本章では、南チロル のルーラルツーリズムにおける農村女性の役割を、統合型ル ーラルツーリズムの 7 つの特徴を応用して構築した分析の視点を用いて考察する。
分析の視点はBarcus(2013)の提示したネットワーク 、規模、内生性、補完性、エ ンパワーメント、埋め込み、持続性を基盤とし(表 1-1)、これに農村女性を分析す るための視点を加えて構築されている(表 1-2、1-3)。本研究ではこの7つの特徴 のなかでも、ネットワークと規模を重要な特徴として扱うことは第 1章で説明した 通りである。これまで第3章、第 4章において、規模を県内と集落内とし、農村女 性がルーラルツーリズムに関わることで生まれたネットワークについて説明してき た。本章では、農村女性がルーラルツーリズムを契機にどのようにネットワークを 拡大させ、役割を変化させていったのか、 統合型ルーラルツーリズムの内生性 、補 完性、エンパワーメント、埋め込み、持続性の視点を使用して分析する。
1 ルーラルツーリズムを契機としたネットワークの拡大
1-1 アグリツーリズモを運営する農村女性のネットワーク関与の傾向
ここではサン・ジェネジオ 村でアグリツーリズモ運営に関わる農村女性が、具体 的にどのようなネットワークへ関わるのかを示し、農村女性の所属が多いネットワ ークの状況、複数のネットワークに関わる農村女性の傾向、ネットワーク間の関連 等について分析する。
表 5-1は、サン・ジェネジオ 村でアグリツーリズモ 運営を行う農村女性が具体的 にどのネットワークに関与したかを示している。これまでネットワークとして県内
に8、集落内に 8(家庭内ネットワークはひとまとまりとする)の存在を指摘してき
た。
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表5-1 サン・ジェネジオ村の農村女性とネットワーク の関わり
■: ネ ッ ト ワ ー ク へ の 関 与 が 認 め ら れ る ■: ネ ッ ト ワ ー ク の 関 与 が 推 察 さ れ る
( 注 ) ※1 観 光 収 入 が 30%を 超 え る ( 赤 ) ※2 生 産/販 売 を 実 施 ( 赤 ) 販 売 の み 実 施 ( 黄 ) ア グ リ ツ ー リ ズ モ 番 号 の 後 の ( ) は 所 属 す る ネ ッ ト ワ ー ク 数 を 示 す
これらのネットワークには、農村女性がルーラルツーリズムに関与することで新た に生まれた新規ネットワークと、ルーラルツーリズム 登場以前から存在し、ルーラ ルツーリズム以後に農村女性が新たに関与を強めた既存ネットワークがあり、また 、 ネットワークには組織的に形成されたものと、個人が自発的に形成したものがあり、
性質の異なるネットワークが混在していることに留意する必要がある 。表5-1では こうした性質を区別しているが、県内では農業組織などの支援を受けた 組織的なネ ットワークが、また、集落内では新たに自発的に形成されたネットワークが多 いこ とがわかる。そして、全体的に既存より新規で形成されたネットワークが多いこと も指摘できる。
家 族 観 の 役 割 変 化
経 営 者 と し て の 存 在 感
夫 婦 間 の 役 割 変 化
子 ど も 世 代 へ の 影 響
組織的・自発的 自 自 組 組 自 組 組 組 自 自 自 組 自 自 組 組 自 自 自 自
新規・既存 既 新 新 新 新 新 新 新 新 新 新 既 既 新 既 既 新 新 新 新
⑫(17)
⑦(13)
⑬(12)
①(11)
⑧(10)
③(9)
⑥(9)
②(8)
⑨(8)
④(7)
⑪(6)
⑤(4)
⑩(4)
A T レ ス ト ラ ン
農 業 近
隣 住 民
趣 味 ア
グ リ ツ ー リ ズ モ
№
県内ネットワーク 集落内ネットワーク
経 済 ネ ッ ト ワ ー ク の 存 在 感
※ 1
海 外 ゲ ス ト
A T 運 営 の た め の 教 育
地 域 資 源 の 観 光 資 源 化
A T 運 営 者 同 士
農 産 物 加 工 品 生 産 直 売
※ 2
農 産 物 メ ッ セ ン ジ ャ ー 次 世 代 の 農 村 教 育
既 存 観 光 業 者
教
会 家庭内
A T 運 営 者 同 士
A T / 非 A T
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表 5-1からは、インタビューを行った全ての農村女性が、何かしらのネットワー クに関与しており、アグリツーリズモ の開業はネットワークへの関与が必然となる ことがわかる。さらに、表5-1から読み取れることとして 3点を挙げておく。第 一に、アグリツーリズモ運営に関わる農村女性は高い割合で経済ネットワークに所 属しており、アグリツーリズモ運営が農家収入に大きな影響を与えた と言える。な かでもアグリツーリズモ運営のための教育ネットワーク、アグリツーリズモ運営者 同士のネットワーク、農産物加工品生産直売ネットワークに所属する農村女性は、
経済ネットワークにおける存在感を高めている傾向が伺える。
第二に、複数のネットワーク に所属している農村女性ほど、アグリツーリズモ 運営による経済効果を上げ、運営に関する教育を熱心に受け、運営者同士の人脈を 構築しているということが言える。表5-1によれば、アグリツーリズモ①⑫⑬のよ うにネットワークに多く所属する農村女性は、県内 と集落内の両方においてアグリ ツーリズモ運営者同士のネットワークに所属しており、また 、県内ではアグリツー リズモ運営のための教育ネットワーク、地域資源の観光化ネットワークに所属し、
