リスト(NPL)に登録し、当事者不明の場合はEPAが実施業者を選択契約し、陸軍 工兵隊の助言・援助・監督の下に除染作業を実施する。
原子力規制委員会(NRC)
1954年の原子力法改正で商業用原子炉建設が可能となり、原子力委員会(AEC)にその監督 が任されたが、AECは原子力推進と規制部門を併せ持つことで批判を受け、エネルギー再組織 法(Energy Reorganization Act of 1974)により規制部門を切り離し、1975年1月19日から 原子力規制委員会(NRC)としてその業務を開始した。その任務は、原子力の民間利用に際し、
認可と規制を通じて一般公衆の健康と安全を確保し、国防と保安の推進と環境の保護に当たる ことである。合計5名の委員長と委員は、連邦議会上院の承認の下に大統領の任命で、5年任期、
1期の再任が許される。委員会は業務を担当する部門と、これをサポートする管理部門、諮問委 員会、監察総監室などを持つ。
業務部門は、原子炉・緊急時対応担当副総局長の下に、原子炉規制、核保障・事故対応、新型 炉、IからIVまでの地方支局が所属する部門と、核物質・廃棄物・研究・各州・原住民・法令 遵守担当副総局長の下に規制研究、法令執行、核物質安全・保障措置、調査研究、連邦・州所有核 物質環境管理の5部局を持つ部門に分かれている。
<議会の原子力関連委員会>
予算を審議する委員会が最も基本的なもので、上下院とも歳出委員会(Committee on Appropriations)である。また、直接 DOEの予算を審議する小委員会(Subcommittee)は、
上院はエネルギー・水資源開発小委員会(Energy and Water Development)、下院はエネルギ ー・水資源開発及び関連する機関小委員会(Energy and Water Development, and Related Agencies)となっている。また、他の小委員会においても原子力関連事項が審議されることがあ る。原子力関連事項をとりあげる小委員会は以下の通り。
上院
・ エネルギー・水資源開発小委員会
・ 通商・法・科学及び関連する機関小委員会
・ 内務・環境及び関連する機関小委員会 下院
・ エネルギー・水資源開発及び関連する機関小委員会
・ 通商・法・科学及び関連する機関小委員
・ 内務・環境及び関連する機関小委員会
<原子力損害賠償制度>
1957年9月2日制定のプライス・アンダーソン法(Price-Anderson Act)が、米国の商業用原 子力発電所事故の際の人身障害・対物損害保障制度の根拠である。法律の主旨は、原子力推進の ために、事故の際に原子力発電所運営者が負うべき賠償義務に上限を設けて、投資を奨励するこ とであった。2005年エネルギー政策法により、同法は2025年12月31日まで適用が延長され た。原子力発電所所有者は、3億7,500万ドルの発電所外損害額(第1段階)の賠償を負担し、
これに対する原子炉 1 基当たりの保険料を民間保険会社に毎年払い込む。損害額がこれを越す 場合、1億2,125万5,000ドル(第2段階)まで負担することになっている。第2段階に対する 支払いは遡及するが、1年最大1,750万ドルの分割払いが許される。第2段階の払い込みは、事 故発生まで行われない。第2段階の総額は121億2,550万ドル(限度額×総原子炉数100基)
で、この額の 15%が支出された場合、残額支払いの優先順位は連邦地方裁判所が決定する。全 額を使い切った場合は、議会が更なる追加支出の必要性を検討する。平均の保険料は 1 基当た り83万ドル/年で、同一サイトの2基、3基目は減額される。損害補償の対象となる事故(盗難 や破壊活動に起因する事故も含む)は、原子炉サイトへの核燃料の輸送、原子炉サイトでの核燃 料や放射性廃棄物の貯蔵、原子炉運転と放射性物質漏洩、照射済燃料や廃棄物の原子炉からの輸 送等で、発電炉以外の、国立研究所、大学等の試験、研究炉、燃料加工施設も含まれる。これま でに合計1 億 5,000 万ドルが支払われているが、その内7,100 万ドルは TMI 事故関連であっ た。
現在のPA法では、出力10万kWe以下の小型炉は、1基450万~7,500万ドルの保険(第1 段階)を掛けるのみで、第2 段階は免除されているが、現在開発中の小型モジュール炉は1 基 10万kWe 以下のモジュールを組み合わせるものがあり、第 2 段階免除のままでは補償額が不 十分となる恐れがある。NRCは、このような組み合わせに対して、1 建屋中のモジュールの合 計出力が10万kWeを超す場合、1基の原子炉として取り扱う方向で検討を進めている。
核事故に対して大統領が緊急または非常事態を宣言した場合、州及び地方政府は、スタッフォ ード災害救助・緊急援助法(Stafford Disaster Relief and Emergency Assistance Act)の下に、
費用共同負担の原則に従い、連邦政府の援助を受けることができる。
国際的取り組み
原子力災害は国境を越えて損害が生じる可能性が大きいので、国際的取り組みが必要とされ る。現在存在する国際的枠組みは、「原子力の分野における第三者責任に関するパリ条約」「原子 力損害の民事責任に関するウィーン条約」「原子力損害の補完的補償に関する条約(CSC)」の3 系統がある。プライス・アンダーソン法は、州法が前2条約の基本原則「法的責任の集中(legal channeling)」を満たしておらず、「経済的責任集中(economic channeling)」しか許していない 点で、前二者となじまない。米国は、条件が緩やかなCSCのみを批准している(2008年5月)。
3.2 規制体制図(組織、法令)
(1)米国規制体制図
https://www.energy.gov/oe/office-electricity https://arpa-e.energy.gov/
環境管理局(EM:Office of Environmental Management)
国務省(DOS:Department of State)
https://www.state.gov/
環境保護庁(EPA:Environmental Protection Agency)
原子力規制委員会(NRC:Nuclear Regulatory Commission)
放射性廃棄物技術審査会(NWTRB:Nuclear Waste Technical Review Board)
http://www.nwtrb.gov/
エネルギー高等研究計画局
(ARPA-E)
大統領 国家科学技術会議(NSTC)
大統領府(EOP)
・環境諮問委員会(CEQ)
・科学技術政策局(OSTP)
国務省(DOS)
軍備管理・国際安全保障担当次官
放射性廃棄物技術審査会
(NWTRB)
国際安全保障・核不拡散局 連邦エネルギー規制委員会
(FERC)
エネルギー担当次官
原子力エネルギー局(NE)
化石エネルギー局(FE)
エネルギー効率・
再生可能エネルギー局(EERE)
電力局(OE)
エネルギー省(DOE)
環境管理局
(EM)
科学担当次官
サイバーセキュリティ・エネルギー 安全保障・緊急時対応局(CESER)
環境保護庁(EPA)
原子力規制委員会
(NRC)
科学局(SC)
核安全保障担当次官・国家核安 全保障局(NNSA)長官