集落内ではアグリツーリズモ と非アグリツーリズモ、農業、既存観光業者といった ネットワークに所属している。 こうした複数のネットワークに所属する農村女性の 家庭では、アグリツーリズモ運営を行う農村女性のために家族間の役割分担が変化 する傾向にあり、結果として経営者としての存在感が高まっている ということも言 える。
第三に、サン・ジェネジオ 村でアグリツーリズモ 運営を行う農村女性は、アグ リツーリズモという観光業を通して農業に貢献してい ると言える。表 5-1によれ ば、アグリツーリズモ⑦⑧⑬のように 、県内で農産物加工品の生産直売ネットワー クに所属する農村女性は、農産物の販路拡大に貢献 し、集落内で農業ネットワーク に強く関わって農村での社会参画を強めていることがわかる ためである。
こうしたサン・ジェネジオ 村の事例から、アグリツーリズモ 運営に関わる農村 女性は、多くの場合において経済的な存在感を強めており、なかでも複数のネット ワークに所属する農村女性ほど積極的にアグリツーリズモを運営していると言え る。また、農村女性による積極的なアグリツーリズモ運営は農産物の販路拡大を通 して農業に影響を与えるのみでなく、農村女性の社会参画も促していると言える。
141 1-2 ネットワークの拡大における類型区分
ここでは農村女性によるネットワークの形成や組み込みの過程で起きた、ネット ワークの拡大における 2 つのパターンを、県内と集落内の規模別に示す。1 つは県 内において、アグリツーリズモ運営のための教育のネットワークを契機としてネッ トワークが拡大した類型であり、もう 1つは集落内でアグリツーリズモとレストラ ンのネットワークを契機としてネットワークが 拡大した類型である。これらの類型 はサン・ジェネジオ村のアグリツーリズモ⑦と⑫を 例としており、農村女性が強く 関与するネットワークを中心に示 している。
1-2-1 県内におけるアグリツーリズモ運営のための教育ネットワーク を契機と
したネットワークの拡大
県内におけるネットワーク の拡大は、アグリツーリズモ 運営のための教育ネッ トワークが契機となって起こるパターンが挙げられる。具体的にサン・ジェネジオ 村のアグリツーリズモ⑦ を例に挙げて示す(図5-1)。
図5-1 アグリツーリズモ運営のための教育による県内 ネットワークの拡大
( 注 )AT=ア グ リ ツ ー リ ズ モ NW=ネ ッ ト ワ ー ク
〇 AT農家
△ 非AT農家
◎ AT推進組織
☒ 農村女性組織 ゲスト
→ 内生性
→ エンパワーメント 県内
集落内
①AT教育NW
海外ゲスト NW
②AT運営者NW
③趣味NW
⑤次世代教育NW
④農産物加工品NW
☒
農場教育プログラム
AT運営の情報や悩みの共有 運
営者 仲 間の 増大
A
趣味の共有 新たな趣味 他地域のAT運営者からの刺激、教育による自信
農産物加工行程を プログラム化
家内の農産物加工品の 生産経験
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実質経営者であるG氏(50代)は、家族で相談し2007 年にアグリツーリズモ を開業した。サン・ジェネジオ 村のアグリツーリズモにおいて、次世代教育プログ ラム「農場の学校」を手掛ける唯一のアグリツーリズモ である。運営関係者に義務 付けられているアグリツーリズモ基本講習 に夫の受講に次いで受講し、経営の基本 的内容を習得するのみでなく集落を超えた県内における多くのアグリツーリズモ運 営を行う女性の友人を得た。そのうち何人かとは大変親しくなり、お 互いの家を行 き来してアグリツーリズモのサービスについて話し合ったり、時には気晴らしとし て趣味に誘い合ったりするようになった。このようにして、アグリツーリズモ運営 者への教育ネットワーク に参加することで(図5-1①)、アグリツーリズモ運営者 同士のネットワークに組み込まれる機会を得た(図 5-1②)。親しくなったアグリ ツーリズモ運営者とは、 互いの趣味に参加する ようになり、趣味のネットワークに も発展した(図 5-1③)。G氏はアグリツーリズモ運営者同士のネットワーク を活 用して得た知識をヒントに、新たにアグリツーリズモ運営に関する応用的な講習を 受講して、ジャムやオリジナル・ロゴ入りのエプロンを生産しゲストに土産品とし て販売するようになった。こうして農産物加工品 生産直売のネットワークにも加わ るようになった(図5-1④)。アグリツーリズモを開業してから後継ぎである長男 が運営の手伝いをするようになったが、長男がカトリック系青少年育成活動団体で ボランティアとして活動していた経験から、農村女性協会が推進していた次世代 教 育プログラムである「農場の学校」のメニューを作ってみないかと持ち掛けられ、
一緒に開始することになった。こうして次世代教育ネットワークにも加わるように なった(図5-1⑤)。「農場の学校」はアグリツーリズモを拠点として長男が南チロ ル県内小学生の受入れをし、G氏はその支援を行うが、プログラムの内容は牛乳 からバターへの加工などであり、農産物加工品生産の経験を活かしている。また 、 G氏は海外ゲストとの関係を大切にし、アグリツーリズモに対するゲストの評価 が上がることを意識して運営に当たっている。親しくなったゲストのいる国へ海外 旅行をしたこともある。 こうしたことから G氏は海外ゲストとのネットワーク
(図 5-1⑥)を大切にしている。G氏は英語を話すことができないが、海外ゲスト
を重視するため世界展開を行う宿泊予約サイトにも登録している。ゲストから 、G 氏が大切に管理する庭、ほぼ100%自家製の朝食、周辺の山並みの形に切ったベッ